しかし、キリアイを悩ますこの悪夢が数日、続いた。
もうゼノンから呼び出される事もない。人を傷つけたり消したりする事もない。自分が待ち望んだ平和な日々。それから数日間、何もする事なく、プレアデスのあちこちをぶらぶらする。派手に壊された建物。シルヴァニア王国を中心とする連合軍は、ウラノスの政庁や王宮、神殿など、プレアデス庶民や地上の国々の人々を痛めつける為の施設を中心に破壊活動を行ったらしく、市井の人々の暮らしには明るさが戻りつつある。特に軍用機の発着を行う飛行場は派手に破壊されており、ここは占領軍の方針なのか、修復もされず今も大きな穴が3箇所開いたままになっている。
キリアイは軍の施設をあちこち検分し始めた。パトリオティスとして活動していた彼女にとって、軍施設に潜り込むことなど造作もない。
「ただ、人殺したり傷つけたりすると厄介な事になりそうやな。」
彼女は、息を殺してアキレウスの居場所を探した。
アキレウスを見つけたら、どないして料理したろ。自分がされたように豚のお友達にしてやるか。
キリアイが自由の身になってから2週間がたった。
アキレウスは、どうやら体調を崩し、療養中とのニュースが入った。
「…ちっ。仮病で雲隠れかいな。お偉いさんは勝手やな。」キリアイは悪態をつく。
ラジオの音声が淡々とニュースを読み上げる。
♩アキレウス参謀総長は、体調が回復次第、取り調べが行われると言う事です♩
…しゃらくさいでホンマ。さっさと撃ち殺したれ。キリアイの心の声が聞こえる。
「いや、アカン。アキレウス、ウラノスの軍部というだけや、下手すると罪に問われんかも。ゼノンやセイラみたく、戦争を煽っていた連中とは根本的に異なる。」
「…療養中やと…?」
キリアイは独り言を繰り返したあと、ニヤリとした。
「うちの再就職、決まったで。」
プレアデス中央病院に、よく間に合う金髪のショートカットの看護師が採用されたのはその、3日後だった。
毎日のように運び込まれる軍人。傷ついた民間人。病院はパンク状態だった。そして別室で特別待遇の戦犯たち。戦犯達の相手ができるのはベテランの看護師だけで、どこにいるのかすら機密事項だった。
そこに目をつけたキリアイは、履歴書を3分で書き上げ、病院の採用面接に出向いた。看護師資格を持つ彼女を、プレアデス中央病院は形ばかりの試験で一発合格させた。同時に合格したのは、全員実務経験のない看護学生。圧倒的な人手不足だった。