「そうか…キリアイが捕まったか。そして、アキレウスが謎の助命嘆願か。解せんなぁ。何か裏があるだろうな。」
「あれからこちらで調べた限りだが、アキレウスはキリアイのことがお気に入りだと言っていた。が、それは秘書として使いたいというより、夜伽の相手として気に入っていたからだということらしい。」
「…そんなこったろうと思った。キリアイの人格に惚れてというより何か利害関係が有るかと思ったが。知っての通り俺はキリアイのせいでこのような体になってしまった。とはいえそのキリアイも大変だったのだな。」
「気が進まないかも知れんが、イグナがキリアイを尋問しては。」
「気が進まんが。」
「これも任務だ。今度の国王は偏屈だが切れ者のようだし。元近衛兵でしかない我々がウラノスの残党狩りのために警察組織を動かせるのだから。新国王の期待に応えないと。」
3日後、イグナシオはキリアイを呼び出した。彼女はほおが少しこけているようだった。女性刑務官に聞くと、この拘束中、夜中に彼女が不穏になり、刑務官が3人がかりで取り押さえたとのことだった。
「どうだ。調子は。」
キリアイはけけけ、と不気味な笑い声を上げた。
「久しぶりですなぁ。残念イケメンのイグナさん。」
キリアイは手錠をかちゃかちゃ言わせながら、どこかネジが外れたような笑顔で返事をした。彼女は椅子に座らせられて、後ろ手に縛られている。
「お前、今パトリオティスがお尋ね者になっている事は知っているな?」
「知ってました。うち、もう覚悟決めてるさかい、はよあんたの拳銃でぶっ放してくれてええねん。何のために銃持ってるん?イケメンのイグナさん?」
いちいちこいつは勘に触る。イグナシオが椅子から立ち上がり、キリアイの顎を持ち上げて上にしゃくる。
「これは言うつもりはなかったが、アキレウスがお前の命を助命しろと言ってきている。お前、アキレウスとどう言う関係だ?」
「あーあ。どうもこうもあらへん。うち、ゼノンの命令のままにアキレウスの夜の相手をさせられただけや。何十回とさせられてんねんで。想像してみ。イグナさんイケメンやろ。好きでもない年増のおばさんの夜の相手を何十回とさせられてみい。みんなうちみたく頭おかしなるで。ミオは、確かゼノンの旦那が一度だけ玩具にしたや言うとったけんど、あいつもやばかったでほんま。それからあいつ、ちょっとおかしなったで。あんな嫌がってた訓練それなりに真剣にやるようになったでな。」
「…。」
イグナシオは黙っている。こいつもそれなりに苦労したのだな。
「何、イグナさん。うちに同情などいらへんで。うちはアキレウスとゼノンと共に銃殺でも何でもしてくれれば思い残すことなどあらへん。うちの命と共に憎たらしい連中を消すことができればそれで良し。フィオレンティナへの手向けや。」
「フィオレンティナ?お前が名乗っていた名前か。」
「そう、うち、ゼノンが捕まったと聞いて、自由の身になって生まれかわろうと思ったん。その時に、パトリオティスの訓練中に死んだ友達のこと思い出してん。その子の名前もろたん。うちの命と共にゼノンを消せるなら、フィオレンティナもこれで浮かばれる…長かったわぁ。」
キリアイは両眼から涙をボロボロ流している、軽薄でヘラヘラした喋り方は変わらないのだが。イグナシオは彼女の顎から手を離した。
「ほんならうちもひとつ願い事や。パトリオティスNo.8ハチドリはうちの命と引き換えに見逃してやってくれへんねんか。」
「勝手なこと言うな。俺にもそこまでの権限はない。これは新国王直々の密命だ。」
「パトリオティスNo.8はミオの思い人だったと言うてもか?」
「何だと?」
「へへへ。」
キリアイはまた不気味な笑い声をあげた。
「イグナさん残念すぎるでほんま。あんなけ長いことミオやハチドリと一緒に過ごして気付かへんかったんか。よっしゃもう一つ言うねんで。ミオはニナ・ヴィエント前国王の親友や。まさかそっちも気付かへんかったんか。」
「いや、それは薄々感づいていた。しかしハチドリがミオと…。考えられん。」
「そこが残念なとこやゆうてんねん。ははっ。おもろいなホンマ。イグナさん。そんなんだとイグナさんに惚れた女だいぶ泣かせとんのちゃう?あ。そうか、ニナ様の事しか頭にないか。残念やったの。カエル王子に取られてまったでなぁ。」
「カルエルだ。」イグナシオはぶすっとして答えた。
「軽いボケやねんて。ノリツッコミ期待してたけんど、あかんなぁ。へへへ。」
キリアイは椅子に手錠をくくりつけられたまま足をばたつかせて大笑いする。
「イグナさん、うち最後に話した男がイケメンのあんたで嬉しかったでぇ。今夜はぐっすり眠れそうや、あんがとうな。」
「少し待っていろ。」イグナシオはぶすっとした表情のまま、部屋を出て行った。