蔵人が来た次の日。
「こんにちは~。・・・・あれ?」
道場には行ってみるとそこにいたのは・・・座布団の上で正座していた海斗だけであった。
「あれ?父さん、皆は?」
絢瀬がそう聞くと海斗はこう答えた。
「まだ来てないがまあその内来るだろう。」
「折角二人きりなんだ。俺が直々に剣を見てやるよ。」
「・・・振っちゃだめだよ父さん。」
「大丈夫見るだけだ。最近は梅雨のせいか調子があまり良くないしな。」
絢瀬の言葉を聞いて海斗はそう答えた。
絢瀬は木刀を正眼に構えてスタンスを僅かに開いた。
そして腰を落として、肩の力を抜く。
あの日見た海斗の動きをトレースしようとするも・・・海斗から駄目だし
言われた。
「違う。肩の力を抜いて良いが腕の力も緩めようとするな。手首は
もっと締めて良いが力むな。常に自然体である事」
「む、難しいよ。父さん。」
絢瀬がそう言うと海斗はこう答えた。
「それが出来なくて『奥義』は使いこなせんぞ。だったらもう一度手本」
「・・・・・」じとー。
「・・・・・」
「・・・・・」じとー。
「・・・・・分かったから死んだ母さんみたいに睨みつけないでくれ頼むから。」
海斗は絢瀬の無言の圧力に屈して降参するように両手を上げるとこう続けた。
「母さんも非難する時には無言でそうやるなおい。」
見てるよなと言うと絢瀬はこう答えた。
「当然だよこれは母さんから教わった父さんを止めれる秘伝術なんだから」
「親子二代に尻敷かれるおやじって一体何なの!?」
父親面目無しかよと言いながら絢瀬の後ろに立ってこう言った。
「良いか、絢瀬。この奥義の要は刀を攻めの姿勢から崩さない事にある」
そう言いながら絢瀬の手を握る海斗の手を絢瀬はにこやかにこう思っていた。
「(久しぶりだなア、こうやって付きっ切りで教えてもらうのは。)」
そう思っていると絢瀬はこてんと海斗の厚い胸板にもたれかかりながら
こう言った。
「・・・ずっとこんな時間が続いたら・・・良いな。」
「・・・そうか」
海斗はその言葉に対してそれだけで答えた。
それが儚い願いだと知っていても・・・二人はそう思いたかった。
然しその時間は・・・・・。
残酷な形で終わらされた。
「・・・・師範・・・。」
「?・・・・!!どうした菅原!?」
海斗はがらりと道場の引き戸を開けた・・・全身傷だらけで包帯や
ガーゼだらけの菅原を見て驚いている中絢瀬は顔を青くしてこう聞いた。
「その怪我一体どうしたんです!?」
そう聞くと菅原は・・・一瞬泣き出しそうな表情をして・・・土下座して
こう言った。
「師範・・・申し訳ありませんでした・・・・!」
すると海斗はこう聞いた。
「顔を上げろ、この怪我は・・・・転んだわけじゃ」
すると菅原がこう言った。
「あの・・・昨日来た男に・・・いきなり襲ってきたんです!棒きれでいきなり頭を叩き割ろうとしたんで俺達仕方なく全員で・・・応戦したんですけど・・」
「まさか・・・。」
絢瀬はそれを聞いて更に顔を青くするとこう言った。
「歯が立ちませんでした!能力を使う価値もないかのように・・・魔力で
守ってもいない・・・あいつに・・・・7人がかりでも触れずに・・・
負けてしまって!!」
「・・・後の連中は。」
海斗がそう聞くと菅原はこう答えた。
「新田はボンボンだからカプセルで治療できたんですが知ってるでしょ?!
あれは健康保険適用外だから・・・未だみんな・・・寝たきりで・・・中にはもう腕が元に戻れねえ連中もいて!!」
そう言うと菅原は顔を上げて・・・こう言った。
「先生!俺達、・・・先生に憧れて今日までやってきました。先生みたいな、
誇り高い男になりたくて・・・だけど・・・こんなこと言いたくねえけど・・」
「・・・俺達が何年もやってきたことって一体なんだったですかねええ!?」
菅原は泣きながら海斗に向かってそう言った。
今の菅原の瞳は恐怖と絶望で淀み切ってしまった。
今の彼の心はぐちゃぐちゃにへし折られているのだ。
そして恐らく・・・・
「すみません・・・俺達もう・・・剣を握れません・・・!!」
残り六人の心を象徴するかのように菅原は懐から全員の退会願いを取り出した。
「(・・・酷い)」
絢瀬はそう思っていた。
7人の真っすぐな道をまるで戯れの様にへし折ったことに恐怖したのだ。
すると・・・。
「ハハッ、これはおもしれえとこに出くわしたな。」
「「「!!!」」」
三人はその声を聴いて振り向くとそこにいたのは・・・。
「まさか全員辞めちまうとはちょっと虐めすぎたか」
蔵人がいた。
「ひ・・・・ひっいイイイイイいいいイイイイイ!!」
蔵人を見た瞬間に菅原は悲鳴を上げてバタバタと四肢をばたつかせて道場の奥に逃げ込むが蔵人は菅原に近づきながらこう言った。
「オイオイオイ逃げるなよ。傷つくだろ」
ゲラゲラと品のない笑い声を上げながら土足で道場に踏み入った。
「来るな!来るな!!・・・来ないでええええええええええ!!」
「や、やめろ!怖がってるじゃないか!!」
絢瀬はそう言いながら震える菅原を庇う様に前に出た。
すると海斗は蔵人に向かってこう聞いた。
「何の用だ。」
すると蔵人はこう答えた。
「要件は前と同じだ」
「ならばこちらも同じように」
「今日なら違った答えが聞けると思ったんだがなア」
そう言うと海斗はこう聞いた。
「・・・何故ここまでする必要がある?」
「あん?」
「お前はブレイザーだ。学園なり七星剣武祭なり、暴れる場所も
相手も事欠かない」
「・・・いねえんだよ。」
「何?」
蔵人がそう言うのを聞いて海斗は何だと思っていると蔵人はこう続けた。
「どいつもこいつも俺を見て・・・戦って・・・負けて・・・逃げるように
媚びへつらいやがる。・・・俺は強くなりてえんだよ!!」
「強くなって最強の頂に立つ!男に生まれたんならそれぐらいのもんを
目指すのは道理だろうが!!」
「それなのにランクだとか能力だとかで自分の限界を早々に見切っちまう連中を見てるといらいらするんだよ!!!」
「・・・・・」
海斗はそれを聞いて成程と思っていた。
そしてこう言った。
「お前は戦いたいのか・・・自分として見てくれる人間と戦うために」
「そうだよ・・・そしてあんたに辿り着いた。」
「然し見てみりゃああんたは隠居してこんな連中と剣道ごっこ・・・
ふざけんじゃねえ!!」
蔵人は扉を壊すかのように叩いてこう言った。
「こんな『剣』を持つって言うのがどう意味なのか分からねえ奴らに
あんたの時間を割かすのがどんだけ無駄なのか知ってやろうと思って
やったんだ!!」
すると蔵人は立てかけている木刀を持って海斗に向けてこう言った。
「さあ戦えよ!!『ラストサムライ』!!!それとも娘が仲間に酷い目合う
動画を送り付ければ戦ってくれるのかよ!!!」
ああ!!とそう言いながら海斗に問いただした。
然し絢瀬は海斗の前に立ってこう言った。
「駄目だ!父さんは引退してずいぶん時間が立つしそれに」
「良いだろう。」
「父さん!!」
絢瀬は止めようとするも海斗はこう続けた。
「ありがとうな。お前の俺の身を案じてくれる優しさには俺は誇りを感じる。」
「けどなあ・・・・・!!」
すると海斗は鬼の如き形相でこう言った。
「俺の大切な生徒たちを傷つけたこいつだけは・・・俺が倒す!!」
そう言うとそれを聞いた蔵人はこう言った。
「良いねそれでこそ『ラストサムライ』だ!!女!!」
「!!」
蔵人は絢瀬を見てこう言った。
「審判はお前だ!こいつらよりも良い目を持っていそうだからな。」
そう言うとお互い位置に着くと海斗はこう言った。
「試合形式は時間無制限。有効打は二本。先に先取した奴が勝ちとする。」
「獲物は木刀。魔力の使用」
「んなもんしねえよ。折角『ラストサムライ』とやりあえるんならフェアに
やらねえとな!!」
蔵人はそう言いながら木刀を構えた。
そして海斗も木刀を持って目を閉じたまま佇んだ。
双方準備が出来たのを確認して・・・絢瀬は・・・こう宣言した。
「それでは・・・試合・・・開始!!」
二人の戦いの火ぶたが切って落とされた。
互いに剣を振った。
例えそれが・・・もうどうにもならないと分かっていても。