ラップランドのスキンシップが過激になったり、戦闘があったりします。
もしかしたらこの調子で続くかもしれません。
※キャラ崩壊、解釈違いなどを含んでいる可能性がありますので閲覧の際はご了承ください
「感染者孤児の受け入れ要請?」
「はい、先日連絡が来まして。孤児院で預かっている感染者の疑いがある子供をまとめて面倒を見て欲しいそうなんです」
「なるほど…………」
アーミヤからその話を聞いたのは、俺の自室で任務について話しているときだった。
「人数は?」
「8人だそうです。全員歳は10才未満ということでした」
「本当に子供だな。確かにそれだったらロドスの方が安全だろうな」
「はい。一応孤児院そのものの存在と感染者の子供たちというのは、調べた限りでは裏が取れています。地域的にもおかしくありませんし、変な組織の罠という可能性は低いと思います。それに現在のロドスの施設を考えても余裕はありますし、私は受け入れてあげるべきかなと思うんですが、ドクターはどう思いますか?」
「俺も賛成だよ。特に子供ってんならなおさらだ」
資料を見た限りではその孤児院はそれなりに大きく体制もしっかりしているようだが、感染者の子供がいるとなれば話は別だろう。
例え子供でも、感染者というだけで争いの火種になりかねない。悲しいが今の世界はそういう状態なのだ。
「ケルシー先生はなんて?」
「私たち二人に判断を任せると」
「なら決まりだな。一応空き部屋の確認とかもしとかないと。あと生活用具一式と……あ、でもそういうのは性格見てからでいいか。日取りの指定はあったのか?」
「はい、いくつか指定がありましたが、一番早い日だと5日後です。直接孤児院まで行って子供たちを預かる形になるので、その日にするなら後で私までメンバーの編成を送ってください」
「わかった。なるべく早く決めるよ」
とりあえず前向きに検討しようということになり、俺はそう返答した。
そしてその日はその他の任務についても含めて色々と話し合った後、アーミヤとの会話が終わった。アーミヤが退室するとすぐ横で寝たふりをしていたラップランドが起き上がる。
「相変わらず寝たふりなんだな」
「彼女にとってはそのほうがいいだろう? 視線を気にする必要もないし、お互いに気が楽だからね」
「アーミヤはそんなん気にしないと思うけどなぁ」
最近のラップランドは基本的にこんな感じだ。一部テキサス等の例外を除いて、自室では二人きりの時でないと口を開かないことの方が多い。
その分更に距離が近くなっているが、元よりお互いにパーソナルスペースがないようなものなので今更気にもならない。
ただ俺のことを心配し、そしてラップランドのことを警戒しているオペレーターからは良く思われていない。当たり前だが、俺としては少し複雑な気分だ。
「それよりもさドクター、さっき話してた孤児院の任務にボクも連れて行って欲しいなぁ」
「ん? アーミヤと話してたやつか?」
「うん」
孤児院には俺も代表として行くつもりなので、それに付いて行きたいということなのだろう。ラップランドは俺に手を回してくっつきながらそう言った。二人きりになったとたん距離を縮めてスキンシップを取ってくる様子は非常に愛らしいとさえ言える。
しかし、俺はわずかな不安を感じた。ラップランドがこんなことを言うのは少し珍しいからだ。
(この任務に自分から行きたいって言うなんてな……)
基本的に何でもそつなくこなしてしまうラップランドにも得意不得意がある。そして苦手な任務の場合には俺がいようがいまいが興味を示さないことの方が多い。その上ラップランドは子供があまり得意ではない。
別に乱暴な態度を取るわけでも、子供がラップランドのことを怖がるわけでもない。意外にもラップランドは子供と接しなければならないときには紳士的な態度を取るので、むしろ扱いに関しては上手いと言ってもいい。が、それ故にいつもと全く違う振る舞いをしなければならないために気を張っている必要があるらしく、それが苦手だということだった。
それなのに今回、ラップランドは自ら同行を希望している。この事実が意味するのは何か。
(何かある……のか?)
場所的にラップランドが孤児院のことを知っているとか、アーミヤも知り得ないようなことを知っている可能性はほぼ0だ。だとすると同行を希望する深い理由はないはず。
それなのに自分から進んで同行を申し出ている。そこが不気味なのだ。
ラップランドの勘は良く当たる。
(少し用心しないといけないかもな……)
編成する面子を気にしよう。そう思いながら俺は待機中のオペレーターのリストを引っ張り出した。
ラップランドも俺の肩越しに覗き込むようにしながら、一緒になって目を通していく。
「最近は結構みんな出ずっぱりみたいだね」
「この時期はいろいろあるからな。元の仕事に戻ってるやつとか、帰省してるやつもいる」
「なるほどね。今回の任務に適任者はいるのかな?」
「そうだな……シージとロサはちょうどいるし確定だ、子供の扱いを任せられる。それから念のためチェンとホシグマも入れるか」
「意外な人選だね。ロサはともかくとして、シージにそんな印象はないけどなぁ」
「普通はそう思うだろうけど、ああ見えてあいつは面倒見がいいからな。威圧感振りまくタイプでもないし、常識もあるから適任だ」
「流石に詳しいね。少し妬いちゃうな」
そう言いながらラップランドが視線を合わせてくる。リストを俺の顔の間に入ってくる形なのでかなり強引だ。
少し、雰囲気が変わる。
「おっと……そんなにか?」
「そんなにだね。わかっててもドクターの意識が他のやつに向いてるのは気分が良くないからね」
そう言うが早いがラップランドは俺の首元に顔を近づけると、
「はむっ」
「ッ!」
噛みついた。
「おいこら、やめ…………」
そう口に出した瞬間、全身に鳥肌が立つ。
痛覚が反応し、鋭い痛みを感じる。おそらく血も出ているだろう。しかも首は人体の急所だ。更に深くなるなら、動脈や頸椎という重要器官の話になってくる。
俺は今、ラップランドに命を握られている。そう感じさせられる状況だ。
もちろんその気になれば振り払うことぐらいできるだろうし、ラップランドにもそのつもりはないだろう。しかしそういった条件は関係ない。
ラップランドによって受けた痛みであるという事実。それにこそ大きな意味がある。
いつの間にか二人の間に流れる雰囲気は一変していた。それは獲物を狙い合う猛獣同士のように張りつめた緊張感がありながら、太陽の光を受ける草原のような穏やかさが同居する異質な空間だった。
「………………」
「………………」
しばらく俺は抵抗ができずにいた。ただラップランドに身を任せていた。
彼女もそれがわかっているからか、下手に動いたりはしなかった。ただ俺の首に牙を突き立て、吸血鬼が血をすするかの如く動かない。
薄氷の如き信頼の上に成り立っている不思議な関係。不思議なことに俺の胸に去来したのは不安や恐怖ではなく、深い安心感と僅かな快楽だった。
「あー…………ラップランド?」
「………………」
やはり彼女は動かない。
こういったやりとりはもう日常茶飯事だが、なかなか慣れるものでもない。特にラップランド相手だと痛みを伴う行為が多いので、生傷も絶えない。初めの頃こそもっと困惑していたが、これが彼女なりのスキンシップなのだ。
さらにしばらく時間が経過したのち、俺は流石にラップランドを咎めた。
「こーら、いい加減にしろって」
「……っはぁ…………ふふふ、悪いね」
そう言いながらイタズラっぽく笑うのは何とも彼女らしい。もっとも、この光景を他のオペレーターに目撃されようものならイタズラどころか完全に事案だが。
俺は首に手を当てる。するとややべっとりとした生暖かい何かが付着するのを感じた。わかりきってはいるが一応見てみると、やはり血液だった。
「あーあ、キスマじゃないんだから、こんなの見られたらまたいらん心配されるっての」
「それは今更だろう? それよりドクターはいいの? ボクに噛みつかなくて。おあいこにした方がいいだろう?」
「やらねぇよ」
実のところほんの少しだけ迷ったが、すぐに否定を返す。もともとそんな趣味はなかったはずだが、『あの事件』があってから影響を受けているようだ。
俺は常備してある薬やガーゼを使って簡単に処置をすると、再びリストに目を戻した。引き続きメンバーの選定をする。
「もう噛むなよ?」
「保証はできないねぇ」
「全く…………」
そんなことがありながらも、俺はオペレーターを選んでいったのだった。
「では、よろしくお願い致します」
「はい。我々で責任をもって支援しますので」
当日。主要な町からは少し離れた場所に位置する孤児院にて、俺たちは子供を預かった。
事前に聞いていた通り8人で、皆鉱石病の疑いがある。うち2人はもう目に見えて症状が出ている状態だった。
「それじゃあ出発だ。何かあったらすぐに言うこと、いいね?」
「「「はーい」」」
思っていたより皆元気があり、返事もしっかりしてくれる。一番内気そうな子も聞こえる声でしゃべってくれるので、コミュニケーションは問題なさそうだ。
メンバーは最終的に俺とラップランド、ロサ、シージ、チェン、ホシグマ、スズランにアンジェリーナの計8人になった。もう一人ぐらい連れてこようかとも思ったのだが、都合の良いオペレーターがいなかったのだ。
俺は予定していた通り子供の相手を他のみんなに任せて、周囲の警戒に当たることにした。
(とは言っても、この辺りには特に変な施設はなさそうだったしな。考えすぎかね)
念のためかなり慎重に進んできたつもりだったが、今のところ問題が起こる気配はない。最寄りの町もいたって普通だったし、気にしすぎかもしれない。
『ああそうだ、今回一応これ持って行ってくれないか?』
『これは……剣? それも普通のやつじゃないか。どうしてこれを?』
『俺の剣のこと知ってるのはお前だけだからな。持っていこうにも目立つし、いざとなったらそれでも俺は戦えるからさ。お前が持ってればそこまで違和感はないだろ?』
『なるほどね。ならボクが持っていくよ』
ラップランドにそう言って頼んだ予備の剣も、使うことなく終わりそうだ。
「それでねー、ロドスに行ったらおいしいご飯が食べられるってせんせーが教えてくれたの!」
「うふふ、そうね。毎日全部ってわけではないけど、きっとおいしい物も食べられると思うわ。あなたは何が好きなの?」
「えーっとね、お肉! それからりんごも好きだよ!」
「そうなのね、じゃあロドスに付いたらたくさん食べられるようにお願いしなきゃ」
「うん!」
ロサは予想通りと言うべきか、子供たちと自然に接せているようだ。
元々面倒見がいいというか器量がよいというか、他人に対して優しく気配りができる性格なので、小さな子供たちとも仲良く会話をしている。
スズランも年が近いこともあってかすんなり話せているし、アンジェリーナもロサと同じように普通に話せている。
一方シージはかなり戸惑っているようだ。
「ドクター、何故私が子供の世話を……」
「優しいからだよ」
「そんな、優しいなどと…………しかも私はアスランだ。とても適任とは思えないのだが……」
「大丈夫だって。本当に無理だったら俺が変わるから、とりあえず挑戦してみてくれよ」
「わかった…………」
おそるおそるといった感じで子供たちに近寄っていくシージ。
すると数秒後にはものの見事に子供たちに囲まれてあれやこれやと言葉の一斉掃射にあっていた。
「おねーちゃんかっこいいー!」
「そ、そうか……」
「おねーちゃん強そうー!」
「あ、ああ……」
「おねーちゃんは何が好きー?」
「おねーちゃんのもってるその武器なにー?」
「おねーちゃんおんぶしてー!」
「あ……いや……その…………」
普段クールで取り乱さないシージがここまであたふたしているのはなかなか見られないだろう。我ながらいい人選をしたものだ。
「さてと、後は帰るだけか」
行きと違って子供たちのペースに合わせる必要があるのでやや遅いが、それでも予定通り街に付くだろう。そこからは車を使って移動するので楽だ。
盾持ちのホシグマや大型のバインドランスを持っているロサには気を使うつもりだが、それを考えても遅くなることはないだろう。
「ねぇ、ドクター」
ふと、ラップランドが声をかけてきた。
「ん? なんだ? ラップラン……ド……?」
その瞬間、急に時間の流れがゆっくりになっていくような感覚を味わった。
あまりにも唐突に、そしてあまりにも不思議な出来事だった。
(う……嘘だろ?!)
自分の見ている光景が、録画された動画の再生速度を下げられているかのように感じる。目に映る全てのものの動きが徐々にゆっくりと減速していく。そして何もかもが遅くなっていく中、自分の意識だけがその光景に取り残されているような現象。
それは言葉で言い表せないような強烈な違和感の連続。周囲の木々や空気の流れ、他のオペレーターたちの動き、そして自分の身体までもどんどん遅くなっていく。やがて全ての物体が停止し、まさに時が止まったかのような印象を受ける。
ただ、その中で唯一思考だけが研ぎ澄まされていった。止まりゆく時の中で思考の加速だけが進んでいく。
(なんだこれ……何が起こって…………)
今まで体験したこともないような未知の感覚。しかし俺が感じていたのは恐怖や驚きよりもわずかな安心感と、不思議な違和感だった。
どこか懐かしいとさえ思う感覚。もしかしたら記憶を失う前の自分にもこんなことが起こっていたのだろうか、とまで思う。
仮にそうなのだとしたら、この不思議な現象については何一つわからない。なにせ記憶がないのだから。どういう原理で起きているのか、何が原因などかは考えても結論が出ないということになる。
だがそれでも俺の中の違和感は少しずつ大きくなっていった。この現象には理由があって、それを突き止めないといけないという強い衝動に駆られる。
何が変なのか。
何を感じているのか。
違和感の正体は一体何なのか。
(何かが……何かがおかしい…………)
潜在的かつ強烈な違和感。この現象はそれに気付こうとした俺の本能によるものなのだろうか。
一流のアスリートが感じる言われている感覚の変化。一瞬のチャンスに逃さないためのそれと、この現象は似たようなものである気がした。
俺は何かに気付かなければならないのか。いや、既に無意識下では何かを感じているのかもしれない。それをハッキリと自分で知覚する必要があるのだ。
(何なんだ……俺は何を…………)
身体を動かせないため視界は変わらない。今得られる情報だけでは何もかもが足りていないとすら思う。
が、不意にある種の予感が頭に浮かぶ。
(まさか…………)
本当に些細な、今まで気にもしていなかったある可能性。
それに気付いた時、急速に全てが元に戻っていくのを感じた。
先程とは真逆、今度は全てが強烈に加速していくような感覚。止まっていたものが動き出し、自分自身の身体も自由に動かせるようになっていく。
やがて全てが元に戻った時、俺はあることを悟った。
自分たちが置かれている状況を。
「結構やばいかもよ」
続くラップランドの二言目は辛うじて俺の耳に届いたが、それどころではない。俺は全神経を集中させて周囲の気配を探った。
まだ気付いていない皆のしゃべり声や足音、風で木々の揺れる音、時折通る鳥のさえずりや小動物の動きを聞き分け、俺は感覚を研ぎ澄ます。
(嘘だろ……)
通常時の索敵範囲外。全力で集中しなければ全く分からず、気配も感じないような距離に並ぶ人の群れ。それも尋常ではない数。
(50……100……200……300……それ以上いるじゃねぇか……なんでこんな数が……)
これほどまでの数に囲まれているのに何故ここまで気付かなかったのか。それは完全にこちらの索敵範囲外からの超遠距離で包囲網を敷かれていたからに他ならない。
確かにここに来るまでの間に何も問題は起きなかった。不審な人物を見かけたわけでもなければ、何か違和感を感じたわけでもない。
だがそれは当たり前だったのだろう。なにせ相手は俺たちからは見えず、普通では感知することもできない位置にいたのだから。
索敵を怠っていたわけではない。普段と変わらず、むしろ普段よりも警戒していたはずだ。だが、そもそもこちらの索敵範囲に引っかかっていなければ、いくら警戒していようがどうしようもない。
(クソッ! なんてこった……)
どう考えても普通ではない。しかも偶然集まっているわけでもない。
なんの集団かはわからないが、そいつらは移動中の俺たちを完全に取り囲むように配置されている。統率の取れた組織的な集団であることは間違いないだろう。
この集団が俺たちを狙っているのならば、絶体絶命と言わざるを得ない。
「ドクター……これは……」
「ああそうだ、かなりまずい状況だ」
俺とラップランドの様子から察したのか、チェン、ホシグマ、シージと、他のメンバーも寄ってきて確認を行う。
とりあえず皆で情報共有をし、しばらく索敵を強化しながら進んだ。
すると案の定俺以外のメンバーたちも敵に気付いたようで、皆険しい表情になる。
皆ロドスの精鋭たちではあるが、だからこそ逆にこの状況の戦力差を楽観視できないのだ。
このまま事を構えることになれば、まず間違いなくこちらが壊滅する。
圧倒的戦力差に皆動揺を隠せない。さらには子供たちもオペレーターたちの雰囲気を感じ取ったのか、表情に不安が見え始める。
「皆、気付かないふりをしながら前進を続けるぞ。気付いたことを悟られたら間違いなく一斉に迫ってくるはずだ」
「そうだな。だがどうする? 策を立ててどうにかなる人数ではないぞ?」
「小官たちの力であれば突破することはできるでしょうが、子供たちを守りつつとなれば話は別です」
「同感だ。あまりにも戦力差が開きすぎている」
「それは俺もわかってるさ。どうしたもんかな…………」
皆いずれもロドス内でかなり高い戦闘力を持つオペレーターたちだ。一見無謀であっても一点突破を狙えばこの戦力差でもなんとかなると俺は思う。
流石にこれだけ大人数が全員超一流の戦闘員ということもないだろう。そもそも実力者がいるならこんな包囲なんて回りくどい方法を取らずとも突撃してくればそれでいいはずだ。それをしないということは、よほど慎重な性格をしているか、人数が多いだけでそこまで強力な集団ではないかのどちらかになるだろう。ならば可能性はいくらでもある。
だが、今の俺たちは子供たちを守らなければならない。この縛りがあまりにもでかい。
護衛対象がいるということ、しかもそれが自衛能力の全くない子供ということが問題になる。本来戦闘に向けることのできる意識のうち、何割も子供たちの安全に回さなけらばならないのだ。
もし相手が同数、もしくは多少多いぐらいだったのであればこのメンバーなら問題はなかった。元々俺もそのつもりでこのメンバーを選んだのだ。
しかし数が違いすぎる。300を超える武装集団に7人のオペレーターでは何をどうあがいてもひっくり返せない。
そして苦しいことに時間もない。まだ向こうはこちらが警戒し始めたことに気付いていないだろうが、それはペースを変えずに移動を続けているからだ。このまま移動を続ければ当然どこかで向こうから仕掛けてくるだろう。考える時間はない。
「仕方ねぇ……一点突破を狙う。このまま正面を一気に突っ切る作戦で行こう」
「しかしドクター、それはあまりに無謀ではありませんか? 小官たちはともかく、子供たちは……」
「もちろん守りながらだ。できるかどうかわからないし皆きついとは思うが、今はそれしかない。このまま考えてもまず間違いなく画期的な策が思いつかないからな」
「そうですか……了解です」
「陣形はどうする? 先陣を切るなら私か行こう」
「ああ、任せるよチェン。お前はホシグマと突破口を開いてくれ。その後にシージを置こう。子供たちのカバーもシージにはしてもらう」
「了解した」
「それからアンジェとスズランには直接子供たちについてもらう。適宜アーツで防衛をしてくれ」
「わかった!」「はい!」
「ロサはその後ろ、チェンとホシグマが接敵する前に正面の敵にまとめてブチかましてくれ。それで少しは変わるはずだ」
「わかったわ」
「そしてラップランドと俺で殿だ。正面突破を狙うなら後ろの奴らも距離を詰めてくるだろう。結構な数を相手にすることになる」
「そうだね、ボクとドクター二人で…………」
ラップランドがそこまで言いかけた時、チェンが割って入る。
「待て、ドクターが殿は危険すぎるだろう。中心で子供たちをカバーしながらの方がいい」
当然の考えだ。戦えないのなら子供たちと扱いは変わらないのだから。
他の誰が考えても子供たちと同じ位置に配置してみんなに守ってもらうほうが合理的に決まっている。だからこそ俺が自ら殿を務めることに違和感を感じたのだろう。
そう、俺が戦えないという前提であれば。
ここですんなり肯定して陣形の中心に収まるわけにはいかない。
「俺は大丈夫だよ。ラップランドが守ってくれるから」
「しかし…………」
「心配すんなって、ある意味普段通りだろ? 後ろからの方が指示も出しやすいしな」
「…………わかった、ドクターがそう判断したのなら、それに従おう」
チェンはまだ何か言いたげだったようだが、堪えてくれたようだった。ありがたい限りだ。
「よし、じゃあそれとなく陣形を組むぞ。くれぐれも悟られないように自然な形でな」
少しでも違和感があってはいけない。バレて距離を詰められてしまえば、一点突破は難しくなる。
「おねーちゃんたちどうしたの? なんか怖いよ?」
「そーだよ! どうしたのー?」
「なんか変だよー!」
早くも雰囲気の変化を感じ取ったのか、子供たちにも不安が広がっているようだった。面倒を見ていたオペレーターたちはそんな子供たちをなだめていく。
「大丈夫だ、安心してくれ」
「お姉ちゃんたちに任せてね」
「しっかり言うことを聞いてくれれば、何も怖いことはないわ」
現状一番心配なのが子供たちだ。もし戦闘が始まってから足がすくんで動けなくなったりしたら、一気に危険な状態になってしまう。
「アンジェ、いざとなったら頼むぜ」
「うん、任せて」
アンジェリーナのアーツを使えば子供たちを軽くして最悪運ぶことはできる。元々子供と相性がいいだろうと思って選んだのがこんな形でハマるとは思わなかった。
これで一応各懸念事項には対応できる可能性が出てきたことになるだろう。
チェンとホシグマなら大勢相手でも問題はない。そしてその二人が派手ににやってくれればシージとアンジェリーナとスズランで子供たちは守れるはず。それを支えるロサ、さらに後方と全体的に状況を見て動く俺とラップランドで、現状取れる最善の陣形になる。
「さて、これで後は突っ込むだけだな」
「今回は随分と大雑把な作戦だね」
そう俺に話しかけてきたラップランドはどこかいつもと違う雰囲気を纏っていた。まるで何か別のものを見ているかのように。
「仕方ないだろ? 人数が少ないんだ。取れる手段にも限りがあるさ」
「本当にそうかな? そもそもその気になればもっと他のオペレーターを連れてくることもできただろう? それをしなかったのは何故だい?」
「人員的に厳しかったって話はしただろ? こうなるってわかってたならもっと連れてきたけど、そんな情報はなかったんだ。これ以上は無理だよ」
「ふふっ、ならそういうことにしておいてもいいかもね」
「随分と意味深だな、何が言いたいんだ?」
「さあね。ただボクはドクターが何を考えてこのメンバーにしたのか、なんでここまでメンバーを減らしたのか、その理由に心当たりがあるだけさ」
「心当たり?」
まだ言わんとすることがわかっていないらしい俺に近付くと、ラップランドはそっと耳打ちする。
「ドクターも一人換算だろう? 今回は」
「!!」
その瞬間脳裏に電撃が走ったようだった。
そうだ、今回の作戦で間違いなく俺は自分をオペレーターの一人として換算していた。戦える戦闘要員として数えていたのだ。
今まではそんなことなかった。記憶を失った状態で目を覚ましてからずっとそうだったし、身体に染みついた戦闘能力に気付いてからも、そのせいで『あの事件』が起こってからも、一度として自分を戦力として数えたことはなかったはずだ。
なのに今回、俺は自分を含めた編成をした。それも特別な理由があるわけでもなく、無意識のうちに。ラップランドの言う通り本当にその気になればオペレーターの人数などどうにでもなったというのに。
「無意識だろうね。何かあっても自分が戦えばいいと思ったから、最悪の想定をしなかった。そうだろう?」
「ラップランドお前…………」
「ふふっ、まあこれからは気を付けたほうがいいかもねドクター。まあ、出発前に指摘しなかったボクも意地悪が過ぎたかもしれないけど」
「気付いてたのか……だから同行を?」
「そうだよ。ドクター一人じゃ心配だったし」
「でもあの時はまだメンバーが決まってすらいなかったんだぞ? それに他のこともいろいろと確定してなかったのに……」
俺がそう言うとラップランドはいつもの狂気が混じった笑みを浮かべた。俺に視線を合わせて直接意思をぶつけるかのように。
「前にも言っただろう? 僕はドクターが大好きだからね。ドクターのことはもう何でもわかるよ」
「………………」
好意故。彼女がそういうなら間違いないのだろう。
俺はラップランドのそんな言葉に少しばかり身体の芯が震えるような思いを抱きつつも、安心してしまっていた。
こいつになら命を預けてしまってもいい、そう思うほどに。
「よし、じゃあ合図で頼むぞ、ロサ」
「ええ、任せて」
数分後、前進を続けた俺たちは近くの町までの距離が縮まってきたところで作戦開始を決めた。
このまま町まで何もしてこないとは考えづらい。包囲の仕方や動きを見てもそれは明らかだった。向こうが仕掛けてこないかつできるだけ町に近いギリギリの距離を見計らう。
そしてそれが、今だ。
「今だ!」
ドォォォォン!
俺の合図とともにロサのバインドランスが射出され、同時に全員が一斉に走り始める。
まずチェンとホシグマが先行してバインドランスの着弾点に接近。ついに動き始めた包囲網の相手と交戦を開始する。
その次にシージが、そして子供たちと他のオペレーターも続いていく。
流石に子供たちの移動能力には限度があるのでそこを補いつつ、できるだけチェンとホシグマから離れないように移動していく必要がある。
「よし、とりあえずは何とかなりそうだな……」
一番の心配だった子供たちもアンジェやスズランに励まされながら必死に走っている。ペース的には遅くはあるが、致命的なほどではないだけマシだろう。
「左右からも来てるみたいだね、ドクター」
「ああわかってる。しばらくはアーツの牽制でなんとかしのげるはずだ」
「みたいだね。でも敵も意外と慎重と言うか、大したことなさそうだ」
「だからって油断はするなよ?」
「油断しててもこんなやつら敵じゃないよ。ドクターこそ平気かい? この数だし、ボクも子供のカバーに行ったらドクターまでは手が回らないかもしれないよ?」
「随分と舐められたもんだな。まあいい、剣貸してくれ」
「はい、力入れすぎて壊さないようにね」
「わかってるっての」
そう言ってラップランドに運んでもらっていた予備の剣を受け取る。性能的には普通そのものだが、問題はないだろう。
「さて、いよいよ俺らもやらなきゃな」
「ならドクターには後ろを見てもらうよ。ドクターが前の方に行ったら見られちゃうかもだからね」
「ああ、任せたぞ」
「その代わり帰ったらドクターを自由にさせてもらうよ」
「考えとく」
そんなやり取りの後、彼女はやや前方へと移動した。俺は足を止めて後ろを振り返る。
「うわ……本当に多いな。よくもまあこんな数集めたもんだ」
正体不明の人の波。それが押し寄せてきているのが嫌でもわかる光景だ。
俺たちが行動を開始したのを見ると同時に包囲を狭めるようにして一気に接近してきている。
一応装備に所属がわかるようなマークやコードが無いかざっと見てみたが、手掛かりになりそうなものは目に入らない。外見的特徴から種族を判別することも難しく、種族の偏りから組織を推測することもできないだろう。
「でもこの感じはレユニオンに近いか? 雰囲気が似てる気がするな」
とはいえあくまで直感的なものだ。帰ったら本格的に調べる必要があるだろう。
「さて、行きますか」
集団は徐々に徐々に近付いてきている。ここらで止めなければこちらに被害が出るだろう。
「来るなら…………」
俺は剣を握り直し、全身の感覚を確かめる。
そして一気に脚に力を入れるとそのまま地面を蹴り、跳躍した。
「来やがれ!!」
一番近かった相手に一瞬で肉薄し、装備の隙間を狙って斬撃を放つ。虚を突かれたせいで反応できなかったのか、剣はそのまま手ごたえを返してきた。
すぐさま他のやつらが距離を詰めてくるが、冷静に判断してスペースに跳ぶ。その間に自分と敵の位置関係を把握し、着地と共に再度跳んで敵を斬りつける。
追ってこれなくなればいいので殺す必要はない。であれば足を狙ってもいいし、単純に急所を突いてもいい。一人一人を確実に殺すよりは随分と楽だ。
振り下ろしてきた武器を躱して胴体に一閃。続く別の一撃も躱し、その勢いのまま流れるように脚、腹部、背面と斬撃を連続して決めていく。数は多いがまだまだ余裕がある。
左右から挟まれれば片方は剣で、もう片方は拳で対処。囲まれそうになれば高めに跳躍して距離を取り、位置をリセットしてから斬りかかる。少し危なくなりそうなら機動力を活かして敵をなぎ倒し退路を確保する。
(思った通り、そこまで強くないな)
これなら後ろは俺一人でも対応し続けられるだろう。それに俺の強さが予想外だったのか、追ってきている集団にも焦りや困惑の雰囲気が見られる。
問題は前だ。前方はチェンとホシグマがいるから心配ないとして、側面は気を付けなくてはならない。
(今のところは……大丈夫そうだな、ラップランドが上手い事やってくれてるみたいだ)
移動している俺たちを追ってくることになるので、後ろからくる敵の間隔は緩い。しかし前進している分前方と、包囲を狭めてくる側面はどうしても接敵が激しくなるのだ。
今は何とかなっているが、そのうちラップランドがいても厳しくなってくるかもしれない。そうすれば俺も側面に回らなければならないだろう。
(チッ、それにしても数だけは無駄に多いな)
避けて斬り返し、弾いては斬り返す。いくら余裕があるとはいえこうも数が多いと体力消費の面でも不安がある。俺自身はそこまで体力がある方でもない。
身を振って躱せるなら楽なものだが、大ぶりの攻撃を受け止めたりすれば一気に体力を持っていかれる。
体力消費は最低限に抑えつつ、最大効率で敵を倒す。言葉にするだけなら至極単純だが、これを行うとなるとそれなりの力と技術がいる。
これぐらいの相手ならば、焦らなければ俺でもそれを成立させ続けることは可能だ。あとはこれがどこまでもつかという話になってくる。
(それにしてもなんだってこいつらは俺らを狙ってきたんだ? 目的が見えないな)
一番気になるのはそこだ。この集団の目的がわからないのだ。
例えば考えられる可能性として、子供たちの中に立場的に重要な子がいるというのがある。どこかの貴族の隠し子だとか、強力なアーツの才能を持っているとか、そういった子が預かった8人の中に紛れているというぐらいなら容易に想像がつく。
だがその場合、今襲ってくるのがおかしいのだ。
(どう考えても孤児院を襲撃したほうが早いはずだ。それなのにわざわざ護送中を狙うなんてな)
孤児院の防衛設備が優れている、というならまだ理解できるが、見たところそういう感じでもなかった。
しかも情報を見た限りでは孤児院の職員に戦闘能力はない。本当に子供を狙っているとしたら、なおのこと孤児院を襲撃したほうが手っ取り早いはずだ。
ならば目的は別のところにあるのか。それとも慎重すぎるあまり機会を伺いすぎて俺たちの到着が間に合ってしまったのか。
あるいは俺たちロドスこそが真の目的なのか。
(まさかな…………流石にそれは考えすぎか)
「キャッ!」
思考に割り込んできた小さく短い悲鳴。
反射的に視線を動かしてその方向を見ると、子供の一人が転んでしまったのが目に入った。
(まずい!)
そう思うが早いか、俺の身体は動き始めていた。
一瞬のうちに判断した状況ではあるが、あまりにも危険だったからだ。
(くそッ! 間に合うか?)
ラップランドは反対側でちょうど交戦中。そして他のオペレーターたちも各々敵の対応をしている最中で、とてもではないがすぐさま助けには行けないのが分かった。一番近いアンジェリーナが何とかできないと意識を向けているのがわかるが、アンジェリーナ本人も今別の場所にアーツを展開している最中だ。
そして転んだ子供に気付いた敵の何人かが目ざとく近付いてきている。この集団の狙いがまだわかっていないが、包囲を敷いてこんなやり方をしてきている時点で安全でないことだけは確実だ。
俺が間に合わなければ、危ない。
距離的に近くないのだが、それでも俺以外に行ける者はいない状況。
全力で走り、子供に近付こうとしている敵に向かう。
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!」
雄叫びを上げながら猛進し、何とか間に割って入り、敵の武器を弾き飛ばす。その勢いのまま腹部に全力で蹴りを叩き込み、吹っ飛ばした。
が、俺にできたのはそこまでだった。
直後、勢いを殺して止まろうとする俺を別角度からの敵の攻撃が襲う。しかも運の悪いことにそれは大型の打撃武器だった。
間に合おうとギリギリのところで無理をしていた俺には体制を変えて反撃を続ける余裕はなかった。間一髪で腕を組んで防御することはできたものの、その一撃はあまりにも重く、今度は俺が大きく飛ばされてしまう。
「ぐあっ!」
「ドクター!!」
ラップランドの声が聞こえたのが分かった。その声音と、飛ばされている方向からなんとなく俺にはわかった。近くの木にぶつかってしまうだろうということが。
すぐさま空中で腕を動かし、後頭部にを庇おうとするが……
「ぐっ……!!」
激突の衝撃を完全に殺しきることはできず、俺の脳が揺れた。
(まずい……これは……)
意識が落ちていくのが分かった。脳震盪だろうか。ただの外傷や精神的なダメージと違って自ら対処できるようなものではない。
「ドクター! ドクター!」
真っ先に駆け寄ってきたラップランドがそう呼び掛けてきたのが分かった。だが意識はどんどん深い場所へと沈んでいっているのを感じる。
俺まで荷物になればオペレーターたちに負荷がかかり、子供たちも危険に晒してしまう。何とかして起き上がれないかと必死に気力を振り絞るが、それだけでは生物としての仕組みに逆らうことはできない。
視界に入ってきたラップランドに手を伸ばしながら、薄れゆく意識の中俺は口を開く。
「後は…………頼ん……」
その言葉を言い切る前に、俺の意識は完全に沈んでしまった。
最後に俺が感じたのは、子供を庇えたことに対する僅かばかりの安堵と、己の力不足への深い悔恨の念だった。