その後、キリアイは即座に放免とは、行かなかった。
いくら死刑を免れたといえ、戦争犯罪にまみれた彼女の命を狙う輩もいる。パトリオティスと言えど、不意打ちには太刀打ちできるかわからなかった。彼女は結果的に病院を辞め、特務班から潜入していたヘザーとシャールカも病院から去った。
キリアイは、なんとマニウス新国王が直々に接見する事になった。
「…ま、もともと余が部下にしたかったなどと口走ったからな。」
キリアイは国王室に呼ばれた。ニナに仕えていた頃と、だいぶ家具や執務用の机のデザインが異なる。男性的内装になっていた。彼女はドアをノックして入った。
「パトリオティスNo.5です。」
「マニウスだ。」
「今日は、どう言ったご用件で。」
「単刀直入に言おう。貴様は、余の部下にならぬか。」
「…娼婦という事でしょうか。」
キリアイは少し暗い顔をして、アキレウスとの屈辱にまみれた数々の夜を思い出した。
「誰がそんな事を言った。貴様にもっとふさわしい仕事がある。」
「…。」
キリアイは自分の仕事…戦争の片棒を担ぎ続けてきた人生を思い、暗い顔になった。看護師としての勤務、その戦後の生活でだいぶ精神は安定し、人間性を取り戻しつつあるように思えた。だから今度は、もう人を傷つけるような仕事はしたくない。
「まずは、イグナシオ・アクシスの解毒をしろ。ヤツは貴様の盛った毒で今も苦しんでいる。解毒には遅すぎるかもしれないが、本人もそれはわかっている。できる限りのことをしてやってくれ。それはすぐに取り掛かれ。」
「ははっ。」
「そして次の仕事だが、…まずはそれを食ってみろ。」
キリアイの目の前に、何やら野性味あふれる匂いのスープとその中に入ったヌードルが運ばれてきた。…これは何だ?特に毒はなさそうだが。食欲をそそる。
「…つるつる。ちゅる。」
意外に可愛らしい食べ方のキリアイを観察しながら、マニウスは今にもよだれを垂らしそうな勢いで、キリアイの表情を見つめる。
「…殿下、なんですか。これは?…お代わりはいただけますか」
キリアイはスープを飲み干してから、うっとりとした表情で国王に問いかけた。
「代わりはない。それ限りだ。」
「…!ひどいです。ならもっと時間をかけて味わって食べたのに、先に言ってください!」
キリアイはぷんぷん怒っている。
「うまいだろ。実はそれはバレステロスと言う遠い国から冷凍して空輸してもらっている、貴重な食べ物だ。『アリーメン』って言う。貴様に食わせるのはもったいない限りだが、貴様も食べた以上、余の命令に従ってもらう。」
「はっ。こんな物をいただけた以上、殿下の御意に。」
汚れ仕事や人を傷つける仕事は、もうたくさんだと思っていたが、こんな貴重な食べ物を頂いた以上、それなりの仕事はする。前言撤回。キリアイの目に闘志が湧いてきた。