医者と銀狼   作:tigris

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生きてます。シラクザーノで死にかけましたが辛うじて生きてます。
ただでさえアニメで『これアークナイツの二次創作なん?』ってなってそうなのに、もたもたしてるうちに追い打ちでシラクザーノが来て、しかもそこから結構経ってしまいました。
もうシラクザーノでラップランドとかテキサスの過去が明かされて、このシリーズとの解釈違いが発生しまくって、このシリーズ続行不可能だしまた失踪してやろうかなと思いましたが、
もう今更かなって。
ここまで来たら突き進もうかなって。
私は基本的に原作大正義思想の持ち主で、極端に原作から逸脱したくないなーなんて思いながら色々と書いてるんですが、もうなんか難しいんでこのまま突っ走ろうと思います。
しかも崩壊スターレイルに銀狼ちゃんが登場したからなんかタイトルも変な感じになっちゃってるし、
そもそもアークナイツにおける『ドクター』って呼称はニュアンス的には『博士』って感じらしいからそこもなんかおかしいし、

でも最後まで頑張ってみます。



※キャラ崩壊、解釈違いなどを含んでいる可能性がありますので閲覧の際はご了承ください


医者と銀狼6

『おやおや、貴方がロドスのドクター、そして話に聞くアーミヤ女史もいらっしゃるようですねぇ』

 

その声の第一印象は『最悪』だった。ボイスチェンジャーの音質がそうさせるのか、それともしゃべっている当人の性格ゆえなのか。

通信を確認した俺たちにまずそう話しかけてきたそいつは、何故だか愉快そうに言葉を掛けてきた。

俺個人的にはハッキリ言って心底不快な、嫌いなタイプだ。

 

『どうも始めまして。私は…………』

 

「御託はいい、とっととお前の要件を言え」

 

『………………随分とせっかちなんですねぇ。まだ私の自己紹介の途中じゃないですか』

 

「正体隠して接触してきてる時点で、どうせ俺らに開示できる情報なんてねぇだろうが。こっちはお前の正体も大方見当がついてんだ、効率的に行こうぜ」

 

『ほう、正体…………それは興味深いですねぇ。参考までにお伺いしますが、私を何者だとお思いで?』

 

「襲撃計画者、もしくは首謀者。少なくとも襲撃組織の関係者だろうな」

 

『おやおや何の話ですかな? 私はロドスに対して事業提携の申し出をですね……』

 

「違うなら通信切って終了だ。とぼけるなら今すぐ切るぞ、俺は今虫の居所が悪いんだ」

 

『はははは、ちょっとした冗談ではありませんか。どうやら本当に機嫌が悪いらしい』

 

「随分と質の悪い冗談だな。非公式回線でかけてきてるのを忘れたのか?」

 

『確かにそうですね。失礼いたしました。ではご要望通り手短に済ませるとしましょうか』

 

そう言って咳ばらいをした謎の通信相手はやや声のトーンを変えた。

少しばかり真面目にしゃべる気になったのか、固めの雰囲気になる。

 

『私のことはそうですね……Vとでも呼んでくれれば結構です。ワクチンのV、覚えやすいでしょう?』

 

「ウイルスのVって覚えといてやるよ」

 

『まあそれでも構いません。覚えていただけるならね』

 

そう言って画面の向こうでVが笑った気がした。

音声のみの通信で姿が見えないため実際どうなのかはわからないが、確信に近い感覚があった。

こいつは俺の想像通りの外道に違いない。

 

『あなたたちの考えている通り、私はとある組織を率いています。今回は少しロドスの皆さまとお話しさせていただきたく、こうして連絡をさせていただいた次第でございます』

 

「話ねぇ…………にしては随分と乱暴だったじゃねぇか。最初っからこうやって連絡してきてくれれば、もう少し俺たちの対応も違ったんだがな」

 

『我々にも色々と事情がありますから、ご容赦ください。それに今こうして通信で音声を繋げていることも、我々なりの誠意として受け取っていただきたい』

 

「どうだかな。誠意があるってんなら姿ぐらい映せよ」

 

『あんなことがあったばかりなのですから、正面から堂々と連絡を取ろうものならこちらにもリスクがある。あなたも逆の立場ならそうしたのでは?』

 

あんなこと、というのはまさに今話に上がった襲撃のことだろう。向こうからすれば、圧倒的戦力差で制圧しようとしたのを返り討ちにされたのだ、警戒もするはずだ。

だがこっちにとってそんなことはどうでもいい。

確かに今回の襲撃事件で出た被害だけを見れば、加害側はこちらかもしれない。しかし事はそう単純ではない。

異常な数の戦闘員による包囲と、明確な敵意。先に勘付いていなければこちらが全滅させられていた可能性すらある。

包囲を突破しようとした俺たちに対してのアクションは追撃。交渉の余地がないのは間違いなかった上、容赦もなかった。ラップランドがいなければどうなっていたか分からない。

そして、始めから力づくで目的を達成しようとしていた組織が、急に変わるわけもない。失敗した結果仕方なく交渉を持ちかけて探りを入れてきていると考えて間違いないだろう。

話しているだけで怒りがこみ上げてくる。これほど不快なことはそうない。

 

「目的はなんだ?」

 

『あなた方と同じですよ。鉱石病の解明と治療、それが我々の目的です』

 

「嘘くせぇな。研究のための組織ならあそこまで規模のでかい戦闘部隊を持つ必要はないだろうが」

 

『おやおやおや? 自分たちのことは棚上げするおつもりですか? あなた方ロドスも、かなりの戦力を有しているじゃありませんか』

 

「鉱石病患者保護と関連問題解決のための限定的な戦力だ。お前らみたいな犯罪者集団と一緒にすんじゃねぇよ」

 

『どうですかねぇ……私情で動いたことが全く無いと言い切れますか?』

 

「少なくともお前のとこと違って不意打ちも襲撃もしないさ。それに各都市にも公表してる」

 

『手厳しいですねぇ。我々が組織の存在を隠しているのは各地に広がる差別や迫害から鉱石病患者を守るために他なりません』

 

「じゃあ襲撃に関してはどう説明すんだ? しかも子供ごと容赦なくだったよなぁ? ああ?」

 

『それも仕方なくです。鉱石病解明のため、子供の患者というのは重要なサンプルだ。あなたもそのことはおわかりでしょう?』

 

「サンプルねぇ…………ならそのサンプルたちは一体どんな酷い扱いを受けるんだ? 投薬か? 解剖か? 人体実験もやってそうだよなお前ら」

 

『随分な言われようですねぇ。むしろそんな発想が出てくるあなたの方が非道なのでは?』

 

「俺が非道だったらお前は極悪どころじゃねぇだろうな? 襲われてなきゃ俺だってここまで疑わねぇよ」

 

『それも先手を打って包囲を抜けようと攻撃してきたのはあなた方です。我々はあくまで警戒していただけだ』

 

「抵抗を許さないほどの圧倒的人数差で包囲するのが警戒なのか? お前らの部隊がやろうとしてたのはただの殲滅だろうが。抜けないとこっちが全滅させられてたから抜けたまでだ」

 

『そんなことはございませんよ。あなた方の早とちりでしょう』

 

「だったら交渉のための使者を送って来なかったのも、俺たちの攻撃に全く困惑せず速攻で反撃してきたのも、お前らの部隊が誰一人としてしゃべらなかったのも早とちりか? それともお前らの部隊には言語野がいかれた猿しかいなかったのか?」

 

『………………』

 

言い返せなくなったのか、それとも返事が面倒になったのか。Vは数秒間黙った。

俺としてもこれ以上不毛な論争はしたくないので好都合ではある。

 

「で、結局要件はなんなんだ? まさか子供たちを引き渡せってんじゃねぇだろうな?」

 

『おや、分かっているのでしたらどうかそのまま我々の要求を飲んでいただきたい。お互い、これ以上無駄な争いをすることもないでしょう』

 

「この流れで了承すると思うか?」

 

『思いませんね』

 

「ならさっさと諦めろクソが。こっちもこっちでお前らの襲撃のせいでいろいろ面倒なことになってんだ。そんな妄言のために時間は取れねぇよ」

 

『つれないですねぇ。せめてこっちの条件ぐらいは聞いてくれてもいいのではありませんか?』

 

そんなVの発言に、俺の中で怒りのレベルが一段階上がるのを感じた。

元々我慢などそこまでするつもりもなかったが、この際発言を気にする必要もない。

 

「あんだけの数で一方的に襲撃しといて条件を聞けだぁ? 組織を率いてる割には随分と脳みそが空っぽみたいだなぁ、ええ?」

 

『おやおや、やはり随分とお怒りのようですねぇ。しかしその一方的なはずの襲撃を返し、こちらに尋常ではない被害を出したのはそちら側です。本来怒りたいのはこっちなのですよ』

 

「んなこと知るか。てめぇらが仕掛けて来なければそんなことにはなってねぇだろうが、自業自得だ。通信切らねぇでやってるだけでもありがたいと思え」

 

『そう言われましてもねぇ……せめて条件だけでも聞いていただかないと、私も散っていった仲間たちに顔向けできないのですよ』

 

「黙れ。いきなり襲ってきた時点でどんな組織かの察しはついてんだ。俺はそれを踏まえた上で交渉には応じねぇって言ってんだ。わかんねぇか?」

 

自分でもかなり熱くなってしまっている自覚はある。そしてV相手に語気を強めてもなんの意味もないことも。

依然としてVのしゃべり方は全く変わらない。余裕そうに俺の発言を受け流すだけだ。

だがそれでも俺は言葉を止める気にはならなかった。

 

「大方実力行使が無理だから交渉もしてみようって理由だろ? そんな妥協で無理な条件提示されても受けるわけねぇだろうが」

 

『ふむ…………そこまで見破られていては仕方ありませんね。交渉は諦めるのが賢明ですか』

 

Vは弁解せず、自らの非道を隠そうともしない。

自分自身の性質を悪と認識した上で理性で歯止めをかけることなく悪として動く。これなら下手な言い訳をするやつのほうがまだ人道的というものだ。

加えて組織の本質も見えない。少なくとも最近目を通した情報の中にこいつらと合致するようなものは存在していない。かといってあれだけの規模でロドスの情報網に引っかからないのも妙だ。

ここまで得られた情報を総合しても、秘密裏に活動していながらかなりの戦力を有しており、なおかつ組織としての活動目的に鉱石病が関係しているということぐらいしかわからない。

不気味かつ、非常に厄介だ。

 

『ではそうですね、本来のやり方でいいでしょう』

 

「何だと……?」

 

急にVの声のトーンが変わる。僅かばかりの真面目さが抜け、素に戻ったような印象を受ける。

 

『確かに譲歩はしましたからね。こちらはちゃんと交渉を持ち掛け、それを拒否したのはあなた方だ』

 

「一体何が言い————」

 

俺が意味深な言葉に対して言い返そうとしたその時、耳障りなアラートの騒音が鳴り響いた。

 

「これは…………」

 

「ドクター大変! 索敵レーダー内に大量の反応が!」

 

「何だって?」

 

耳に入ってきたのは、緊急事態を表すアラートの警告音だった。

クロージャの言葉に急いでモニターの表示を確認すると、そこには未確認の反応を示す赤い点が大量に浮かび上がり続けていた。

その数は、数えるのが追い付かないほどだ。

 

「レーダーの索敵範囲外ギリギリに待機してたってことか……」

 

『ふふふ、その通り。いかがでしょうか、これでもまだ交渉を蹴りますか?』

 

「クソッ…………」

 

思い返せば例の襲撃の際もかなり遠い場所に包囲網を敷いて待機していた。あの時はラップランドの助言のおかげで先に気付くことができたが、今回は既に手遅れだ。

敵の数はどんどん増えていく。

 

『我々も同じ轍を踏むわけにはいかない。今回の数はこの前の比ではありませんよ』

 

「クソが…………」

 

『とはいえ、あなたの言い分も分からないわけではない。それにこちらも警戒する必要がある。よって今回は急に襲ったりはしません』

 

「これだけの数で来といてよく言うぜ……」

 

俺の反応など意に介さず、Vは言葉を続ける。

 

『一日だけ猶予を差し上げます。それまでに我々の要求に応じて子供たちを差し出すか、それとも拒否してロドスという組織が壊滅するか、二つに一つです』

 

「一日か…………今回は随分と太っ腹なんだな」

 

『ええ。そちらの場所から他の都市へはそれなりの距離がある。今から連絡を送っても応援はまずありえない。それに今のロドスは人員が少ないという情報も得ておりましてね。よく考えて決断してくださると助かります』

 

「そんなこと言っといて、期限よりも早く襲撃してくるんじゃねぇのか? 不意打ちぐらいはやるだろお前ら」

 

『おやおや、信用していただけていないのですね。ですがご安心を。我々の目的は鉱石病の子供たち。急な戦闘で万が一があってはいけないのですよ。それに冷静になっていただかないと、切羽詰まって子供たちごと自爆でもされたらたまりませんからね』

 

「………………」

 

もはや何も言い返す気にはなれなかった。ハナから俺たちにそんな選択肢はない。

わざわざ言ってくる辺り挑発なのだろうが、流石にもう反応する気にはなれなかった。

 

『それでは失礼いたします。期限になりましたら再び連絡させていただきますので、それまでお待ちください』

 

その言葉を最後に通信は切れた。もちろんこちらから繋ぐことはできない。

 

「クロージャ、逆探知は?」

 

「駄目みたい。アクセス偽造がだいぶしっかりしてたから……」

 

「やっぱりそうか、まあ予想はしてたが」

 

相手は正体を隠そうとしているのだ、簡単にわかるわけはない。

 

「どうしますかドクター? 流石にこの数は……」

 

アーミヤがそう尋ねてくる。一見冷静そうではあるが、声に若干の不安が混じっている。

かなり危険な状況であるのは間違いない。俺も不安じゃないと言えば嘘になる。ここは慎重に手を打っていくべきだ。

 

「とりあえず今この基地内にいるオペレーター全員に通告を。戦闘準備をさせといてくれ」

 

「わかりました」

 

「それから一般スタッフや作業員たちにパニックが広がらないよう、オペレーター以外への報告は慎重にな。最悪不安感が大きすぎるようなやつには上手く誤魔化して伝えてくれ」

 

「はい」

 

「すまないが俺は状況整理もかねて一回部屋で休んでくる。起きてから飯も食ってないしな。なんかあったらコール飛ばしてくれ」

 

少し押し付けるような形になってしまうので心苦しいが、アーミヤなら上手くやってくれる。ロドス全体をまとめたりバランスを取ったりは、アーミヤの方が向いている。

奇襲の可能性も考えれば俺も待機していた方が良いのだろうが、できるだけ俺も体力を温存しておきたい。

もしもの時のために。

 

「悪いなチェン、随分と険悪な感じで話が終わっちまって。今度またしっかり話そう」

 

「ああ、私は大丈夫だ。気にしないでくれ」

 

「お前が気にしてなくても俺は気にすんだよ。あ、そうだ。それからもうひとつ」

 

「ん? なんだ?」

 

「もし俺の手が回らないときは戦闘面の指揮をお前に任せてもいいか?」

 

「あ、ああ。構わないが、手が回らないというのは?」

 

「この先何が起こるか分からないってことだ。万が一のことも考えて一応な」

 

「…………そういうことなら、了解した」

 

チェンは何か言いたげではあったが、ひとまず俺の言葉にうなずいてくれた。

返答を聞き終えた俺は通信室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にしても一体何が目的なんだ…………」

 

自室へと戻る途中、考えを巡らせていた俺は自然とそうつぶやいていた。

相手の目的が、見えない。

 

(そもそもなんのために子供を狙ってるんだ? そこすら全くわからねぇ…………)

 

先程の通信ではサンプルがどうのと言っていたが、それは少しおかしい。

今現在の鉱石病の感染状況からして、罹患している子供なんぞ本気で探せばいくらでもいる。それこそ全く足が付かないように数人拉致することも可能だろう。

だがそれをせずに、あえてロドスが保護しようとしていた子供たちを狙い、しかも護送中に包囲。これはどう考えても合理的ではない。何か理由があるのだとしても、ロドスに話が来る前に孤児院を襲撃して子供たちを攫えばいいのだから、わざわざ護衛が付いたタイミングを狙うのは妙だ。

 

(俺たちを襲うためにタイミングを合わせた……? いや、ロドスが目的なら最初から全戦力でこの基地を襲撃すればいい。となるとやはり目的は子供たちか…………?)

 

となると問題になってくるのはその理由。子供なら誰でも良かったわけではなく、あの孤児院にいた子供でなければならなかった理由。そこが知りたい。

 

(何か裏がある……とは考えづらいんだがなぁ…………)

 

もし仮に、子供の中に特別な事情を持つ子がいたとすれば不可解なタイミングでの襲撃も一応納得はできる。

権力者の隠し子、特別なアーツの才能、先天的な疾患や血液型や種族などの違い。考え始めればいくらでも思い付きはする。

例えば類まれなるアーツの才能を持つ子供の情報を得て、その行方を辿った結果孤児院にたどり着いた。そんな可能性。

タイミングが悪く俺たちとカチ合ってしまったが、組織の戦力として確保するために無茶をしている、という状況だったのなら一応筋は通る。

だが、そうなってくると別の疑問が発生する。

 

(少なくとも俺の確認した資料にはそんなこと書いてなかった……こちらが把握する限りはごくごく普通の子供たちのはず…………)

 

今回保護した子の中に本当に特別な事情を持つ子がいたとしても、Vの組織がどうやってその情報を得たのかがわからない。

ロドスが孤児院側から受け取った子供たちに関する情報は、どれもありふれたものだった。俺以外もチェックしているから、見落としはありえない。

そして孤児院自体の事前調査でも施設としておかしなところはなかった。また関連施設や周辺地域の治安に関しても気になるような情報はなかったし、職員と実際に話した時も何かを隠している様子もなかった。

更に言えば、俺は孤児院から預かる際に子供たちを全員見ているが、特におかしなところはなかった。今回預かった子供たちが特別であるとはどうしても思えない。

一応孤児院側でも把握しきれていない部分で子供たちに何か事情がある、という可能性もあるだろう。しかしだとすれば、Vの組織は一体どんな手段を用いてその情報を得たのか、そしてそれは何なのか。

 

(クソッ、情報のアドバンテージは完全に向こうに握られちまってるな。どうしたもんか…………)

 

情報は単純戦力以上に重要な要素だ。ただでさえ戦力的に厳しいのに情報量にまで差があるとなると、勝てる見込みは皆無。

加えて情報の収集能力というのは組織としてのレベルを測る指標にもなりうる。高ければ高いほど、組織としての質も高くなる傾向にある。

先程の通信にしてもそうだ。ロドスのセキュリティチームも一流なのだが、やつらはそのセキュリティを突破して通信を掛けてきた。要はそれほどに技術力があるということに他ならない。

それにVは今現在のロドスの状況についても知っているようだった。機密情報と違い厳密に隠しているというわけでもないが、組織の内情を知られているというのは痛い。今更情報の出所をどうにかしようというつもりもないが、知られてる以上、その情報に基づいて先々まで戦略を練られていると考えるべきだろう。

そして、最も謎な部分。

 

 

(俺たちと、ロドスとやり合おうとしてるほどの目的は一体何なんだ…………?)

 

 

ロドス・アイランド製薬に正面から挑む。それは生半可なことではない。自分が所属しているという贔屓目無しに客観的に考えたとしても、ロドスは強い。

如何にVの組織が大きかろうと、俺たちが抵抗した場合確実に向こうにも被害は出る。それは間違いない。

 

(向こうは俺たちがただでやられるわけがないことも十分理解してるはずだ。なのにこのタイミングで仕掛けてきた…………)

 

確かにこのまま戦えばVの組織は有利だ。だが、それは犠牲を出さず安全に勝てるということではない。こちらからの反撃で間違いなく向こうにも大きな被害が出る。それこそラップランドに壊滅させられた襲撃部隊のことを忘れているはずもないだろう。

にも関わらず、現在こうしてVの組織は包囲網を敷いて俺たちとやり合おうとしている。それは何故か。

 

(考えなしの特攻…………いや、流石にないか…………)

 

大規模な組織であることを活かし、数の暴力で犠牲を気にせず侵攻してきている可能性は0ではない。が、Vの組織にそれだけの人数が集まるかという疑問が残る。

軽く話しただけではあるが、Vの性格は大体把握できた。あいつに犠牲を無視できるほど多くの賛同者が集まるとは思えない。

それに組織というのは人数が増えれば増えるほど制御が難しくなる。鉱石病という共通の目的があったとしても、今回の規模感には疑問が残る。

 

(何が目的だ……?)

 

更にはもし上手くここでロドスに勝ったとしても、間違いなくその情報は多くの都市に伝達されることになる。すると当然各都市は警戒を強化する。武力介入を可能とするほどの戦力を持っていたロドスを破った正体不明の組織が存在している、という情報が瞬く間に拡散されることだろう。

そうなればいくらここまで秘密裏に活動していた組織と言えど、ある程度の露出は避けられないはずだ。

活動や目的を公にしていないということは、すなわちそのほうが都合が良いということ。襲撃のことやVの雰囲気からわかるように非道なことも行っているからだろう。そんな組織がその存在を示すことはデメリットでしかない。

 

(隠れる必要が無くなる何かがあるってことか? だとしたら一体どんな理由が…………)

 

色々と考えてみるものの、所詮は憶測。情報も足りないため、確信を得るまでには至らない。

なんにせよ、状況は悪い。わざわざ一日分の猶予を提示してきたところも不可解だ。油断を誘おうとしているのか、それとも別の事情があるのか。

 

(チッ、考えても仕方ねぇな。とりあえず各都市には連絡をして、間に合わなくとも報告と応援要請はするべきか。後は籠城して耐久かいっそのこと打って出るか…………)

 

「大丈夫かい、ドクター」

 

「っ!」

 

その声に慌てて視線を上げると、ラップランドが扉から顔を出していた。いつの間にか俺は部屋の前まで来ていたらしい。

 

「随分と顔色が優れないみたいだけど」

 

「あ、ああ、大丈夫だ。ちょっと厄介な状況になってな」

 

「ふーん、また囲まれちゃった、ってところかな?」

 

「!! お前……気付いて…………」

 

俺の自室には窓など、外を見ることのできる設備はない。その上まだオペレーターたちへの通達も済んでいないはずの時間。

普通に考えて絶対にわかるはずないのだが、ラップランドは状況を把握しているようだった。

 

「なんか嫌な感じがしたからね。やっぱりそうなんだ」

 

「相変わらず凄いな……」

 

例の襲撃の時も、ラップランドは誰よりも早く包囲に気付いていた。もし気付いていなければ対策が遅れ、更に被害が大きくなっていただろう。

天性の第六感的なものなのか、それとも何か別の理由があるのか。どちらにせよ、常人の理解の及ばない範疇の話だ。

 

「とりあえず入ってゆっくりしようよ。ドクターも起きたばっかりなんだし」

 

「ああ、そういえばそうだな」

 

そのまま俺たちは部屋へと入る。

俺は万全の状態ではないし、見た感じラップランドもまだまだ疲労が残っているようだ。やはり休息が必要だろう。

今は情報が少ない。下手に考えて疲れるよりも、体力を温存したほうが懸命だ。

そう思いながら部屋に入った俺とラップランドは、ベッドに身体を預け、自然とリラックスできるよう楽な姿勢を取る。俺は壁際に寄りかかり、その隣でラップランドが体重を預けてくる。

そしてラップランドに一応先程の通信についての説明をする。詳細を告げられてもラップランドは特に驚くことはなかった。

 

「ふーん……随分と物好きなやつらみたいだね」

 

「物好き?」

 

「わざわざロドスに攻撃を仕掛けてくるなんて、よっぽどの物好きじゃないか」

 

「まあ、確かにそうだな」

 

ラップランドの見解も、俺とほぼ同じなようだ。やはりロドスに突貫しに来ているのはおかしいと。

だが流石に向こうの目的までは読めないようだ。

 

「ボクならもう少しじっくりやるし、大抵のやつはそうするだろうね。意表を突くにしても、あまりにもお粗末だ」

 

「俺もそう思ったから困ってんだよ。全然意図がわかんねぇんだ」

 

「仕方ないさ。どのみち戦うことにはなるだろうし、敵になっちゃえば関係ないんだから」

 

「そうなんだけどなぁ…………」

 

「それにドクターのことだし、子供たちを渡したりはしないんだろう?」

 

「そりゃまあ勿論な」

 

組織として考えるのなら、子供たちを差し出さない理由はない。基地を丸ごと包囲されているのだから、存続を考えて向こうの要件を飲むのが利口だろう。

だが、ロドスの本懐は医療だ。鉱石病感染者の子供を正体不明の組織に差し出すなんてことは絶対にできない。どんな立場であろうと、頼ってくれる者を利益のために切り捨てることなどあってはならない。

きっと俺だけでなく他のみんなも同じように考えてくれるはずだ。

それにもし今回Vの要求を呑んで危機を脱したとしても、この先尾を引くことは間違いない。ロドスが無抵抗で武力に屈したという事実は、今後永遠に残り続ける。それこそ不信感の種となるだろう。そして一度芽生えた負のイメージは簡単に伝播し、組織内、ひいてはロドスを知る者たちに際限なく拡散していく。

そうなれば今まで積み上げてきた信用は失われ、今後より多くの問題に繋がることとなる。その結果救えたはずの命を、助けられたはずの人々を見捨てることになりかねない。

これからより多くの人々を救っていくためにも、ここで屈するわけにはいかないのだ。

 

「とはいえ、どうしたもんかなぁ…………」

 

「流石のドクターもお手上げかい?」

 

「うーん、正直なところ、いい策はないな。客観的に見ても八方塞がりって感じではある」

 

「大変だねぇ」

 

既にVの組織との戦力差がかなり大きいのは確定している。正確な総数を数えたわけではないが、先程のレーダーの反応を確認しただけでもかなりの数だった。今基地内にいるオペレーターたちを集めて正面から総力戦をしたところで、まず勝てない。

向こうも基地を制圧するつもりで来ているだろうから、そのための兵器なんかも準備されていると考えるのが自然だ。基地を移動させて無理やり蹴散らしたりもできないだろう。

そして本来戦力の中心となるべき精鋭たちが、件の襲撃の影響で精神的負荷により戦闘不可状態なのも大きい。

 

(俺が出たところで、どうにかなるかどうか…………)

 

ここまでの事態になってしまった以上、バレることなど気にしていられない。皆を、ロドスを守れる可能性が少しでも上がるならば、俺はいくらでも戦うつもりだ。

しかし、俺一人の力でこの戦況をどうにかできる訳もない。大前提としてどこまで被害を減らせるか、どこまで犠牲を少なくできるかという戦いになる。

更に厄介なのは、俺自身にも懸念点が多いところだ。未だに戻らない記憶、聞く限りの情報とは乖離した戦闘力。それらを含めて考えると不安は尽きない。が、ロドスの危機を脱するためなら今こそこの正体不明の力の使い時だろう。

 

(ま、やるだけやるのは変わらないか…………)

 

迷いがあってはまた迷惑をかけることになる。ならばこそ、しっかりとした覚悟は必要だ。

俺がそんなことを考えていると、ラップランドが声をかけてきた。

 

「で、これからどうするのさ、ドクター」

 

「とりあえずは期限まで待機だな。向こうの言い分は信用できないが、かといってこっちから仕掛けるってのも難しい。出来ることないうちは体力の温存だな」

 

「なら普通にゆっくりするってことかい?」

 

「そうなるな」

 

「そっか、ならボクも合わせるよ」

 

そういってラップランドがもたれるようにして体重を預けてくる。

その雰囲気やイメージに反して、彼女の身体は驚くほど軽い。

 

「帰ってきてからなんか食ったか?」

 

「いいや?」

 

「じゃあなんか食おうぜ、腹減ってるだろ?」

 

「今はまだもう少しこのままがいいな」

 

「……そうか」

 

それを聞いて、俺はラップランドを少し抱き寄せる。

腕から伝わってくるのは、冷たく華奢な印象を受ける身体の感触。ほんの少しでも力を入れれば折れてくだけでしまいそうな脆さがある。

もちろん実際にはそうではないはずなのだ、彼女はとてつもなく強いのだから。

 

(けど……やっぱりなぁ…………)

 

だいぶ調子を取り戻してきたのか、俺が目覚めてすぐの時よりは元気そうではある。

だが、それも表面上だけなのだと思う。

理由はどうあれ、助けたはずの仲間からの拒絶と糾弾を受け、自室の壁を斬り刻む程に追い詰められていたのだ。そう簡単にどうにかなるとは思えない。

本来のラップランドは他人に対しての関心が薄かった。故に以前までなら他人に拒絶されようとも、なんともなかっただろう。

しかし、今は違う。俺が変わってしまってるように、ラップランドも変わってきている。少しずつではあるが、狂気が薄れ、感性が常人に近くなってきている。

 

(果たしていいことなのか、どうなのか……)

 

何を基準として何を良いと捉えるのか。これもいくら考えたところで答えは出ないだろう。

それよりも、今はラップランドとの時間を穏やかに過ごしたい。

 

「それにしても、ドクターと二人でゆっくりするのは久しぶりな気がするね」

 

「言われてみれば確かにそうかもしれないな。ここ最近は真面目に仕事してたし」

 

「ドクターはいつでも真面目じゃないか」

 

「んなことねぇよ。よく知ってるだろ、俺がガサツなの」

 

「ボクからすれば十分真面目で几帳面だけどね」

 

「俺からすればお前も十分真面目だけどな。ま、とにかく久しぶりの休息だ。ゆっくりして—————」

 

そう言いかけた瞬間、右肩に鋭い痛みが走る。

 

「痛ッ!!」

 

「アハッ、ごめんねドクター」

 

「おまっ……やるなら言えっての…………びっくりするだろうが」

 

「でもボク、ドクターのびっくりしてる顔が好きなんだよね」

 

悪戯っぽく笑うラップランドの笑顔は非常に不気味だ。が、俺にとってはその不気味さよりも、不思議な妖艶さのほうが印象強い。

口元にべっとりと血をつけ、目を見開いてこちらを見下ろすその姿は、まるで人ならざる存在のようだ。吸血鬼の特殊メイクだってもう少し血の量を加減するだろう。

どうやら相当深くいかれたらしい。

 

「あーこれ結構出てるだろ血。深く噛みすぎだっての。痛ってぇ…………」

 

「そうだねぇ、少しやりすぎちゃったかな?」

 

ラップランドはそのまま舌を出して自らの口についた血を舐め取っていた。他の奴がこんな姿を見たら発狂ものだろうが、俺にとってはもはや当たり前の光景だ。

やはり感覚が麻痺してしまっているのか、恐怖や嫌悪といった負の感情は微塵もない。むしろこの肩の痛みを通して全身にじんわりと優しい温かさが広がっていくような感覚すらある。

何かに包まれるような、あるいは縛られているような、明らかに異質で奇妙な感覚。本来であれば結構な怪我のはずだが、痛みよりも安心感が勝っている。

それでもいつもならばすぐに止めるところだが、俺自身疲れていたこともあり、抵抗を忘れてラップランドに身を任せてしまった。

 

「あれ~? もっとして欲しいって顔してるね?」

 

「なっ……」

 

いつもと違う俺の反応が面白いのか、ラップランドがそう煽ってくる。

にやりと笑うその瞳は、得物を見つけた狩人のそれだ。

 

「ちょ、待て! 別にそんなことは…………」

 

「でもドクターはいつももう少し抵抗するじゃないか。今日はなんだか誘い受けみたいだよ?」

 

「誰が誘い受けだよ……疲れてるからいつもより元気ないだけだって」

 

「本当にそうかな……? ねえ、ドクター?」

 

「ッ!!」

 

再び右肩に痛み。噛みついたばかりの傷跡に爪が立てられているようだ。

グリグリと押し付けられる圧力によって肉が更に抉られる。思わず全身に力が入ってしまう。

ラップランドは楽しんでいるのかやめる様子がない。痛みに耐えようとする俺の呼吸はどんどんと荒くなっていく。

 

「おいっ…………ちょっと……待て…………」

 

「アハッ……気持ちいいかい?」

 

「馬鹿ッ……やめっ…………」

 

数秒後、遂に耐え切れなくなり、俺の姿勢が大きく崩れる。すかさずラップランドは俺を拘束せんとばかりに俺の上に馬乗りになる。

 

「はぁ……はぁ………………お前なぁ…………」

 

「ごめんごめん、ついね」

 

「別に……やるなって言ってるわけじゃないんだから、もう少し加減してくれよ…………」

 

「嫌だね」

 

「相変わらず遠慮しないなお前は」

 

「ドクターもやり返せばいいんだよ。ボクは構わないよ?」

 

俺がこの手のやり取りで文句を言うと、ラップランドは決まってそう返してくる。こっちがやってるんだから遠慮せずにやり返せと。

だが俺にはできない。いつものように否定する。

 

「いつも言ってるだろ、俺はやらねぇよ」

 

「ボクはもっとして欲しいんだけどな。ドクターになら構わないし」

 

「いくら頼まれてもな……こればっかりは…………」

 

「でも痛いだろう? このままやり返してこなかったら、きっとボクはこのままどんどんエスカレートしていくよ?」

 

「そりゃ痛いし、これ以上激しくされたら血だけじゃなく肉もなくなっちまうから勘弁して欲しいけど、だからつってはいわかりましたってわけにもいかねぇよ」

 

やられたらやり返すべき。普段の俺ならそう考える。

しかしラップランドに対しては、やり返そうなどという気は起きない。というか、きっと俺は何かをされたとも思っていないのだろう。

恐らくは、このループスの少女が誰よりも可憐で繊細であることを知ってしまっているから。

別にラップランドのことを信じていないわけでもない。本人がやれと言っているのだから、俺が変に気を使う必要もないだろう。何よりもお互いに殺し合ってもなお生き延びている結果の関係性なのだから、遠慮することなど何もない。

けど、俺にはできない。

ラップランドというオペレーターにそんな感覚を抱くのはきっと俺だけだ。

 

「それにしても、血はあんまり美味しくないね」

 

「当たり前だろ。人は血を飲むようにできてないからな」

 

「まあでも、ドクターのは安心するね」

 

「そりゃどーも」

 

止血等の手当はしておかないと傷が少々厄介なことになるが、もはや面倒だった。

本気で咎める気も起きず、ラップランドに身を任せ、無抵抗を貫く。

と、

 

「ドクターもさ、ほら」

 

「ん?」

 

俺の上にまたがるように乗っていたラップランドは、おもむろに腹部を見せつけてくる。

見ると、いつの間にかラップランドの腹部には無数の傷が刻まれていた。じんわりと滲み出る血が傷の新しさを物語っている。

恐らくは自分でひっかいたのだろう。俺が手を出せないから、自傷したのだ。

 

「何やってんだよ…………痛いだろ?」

 

「そりゃあもちろん。結構勇気いるんだよこれ?」

 

「だろうな」

 

俺はそれだけ返すと、ラップランドを一旦抱き上げて位置を変えた。

そしてラップランドの腹部に顔を埋めるようにして傷口を舐める。

生暖かさと何度経験しても嗅ぎ慣れない奇妙な匂いを感じながら、何度も何度も舌を動かす。その間ラップランドは俺の頭に手を回して、子を寝かしつけるかのように優しく撫でてくる。

血をすすり、傷を舐め、肌に口付ける。端から見れば異常な光景がしばらくの間続いた。

 

「ははっ、くすぐったいよドクター」

 

「痛くないか?」

 

「痛いけど気にならないかな。ドクターの舐め方はボクと違って丁寧だからね」

 

「丁寧って…………」

 

「それに凄い落ち着くよ……」

 

「………………そりゃ良かった」

 

いつの間にか体勢は変わり、俺がラップランドの腹部に頭を乗せるような形で二人とも横になっていた。

血も止まってきたので顔を上げようとすると、ラップランドがそれを押さえつける。

 

「ちょっ……むぐっ…………」

 

「悪いけど、もう少しそうしててくれないかな? なんだか落ち着くんだ」

 

「…………」

 

小さくそう言ったラップランドの瞳には、ある種の寂しさのような色が見えた気がした。

どこか虚しそうに自らを悲観しているかのような、そんな顔だ。

 

「いつまでこうしてればいい?」

 

「そうだねぇ……ボクが満足するまで、かな」

 

そう言われてしまうと、俺には拒否することは出来ない。

もし俺がもう少し冷静だったのなら、こんな非常事態に何をしているのかと思ったかもしれないが、勿論俺にそんな考えは残っていなかった。

あえて何も考えずにひたすらラップランドの腹部の感触を堪能する。

願わくはもっと平和な状態でこうなりたかったと思いながら。

 

「ねえドクター、たまには我儘になってもいいかな?」

 

その言葉がただの問いかけでないことはわかった。

俺はやはりただ頷くだけだ。

 

「ああ、いいよ」

 

かつて殺し合った時のように。

俺たちはお互いにお互いの命を預けるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どれぐらいかは分からないが、数時間は経過しただろうという時間が過ぎ、お互い体力の限界を迎えた。

 

「………………」

 

「………………」

 

言葉にせずとも、お互いに満足したことは伝わっている。

アーミヤから緊急連絡が来ることも無かったので、この分ならしっかりと休むことも出来そうだ。

 

「そろそろちゃんと飯にするか。流石に腹が減った」

 

「そうだね、ボクも少しはしゃぎすぎちゃったみたいだ」

 

そんな話をしながら部屋に備蓄してある食料を棚から取り出す。

普通に売られているようなインスタント品から、水だけで温まる非常用の携帯食料など、そこそこバリエーションがある。俺が日ごろから買い集めた結果だ。

本当は食堂でしっかりとした食事をした方が良いのだが、着替えや移動を考えると面倒だし、なによりも今は二人の時間を途切れさせたくはなかった。

相談もしつつ好みの食材を選び、ややおっくうではあったが数十分かけてそれぞれの選んだ食材の調理を完了させると、なかなか悪くない仕上がりとなった。

俺は野菜の多めに入ったシチューと固いパン、ラップランドは肉団子入りのスープに適当な麺類と香辛料を追加。二人とも空腹だったため分量はそれぞれ一人分以上あったと思う。

お互いのメニューにあれこれ言い合い、食べ比べたりもしながら、穏やかに食事のひと時を過ごした。

いつもよりゆっくりと、時間をかけて。

やがて腹も膨れ、食休みかというところで睡魔がやってくる。

食事直後の睡眠はあまり身体によくないのだが、ゆったりとした雰囲気の中、他愛のない話を続けるばかりでは重くなる瞼に抗うことは難しかった。

疲労の残る身体も睡魔を後押しし、我慢も難しくなる。

 

「ん……なんだかいつもより眠いな」

 

「ボクもだよ……さっきちょっと寝たんだけどね」

 

「じゃあ寝るか。決戦に備えての休息ってことで」

 

「そうだね、ボクもそうしようかな」

 

「ちゃんと寝たいからもう噛んだりするなよ? これ以上消耗できないからな」

 

「勿論。まあでもボクが寝てる時の無意識までは責任とれないかなぁ」

 

「じゃあ寝る前に強く意識しといてくれ。俺を噛んだりひっかいたりしないってな」

 

「ふふっ……わかったよ」

 

そう言葉を交わして、部屋の明かりを消した。

そして二人で抱き合うようにしてくっつき、薄い布団を掛け、目をつむる。

 

「おやすみ、ドクター」

 

「おやすみ、ラップランド」

 

最後にそれだけ言うと、すぐに俺の意識は深く飲み込まれていった。

うっすらとした温もりに包まれながら、深い深い眠りの奥底へと。

 

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