デスクリムゾンBLIED~刀~   作:K.T.G.Y

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機械と人間


決戦~③~

「よし、あのトカゲのからくりは横溝に任せよう。儂らは島津軍に集中する」

「はっ、了解しました! して、次の一手は如何に!?」

(むぅ……武田はまだ着かんのか? あの釣りを崩すには増援が必要なのだが……)

「申し上げます!」

京へ出していた伝令役が戻ってきた。

「申し上げます!! 武田勝頼様の軍勢、今京へ到着。大至急こちらに向かうとのことです!」

「おお、そうか。待ちわびたわい。して、軍の数は?」

「2万程度です。ですが武田はいずれも精強、期待してもよろしいかと!」

「ほほう。褒めるのう。まあいい。ならばもうしばらく時を稼ぐか……それとも埒を明けるか……ふむ、迷うのう」

「信長様、この戦いは遊びではすみませんぞ……」

横から丹波がツッコむ。

「よし、戦場の中央に砦を築くぞ!」

「ええっ!?」

これには丹波も驚いた。

「この状況で、戦時中央に、砦を、築くのでありますか?」

「うむ、そうなれば島津は釣り野伏せの陣形を崩さざるをえまい。すなわち先に根を上げるのは向こう、ということになる」

「し、しかし、成功するでしょうか……」

「成功するかどうかではない。砦を築こうとする事自体が金床よ。そして槌が我々織田軍じゃ」

「わ、分かりました……伝令にはそう伝えます」

「雑貨衆と朝倉軍は前陣に交じらせよ。頼むぞ」

 

「な、なんだあれは!?」

「と、砦か!? 織田め、戦場のど真ん中に砦を築くつもりなのか? ふざけおって!」

伝令役から届けた状況を聞いた途端、義久は怒りに震えた。

しかしどうする? あんなものの建造を許しては戦局は大幅に不利になる。かといって前衛を前に出せば、桶に張った水から顔を出すのはこちらが先ということになる。

「だがやむを……得ないか。前陣に指示を出せ、あの砦をぶち破る。後詰めの我々も動くぞ。陣をできるだけ崩さず、前線を押し上げるのだ!」

 

「やはり後ろも動いたか、釣り野伏せ敗れたり、といったところじゃな。こうなれば否応なしに乱戦となる。うちはそういう戦いは望むところじゃて」

信長はにんまりと笑みをこぼした。

「砦の建造は引き続き続けよ。我々は少し下がって前陣を招き入れる。後は雑貨衆の射撃の後に突撃じゃ。急げよ!」

「りょ、了解しました。伝令、伝令ー!」

 

一方、上杉陣営。

「信長様も大胆な戦術をたてる。まさか戦場のど真ん中に砦を作るとは」

直江愛が関心したかのように呟く。その横で、謙信が緊張した面持ちで馬に乗っていた。

「謙信様、緊張しておられますか」

「心配するな愛。何故か気分が高揚してくるのだ。怖いはずなのに、突撃が待ち遠しくて仕方がない」

「はは、それは良いことですね。大丈夫です。毘沙門天様が謙信様を守ってくださります。絶対に死にませんよ」

「そうだな。横溝殿があの巨大なトカゲの化け物と戦っているのだ。人など怖くはない。そう思いたいな」

「ふふ……子供を授かれなかったことが残念ですね」

「いや分からないぞ愛。こういうのは偶然でぽんっ、と授かるものなのだ」

「ふふふ……あ、そろそろ雑貨衆が射撃準備に入りますよ」

 

「いいかぁ! 出来るだけ引き付けろよぉ! 射撃は2発、その後は側面にとんずらだぁ! いいなぁ!?」

「はいっ!」

「てめぇら、種子島の本場の島津と撃ち合うまで死ぬんじゃねぇぞぉ! よーし、構え! まだだ……まだだぞ……撃てぇ!!」

雑貨衆の種子島が火を噴いた。更に続けて後ろの男たちが前に出て、2発目の射撃を行う。

「よし、頃合いだ。上杉軍、突撃。ただし毛利が逃げたら追うなよ!」

「織田軍に後れを取るな! 全軍突撃だ!」

「いざ行かん! 毘沙門天の加護ぞある!!」

 

お互いの前陣、毛利と織田・上杉がぶつかり始めた。

そんな中、武田が遂に到着した。

「信長様、遅れました!」

「遅いぞ勝頼! 軍の調子はどうじゃ!?」

「ここまでほぼ休みなく駆け抜けてきたので疲労困憊です。ですが気力は充実しています。そして武田の軍勢はいずれも精鋭揃い。今すぐにでも突撃できますとも!」

「言うたな! ならば行ってこい!!」

信長は一応こちらの戦略と向こうの釣り野伏せの警戒を怠るなとだけ伝えた。

「武田勝頼、参る!!」

 

 

武田の到着は毛利にとって致命的だった。数ではひけを取らなくても、勢いが違う。ましてや毛利は釣り野伏せを行うため一度下がるつもりでいたことも大きかった。

「くそっ、我々は前に出ればいいのか!? 下がればいいのか!? どちらなのだ!?」

そして伝令役の不手際で毛利軍は戦場で完全に浮いてしまったのだ。

こうなれば後は織田連合軍に飲み込まれるだけである。筈なのだが……、

「まだだ! この毛利輝元、そう簡単にやられはせんぞ!!」

これでも踏みとどまれるのが毛利輝元の底力だった。できるだけ弓矢を上から振らせ、上に注意が向くようにさせながらも島津の鉄砲隊を側面に回り込ませるように指示を出す。

「弓矢隊は矢がなくなるまで打ち続けろ! 足軽は一旦下がらせろ! 騎馬隊の足で活路を切り開く!」

そんな中、小早川隆景と島津家久が次の指示を待っていた。

「家久殿。我々も前進しましょう。これだけ乱戦になってはもう下がれません!」

「うーむ、そうなのだが……、兄者達も上がってきてる。だが間に合うかどうか……でも輝元殿を見殺しにはできないな。仕方がない。我々も前に出よう」

「その言葉も待っていました! 我々も動くぞ! 輝元殿を助けるのだ!」

粘る毛利軍に島津家久の鉄砲隊が参加する。

そして戦時中央からやや左翼に鉄砲隊が陣取る。

「この位置なら味方に被害が出ることなく撃てそうだな。よし、鉄砲隊構え!」

 

バァン! バァン! バァン! バァン!

 

「ぐあああっ!」

「む、無念……!」

「……!? 何事か!?」

「織田です! 織田の騎馬鉄砲隊です!」

「乗馬しながらの鉄砲だと!?」

 

「ほ、本当に上手くいった……」

騎馬鉄砲隊を率いていたのは織田信雄だった。

信雄は事前に横溝に言われていたのだ。

『向こうが鉄砲隊を構えに入ったら、乗馬した状態で一気に間合いを詰めて鉄砲を一斉掃射しろ。大丈夫。必ず上手くいく』

もし戦場で構えに入った鉄砲隊を見つけられなければこの作戦は失敗に終わっていただろう。向こうがこちらに気付いたら敵は鉄砲隊を下がらせていただろう。

だが信雄の戦場での巡り合わせが、家久の鉄砲隊に風穴を開けたのだ。これは僥倖だったかもしれないが、戦は勝てばよかろうだ。

「よ、よし、我々も兄上の戦いにはせ参じるぞ……」

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっっっっっおおおおおおっ!!!!!!!!」

その横を、勝頼率いる武田の騎馬隊がドドドドドと駆け抜けていった。

 

「…………ぜ、全軍、前へ」

(やっぱり戦場で物を言うのは才能なのだなぁ……)

幸運もつかの間、一人戦場でへこむ信雄であった……。

 

 

一方、織田と毛利がぶつかっている中、横溝はデスビスノスと対峙していた。

デスビスノスの弾幕を気合と勘、そして時にはやけの間合い詰めで被弾しながらも凌ぐ横溝。

勿論弾丸を撃つ度に横溝の体には激痛が走っているのだ。

それでも横溝は手を止めない。止めようとしない。

「俺は、必ず勝つんだ。約束したんだ。皆と!」

クリムゾンでガンガン弾を撃つ。あいにく向こうはデカブツなため、あさっての方向に飛ぶことで有名なクリムゾンでもバンバン当たる。

しかし……、

(何故だ……?)

こちらの攻撃は当たっている筈だ。

(なのに、何故倒れない……?)

まるでデスビスノスはそれがどうしたと言わんばかりに弾幕を撃ち続けている。こちらの攻撃が効いていないかのようだ。

(くそっ……おかしい。おかしいぞ……なんであいつはピンピンしてるんだ。無敵か……! ん? 無敵……無敵……)

まさか……。

 

バグによる無敵モード……?

 

キョェアアアアアアアアアアアアッ!!!!

「……ふっ、ふふふ……ははは……ははは…………はーっはっはっはっはっ!!!!」

横溝は戦場で高笑いした。

あまりの理不尽に笑うしかなかった。

「はーっはっはっはっはっはっはっ!!!! そうか! そうか! クリムゾンよ! おまえは最後までそうなのか! 俺に呪いを与え、苦しめ、そして最後までこれだと!!」

理不尽。不条理。何と表現すれば分からない。だがおそらくデスビスノスは生半可な事では倒せないだろう。いや、倒す手段があるのか……?

「この野郎! くっそ~! やりやがったな! ふん……だったらロムが焼き付くまで撃ち続けてやる! 65535発撃てば死ぬだろ。多分な!」

横溝の執念の戦いが新たに幕を切った。

 

 

所変わって再び織田・島津の戦いは、いよいよ毛利が織田連合軍によって食われようとしていた。

ここまで幾度となく攻められ続けながら必死に凌いできた毛利輝元の働きは感服に値した。敵ながら天晴というべきか。

しかし武田軍が前衛に割り込み、騎馬隊を持ってそれを崩すようになってくると、さすがに凌ぐのも限界になってきた。

「うぬぬ……くそぅ!!」

 

輝元の体力も限界だった。

毛利軍は精強だった。例え秀吉軍によって攻められ、お家存亡の危機に立たされ、絶体絶命になろうとも彼らは最後まで戦っただろう。

しかしその愚直さが、戦国の世を上手く立ち回るという道を自ら断ってしまった。

(人を裏切り、媚を売り、強者に従うのが戦国の習わしだというのか……納得いかぬ……納得いかぬぞぉ!!)

 

「おまえだな、毛利輝元は!」

「……貴様は!?」

「武田軍総大将。武田勝頼! 御命頂戴仕る!」

「くっ……誰が、織田に下った負け犬なんぞに……!」

「負け犬……? それは違うな。我々は徳川に滅ぼされる身であった。しかし織田がそれを救ってくれた。織田には大恩がある。その為に甲斐からはせ参じたまでのこと!」

「坊主が調子に……坊主が……!」

「そして、私には背中を支えてくれる者がいる。声を張り上げ応援してくれる者がいる。この命、簡単にはやらせはせぬ!」

「おのれえっ!」

「うおおおおおおおおおおおっ!!!!」

勝頼が直線一気に間合いを詰める。そして、もはや刀を振るう力もなくなった毛利輝元の刀をはじき、その喉笛に刀を突き刺した。

「んっ……!! っ……!」

「介錯してやる。腹を切れ、毛利輝元!」

(……もはや、ここまでか。……父上、私は間違っていたのか? 私は……私は……私は……!)

 

ザンッ!!

 

「毛利輝元、討ち取ったりー!!!!」

戦場に勝頼の声が高らかに響き渡った。

 

「そ、そんな……」

「輝元様が……死んだ……」

吉川元春と小早川隆景が輝元の死亡を聞き唖然呆然とした表情でいた。

だが、戦いが終わったわけではない。降伏は出来ない。自分たちは島津に生かされている身だ。言わば一度死んでいるも同然の身。ならば……、

「行きましょう、小早川殿」

「吉川殿……」

「盃を交わした時に決めていた筈です。死ぬときは一緒だと」

「ははっ、そうでしたな。ではやるだけやってみますか」

「ええ、これ以上の戦いは無意味? 冗談言っちゃいけない。むしろここからだということを織田めに思い知らせてやりましょう!」

「いいですとも!」

二人に後悔はなかった。悲壮な思いで再び戦いを開始したのである。

 

そして二人の決意ある戦いの中、遂に島津の本陣が戦場に躍り出た。

「さあ、終わりの始まりだ」

両翼からの鉄砲隊が、既に織田家の軍を取り囲んでいた。

「……! しまっ……!」

織田信忠が一瞬視界に見えた時には既に遅かった。

「撃てぇっ!!」

島津の台風のような輪番射撃が始まった。

「う、うわああああっ!!」

そんな中、信忠の肩に弾丸がめり込んだ。馬から崩れ落ちる信忠。

「信忠様!」

「うぐっ……! だ、大丈夫だ……」

「私が手を貸します。早く戦場からお逃げください!」

「くっ……す、すまない……」

信忠の負傷は織田軍に大きな動揺を与えた。早く逃げなければ、皆ハチの巣にされてしまう。

「退けー! 退くのだー!」

「一旦退却せよ。態勢を立て直すぞ!」

朝倉軍・山崎と、四国軍・長宗我部が退却命令を出す。

「ふふふ、輝元殿が死んだらしいが、まだこれからよ。なあ、兄者」

「頼んだぞ。義弘、歳久。ここで敵を崩せばこの戦まだ勝敗は分からぬ」

「任せてくれ兄者。この義弘、その勇猛果敢ぶり、天下の織田にまで響き渡らせてくれる……!」

 

 

島津が遂に動いたその最中、横溝の戦いも未だ続いていた。

「あーはっはっはっはっ! あーっはっはっはっはっははははははっ!!」

横溝は笑っていた。絶望的な状況の中、痛みを忘れるために笑っていた。

喉はカラカラに乾いていた。視界は歪んでいた。脳は病んでいた。腕の感覚はなくなり始めていた。足はもう立っているかすら分からなくなっていた。

それでも脳髄の奥底に抱いた決意だけが、横溝の体を動かしていた。

(な、何発撃った……? まだ1万を超えたぐらいか……? 分からない。痛い。痛い。痛い……辛いな……くそっ、走馬灯でも見えるんじゃないかそのうち)

一体どれほどの苦難の道だろう。それでも横溝は心底諦めてはいなかった。

「せっかくだから、俺はこのデカブツを倒すぜ!! あーはっはっはっはっは!! はっーはっはっはっは!!」

 

バキィッ!!

 

何回目だろうか? 自分の脳が弾丸で貫かれた音ではなかった。強いて言うなら、装甲が破壊されるような……。

 

ギャシャアアアアアアッ!!

 

デスビスノスの悲鳴に似た金切り声。

 

(…………効いた?)

 

希望はあった。誰にも真似できない横溝の執念が、それを手繰り寄せたのだ。

「あーはっはっはっはっは!!!! デスビスノスよ、貴様の無敵の装甲より、俺の執念の方が上だったようだな!」

横溝はここぞとばかりにクリムゾンで弾を乱射する。高速リロードで弾を補充し、マシンガン、ボムファイア、ミサイルとクリムゾンのモードを全開にして乱撃を叩きこむ。

 

ギャシャアアアアアアッ!!

 

「倒れろぉぉぉっ! 倒れろ倒れろ倒れろぉぉぉっ!!」

 

弾は確実にデスビスノスの装甲を剥ぎ、内部にダメージを与えている。

デスビスノスも負けじと弾を吐き出しているが、横溝はお構いなしだ。お互い足を止めての弾の殴り合い。制するのはどっちか……?

答えは言うまでもなかった。

 

グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッゥ!!!!!

 

それは、機械の断末魔というべき声だった。

デスビスノスは全身から大量の煙、火花、炎を出しながら、ズシィィィィィィンと重たい体を大地に寝かせるように倒れ込み、そして、塵となって消えていった。

 

「はあ……はあ……はあ……はあ……」

横溝の体は限界だった。

「俺は勝ったのか……? へへ、勝ったんだな。そうか良かった」

良くはなかった。クリムゾンが輝いたからだ。

 

どくん!

 

「……!?」

横溝は心臓がはじけ飛ぶような感覚にとらわれた。

「へっ……どうやらここまでみたいだな。信長、さよならだ! 勝てよ! 必ず!」




勝てよ、必ず

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