裁判までは異様な速さで進んでいった。
なんといっても、新国王となったマニウスのもと、彼の周りに集まった有能な官僚たちが、無駄を徹底的に排して司法改革を進めていったのが大きい。
クロノ・マゴスとしてこの世界を牛耳り、戦争の種を全世界に撒き続けたゼノンやイーサン・セイラ達は銃殺と決定。彼らの工作員として暗躍したパトリオティスもその罪に連座することとなり、キリアイ、シラサギ、アオサギの3人は同じく銃殺と決まった。
キリアイをはじめとする3人のパトリオティスへの助命嘆願をしていたアキレウスは裁判の途中で倒れ、今は入院している。アキレウス本人は自らの銃殺を希望していたというからある意味、驚きであった。クロノ・マゴスの他のメンバー達は彼の変節に罵詈雑言を繰り返したが、そんな事で現状が変わるわけはなかった。
「刑の執行は2週間後の正午に。」
そう伝えられたパトリオティスの3人は、手錠をされたままうなずく。
キリアイはすでに覚悟を決めたのか、取り乱す事もなく、その日まで、日々何やら文章を書いていた。シラサギは刑務官を殴りつけ、手錠に加え足錠をはめられている。アオサギは減刑を訴え続けているが、もう聞く耳を持つものはいなかった。
ウラノスの政治の中心であったユリシス宮殿が銃殺刑の執行会場となっていた。
一般市民にもその様子が公開されているところを見ると、この国は軍事だけが先進国だが、人権についてはまだまだだな、という印象を受ける。ヘドウィグはその宮殿の中を歩きながら、ウラノスの社会の未熟さについても気づき始めていた。
「でも、仕方ないのだ。この戦争の顛末まで見届けるのが俺の役目だ。」
彼は傍聴席のチケットを確認し、最前列の場所である事に気づいた。
「俺はワルキューレのような華々しい空戦ができるわけでもなく、イグナのようなイケメンの騎士でもない。ただ、俺なりにできる事をしよう。いつか、この戦争の愚かしさを皆が知るようになる。その時のために、貴重な記録を持ち帰るのだ。」
「トマス、ちょっと。」
とある果ての島に着陸し、生活を営み始めたミオ・セイラは顔色を変えた。
「パトリオティスNo.5、6、7が銃殺されるって。ここ見てよ。」
彼女は新聞を広げて、トマスに見るよう促した。
トマス・ベロアはその記事を見つめる。
『アキレウスは懲役刑、ゼノンとイーサン・セイラ他クロノ・マゴスに参加した戦争犯罪人は銃殺刑と決まった。そして、クロノ・マゴスの手足となって働いたパトリオティスも連座して銃殺刑となった。なおパトリオティス唯一の生き残りであるパトリオティスNo.8については、引き続きウラノス警察が行方を追っている云々…。』
「どうする?キリアイの事だよね。パトリオティスNo.5って。」
「…ああ。」
トマスはキリアイとの複雑な関係を思い、言葉を濁した。
「…わたし、助けたい。キリアイを。トマスを救ってくれたんだもの。」
「…ああ、わかった。どうするか考えよう。」
トマスは目を鋭くした。しかしミオは、トマスの肩をつかんだ。
「新聞に書いてあるでしょ。あなたは今でも追われている身なのよ。私にやらせて。ちょっとあてがあるの。」
「おい、まさかセシルを使うんじゃないだろうな。」
「…それしかないでしょ。セシルには悪いけど、無断で勅許を出させてもらう。要するに、シルヴァニアの女王陛下の名前を勝手に使って、エリアドールの7人の最後の一人、ライナ・ベックの命の恩人を助けたいの。キリアイやハチドリの状態のあんたから書類の偽造方法たくさん教えてもらったからね。彼女の筆跡を真似ることなんて朝飯前よ。」
「しかし、ミオ、お前だってまだ追われている可能性もあるんだぞ。その状態で一国の女王の名を騙るのはやはり危険だ。キリアイには気の毒だが、あいつはここで死ぬのが運命だったということだ。諦めろ。」
「…トマスはあの時、死ぬ運命だったよね。それを変えたのはキリアイでしょ。私、トマスが生きているからこうやって頑張れるんだよ。トマスがあの日死んでたら、私どうなるの?今更清顕のところに戻ったって迷惑かけるだけだし。」
「ニナのもとに行く方法だってあった。」
「どっちにしたって迷惑かけるよ。ニナ様はようやくカルエルと結ばれたのに、私がニナ様と女同士でキャッキャやるわけにいかないでしょ。」
「…わかった。好きにしろ。だけど、危ない真似はするな。」
「するよ。でもその時はトマスが守ってくれる。」
「お前な…」トマスは呆れ顔になった。
「私、何度も死にかけたから。それでも生きているから。大丈夫。キリアイに借りを返さなきゃね。私もあの子100パーセント好きなわけじゃないけど、私の大事な人を助けてくれたんだから…」
「あ…?」トマスが頬を染める。
「照れてる時間はないの。あと14日しかないから。」