その後、ミオは部屋に缶詰になり、2日後に出てきた。
手には、本物と全く見分けがつかないほど精巧に作られたエリザベート・シルヴァニアの「女王の命令書」が。
『パトリオティスNo.5の死刑執行を直ちに中止すること。彼女は私の生涯の友人、エリアドールの7人のうちの一人の命を救った。ここにエリザベート・シルヴァニアの名を持って、刑の執行中止を願う。』
筆跡はまさにセシルことエリザベート・シルヴァニア女王のものであった。
あまりにも見事な筆跡とサインにトマスは息を呑んだ。
「どうやったんだ。」
「2日間、私は部屋にこもって全身全霊をセシルに染め上げたというか。いつだったか習ったよね。…時間がない、さぁ、次はウラノス行きの飛空機を確保しないと。」
「それには及びません。」
パアンと南側のドアが開き、開放的な海風とともに一人の女性が入ってきた。彼女は身分証を示した。
「ウラノス警察特務班、シャールカ・ハシェックと申します。その命令書、私にお預け下さいますよう。必ずや死刑執行を止めてご覧に入れます。」
ミオは突然の訪問者に、身構えた。トマスは問いかける。
「シャールカ。いつぞやの
トマスは昔、接触した伝書使の名前を思い出しながら釘をさした。
「パトリオティスNo.8、あなた自分の立場分かっている?あなたも追われてる立場ってことお忘れなく。」
シャールカは滑らかな身のこなしで、拳銃をトマスに向けた。
「その命令書、私にお預けいただけないなら、今ここで奪うのみです。」
「笑わせるな。たかが伝書使の分際で。」
トマスはシャールカに蹴りを放つべく体を躍らせた、その瞬間…
『ドキューン』
シャールカの放った銃弾はトマスの右額を掠めた。トマスの顔面に血痕がツーっと流れる。ミオはその射撃術の正確さに息を呑んだ。これと言った構えもせず、全くの鋭角へ銃弾を放った。しかもトマスをかすめた銃弾の傷はわずかな切り傷でしかない。ほっといても治る傷だ、しかし脅しとしては十分すぎる正確無比な弾道だった。彼女の腕を示すには格好の証となった。
「伝書使と言っても色々いるのよね。私はスナイパーの訓練を受けている。もう一度いう、その命令書を渡す気はないなら、私が奪うのみ。」
「トマス、この人只者じゃないわ!」
ミオは叫んだ。いつの間にか銃弾の弾道にミオとトマスが一直線の位置に並ばされている。ポジション取りが的確だ。シャールカは続ける。
「パトリオティスNo.8ハチドリ、よく聞きなさい。本来なら私の腕であなたとこの女と二人殺して命令書を奪ってもいいわけでしょう。ましてあなたはパトリオティスの残党としてお尋ね者の立場。でも私はあなたを生かした上で、命令書を穏便に預かろうとしている。その意味を考えなさい。」