「味方…なの?」
ミオはトマスとシャールカの間に位置取ったまま、おずおずとたずねる。
「察しがいいのはさすがね、ミオ・セイラ。だてに秋津国、セントヴォルト、ウラノスの三国で揉まれてきたわけじゃないか。でも、この平和な島で過ごすうちに、スパイの訓練も能力も鈍ったようね。それこそ
「余計な話はいい、お前が何者なのか、詳しく話せ。」
トマスがミオを押し除けて、シャールカに向けて歩む。シャールカは銃を再びトマスに向けなおす。その無駄のない所作はトマスですら歩みを止めるほどの隙のなさだった。
「私、ウラノスの警察特務班の人間よ。さっき言ったはずですが。…聞いたことあるでしょ。パトリオティスなら。」
「…特務班。腐敗し切ってたウラノスの警察組織の中で唯一まともな仕事ができる奴らが揃っていたところか。確かプレアデスの奇蹟の後、トップがすげかわったとか。」
「そう、表向きは特務班本部長の更迭ということになったけど、実際は新国王マニウス殿下の元、新しい組織になった。多分あなたは知らないだろうけど、ニナ・ヴィエント元女王の側近の近衛兵が作戦担当官と特務班前線部隊長にいる。」シャールカは冷静に説明する。
「何、誰だ、そいつは!」トマスが声を荒げた。ミオも息を呑んだ。
「私はイグナシオ・アクシス作戦担当官の元で働いています。前線部隊長はヘドウィグ隊長。二人とも近衛兵出身で、優秀なスタッフよ。」
シャールカはようやく拳銃を下ろした。一歩引き、トマスが襲い掛かれない距離を確保している。本当に隙がない。
「ちなみに我が特務班がパトリオティスNo.5〜7は全員捕まえたのよね。私の他にも伝書使あがりがいるけど、いつもパトリオティスの使い走りをさせられていた私達があなた達を捕まえるなんて痛快でしょ。」
「…そんなことが。」
トマスは信じられない、という表情のまま、そこに立ち尽くしている。
「…イグナの部下なら、私、あなたを信じていいよ。それに、トマスを逮捕しないというのも、何かあなたを信用していいと思える。」ミオが思いを込めて発言した。
「おい待て。こいつに偽の命令書を託すことで、俺たちもまた罪を重ねることになるんだぞ。」しかしトマスはなおも慎重になっている。
「そこはセシルの名前を使わせてもらうんだから、最後は私がセシルの前でお縄になってでも釈明する。セシルも私の大事な友達なら、キリアイも私の友達であり、あなたの命を救ってくれた人だから。はい、シャールカさんだったわね。よろしくね。」
ミオはすんなり命令書を渡す。
「ありがとうございます。ミオ・セイラさん。」
シャールカはその偽造命令書をおし頂いた。
「本当は私も、キリアイの釈明に行きたいんだけど。こんな立場だから、かえって彼女のためにならないかもしれない。」
「お気持ちはわかります。ミオさん。私も、パトリオティスNo.5には生き残ってほしいんです。そのためには、エリザベート殿下の行動を忠実に再現できる御学友の方しか方法を考えられないかと思い、裁判が決まってからミオさん達を張ってました。他のエリアドールのメンバーにも特務の手の者が入っていますが、他の者は芳しい成果を得られないようです。なんと言ってもパトリオティスNo.5と直接関係のあるのはあなた達だけでしたので。」
シャールカは隙を見せない表情のまま、微笑したようだ。ミオは彼女をあらためて見つめ返す。
「…そう。頼みます。キリアイを助けてあげてください。」
「喋りすぎました。ではこれで失礼します。」
シャールカは、拳銃を再び構え、風のようにトマスとミオの家から出て行った。あとには、開け放たれたドアと海からの南風が吹くだけだった。