すると、シラサギは逆手に構えたナイフを横なぎに振ってきた。
「!!」
またも火花が一閃する。
その次の瞬間、シラサギは宙蹴り、オーバーヘッドキックをキリアイに見舞う。
「しもた…!」
キリアイの左袖がさらに斬られ、今度は微かな痛みが走る。どうやら切り傷を負ったようだ。
「ち、しゃあない!」
キリアイは煙玉をシラサギの足元に投げつけた。煙幕がもうもうと立ち込める。
「お得意の催眠ガスか、そんなもの俺が何も対策せずにここへきたと思うか。」
「やかましわ。格下の分際で。」
「ほう。言ってくれるな。その格下にせいぜい痛めつけられろ。」
体が重い。キリアイは痺れ薬が傷口から入ったと感じた。振り向くとシラサギはいつの間にか顔に鉄の仮面をつけている。催眠ガスも効かないはずだ。
キリアイはナース服の裏側から拳銃を取り出した。
「悪いな。面倒やさかい、ここでお別れするで。」
シラサギは急に顔を強張らせて、両手を挙げた。この間合いで拳銃を持ち出したキリアイには勝てないと判断したのだろう。
「すまん、キリアイ、悪かった。俺の負けだ。」
キリアイはゼロコンマ1秒逡巡した。『こいつ殺すと看護師クビだな…アキレウスへの仕返しが出来なくなる…。』
そのコンマ1秒の間、シラサギは顔に一瞬だけ笑みを浮かべた。
「俺
「な、なに!?」キリアイはただならぬ殺気を背中に感じ取り、ふっと体の軸をずらした。
一発の乾いた銃声とともに、キリアイの肩口に銃弾が命中した。キリアイは強烈な目まいに襲われる。麻酔銃か…?
「卑怯もの!女ひとりに二人がかりなんて!」
キリアイは銃声の方に顔を向けて、キッと睨みつける。そこにはパトリオティスNo.7アオサギが不気味な笑みを浮かべていた。
キリアイの意識は遠くなっていった。そして彼女は中庭の芝生の上でごとり、と倒れた。彼女は意識朦朧とする中、三人の名前を無意識のままに呼んでいた。
「フィオレンティナ、ミオ、ハチドリ…。」
彼女がその三人に何を言いたかったのか、それは誰にもわからなかった。
「ふ、馬鹿め。お前に普通の女の子のようなご丁寧な対応ができるか。この毒女。今まで散々馬鹿にしやがって。」
アオサギは拳銃をしまい、キリアイの体を縛り付けた。
「シラサギの兄貴よ。アキレウスの旦那にこのアマを献上すりゃいいんだな。」
「おう。丁重に扱えよ。大事な手土産だ。」
「しかし、キリアイにしては読みが甘かったな。病院に潜入して、おおかた療養中のアキレウスの旦那に仕返しでも考えていたんだろうが。アキレウスの旦那はその裏をかいたと言うわけか。」
「まぁ、そういう事だな。」
「そして遠い異国にいた俺らがこんなに早く戻ってくると読んでいなかったわけか。」
「ウラノスが崩壊して、ゼノンの旦那が捕まって頭がいかれてしまった。そんな状態なら、俺らは商売上がったりだ。次の雇い主が案外早く見つかって良かった。」
「俺らの初仕事はこの忌々しい毒女を捕まえて、アキレウスの旦那に献上すること、か。おいしい仕事だったな。シラサギの兄貴、報酬は俺は3割でいいわ。」
「お?アオサギ?いいのか?控えめだな。」
「ゼノン閣下が逮捕されて、仕事がなくなるばかりか、指名手配される可能性もあった。そんな時に、兄貴がこんないい仕事を見つけてくれたんだ。しかもムカつくキリアイに仕返しもできた。今後は俺は兄貴についていくぜ。アキレウスの工作員として働くから、よろしく頼む。」
「おう、よろしくな。」
アオサギとシラサギはパン、と手を叩いた。