「あれはそう・・・二年前の梅雨入り時だったかな。」
「師匠も知っていると思うけど今どき騎士は皆能力重視で剣術なんて
学ぶ機会なんてなかったんだ。特に黒乃理事長が就任する前まではそれが顕著でね」
「僕の『綾辻一刀流』はそんな中においてもめげることなく続いていたんだ。」
「その証拠に何人かの門下生がいてね」
「・・・楽しかったなア。・・・アイツが来るまでは。」
絢瀬はそう昔を思い出して笑っていたが不意に・・・表情を変えた。
「あいつ・・・とは?」
一輝は誰の事だと思いながらそう聞くと絢瀬はこう答えた。
「・・・貪狼学園所属にして前の七星剣武祭においてベスト8にまで上り詰めた《剣士殺し(ソードイーター)》の異名を持つ騎士《倉敷 蔵人》。」
「あいつが・・・全ての始まりだった・・・・!!」
--2年前。
絢瀬は授業を終えると寮には戻らず傘をさして実家の道場に週3の割合で
来ていた。
絢瀬の父親である《綾辻 海斗》は彼女が中学1年生であった頃、海斗の心臓は現代医学においてしても治すことが出来ない不治の病を抱えてしまい、
もし剣を握って戦いをすれば命の保証が出来かねないという医師からの
通告があった。
それに伴い海斗は自身の奥義を娘に託し自身は第1線を退いて後進の育てに
入った。
門下生は全員合わせて7人。
中でも塾頭は絢瀬よりも強い。
それ故に絢瀬は彼に稽古をつかせているのだがこの日は・・・違った。
「え?」
開け放たれた門の向こうにいたのは・・・蔵人であった。
「・・・・ハハッ。」
蔵人は揶揄うかのように笑いながら絢瀬目掛けてこう言った。
「またな」
そう言い残して姿を消した。
「(何だろう・・・今の人)」
絢瀬はこの時こう思っていた。
「(今のは貪狼学園の制服だったから道を聞きに来たのかな?)」
絢瀬はそう思いながら道場に入ろうとすると・・・怒声が響いた。
「クッソオー!!あの野郎許せねえ!!」
塾頭でもあり絢瀬にとって幼馴染ともいえる青年「菅原」の声が
聞こえたので急いで道場の引き戸を開けるとそこで目にしたのは・・・。
門下生全員の怒気の表情と無言で正座をしている海斗であった。
「どうしたんですか?何かあったんですか??」
絢瀬が菅原に向けてそう聞くと菅原はこう言った。
「さっき、変な恰好をしたチンピラみたいな学生が突然上がり込んで《この道場を賭けて勝負しろ》って言ってきたんだが知ってるだろ?今師範は体を壊して
無理は出来ないし何より《綾辻一刀流》はそう言うギャンブル紛いな
野良試合を禁止してるだろ?」
「うん。《綾辻一刀流》は守りの剣。無駄な争いを起こしたり自らの力を
誇示するような剣はしないって言うのが理念だもの。」
絢瀬がそう言うと菅原はこう続けた。
「だから師範はその試合を断ったら・・・あの野郎!!」
『落ちぶれたなアそれで《ラストサムライ》だなんて笑わせれるぜ。』
『臆病風に吹かれたなこのヘタレが』
「散々馬鹿にした挙句にあの野郎!!師範の顔に唾吹きかけやがって!!」
「只のチンピラ風情が能力使えるからって偉そうに!!」
そういう中で絢瀬も同じ気持であった。
父親に対して唾を吹きかけた。
それだけでもう絢瀬の怒りは頂点に達したといっても良い程だ。
そしてもう一人の門下生である新田が蔵人が付けた靴跡を見てこう言った。
「くそ、神聖な道場に土足で踏み入るなんて・・・!師匠の体が万全だったら
あんなガキ一ひねりなのに・・・!!」
「其れは違うぞ、新田」
今まで沈黙を貫いていた海斗が鋭い声でこう言った。
「例え体が万全だったとしても俺は受けなかった。《綾辻一刀流》は
人を守る為であって決して相手をぶちのめすためのじゃねえ。
その心意気だけは忘れるな。」
「は、はい!!すみませんでした!!猛省するっす!!」
新田はそう言って海斗に向かって素直に頭を下げた。
「良し。他の者たちも手が止まっているぞ!罰として素振り千本追加だ!!」
そう言うと海斗はぱちんと手を打って場の空気を切り替えた。
そして道場に活気を取り戻すと菅原がこう言った。
「良し、それじゃあ絢瀬ちゃんも早く道着に着替えておいで。
あんな力に溺れたブレイザーにさせる訳にはいかないからね。」
「はい!よろしくお願いします!」
絢瀬はその言葉を聞いてすぐに準備するために更衣室に向かった。
「・・・中々なお人だね。」
一輝は絢瀬の言葉を聞いてそう言いながら酒を飲んだ。
「うん、僕も誇りに思っているし《綾辻一刀流》の理念も心に刻んでいるよ。」
だが暫くして・・・絢瀬は沈んだ表情でこう言った。
「だけど・・・幸せな時間はそんなに長い間続く訳じゃなかったんだ。」
「・・・何があった。」
「何が・・・・・か」
『お父さん‼!』
あの時を思い出す。
『ねえ目を開けてよ!お父さん‼!』
あの時の父の戦う姿。
『お願いお父さん‼!』
そして・・・。
『お父さん‼!』
何もかも失い・・・倒れ・・・・。
『イヤアアアアアアアア』
血まみれの床に倒れ伏した父と・・・倒したアイツの顔が。
「あいつが・・・全てを奪った!!」
②に続く。