「レオーネ、リディア、シャールカ、アンドロ、ラウラ、サワ、ディナ、よし、全員いるね、今日の予定を。」
看護師になってから、あっという間にキリアイは同期のリーダー格となった。年齢はそんなに変わらないのに。
キリアイにとっては、過酷と言われる看護師の業務といえど、血で血を洗うパトリオティスの日々に比べれば子どものお使いに等しい。体力も薬学の知識も、同期を遥かに凌駕していた。
「あんまり目立つと、あかんねんな。アキレウスを捕まえるまでは、目だとんとこ。ただ、味方は何人か作っとくか。」
キリアイは今はフィオレンティナと名乗っている。変装のために伊達眼鏡と、髪の毛は金髪に染めた。今、ハチドリやミオとすれ違っても、気づかれる事はないだろう。そして、話し言葉を標準語のウラノス語に切り替えた。
「フィオさん。私、今日、早上がりしたいんですが…。」
「ああ?シャールカ?いいよ。私が残るから。お兄さん、軍隊から戻ってきたんでしょ。早く行ってあげなさい。」
「フィオさん。私、明後日、母の看病で遅出したいんです…。」
「リディア。あなた結構働きすぎよ。1日休みなさい。私、その日2人分頑張るから。」
「フィオさん。この薬、投与していいのでしょうか。」
「それを決めるのはドクターでしょ。あなたが悩むところじゃなくて?でも個人的に薬の勉強しておくのはいい事ね。私でわかる事なら休憩中に教えるから、今は仕事に集中しなさい。」
「フィオさん…」
肩が凝る。キリアイはフィオレンティナと名乗ってからは、ミオ・セイラの使っていたウラノス標準語を真似して同僚たちと会話をしている。わかっていた事だが標準語は肌に合わない。そして、何でもかんでも聞いてくる同期たち。こいつら、看護学校で何を勉強してきたのだろうか。重症の傷痍軍人を目にして、震えるのもいる。
キリアイはいつも仕事から帰る時は一人だ。
同期や同僚から頼りにされ、チヤホヤされている。飲みや食事の誘いも多い。でも彼女はいつも心の中に闇を抱えていた。
『パトリオティスの頃に比べて、刺激がないわぁ。あんまり仲ようなかったけど、ミオやハチドリやニナがいた時の方が楽しかったなぁ。でもニナに毒をもれとか酷い命令もあったなぁ。今の方が人間の生き方としては正しいんやろうけど、うち人間として大事なもん欠けとるさかい。退屈してまうわぁ。はよアキレウスのお付きになれんもんかな。…やはりうち、殺人マシーンとしてしか生きられんのんか。悲しいなぁ。』
そんな悲しみが募る時、彼女はひとり自室で酒を飲む。酒の力で入眠するしかないのだ。
そんな夜、あの悪夢が蘇ってくる。
『…私の分まで生きて、ね…。大好きだよ…。』
『いやや!いやや!フィオレンティナ!目開けてくれや!!』
子どもの頃のパトリオティスの過酷な訓練で、とても仲の良かった女の子が死んでしまったときの夢だ。
でも、その夢は簡単には覚めてくれない。キリアイは悪夢にうなされながら、汗だくになる。