ネト充のススメ  ジューンブライドイベントと桜井優太のお見合い!?   作:白翼

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第4話 私の想いを俺の言葉に乗せて

 

 月曜日。優太はため息交じりに部長室から出る。6月の休日のどこかで例の女性に会ってほしいという話だ。本当は断るべきだった。しかし申し訳なさそうに何度も何度も頭を下げる部長を前にその言葉を口にすることができなかった。

 

 別段本格的なお見合いをするわけでない。ただ会って少し話をするだけでそれ以上何かがあるわけでない。たったそれだけでお互いの面子が保たれるならそれがいいだろうと納得することにした。

 

 そしてそんないざこざがあろうとも仕事は待ってくれはしない。優太は仕事に没頭することで余計なことを考えないようにしていた。

 

 金曜日。仕事帰りに小岩井に飲みに誘われたが、例の話を突っ込まれそうで断ってしまった。コンビニで買ったおにぎりを食べながら帰宅すると、その日はゲームにインすることなく眠りについてしまう。そうしてあっという間に1週間が経ってしまった。

 

 土曜日のRandgrid Onlineのゲーム内。郊外の巨木の枝にリリィは座り込んでいた。ゲームアバターは感情の見えない顔でずっと空を見続ける。

 

 そんなリリィと同じ景色を見ながら、優太は小さくため息をついた。

 

「休みの日に一度集まるって。それって今度の土曜日の可能性もあるんだよな」

 

 今度の土曜日にはすでにイベントの後半がアップデートされている。前半のことを考えれば、森子と共にストーリーを進める流れだろう。

 

「イベント前半のことを考えると金曜日の夜だけで終わらないと思うし。……もしそうなったら日曜日に変えてもらうしかないよな」

 

 急な仕事が入ってその日は無理になりました。そう伝えれば全ては丸く収まるだろう。事実その予定は部長からであるし、そうでなくても森子がそれを知る術は存在しないはずだ

 

「それに盛岡さんはゲームとリアルの線引きをしっかりしている人だし。変に勘ぐったりしないよな」

 

 それはわかっている。事実きっとそうなのだろう。だがそれならどうしてこんなにも心が落ち着かないだろうか。自分は何を望んでいるのだろうか。

 

「……ああ、今日は駄目だな」

 

 何となくログインをしたがゲームをするテンションではない。優太はマウスを動かしログアウトの画面を開こうとする。その時だ。

 

【林がログインしました】

 

林「リリィさんいた! 今どこにいますか??」

 

 ログインと同時に個別メッセージが飛んでくる。それに驚き誤クリックをすると、ログアウト画面が消去された。

 

「も、盛岡さん? どうしたんだろう慌てた様子で」

 

 とりあえず集まるのならギルドのたまり場がいいだろう。これからいつもの場所に向かいます。そう優太が打ち込もうとした時だ。リリィの足元に青い影がちらついた。

 

林「リリィさん!」

 

 ログインしてほんの数秒、林は迷うことなくこの場所に飛んできた。一体どうして? まだ居場所は伝えていなかったはずだ。それに林は何を慌てているのだろうか。

 

 優太の中で様々な疑問が浮かび続ける。しかしそんな優太の考えなど知るはずもなく、林は梯子を昇るとすぐにリリィの隣に座った。

 

林「えーっと、あのー、そのですね」

 

 そう打ち込みしばらくの間無言が続く。林の顔は無表情のままだ。だがそれでも画面越しの森子が何かを考えていることは手に取るように伝わってきた。

 

 そんな状態が3分ほど続く。優太は『どうかしましたか?』と文章を打とうかと考えたその時だ。

 

 

林「……もしかしてリリィさん何か悩み事がありますか?」

 

 的確な言葉に一瞬呆気にとられる。だがすぐに正気に戻ると、ふるふると首を左右に振った。

 

リリィ「ああ、この場所に居たからですか?」

 

林「いやもちろんそれもあるんですけど。あっ、えっと、俺の勘違いだったらほんと、何言っているんだーこいつって思ってもらっていいんですけど。……ジューンブライドイベント開始の辺りから何か悩んでいるのかなって思っていまして」

 

「――――ッツ!」

 

 今度の言葉は完全に的を射ていた。キーボードに添えた指が小刻みに震えるのがわかる。優太はその状態のままメッセージを打ち込む。

 

リリィ「ご、ごめんなさい、ゲームに集中できてなくて」

 

林「ゲームに集中できてないって、そんなことありませよ! むしろ俺のほうがスキルの設定できてなかったりでご迷惑をおかけしまして」

 

リリィ「いえいえ、そんなことないですよ」

 

林「いやいやいや」

 

リリィ「いえいえいえ」

 

 お互い謝罪のエモートを連打する。そんな今の状況を見て、優太の顔から少しだけ笑みがこぼれた。肩の荷の重しが軽くなったのを感じるとそのまま会話を続けた。

 

リリィ「実は会社のほうで少々面倒なことがありまして、それで悩んでいたんです」

 

林「やっぱりそうでしたか。イベント当日何か元気がないような気がしていまして。あと、仕事の電話が来たって言っていた時に、いつもとチャットの雰囲気が違うなって感じていまして」

 

リリィ「駄目ですよね。リアルの悩みをゲームに持ち込んじゃって。せっかく楽しむためにゲームをしているのに」

 

林「そなjなことありませんよ“」

林「そんなことありませんよ!」

 

 噛んでしまったきめ台詞を即座に打ち直す。何とも林らしく、文章を見直すことなく直に感情を伝えてくれたことがこれでもかというほど伝わってきた。

 

林「確かにリアルはリアル、ゲームはゲーム、私もそう思います。でもゲームをプレイしているのはリアルの私たちです。それにゲームに持ち込んでしまうほど桜井さんにとって辛い悩みだってことですよね」

 

 私という一人称、桜井さんという言葉から画面越しの森子の姿を思い浮かべる。画面越しでは当たり前のように顔色すら窺うことすらできない。気のせいだと流すことだっていくらでもできたはずだ。

 

 だとしても林は、森子は、会話をやめなかった。

 

林「私が困っていた時ギルドの皆さんは相談に乗ってくれました。桜井さんに至っては待ち合わせの日付を間違えた私のために息を切らして駆けつけてくれました。それにまだ私がユキだった時は、何度も、何度も、何度も桜井さんは私を助けてくれました。だから桜井さんが困っているのでしたら、私は桜井さんの力になりたいです‼」

 

リリィ「……林さん」

 

 そこまで話し終わるとしばらく間が出来てしまう。優太はなんて言葉を返すべきかと必死に考えていた。だがそれよりも早く林は謝罪のエモートを連打した。

 

林「って、こんな三十路ニートに何ができるって話ですよね! ごめんなさい、ごめんなさい。リアルはリアル、ゲームはゲームと言っておきながらいろいろずけずけと」

 

リリィ「そ、そんなことありませんよ。林さんの言葉、本当に嬉しかったです!」

 

林「いえいえ、そんなそんな。本当にごめんなさい」

 

 そう言って林は何度も何度も謝罪エモートを連打した。だが事実、森子の言葉に優太は本当に心救われていた。

 

 だがどれだけ文字を打ち込んでも林は謝るのをやめない。『リリィ』の言葉では『森子』には届かなかったのだ。

 

 優太はパソコンから離れると携帯をつかむ。そして最近登録したばかりのその番号に電話した。

 

 ワンコール、ツーコール、スリーコール。しばらくの間着信音が鳴り続ける。その着信は十五秒ほどしてようやく繋がった。

 

『さ、桜井さん……?』

 

 電話越しの森子の声は困惑の色があった。優太は森子が次の言葉を話す前に、まくしたてるように思いを伝える。

 

「俺は本当に嬉しかったですよ。盛岡さんが俺の不調に気づいてくれて、本当に、本当に」

 

『でも私、桜井さんに余計なことを』

 

「そんなことありません。……それとも、俺がハースの時にユキさんの相談に乗っていたのはご迷惑でしたか?」

 

『そ、そんなことありません! あの時は桜井さんが話を聞いてくれたから、だからしっかりと仕事をやり終えて会社を辞めることが出来たんです! そうじゃなかったら、私は途中で逃げ出してしまっていたかもしれません』

 

「俺も盛岡さんと同じですよ。盛岡さんが気づいてくれるまで、心のどこかできっとどうとでもなるだろうと半分諦めていたんです。でも盛岡さんのおかげで決心がつきました。すみません、今日は一旦ログアウトさせてもらいますね。ちゃんと自分の意思で決着をつけようと思いますので」

 

 取り繕った言葉でない。濁りのない真っすぐな言葉を聞くと、森子の声色も明るくなった。

 

『わかりました。桜井さん、ファイトですよ!』

 

「それと盛岡さん」

 

『はい?』

 

「後半のイベントも全力で楽しみましょうね!」

 

『……はいっ!』

 

 森子との通話を切るとそのまま電話帳の部長のページを開く。優太は一度大きく深呼吸をすると、着信を入れていくのだった。

 

 

 

 次の週の木曜日。先週と同じ居酒屋で優太と小岩井は晩酌をしていた。

 

「おねーさーん、生中追加ねー」

 

「ちょ、ちょっと小岩井さん飲み過ぎじゃないですか!」

 

「だって今日は桜ちゃんの奢りだもーん。まだまだ飲むからなー」

 

「……はぁ、まあいいですけどね」

 

 優太は呆れながらも変に気を遣わられず、しっかりと『奢られて』くれる小岩井に感謝する。小岩井は届いた生中を半分ほど飲み干すと、ご機嫌な様子で声を上げた。

 

「いやーしかしその女子大生も相当やんちゃだったんだねー」

 

「……本当にそう思いますよ」

 

「桜ちゃんとお見合いするために大学の彼氏4人を振って修羅場になるって。ってか4人同時に付き合える手際があるのに、どうして4人同時に振って問題にならないと思ったんだろうなー」

 

「事前に知れてよかったですよ。下手しなくてもその人たちに恨まれる可能性はあったので」

 

「でも桜ちゃんと付き合うためにしっかり全員振ろうとしているあたり、誠実何だか不誠実何だかなー。で、部長はなんだって?」

 

「今回の件のおかげで学生時代からの縁が切れて助かったって言っていましたよ。なんでも娘さんの父親が運動部の先輩だったらしくて、社会人になった今でも先輩風吹かせてどうしよもない要求をしてくることが多かったらしくて」

 

「部長もなまじ運動部だったせいで、変な習性が染みついちゃっていたんだろうなー。で、部長からは何か言われた?」

 

「何から何まで迷惑かけて申し訳なかったって。俺は大丈夫ですよって言ったんですけど、あまりにも謝罪が凄かったので、ちょっと1つお願いしちゃいました」

 

「おっ、桜ちゃんワルだな~」

 

 そう言う小岩井だが優太が部長の弱みに付け込んだとは思っていない。今優太が飲み代を奢っているように、それは部長の心の負担を失くすための小さなお願いだった。

 

 小岩井は残りのビールを全て飲み干すと口元をニヤニヤとさせた。

 

「で、ワルの桜ちゃんは部長にどんなお願いをしたのかな~」

 

「本当に些細なことですよ。……でも俺にとっては掛け替えのないことです」

 

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