お題は「わるものマニア」(http://www.w-mania.com/)より。
pixivより転載
これは夢だと、ぼんやりとだが認識している。
ここは生前はほとんど見る機会のなかった博物館とやらだと、聖杯が知識を寄越してきた。否、それを模したなにかだと、理性が訴えてくる。
ガラスケースに展示されているのは、写真だった。あの時代にはほとんどあり得ないもの――新撰組の草創期からの時系列を並べたスナップ写真だった。それもフルカラーだから、これまたあり得ないのないない尽くしだった。自分の死後に残った写真でさえモノクロームなのに。
「これが新撰組かぁ」
隣から、声がした。それに驚く。ここにいるのは自分だけだと思ったからだ。夢なのだからそうとは限らないだろうに。そしてその声に聞き覚えがあったから、尚更そちらを見ずにはいられなかった。
立香だった。立香はいつも通りの服装で、何でもない様子で歩いている。こちらの歩調に合わせるようにゆっくりと歩いているようだった。何より、驚いたのは自身が立香と手を繋いで歩いていたことだった。咄嗟に手を放そうとする。しかし、立香の手はしっかりとこちらの手を握っていた。華奢な手にどこにそんな力が、と思ったが、少女のものと思えないほどにその手は硬かった。それは生前、何かの拍子に沖田の手を握ったときとよく似た感触だった。
そのまま手を繋いで、ゆっくりと歩く。自身には地獄の道行きのように思えた。ガラスケースはどこまでも続いていって、草創期から内乱、分離、そして函館へ――その道中で自身は離反したから、それ以上知る由もなかったが。
ここは「新撰組」の博物館だった。きっとこの奥に行けば、土方歳三がどういう最期を遂げたか、どこに墓があるかまでわかるだろう。
――今からでも、弔えるだろうか。
ぐい、と手を引かれた。
立香の目が、褐色の双眸が、こちらを見上げていた。
「駄目だよ、一ちゃん」
言葉は強くない。ただ、目が。目が、あまりに強かった。握ってくる手の力も強かった。
「もう、終わったことなんだよ。だから、博物館は、これでお終い。起きたら、いつも通りの生活に戻るからね……」
目を覚ますと、自室のベッドに横たわっていた。それはいい。問題は、自身の手を、しっかりと握りながらベッドに突っ伏している立香のことだ。
「立香ちゃん……?」
思わず名を呼ぶと、それに呼応して立香は顔を上げた。目元を擦りながら彼女は笑う。
「お早う、一ちゃん。よく眠れた? 種火周回でひどい怪我を負って中々治らなかったから心配してたんだよ」
そう言う立香の様子はまるでいつも通りで。手も、離されそうになった。
それに寂しさを覚えたのは、一瞬。
思わず強く握り替えした。
「……一ちゃん?」
「あ……何でもない」
何でもない、そう言いつつ、その手を離せなかった。
立香はそれを見て、微笑んだ。そして立ち上がり、僕の頭を撫でた。
「大丈夫。大丈夫だよ、一ちゃん」
何が大丈夫なのだろう。ここには土方がいて、沖田はいなくて。三番隊の隊士たちも誰もいない。
それでも、安堵したのは本当だった。
だから、自身はいつも通りに笑っていった。
「……だから、一ちゃんって呼ばないでって言ってるでしょ」
お決まりの文句だったからか、返ってきたのは「だって呼びやすいし」という反省の欠片もない言葉だった。
あの博物館はどこにあるのだろう。英霊の座のどこかに漂っているのだろうか。もう1回観に行く勇気は、僕にはなかった。少なくとも、立香のいない場所では。
了