シャールカは意を決して、イグナシオに歩み寄った。
「担当官、私の為に、ご褒美として、ウラノスに残ってください。」
イグナシオは少し笑みを浮かべた。ニナに仕えていた頃の融通の効かないイケメンの彼の表情が見えてきた。
「君は俺を特別手当の代わりにするつもりか。」
「特別手当はいりません。もらえるなら担当官のウラノス滞在費に使ってください。それと、聞き入れられないかもしれませんが、パトリオティスNo.5の命が助かったなら、彼女に命じて担当官の解毒をしてください。今のままでは担当官のお体が心配です。なんなら、この私がパトリオティスNo.5を鞭打ってでも解毒をさせます。」
「シャールカ。パトリオティスNo.5を助命しても、君に預けたら殺してしまいそうだな。とにかく休みたまえ。」
「でも、担当官…。」
「下がれと言っている。」
「はっ。」
シャールカは悔しそうな顔をしたまま部屋を出て行った。
「モテる男はつらいな。」ヘドウィグがイグナシオをからかう。
「…まぁ、シャールカの気持ちは汲んでおこう。俺も少しこの仕事を終えたら休みたい。解毒云々は期待していないがな。俺の体をこんなにしたキリアイを助けるのは今でも釈然としないが。ヘドウィグさん、明日の事を詰めましょう。観衆たちから反感が出ないようにしないといけませんから。」
そして二人が作戦を立て始め、2時間が経過した。
…そこへ現れたウラノス新政府の超重要人物。ヘドウィグもイグナシオも椅子から起立し、続いて膝を屈して臣下の礼をとった。
ゼノン以下クロノ・マゴス一味はさっさと始末すればいい。
まだ世の中を知らない子どもの頃から殺人兵器として訓練された可哀想なパトリオティス達は、全員余の部下にしたかったが、3人のうち2人は裏切り者であった。No.6シラサギはNo.7を裏切り、自分だけの保身を図った。No.7アオサギはNo.5キリアイを騙し討ちにして、やはり自分の保身を図った。唯一まともなNo.5キリアイは病院で重症患者や傷痍軍人の世話をした感心なやつだったが、やはり前女王ニナ・ヴィエントを毒殺未遂した事やそれまでの数々の戦争への協力行為、いくらゼノンの命令とはいえ、その罪を軽減できるレベルのものではなかった。パトリオティスは全員連座、という方針で固めていたところに、特務班がエリザベートの命令書を手に入れてきた。
渡りに船だった。
『パトリオティスNo.5の死刑執行を直ちに中止すること。彼女は私の生涯の友人、エリアドールの7人のうちの一人の命を救った。ここにエリザベート・シルヴァニアの名を持って、刑の執行中止を願う。』
あつらえたかのようなNo.5だけをターゲットにした執行中止命令。
その命令書が本物であろうと偽物であろうとどうでもいい。この命令書を手に入れるために、伝書使はパトリオティスNo.8のシッポをつかんだようだが、捜査上の取引扱いでパトリオティスNo.8は未だ行方不明という事になっている。
…パトリオティスNo.8はエリザベートの学友という事らしい。
「余はこの命令書を、エリザベート・シルヴァニアの正式な国書として受け取った。この執行中止を行う事で、我がウラノスとシルヴァニアの両国のますますの親善が図られれば良い。」
「ははーっ。」「御意に。」イグナシオとヘドウィグは揃って頭を下げた。
そう言って、そのVIPは部屋を出て行った。
…ふふ、これは貸しだ。シルヴァニア女王。