10分後、イグナシオが面談室に戻ってきた。
「何やイグナさん、今度は女連れでっか?けけけ。」
キリアイがへらず口を叩く。イグナシオはその軽口を無視し、後ろにいる女性に話しかけた。
「ヘザー、こいつがキリアイだ。フィオレンティナの偽名を使って、プレアデス中央病院で働いていた。間違いないか。」
「はい、作戦担当官。間違いありません。」
そう言うと、ヘザーと名乗るウラノス警察の職員は眼鏡を外し、キリアイが固定されている椅子に駆け寄った。
「フィオさん…。」
彼女はいち看護師の表情になって、キリアイの手をぎゅっと握った。
「フィオさん。きっと私があなたを守って見せます。」
キリアイは嫌そうな顔をして、そっぽを向いて答えた。
「無理や。うち、看護師になって半年で100人ぐらい助けたけど、工作員としてはその10倍ぐらいの人を苦しめてきた。」
「それは私も同じです。ウラノスの
「パトリオティスと一緒にしないで。たかだか伝書使の分際で。」
「そんな冷たい言い方。…私を巻き添えにしないための言葉だってわかってますから。フィオさん。」
「何言っているの。殺人エリートのパトリオティスと、使い走りに過ぎない伝書使を一緒にしないで。…戦争が終われば、パトリオティスの方が罪は重くなるのは当然のことじゃない。」
いつの間にか、キリアイが標準語になっている。ヘザーの為に、合わせているのだろう。イグナシオは、二人のやりとりをじっと聞いている。
「フィオさんこそ、生き残るべき人です。パトリオティスNo.8でなく、フィオさんが生き残って下さい。そして、その為に、証言をしてくれる人が必要なら、ミオさんですか?ニナさんですか?元伝書使の私が、地の果てまでその人を探しに行きます。ウラノスの元伝書使の誇りと名誉にかけて。」
「あんた、!何?ずっと私とこのイグナさんの会話聞いていたの?」
「ここは警察の特務班の事務所です。当然、会話は、筒抜けです。今更何ですか。パトリオティスらしくもない。」
ヘザーは、急に厳しい言葉遣いになった。
「…でも、そうやって、取り乱すフィオさんを待っていたんですけどね。」ヘザーはにこっと笑った。彼女は続ける。
「こうやって銃口を向けたところで、あなたが取り乱すとは思えませんので。」
ヘザーは拳銃を構えて、キリアイに向けた。
「あんたでもいいよ。その引き金をさっさと引きなさい。」
キリアイが挑発するも、ヘザーは動じない。
「拳銃を見せたのは私が伝書使から警察に転職したという事が言いたかっただけ。看護師として病院にもぐっていたのも警察の任務でね。私達は新しい時代で働くべき人間よ。あんたを消させはしない。生き残りなさい、フィオレンティナさん。」
ヘザーはそう言って部屋を出て行った。
「女同士の方が話が早いな。」
イグナシオはおかしそうに笑い、キリアイを横目で見た。
「…イグナさん、あんた結構イジワルやな。ちょっとがっかりしたで。」
キリアイが睨みつける。
「…お褒めに預かりまして。」
余裕の表情で、イグナシオは部下を呼び、キリアイを独房に戻すよう命令した。