そんな頃、キリアイは同期の黒一点のアンドロが病院の隅っこでぼんやりとしているのを見つけた。アンドロは同期の中でもあまり要領が良くなく、ディナやサワから度々ドヤしつけられている。シャールカやリディアは優しく接しているが、どうも彼の働きぶりには呆れている様子だった。
「フィオレンティナさん、」
「アンドロ、どうしたの、こんなところで。」
アンドロはキリアイの事をあだ名呼びすらしていない。いつも本名で呼ぶ。こんなところも彼の鈍臭さ、コミュニケーション能力の無さを示しているようだ。
「ちょっと悩みがあって…。」
また悩み相談か。でも、アンドロはいつも同期の看護師達の影で引っ込み事案していて、キリアイに相談事をした事がない。悩み相談は飽き飽きしているが、まあアンドロだから、聞いてやろう。
「ええ、いいのでしょうか。」
「アンドロ。遠慮しないで。同期でしょう。」
「…わかりました。ありがとうございます。」
「ふふっ。敬語でなくていいのよ。私たち同期じゃない。」
「…じゃ、お言葉に甘えて。実は僕、病気がちの妹がいるんです。」
「あ、いつだったか教えてくれたよね。ちょっと歳の離れた妹さん。」
「で、その妹が入院しちゃって。見舞いの品を考えているんです。フィオレンティナさんなら何を贈ります?」
一瞬、空気が凍てついた。しかし、キリアイは平静を保ちつつ、とぼけた。
「うーん。私ならね。ケーキかフルーツがいいかな。」
「そうですか。違う答えが返ってくるかと思ったんですけど。」
アンドロは、そう言って、突然、キリアイに鋭い蹴りを放った。「!」
キリアイは咄嗟に宙返りをして、その蹴りをかわした。
しかし、キリアイの左腕の袖が裂かれていた。どうやらアンドロの靴に刃物が仕込まれている。
「正解は、『十二月の薔薇』だろ?パトリオティスNo.5?」
アンドロは一瞬でキリアイへの距離を詰めてきた。キリアイはナース服の内側からハンドダガーを取り出す。しかしふわりとしたナース服では戦闘がしづらい。
「ガチーン!!」
アンドロもナイフを取り出す。キリアイに斬りつけるも、キリアイはハンドダガーで受ける。キリアイの眼前で火花が2度散った。
「何の用だ?貴様パトリオティスの残党か!?」
キリアイは腹を決めて、アンドロに問いかける。アンドロは言い返す。
「だらしないぞキリアイ。俺は変装の達人シラサギだ。やはり俺を見抜けなかったようだな。ところで、ユリシス宮殿で裏切り者が出たようだな。パトリオティスのNo.4までが全員死んだだと?何があった?しかも天宮に潜伏していた中でパトリオティスNo.5とNo.8が生き残っただと?なぜお前たち下位のへっぽこ連中が生き残った?閣下はどうなった?」
シラサギは矢継ぎ早に質問を浴びせてくる。キリアイはへらりとした口調で答えた。
「ほんなもん。知るか。運が悪かったんやろ。運も実力のうちや。うちら下位のパトリオティスの裏切りぐらいで崩れるぐらいなら、生き残ったところでそう長くは持たんわ。ゼノンの時代は終わったんや。うち、新しい人生始めてん。邪魔するなら容赦せえへんで。」
キリアイはハンドダガーを中段に構え直した。