ちょうどその頃、特別室で入院していたアキレウス参謀総長が、特別室を出るよう促された。
「なんだね。君は。私は、病人だぞ!」
「病人である前に、戦犯であるかと思いますが。閣下。」
アキレウスの背中に銃を突きつけているのは、ニナの忠実な部下であったヘドウィグだった。現在はウラノス警察の特務班で現場指揮を取っている。
「いや、閣下にはもう一仕事お願いしたくてですね。パトリオティスのNo.6を捕まえるべく、一芝居をお願いしたいのです。5と7は私の部下が捕らえました。じきにウラノスの特務班事務所に連行される予定です。そこで閣下にはNo.6をねぎらってもらいたい。それだけです。簡単でしょう。その隙を見計らって、私どもの精鋭がNo.6を捕らえます。あなたはそれを見ているだけでいい。」
しかしアキレウスは恐れおののきながらも、提案をしてきた。
「もし私がその通りにしたならば、パトリオティスNo.5の女を助けられるか?」
「は?何を?閣下とパトリオティスの女が何か関係あるのか?」
ヘドウィグがいぶかしむ。
「…戦犯で有る私がこんな事を要求できる立場にあるとは思えぬが、パトリオティスNo.5キリアイは私の気に入りの工作員だった。時代が変われば、私の秘書に、とも考えていたが、もう時代は私を必要としないようだ。せめてもの彼女への贖罪の意思として。彼女を自由の身にしてはいただけないだろうか。私は時代の流れに乗り切れず、断罪されてしまうだろう。だが、パトリオティスは今までの残酷な時代の犠牲者だ。彼らも戦争に加担したことは確かだが、彼らの若い命を奪うほどの罪があるとは思えない。その罪は我々が作り上げた残酷な時代が着せた罪だ。断罪されるのは我々だけで良い。」
ヘドウィグは神妙な顔をしてアキレウスの述懐を聞いている。そして口を開いた。
「閣下は誇り高き軍人で有るということが分かりました。ただ、お気づきの通り、私の一存で閣下の罪やパトリオティス達の罪を決めることはできません。ただ、このヘドウィグ、ウラノスの首脳部にも閣下のような方がいらしたという事だけでも、この戦争にささやかな救いがあったと思います。No.5の女の命についてはお約束はできませぬが、特務のメンバーにはお伝えしておきます。」
そしてヘドウィグはアキレウスを連行し、特務班事務所へやってきた。
アキレウスを幽閉した後、ヘドウィグはイグナシオ・アクシスに顛末を話した。
「首尾は上々のようですね。私の作戦通りにうまく行っているのは、ヘドウィグさんのおかげですよ。」
特務班作戦担当となったイグナシオは、自分も動きたくてうずうずしているようだ。しかし、彼は「プレアデスの奇蹟」の前哨戦でキリアイの毒に侵され、今も前線で働くことはできず、こうして作戦担当として働いている。
「イグナ、実は…。」
ヘドウィグは、イグナシオにおずおずと話を始めた。先ほどのアキレウスの話だ。ヘドウィグもイグナシオがキリアイの毒に今も悩まされている事を知っている。そんな彼には話しづらいことであった。