デスクリムゾンBLIED~刀~   作:K.T.G.Y

34 / 34
これにて終了


エピローグ

信長は九州から帰ってくると、また公務に勤しんだ。

天下統一といっても所詮それは通過点に過ぎない。何よりも幕府を運営するには自分が張り切るしかないのである。

 

九州から戻って数週間後、北条氏が尋ねに来た。戦地に赴けずすいませんでした、と。

信長は、あの位置では来るに来れないだろうということで気にしなかった。引き続き関東の方を頼む、と伝えた。

 

それから更に数週間後、奥州から伊達政宗がやってきた。初めての謁見であるが、中々どうして、堂々とした佇まいであった。

信長は、ここからは奥州は遠かろう、とした上で、願わくば我が幕府の末席に座ってほしいと願った。

政宗もそれを承諾した。そのつもりで来たのだ、と。

豪華な料理と風呂と寝所を振舞われ、流石信長様は金持ちですなあ、と皮肉った。

信長はお主らは身内同士で争うのはいい加減止めろ、みんな知っておるぞ、と言うと政宗もさすがに縮こまった。

 

 

一方、信長は息子、信忠に2代目を襲名してくれないかと何度か伝えた。しかし信忠は、この腕では……と、すぐには承諾をしなかった。

毛利・島津連合軍との大戦で肩に鉄砲の鉛玉を喰らった信忠は、その後リハビリを繰り返していたが、経過は芳しくなかった。今でも肩はともかく指先には力が入らない状態だった。

利き腕でないことが幸いしたが、この塩梅で幕府を一手に引き受けるのは厳しいと迷っていた。

しかし信長は、2代目はおまえしかいない、儂を信じろ、出来ないことは儂が現役なうちは手伝ってやる、と言い、信忠も迷った末に承諾した。

 

ここに天布幕府2代目将軍、織田信忠が襲名した。

しばらくは親子の二人三脚での幕府運営となるが、これもまた有りではないだろうか。

 

 

後の事になるのだが、信忠時代は飢饉もなく、豊作続きで後継ぎにも恵まれ、満たされた時代となった。信忠はこれまで頑張った甲斐があった、と一人泣いた。

 

 

一年後、九州から息子信雄と羽柴秀吉の両名がやってきて、九州の経過を直接伝えた。

九州に来て以来信雄は非常に張り切っており、統治をほぼ完ぺきにやってのけていた。ただ、南蛮人との付き合いは慣れないらしく、そこだけが難点です、と父に伝えた。

その一方で秀吉は終始縮こまっていた。予期せぬ中国大返しで戦力を擦り減らすという大失態をやってしまった秀吉だが、これまでの活躍から首を刎ねられることはなかった。

その代わり信雄を補佐してくれと言ったが、謁見に来てもずっと下を向いてブツブツと何かを言っているだけであった。

鬱状態かもしれない。あれ程出世に燃え、上昇志向を持っていた者が見る影もなくなっていたのは信長にとって計算外だった。

(人とはほんの些細な事で変わってしまうものよなぁ……)

だが、他に適任者がいないことから、引き続き補佐役を続けるよう命じた。秀吉は、「はい……」とポツリと聞こえないくらい小さな声で言った。

 

 

謙信と愛は越後に帰った。

聞くところによると、謙信は妊娠していたらしい。横溝の残してくれた最後の忘れ形見を受け取った身として、元気な赤子を産むと張り切っているそうだ。

信長は、無事生まれたら顔を見せに来いと文を出した。

(どうせあいつの血が流れた子供だからさぞひねくれ者に育つんじゃろうなぁ。謙信もきっと頭が痛い日々を過ごすことになるじゃろうて……)

 

 

幕府お抱えの茶人に出世した利休は弟子を数名とった。

茶の湯のわびさびと己の業の深さをその胸にしかと座らせんと教鞭をたれた。自分は茶の湯は自由なものたれとは出来なかったからこそ、弟子たちにはその道を歩んでほしいと伝えたらしい。

老いてますます盛ん、利休は今でも安土の城下に作られた横溝の墓の前で茶を作る時があるという。

 

 

それから更に数年後。

妻、帰蝶が亡くなった。

高齢と病が重なり、どうにもならなくなっていたが、信長は最後まで妻を看病した。

帰蝶は、殿の妻として生きられて幸せでした。一足先に待っています。と残し、静かに息を引き取った。葬式には多くの人々が参列し、幕府を支えた一人の女を讃えた。

「…………」

(一足先に待っています、か……。たわけめ、それは儂の台詞じゃ。儂が先に死んでいなきゃダメじゃろうて)

安土の天主の寝所も一人になってしまった。信忠は一つ下の階である。

(寂しいものじゃなあ……だが心地よい寂しさじゃ。こんな人の心も分からない男に、色んな人間が付いて来てくれた。これほど有難いことはないわい)

「なあに、儂もすぐに行くわ」

 

 

しかしその時は中々来なかった。

信長は周りが思っているより長生きした。

信長は儂はいつまで妻を地獄で待ちぼうけさせるつもりなんじゃ、と自虐った。

 

 

しかしついにその時が来た。

信長は病にかかった。

日に日に衰弱し、もはや医者の手ではどうしようもなかった。

 

だが信長はこれでいい、と運命を受け入れていた。自分は長く行き過ぎた、と。

目を瞑れば色んな思い出が蘇る。

幼少の頃から親族に命を狙われ、毎日が気が気でならなかった。

たわけ者と噂を流布させている間に、日々鍛錬に勤しんだ。

岐阜を取るまでに何年もかかった。

それから先も戦いは安定しなかった。自分が最前線に出て戦う戦も数多くあった。

そして日ノ本の戦の概念を丸々変えてしまった『渡人』の存在。

そうだ、横溝だ。あいつとはまるで腐れ縁のように接した。年は離れていたが、不思議と楽しかった。

そして多くの戦を経て、遂に幕府を運営するようになり、天下を統一できた。

(まさに波乱万丈よなぁ……まさかここまで成るとはのう……)

「ふっ……」

休んではいられない、今度は地獄で天下取りになるのも悪くないな、そう思った。

 

そして深夜、信長は苦しむことなく息を引き取った。

 

 

織田信長。享年61歳。日本がもっとも血生臭い時代を駆け抜け、誰よりも人の生き死にを見てきた男が、永遠の眠りについた。

葬式は国葬という形で盛大に行われた。傲慢で気難しい性格ながら、民にはとても人気があった。

安土の麓に造られた大きな墓には、今でも献花が絶えないという。

 

 

なお、横溝由紀のその後を知る者は誰もいないもよう。

「ふざけんな」

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

横溝は生きていた。しかし、ここではない、全く違う異世界に。

「…………」

 

グルルルル……。

 

目の前で獣人が喉を鳴らした。大きな竜の姿もある。自分は狙われていた。話が聞く相手ではなかった。

 

 

「あのさ、クリムゾンさ、お前何でここまでするの? いい加減にしないとキレるよ俺」

クリムゾンは静かに紅く点滅した。

顔を見ればかつての20代の頃に戻っている。しかし、嬉しいとか、良かったとか、とにかくそういう気はさらさらなかった。

 

「ああああああああっ! 俺はいつになったら札幌のみんなの所に帰れるんだ!? 答えろクリムゾンよぉ!」

横溝の悲壮な叫びが高らかに響き渡った。

これからこの先一生クリムゾンに運命を弄ばれるのかと思うと絶望した。

 

されど苦難の中でせっかくだからを貫け。それが持ち主に課せられた使命であった。

 

獣人が襲い掛かってきた。横溝は逃げた。

 

「異世界転生なんて、大っ嫌いだああああああああっ!!」

 

TO BE CONTINUED...

 

「続かねえよ! バーカ!」




はい、これにてデスクリムゾンBLIED、終了であります。

題材がマニアック過ぎたせいか、こんなの誰が見るんだと思いながら書いてました。実際、反響はこれっぽっちもありませんでした。
オリ主で書いてましたが、やっぱり越前康介を主人公に置いた方が良かったかなというのが書き終わった感想です。完全に失敗でしたね。

戦国時代を書くために様々な資料をネットで検索したりしましたが、改めて色々勉強になりました。勉学と歴史に触れるのに年齢は関係ありませんね。

ただやっぱり小説は書いてて楽しいのでこれからも駄文を皆様に見せることになるかもしれませんがその辺はご了承ください。
次回はもう少し普通の題材を使おうかなと考えております。

ではこの辺で。お目汚し大変失礼いたしました。またね。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。