In the Fate/GO 作:7743
【山崎輝夫】
オレを一言で表すのなら男女。
髪は腰まで届かん勢いで伸び(切っても切ってもすぐ生えるので諦めて放置してる)まつ毛は長く口は小さい。
身体はやや痩せ気味で、筋肉はついていない代わりにデブ時代の名残であるブヨブヨの皮が残されている(そこまで酷いものではないが)
何故か顔には脂肪が付かなかったので『部分痩せ』ならぬ『部分体型維持』と一時期話題になったこともあった。
当時思春期真っ盛りな中学生のオレにとってはそんな注目のされ方はまっぴらごめんだったので、それなりに頑張って痩せたのだ。
それまで流されるまま人生を送ってたオレにとっては初めて自分が熱意を持って行動でもある。
痩せても流され体質は改善されなかったけどな…。
現に、一緒に働こうぜと誘ってくれた友達の幹二君に流されて高校に許可を得る前にバイトをさせられてしまっている。
……で、そんなオレだが現在ハマっていることがある。
【Fate/GrandOrder】
通称【FGO】
ゲーム概要はコマンドオーダーバトル…となっている。
オレはゲームはマリオカートや太鼓の達人などを嗜む程度で、そこまで熱心にプレイする人間では無い上にFate系統(TYPE_MOON系統だったか?)のキャラクターなど知りもしなかったので、最初はイマイチ乗り切れなかった。
コマンドオーダーバトルなんてのも初めてだったしな…。
…でも、楽しかった。
学校で習った偉人はそこまで出てこなかったけれど、多くの人の信念やマシュの成長に引き込まれて……幹二君の言葉を借りるなら『どっぷり沼に浸かった』というわけだ。
流されて始めたことだが、再び熱量を持てるものに出会えたのだ。
…まぁ、ここまでなら割とある話なのかもしれない。
オレが違ったのは…
「やぁ!やっと直接出会えたね」
強化のために飽きるほど訪れたカルデアの…天才芸術家の工房にいつの間にか立っていて。
「先輩!お会いしたかったです…!」
レベルMAXスキルレベルMAXまで育て上げた我がカルデアの鉄壁少女……マシュ・キリエライトに手を握られていたこと、である。
☆
(おっと頭は空っぽだぞ)
…状況が全く掴めないという意味だ。
オレは別に幻覚が見える薬に手を出したわけでも無いし、気が狂うような致命的な怪異に遭遇したわけでもない。
正気なことが1番だと思っていたが、逆に正気なのが異常事態になってしまう出来事に遭遇するなんて、思いもしなかった。
いっそ狂っていたほうが『ただの幻覚』で済ませられたんだがね…。
「先輩、どうされました?」
「いや、ええっと…」
目の前で首を傾げている紫女子は、確かにマシュ・キリエライトで、しっかりと質量を伴ってそこに存在している。
画面の向こう側ではなく、
すぐそこに、いる。
オレの冷たい手を温かな両手で包み込んでいる。
どう考えても、どう感じても、幻覚な訳がなかった。
「おっと、混乱しているようだねテルオ君。よく考えなくともそれはそうだ」
呆けていたオレに天才芸術家——レオナルド・ダ・ヴィンチは笑みを浮かべて話しかけてきた。
モナリザなだけあって様になった笑顔だ。
内心ドキッとしながらも彼女(彼)の方に体を向ける…マシュは繋いだ手を離すつもりはないらしく、彼女に片手を取られながらだったが。
「ここはカルデア…なのはわかっているよね?」
「…はい」
「よし、なら君が聞きたいのはどうやってここに連れて来たのか、何が目的なのか…あたりだろう?」
……本当は、脳内真っ白になっていたから考えてなかったけれど、無言で相槌を打っておいた。
「まずどうやって連れてきたのか…その答えは聖杯さ。と言っても願ったのは君の世界への架け橋程度だけれどね?」
「……直接願わなかったのは、なんで…」
「本当は、君を呼ぶ気はなかったからさ。最初は、君を見守るだけで皆満足していたんだぜ?」
つまり
オレは今までずっとモニタリングされていたと言うことになるのか。
ゾッ とする。
まぁしかし、オレはエロ本を購入したり性処理器具をこっそり注文するようなことはしない人間だ。
ダメージは幹二君が食らうものに比べれば安いものだろう。
彼の部屋は現代の魔境である。
そして彼の部屋を訪れたのは最近なのでバッチリ見られたと思う。ごめんよ…。
「…過去形ってことは、どうしてもオレを呼ばないといけない事態が起きた、とか?」
心当たりはない。ない、が、ここ数日間の記憶が抜け落ちている。
関係があるとすればそこか。
「あぁうん。そっかー覚えてないかー」
ダヴィンチは頭を掻き。
マシュの手を握る力が強くなった。
「………」
沈黙が場を支配する。
しかしそう間を置かずに時は天才の口によって再始動した。
「君、向こうで死んじゃったんだよね」
「……………はい?」
「正確には死ぬ寸前、だね。いや、本当に間に合ってよかった」
知らない。
覚えてない。
そんな記憶。
オレは、持っていない…。
「君の肉体は車に轢かれてしまったんだ。直ぐに病院に運ばれて、迅速な手当てを施されて…それでも、君の体は弱まるばかりだった」
体の奥から嫌悪感が滲み出してきた。
痛みが湧き出してきた。震えが出てきた。
記憶になくても、身体は正直らしい。
「先輩っ、無理に聞かなくてもいいんですよ!ダヴィンチちゃんも!もうやめてください!」
マシュが、震えるオレの体を抱きしめた。
なにやら柔らかい双丘が正面から当たって潰れるが、気にする余裕はなかった。
でも。
「大丈夫だよ…マシュ。自分のことなんだから、なにが起こったのかは知っておきたいんだ」
「で、ですが!」
「大丈夫だよ」
精一杯の笑顔を見せた。
引きつってたいたかもしれない。
……卑怯だろうか。
でも、こうでもしないと話が進まないのだ。
「…本当にいいのかい。君の様子を見る限り今日はやめにしておこうと考えているけど?」
「続けてほしい…お願いします」
「…わかったよ…。話そうか」
ダヴィンチは一呼吸置いて、
言葉を切り出した。
「このままでは魂と肉体共々死を待つだけだったけど、流石に私たちもそのまま黙って待つほどお行儀はよくなくてね。ちょっと無茶したけど、君をこちらの世界に引き込んだんだよ——魂を物質化させて」
信じられないことをやってのけていた。
…ウチのカルデアにはジーク君がいたけど反対とかしなかったのだろうか。
え、まさか無茶って…。
…この話題は危険な気がするな。
「…じゃあ今頃向こうのオレの体は」
「魂の抜け殻。魂を失った肉体は生きる原動力が消滅したと同義……だから、向こうの君は死んじゃったと考えていい」
「…つまりオレは、現実世界からこの世界に片道切符で緊急脱出してきた、と?」
「うん。その考えで大体あってるよ」
元の世界に戻っても肉体が死んでいるから、戻ったところで死に行く。
とどのつまり、オレはこの世界で生きていくしかなくなったと言うことだ。
…けど、悪くない。
熱意を込められるほど夢中になったゲームの世界で暮らしていけるんだ。
画面の向こうからの共感ではなく、共に生きて喜怒哀楽を分かち合える。
ごめんよ幹二君。
君が日々願ってきた事は、どうやら僕が先に達成してしまった。
でも君はこちらにこないでくれ。
死ぬのはオレだけで十分だ。
「…ここに来てしまった以上、マスターとして戦うしかないんですよね?」
覚悟は決まった。
オレはダヴィンチの目を真っ直ぐ見つめて返事を待つ。
「ん?あ、いや、特にそう言う感じではないかな」
「…あれっ!?」
思わずズッコケ…そうになったところをマシュに支えられた。
「あぁ…簡単に言えばここはイベント時空なのさ!重っ苦しいシリアスなし!ドタバタコメディを存分にやってくれたまえ!」
いろいろ台無しだ!
なんだったんださっきまでの真剣な雰囲気!
「具体的にはサーヴァントたちと戯れればそれでいいんだ。彼ら彼女らも君に会いたがっている」
「…もしかして、オレが育ててたサーヴァント達ですか?」
「もちろん!さぁ、行きたまえ少年!君の物語はこれからだ!何か困ったことがあればここを尋ねたまえ。力になってあげようじゃないか」
そう言い残してダヴィンチは工房の奥へと去っていってしまった…。
…そっか。みんなに会えるのか…!
仲良くすればいいだけってのは釈然としない…でも。
とっても楽しみだ。
「さ、マシュ。いこっか」
オレはいつのまにか離れていたマシュに声をかけた。
やっぱり最初はこの子からじゃないと。
「あっ!はい!マスターの正式サーヴァント、マシュ・キリエライト!先輩のファーストオーダーの相手を務めさせていただきましゅ!」
噛んでしまいました…
と顔を覆っているマシュ。
大丈夫だと声をかけて、二人で笑い合った。
最初にあった時のようにオレ達は手を繋ぐ。
そうして、工房から出て、見慣れたはじめての廊下を、二人で歩み出した。
感想聞かせてください。