医者と銀狼   作:tigris

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過去回想から戻ってきました。
最近暴走してVになったり、クソ動画しか上げられない自分の才能を呪ったりしていますが、生きてはいます。
更新がクソ遅い上に内容も暴走してとんでもないことになっていってますが、最後まで書き上げるつもりなので心に菩薩が住んでいらっしゃる方はお待ちいただけますと幸いです。


※キャラ崩壊、解釈違いなどを含んでいる可能性がありますので閲覧の際はご了承ください


医者と銀狼4

微睡の中、俺の意識は真っ黒な深海のような場所を彷徨っていた。

深く、光の差さない青黒い空間。ここがどこかも分からないままなのだが、俺は何故か焦ることなく脱力しきっていた。

 

ああ、落ち着くなぁ……

 

ゆっくりと揺蕩うように沈む感覚に身を任せると、不思議と心が安らいだ。

考えなければならないことを全て無視して、自分の責任をすべて放棄して、ただ全身の力を抜いたまま動くことなく無を堪能する。

何事もなくこの状態が永遠に続くのならば、きっとそれが最上の幸せだろう。そう思うほどに、その空間は居心地が良かった。

けれど、そんなわけにはいかない。

 

まあ、だよな……

 

俺は考えなければならない、様々なことを。

俺は責任を果たさなければならない、みんなのために。

いつまでもこんなところで、自分を可愛がっているわけにはいかない。

そう思った時、俺はいつの間にか地に足をつけて立っていた。

少し遅れて全身が重力を思い出し、状況を理解する。

 

ああ、俺はまた戦っているのか

 

何度も見た謎の夢。過去と確信しながらもどこか現実と噛み合わない俺の夢だ。

なら、やることは変わらない。

いつの前にか目の前を埋め尽くす敵の大軍を、片っ端から斬りつけていく。

手にはあの剣を握り、数多の攻撃を掻い潜りながら、鬼神の如く敵を屠り続ける。

そして最終的には勝利を……

 

『ッ?!』

 

おかしい、何かがおかしい。

そう感じたのは敵の数がようやく減り始めた段階だった。

いつも感じない違和感が、突如俺を襲った。何か、忘れているのではないかという想いが俺の中で大きくなっていく。

その違和感の正体も、その原因も分からぬまま、俺は最後の一人を切り伏せた。

その目に映る光景はいつもの夢と同じものだ。

しかし俺の心の内には、いつもとは明らかに違う動揺が広がっていた。

 

俺は一体、何を忘れているのか。

 

『なっ?!』

 

いつもなら目覚めるその刹那、俺の視界の端に何かが映った。

白、あるいは黒のような靄。

だが俺がそれを認識するよりも早く、俺の意識は戦場を後にした。

 

『クソッ! なんで…………』

 

果たして起きた時に夢の変化を覚えていられるかどうか。

最後にそう考えたところで、俺の意識は無数の記憶の中に放り込まれ、意識と無意識がかき混ぜられる。

 

俺は一体、何を忘れているのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっ……うう…………」

 

意識が表層まで上がってくる感覚。

俺は僅かな痛みを感じながらも瞼を開け、視覚情報が脳で認識されていくいつもの感覚をゆっくりと待った。

 

「あれ…………ここは…………」

 

俺の目に入ってきたのは自室の天井ではなかった。不思議に思い軽く起き上がって辺りを見回してみると、そこはロドスの医務室だった。

 

「なんで……いや、てことは夢か」

 

最後に自室で眠りについた気がしていたが、よくよく考えれば俺は子供たちの護送任務に出発したのだ。今まで見ていたのは俺の記憶が作り出した夢だったのだろう。

 

「随分とリアルだったな。どうせだったらもっと昔のことを思い出せる夢が良かったが」

 

おぼろげな記憶を探ると、襲撃を掻い潜りながら殿を務めていた記憶が浮かんできた。

そうだ、俺たちは謎の集団に襲われたのだ。

打てる最善手で何とか切り抜けようとしたが、結局俺が無茶をすることになった。

 

「確か俺が転んだ子供を庇おうとして…………駄目だな、思い出せねぇ。どうも記憶がはっきりしないな」

 

敵との間に割って入ったところまでは何とか思い出せたが、そこからの記憶が完全に抜け落ちている。

恐らく無理な体勢で何かしらの攻撃を食らってそのまま意識を失ったのだろう。

 

「身体は…………大丈夫そうだな。五感も……今のところは正常だ」

 

ゆっくりと身体の各部位を動かしながら筋肉の感覚などを確かめる。多少張っている部位もあるが、特別変な痛みも違和感もない。

視界もおかしくはないし、その他感覚器官や平衡感覚なども問題なさそうだ。

と、そこに……

 

「ドクター! 目が覚めたか!」

 

扉が開き、チェンが入ってきた。

 

「チェンか、良かった。ちょうどコールを鳴らそうと思ってたんだ」

 

「どうやら意識は正常なようだな。この指は何本に見える?」

 

「3本だ。自分でも確認したけど、とりあえず変なところはなさそうだよ」

 

「そうか、それは良かった」

 

俺の状態に安心したようで、チェンは胸を撫で下ろした。

 

「どこまで覚えている?」

 

「子供たちを預かって帰る途中に襲撃に合った。んでその戦闘中に俺が子供を庇った……ところまでだな。他のみんなは?」

 

「無事だ。子供たちもオペレーターも、全員怪我一つない状態で戻ってこれた。負傷したのはドクターだけだ」

 

「そうか……良かった……」

 

念のため確認して、改めて安心する。俺自身もそこまで重症じゃないので、これぐらいの被害で済んだのなら万々歳だろう。

 

「子供たちはどうなってる?」

 

「来て軽い診察とカウンセリングを受けた後にみんな寝たそうだ。相当疲れていたみたいだからな」

 

「それならいいんだが……本当に大丈夫か?」

 

「現状で判断はできない、なにせ戦闘に巻き込んでしまったからな。怪我がないとはいえ、心理的に不安を抱えてしまった子もいるだろう。それに関しては後日精密検査と再度カウンセリングがあるそうだ」

 

「とりあえず今のところはって感じか」

 

「それよりも、ドクターはまず自分の身体を心配して欲しいところだな」

 

「いや、俺は大丈夫だって」

 

「確かに結果的には大丈夫だったかもしれないが、ドクターはロドスの指揮官だ、私たちオペレーターと違って変わりは利かない。もう少し自分の身の安全に気を配ってくれ」

 

「ああ、そういうことか。すまんすまん、気を付けるよ」

 

「まあ、自分よりもオペレーターや子供たちを心配するところはらしいと言えばらしいわけだが……」

 

チェンの言う通りあまり楽観的にもなれない。が、予想外の襲撃があったにしては上出来だろう。

俺は念のためチェン本人を含めたオペレーターたちの現状も尋ねたが、そちらも問題なさそうだった。

ただ一人を除いて。

 

「そう言えば、ラップランドは?」

 

「っ…………」

 

俺のその一言で、チェンの表情が曇る。

先程まで穏やかだった雰囲気が一瞬にして暗く重々しい物へと変化する。

俺はすぐに察した。間違いなく、何かがあったのだ。

 

「ドクター……彼女についてなんだが…………」

 

その次に続く言葉を聞いた俺は、チェンの静止を振り切って医務室から飛び出した。

どうやら事態はそう単純ではないらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『彼女には今、自室待機を命じている』

 

チェンは確かにそう言った。だから俺は焦って走り出した。

 

「くそっ! なんだってまた!」

 

『自室待機』という言葉の意味だけをそのまま取るなら心配することは何もない。だが、この言葉の意味するところは事実上の『軟禁』なのだ。

ロドスという組織において明確に罰則として正式に採用されているわけではないが、主に問題行動などに対する罰としてごく稀に利用される手法。分かりやすく言えば『お前は少しの間自室で大人しくしていてくれ』ということの通告。

だがそもそも人格者の多いロドスでは発生した問題の大小にかかわらず下されることがほとんどない。例え厄介な問題が起きたとしても、当事者の人格や精神状況を加味するとそこまで至らないケースがほとんどなのだ。

つまり裏を返せば『ラップランドに対して自室待機が命じられるだけの出来事が発生した』という事実の裏付けになる。

俺が気絶してから何が起こったのか、もしかしてとんでもないことが起きてしまったんじゃないかという不安が拭えない。

それにメンタルが不安定なラップランドが軟禁生活でどうなってしまうかは予想がつかない。

 

(心配しすぎか……? いや、あいつに対して心配しすぎるってことはないはずだ……)

 

危なくないギリギリの速度で廊下を走り、すれ違うオペレーターたちに驚かれながらも通路の角を曲がり、最短ルートでラップランドの部屋へと向かう。

 

「ラップランド!」

 

到着してすぐさま勢いよく扉を開けると、彼女は扉のすぐ近くで立っていた。まるで俺が来ることが分かっていたかのように。

 

「おはようドクター。目が覚めたんだね」

 

「ちょ、お前……」

 

ラップランドは笑顔でそれだけ言うと、飛び込むように俺に腕を回し抱き着いてきた。

驚きと勢いでバランスを崩しかけながらもそれを受け止め、とりあえず俺もハグを返す。言いたいことはいろいろとあったが、とりあえずはお互いの安全を確認したかった。

しばらくの間、俺たちはお互いの存在を確かめるように抱き合っていた。

力こそそこまで強くないものの、お互いの鼓動が、息遣いが、鮮明に感じられる状態。

そしてお互いに相手の命を握っている距離での愛情表現。

 

「もういいよドクター。ありがとう」

 

「そうか?」

 

しばらくすると満足したのか、ラップランドは俺から少しだけ離れ、話しやすい位置へと落ち着いた。

 

「で、随分焦ってたみたいだけど、どうしたのかな?」

 

「どうしたって、そりゃあ……」

 

「ボクが軟禁されてるって聞いて心配したの?」

 

「…………」

 

ケラケラと面白そうに笑顔を浮かべるラップランド。こっちは真剣だった分拍子抜けだ。

 

「あーはいはい、そうですよ。俺は愛しのラップランドちゃんが心配で起きてすぐにぶっとんできた大馬鹿ですよー。これで満足か?」

 

「ふふっ、満足も何も、真っ先にボクのところに来てくれたのが嬉しかっただけだよ」

 

「そんなことより大丈夫だったか? その……いろいろと…………」

 

「別に? 僕はこの通りピンピンしてるし、他のみんなも無事だったと思うよ。ドクターも元気みたいだし、大丈夫か大丈夫じゃないかで言ったら大丈夫だね」

 

「そうか……それなら…………」

 

ふと、安堵と同時に視線が部屋の中へと向いた。

誰が見てもキレイな、それでいてラップランドらしく適度に散らかった部屋。

見た感じ特に荒れている様子もない。態度に出していないだけど無理をしているのではないかとも思ったが、どうやらそれすらもただの杞憂だったようだ。

 

と、そこで終わったら良かったのだろう。

 

きっと俺以外の誰もが、この部屋の違和感に気付かないはずだ。いや、俺でも運やタイミングによっては気付かなかったかもしれない。

普段からラップランドと接しているからこそのほんの僅かな違和感。俺自身も明確に認識していない無意識の領域で何かが引っかかっていたからこそ、俺の視線はある一点を見過ごさなかった。

 

(ん?)

 

無に等しかった違和感。それが視覚情報を得て徐々に形作られていく。

雪玉を転がすが如く、明確な情報と違和感の蓄積によって大きくなる俺の思考。やがてそれは『答え』へと繋がってしまう。

 

「っ?!」

 

俺は自分の目を疑った。

 

「どうしたのドク……」

 

俺の変化に気が付いたラップランドが言い終わる前に、俺は再び彼女を抱きしめた。

ラップランドが数秒だけ驚いたように固まっていたが、やがて全てを察したのかゆっくりとつぶやいた。

 

「やっぱり、ドクターには隠せないか……」

 

「当たり前だろ。誰だと思ってんだ」

 

そんなことを言ったはいいものの、強がりと何ら変わらない。俺だって一歩違えば見逃していたのだから。

ラップランドの部屋はどこも違和感のない状態だった。かつて何回か訪れたことのある俺の目から見ても、それは同じだ。

 

だが、それは部屋の外から見える部分だけに過ぎない。

 

俺は今扉の外にいる。つまり、部屋にはまだ入っていない。この状態では扉側の壁を含め実は意外と死角が存在する。

部屋の中までしっかりと入らなければ見えない場所。常人なら違和感を感じたところでそんな部分まで気にしないし、気にしたところで実際に入室しなければ確かめようがない。

だが、俺は見つけてしまった。部屋の死角を移す鏡とでも言うべき物体を。

ラップランドの装備である剣。普段からむき出しの刀身で壁に立てかけられていることも多いそれに、死角となるはずの壁が反射していたのだ。

材質を聞いたことはなかったが、かなりの硬度と耐久性を持つその金属は、美しい光沢を持ってこの部屋の惨状を映し出していた。

 

(なんて数だよ…………)

 

そこにはおびただしいほどの数の細かい傷が重なっていた。一本一本の大きさも、太さも、すべて違う無数の斬撃痕だ。決して壁の模様なんかではない。

あまりの数に壁が削れ、中の補強素材の色へと変色しているようにすら見える。何も知らない者が見れば、元々そういう色だったと思うかもしれない。

そして何よりも一番恐るべきことは、俺がつい数週間前にラップランドの部屋に入った時は、その壁は傷などない綺麗な普通の壁だったということだ。

恐らくは、帰還後に自室待機を命じられてから俺が来るまでの今までの間、彼女は延々とそこに己の叫びを刻んでいたのだろう。

己の感情を隠そうと必死になりながら、ただひたすらに。

 

「なんで……なんでわかったんだい?」

 

「理由があったわけじゃない。強いて言うならなんとなくだ」

 

「そっか……」

 

「なんで強がったりなんかしたんだよ。いつもみたいに俺に全部吐き出せば……」

 

「意識不明のドクターにそんなことできないよ。ボクだってそこまで乱暴じゃないさ」

 

「っ…………そうか」

 

ラップランドの声はとてもか細く、弱々しくなっていた。さっきまでは気を張っていたのだろう。

負傷した 俺に気を遣わせないために。

 

「…………俺の部屋に行ってろ。待機命令は今この瞬間を以て解除だ」

 

「ふふ……ありがとうドクター…………」

 

「俺は今から今回の件の話をつけてくる。終わるまで待ってろ」

 

「ああ、わかったよ……」

 

「ほんとに大丈夫か?」

 

「大丈夫だよ……一応はね」

 

よろよろと歩き出すラップランド。

もちろん疲労もあるだろう。だがそれ以上に、精神的なダメージが大きいように見える。

心配なので送っていこうかとも思ったが、そこまでラップランドを信じないのは逆に悪いと思いなおし、俺は俺で目的の場所へと歩き始める。

普段横暴に振舞っているように見えるラップランドはその実非常に繊細な心を持っている。だからこそ、今回待機命令を受けたことで周囲からの信用が低いと感じてしまったのだろう。

 

『貴方は危険そうだから自室で大人しくしていてくれ』

 

直接的でなくとも、例えラップランドであっても、そんなことを言われて無事なはずがない。

しかし、ひょっとしたらラップランドなら気にしないだろうと思われていたかもしれない。

一般人のラップランドに対する評価は随分と偏りがちだ。狂気と暴力の中にごくごく普通の女の子としての感性があるなんて、なかなか思い至らないだろう。

俺が意識を失ってしまっていたことも、きっと悪影響だったはずだ。

 

(ラップランドが言うことを聞くとしたらアーミヤだろうな。だけどアーミヤの独断で待機命令まで出すとは考えにくい……)

 

俺は歩きながら思考を巡らせる。

今回起きた予想外の襲撃。これも問題なのは間違いないが、その前にロドスという組織内での不和は看過できない。

 

(ラップランドがなんかしたのか……? いや、急に襲ってきた敵を何十人と殺したところで、今さら危険視されることもないはずだ……)

 

これがラップランドではなく、普段温和なオペレーターの豹変であったのならまだわからなくもない。精神面も合わせて一旦様子を見るという判断が下されたのだとしても理屈は理解できる。

だがラップランドの狂暴性が高いのは周知の事実だ。実際のところそれは表面上だけだと俺は解釈しているが、それは今回関係ない。あくまで『今までとは違い危険である』という認識に書き換わるほどの出来事が思い当たらないのだ。

でなければ命令まで至ることはないだろう。そしてラップランドが実際に自室の壁をボロボロにするほど精神的に疲弊することもなかったはずだ。

そして、それ以外にも気になる点はある。

 

(何でそこまでしたんだ……?)

 

今回同行していたオペレーターの中に、ラップランドを危険だと判断した者がいたとしよう。

しかしそれをアーミヤに報告しても、アーミヤは俺がラップランドを秘書に置いている以上、自室待機までは命じないはずだ。まず間違いなく。

となると報告だけでなくアーミヤを説得したことになる。あのメンバーの中でアーミヤを説得できるほどに口が回るとしたらチェン、もしくはロサだろうが、性格上ロサがそこまでするとは思えない。

 

(チッ…………面倒なことになったな……)

 

正直なところ今すぐにでも件の襲撃に関してリソースを割かなければならないのだが、ロドスの特性上やはり内部不和はどうしても先に解消しておかなければならない。

オペレーター間の不安は簡単に伝染する。それこそ感染症のように、一気に取り返しのつかないレベルの疑心暗鬼を引き起こすことだってある。

しかも今回の護送に選出したオペレーターたちを俺は精鋭として扱っている。実力者たちが猜疑心に苛まれれば、その影響力は計り知れない。

 

「アーミヤ、いるか?」

 

たどり着いた執務室の扉を開けながら声をかける。俺の不在中であれば雑務をこなしている可能性が高いと考え、最初に訪れたのだが……

 

「あ、ドクター…………」

 

「ドクターか…………」

 

そこには予想通りのアーミヤともう一人、先程まで医務室にいたオペレーターがいた。

 

「やはりここに来たか。大方予想はついてるんだろう?」

 

「チェン……お前…………」

 

先程俺にラップランドのことを告げた時よりも数段険しい表情をした彼女は、入室してきた俺を真剣な眼差しで見つめていた。

 

 

 

 

 

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