ネト充のススメ  ジューンブライドイベントと桜井優太のお見合い!?   作:白翼

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第1話 リリィと林の偽装結婚⁉

MMORPG Randgrid Onlineは剣と魔法の世界を舞台にしたインターネットゲーム、俗に言うネトゲと言われるものの一種だ。

 

 この世界は買い切りのゲームとは違い、多くのキャラクター1人1人にプレイヤーが存在し、それぞれがそれぞれのネトゲライフを送っている。

 

 そんなアバターの1人、ピンクの長いおさげと白い帽子が印象的なリリィは、郊外のひとけのないエリアの巨木の枝に腰かけていた。

 

 ゲーム上のリリィは同じ表情でずっと同じ場所を見続けている。そんな彼女のプレイヤー、桜井優太はパソコンの前で携帯と睨めっこしていた。

 

「……はぁ」

 

 一人暮らしの部屋に小さなため息が吐き出される。優太は再び携帯の画面を覗くと、上へ下へと世話しなくスクロールした。

 

 画面に表示されているのはRandgrid Onlineの公式TOPページだ。ここには大型アップデートやイベントなどの更新が随時告知される。ネットゲームはリアルタイムに更新できるためその特性を生かし、現実世界のイベントとリンクすることが多い。

 

 お正月やバレンタイン、夏の海開きやクリスマス付近になれば雪などが降り積もることもある。そんな一般のプレイヤーにとっては嬉しいだけのイベント更新が、今の優太を大いに悩ませていた。

 

「6月、ジューンブライド。偽装結婚式イベントか」

 

 優太はイベント告知に改めて目を通した。

 

『怪盗ホワイトからの挑戦状! 偽装結婚で紺碧の指輪を守り切れ‼』

 

【イベント内容】怪盗ホワイトから紺碧の指輪を頂戴すると予告状が届いた。この指輪は商業ギルドの長が代々引き継いできたもの、それを奪われるわけにはいかない。これまで幾度も怪盗の被害にあってきた商業ギルドは、紺碧の指輪を餌に怪盗を捕まえようと計画した。そしてその偽装結婚に選ばれたのは君たち冒険者だった!

 

【イベント期間】前半『6月1日~6月30日』後半『6月15日~6月30日』

 

【イベント報酬】紺碧のウェディングドレス。紺碧のタキシード。さらにシークレットアイテムも⁉

 

 優太はイベントページに目を通し、最後の一文を見てため息をつく。それはこのイベントの参加条件についてだった。

 

「参加条件はLv30以上、さらに男女2人でパーティーを組んだプレイヤーのみ、か……」

 

 それを読み上げると携帯の画面を消し、再びRandgrid Onlineの世界に目を向けた。

 

 今回のイベントはネット上でちょっとしたお祭り騒ぎになっている。男女2人のパーティーでしかチャレンジが出来ないことがその理由だろう。ソロプレイヤーを中心にブーイングが上がるのも仕方がない。だがその声はお祭り騒ぎの3割にも満たないだろう。もう7割を占めているのが報酬アイテムの存在だ。

 

 紺碧のウェディングドレス。今回のイベントのために新規造形されたアバター衣装が、課金アイテムに負けず劣らずクオリティーが高いのだ。さらにシークレットアイテムの存在も今回のイベントの期待値を高めていた。

 

 そんなこともありRandgrid Onlineのパーティー募集掲示板は昼夜問わず賑わっていた。

 

「欲しい。この衣装は正直心の底から欲しい」

 

 出世頭の優太はそれなりに高給取りだ。それに加えてその給料は唯一の趣味であるゲーム、とりわけRandgrid Onlineのガチャに溶かされている。欲しいアイテムが出るまで引く彼だが、ガチャで手に入れられないものはもちろんイベントを走るしかない。

 

 イベントを走る。それ自体は何の問題もない。募集要項の異性キャラクターの存在、それを満たす相方はすでに傍にいるのだから。

 

「結婚式イベントか。……盛岡さんはどう思うかな」

 

 そう言葉にすると青い髪の長身の男性、並びにミディアムヘアの年上の女性の姿が浮かぶ。プレイヤー名『林』、リアルネーム『盛岡森子』。リリィのゲーム内の相方であり、現実世界での友達だ。

 

「友達、いや知り合いか。いやいや、現実でも何度か出かけているわけだし、少なくとも知り合いってことは」

 

 などと彼女との距離について1人で悩んでは突っ込みを入れる。ひとしきりそれを終えると、現実に目を向けた。

 

「正直今までこういうイベントがなかったわけじゃない。でも昔は男キャラの相方もいなかったし、相方のふりをしてくれたカンベさんは見た目装備には全然興味示なかったんだよな。……今なら周りを気にせず堂々とイベント参加できるんだよな。でも結婚かー」

 

 偽とは言え結婚イベントに誘うことを森子がどう思うだろうか。優太にはそれだけが気がかりだったのだ。

 

「少しずつだけど距離が近くなっていると思う。だけどこんなリア充イベントみたいなのに誘って、変に思われても嫌だし。いや、でも、紺碧のウェディングドレスが欲しいだけで下心があるわけじゃ……」

 

 そこまで言葉にするとぴたりと口が止まる。下心があるわけじゃない。その言葉を最後まで口にすることができなかった。

 

 本当にウェディングドレスが欲しいだけなのだろうか。自分はもしかしたら林である盛岡さんと――。

 

林「リリィさん、何か悩んでいるんですか」

 

リリィ「はい、結婚についてなんですけど」

 

林「えっ、えっ、さ、桜井さん、そ、その、けけけけ、結婚するんですか⁉」

 

「えっ、はあっ⁉」

 

 チャット欄を見て素っ頓狂な声を上げてしまう。長年のネットゲーム癖だろう。自然にチャットに反応し何も考えずコメントを飛ばしてしまったのだ。幸いフレンドチャットで飛ばされたそれに反応する他のプレイヤーはいない。優太は画面を右へ左へと見ると、リリィのすぐ隣に林が座っていることに気づいた。

 

リリィ「は、林さんいつの間に‼」

 

林「ちょっと前にログインしたんですけど。返事がこないから離席しているのかと」

 

リリィ「えっ、あ、本当です」

 

 チャット欄には林からのメッセージが何度か届いていた。ずっと考え事をしていたから気づいていなかったようだ。

 

リリィ「ご、ごめんなさい林さん。ちょっと考え事をしていまして」

 

林「そ、そんな何度も謝罪エモートを連打しなくて大丈夫ですよ。ボーっとしちゃうことは誰にでもありますし。……えーっとそれでさっき結婚とか言っていましたけど、もしかしてリアルで」

 

リリィ「ち、違います、違いますよ! 今度あるイベントのことを考えていまして」

 

 イベント。その単語を出すと林の目が光り輝く。

 

林「次のイベントの報酬凄くいいですよね! 林ってやっぱり黒系の衣装が似合うと思うんですけど、他の色にも興味はあって。でもリアルの都合であまり課金とかは出来ないなーって思っていたらこのイベントが出てきましたからね! 絶対に逃す手はないですよね。それにそれに――――」

 

 楽しそうに次から次へとイベントのことを話す林を見て、優太は肩の荷がすっと軽くなるのを感じた。

 

「盛岡さんはゲームを純粋に楽しめる人だしな。何だか余計な心配だったかな」

 

 優太はキーボードに手を置くと、カタカタと文章を打ち込んだ。

 

リリィ「でしたらイベント、一緒に参加しましょう。イベント開始後の金曜夜で大丈夫でしょうか?」

 

林「俺はいつでも大丈夫ですよ。ジューンブライドイベント楽しみですねリリィさん!」

 

リリィ「はい。あっ、それじゃあ今日はこの辺で落ちたいと思いますね」

 

林「はい、イベントの時はよろしくです」

 

リリィ「はい! お休みなさい、林さん」

 

林「おやすみです、リリィさん」

 

【リリィがログアウトしました】

 

 優太はゲームとパソコンの電源を落とすと、そのまま電気も消してベッドに潜り込んだ。

 

「結婚式。……本当に楽しみだな」

 

 そう改めて言葉にすると、イベント当日が楽しみだと優太は眠りにつくのだった。

 

【リリィがログアウトしました】

 

「あ、あああ、焦ったー。け、けけ、結婚ってイベントの話か~~」

 

 森子は背もたれに背中を預けると、ズルっと体勢を下にずらしていった。

 

「林がログインした時もチャット送った時もリリィさん反応がなくて、それでもしかしたらあの場所にって思ったら、いきなり結婚って言われて、あー、本当に焦ったー」

 

 郊外の巨木の枝の上。ひとけがあまりないその場所はリリィにとって考え事や悩み事があるときに向かう場所だ。そこにいるリリィを見て何か悩みがあるのだろうと森子は思っていた。

初めは声をかけるべきか少し悩んでいた。三十路でニートの自分に役に立てることがあるのだろうかと、少し卑屈にもなっていた。

 

 だが彼女は盛岡森子として、林として、何度も彼であり彼女に助けられてきた。頼りない自分ではあるが、話すだけでも軽くなる悩みもある。そういった経緯ののちリリィに話しかけたのだ。

 

「でも桜井さんはどうしてイベントのことについて悩んでいたんだろう。今回は募集要項がLv30以上で初心者さんでも気軽にやれそうなイベントだとは思ったけど? あぁ、もしかしたら仕事が立て込んでたり、他に用事があって時間が取れなかったのかも。あちゃー、気軽にイベントのお誘いするべきじゃなかったかなー」

 

 勝手な予想を立てて少しの自己嫌悪に陥る。それからしばらくして森子は携帯でイベント詳細を見た。

 

「結婚式イベントかー、もしかして桜井さん結婚式ってことに遠慮して……いやいやいや、ゲームの話だし。怪盗イベントだし。そんなに気にすることじゃないよね、うん」

 

 誰もいない宙に向かって立て続けに言い訳する。

 

「桜井さんはこのゲームを本当に楽しんでいる人。衣装もたくさん持ってて、今回の衣装も欲しいだろうし。きっと林にお願いするのに気を使っていたんだと思う。……うん、それだけ、それだけ」

 

 これでこの話はお終い。そう思うと同時にカンベからチャットが飛んでくる。

 

カンベ「これからギルドの皆で素材集めに行くんだが林はどうだ?」

 

林「すぐに合流します!」

 

 カンベからパーティー申請が飛んでくるとすぐに加入する。まずはギルドのたまり場に移動しよう。その最中森子の頭に小さな疑問が浮かび上がった。

 

(どうして結婚って言われて、私は驚いたんじゃなくて焦ったんだろう)

 

カンベ「おい林、止まってないで早く来いよ」

 

林「わかっていますって!」

 

 そんな一瞬だけ浮かび上がった小さな疑問は、その小ささに比例しすぐに消えていく。イベントに向けて出来るだけ装備を整えておこう。林は郊外のエリアを抜けカンベ達の元に向かうのだった。

 

 

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