これは俺の(私の)新しい友人(繋がり)の物語 作:雨宮季弥99
第1話
その日、俺は昨日に少々早く寝てしまっていたせいか、早く起きてしまった。ニャンコ先生も俺の隣でイビキをかいているし、さてどうしたものか。
そんな事を考えていると不意に窓が叩かれる音がした。そちらに視線を向けると、そこには見覚えのない妖が窓を叩いているのが見える。そのままうるさくされるのも困るので窓を開けてやる。
「こんな朝早くから何の用だ?」
俺が聞くと、妖は丁寧に頭を下げてきた。
「初めまして。夏目玲子様のご関係の方とお見受けします。玲子様がどちらにいらっしゃるかご存知ないでしょうか?」
妖の割に丁寧だな。妖全員がこんなのなら楽なんだが。
「玲子は俺の祖母です。そして……もう他界しています」
それを告げるとその妖は目を見開き、そしてその目から涙が零れ落ちていく。
「……さようでございますか……あれから短くない時が流れたとは思っておりましたが……残念でございます」
そう言うと、妖は少しの間泣き続けた。ヒノエと同じように、レイコさんを慕ってくれている妖怪なのか……。
「もしかして、友人帳に名前があるんでしょうか? それならば名をお返ししますが」
そう言いながら俺がハンカチを渡すと、妖は一礼してハンカチを受け取り、それで涙を拭う。
「そうですね……お返しいただけますか?」
妖の言葉に頷くと、俺は友人帳を取り出して目の前にいる妖に意識を向ける。すると友人帳から妖の名前が書かれた紙が開かれ、俺の前に現れる。それを口に噛み、俺は彼の名前を呼んだ。
「時渡。名を返そう、受けてくれ」
言い終えると紙から名が浮き上がり、時渡の中に吸い込まれていく。そして、時渡と玲子さんの記憶が垣間見えた。
「……ありがとうございます、夏目様」
名を受け取った時渡は深々と頭を下げてきた。
「む!? 夏目、そいつはもしや時渡か!?」
突然後ろから先生が声を上げてきて思わずビビる。さっきまで寝てたんじゃないのか!?
「先生、どういう妖怪なのか知ってるのか?」
「ああ。こいつは時空を渡って色んな場所に行く力を持っている。おかげで遠出するときとかには便利なやつだ」
「斑、間違ってはいないが、ザックリすぎるぞ」
先生の言葉に時渡がツッコミを入れるってことは、二人は知り合いみたいだ。
「ゴホン……夏目様。私の力ですが、まぁ大まかには斑の言ったことで間違いはありません。私は時空を渡り、様々な場所を渡り歩いています。現状、地球上ならどこでも行けるでしょう」
「それは凄いな」
確かにそれなら先生が便利扱いするのもわかるが……。
「夏目様。よければ私の力をお使いしますか? 玲子様は結局一度も私の力をお使いにはなりませんでした。このまま去るというのも名残り惜しゅうございます」
「うーん……突然言われてもなぁ……」
地球上のどこへでも行けるってのは凄いけど、いきなり言われても流石に困る。変な場所に行くのもなぁ。
「あ、そうだ。今度田沼と一緒に行く森の下見に行ってみるか」
俺はふと田沼と遊びに行く場所のことを思い出した。あそこはちょっと離れてるし、時渡の力で行けるなら楽でいいな。
「なんだ、あんな場所へ行くのか。つまらんな」
「別にいいだろ。じゃ、用意するからちょっと待っていてくれるか?」
「わかりました」
時渡を待たせて俺は服を着替える。後、念のため友人帳も持って行っておくか。俺が留守の間に妖にとられるわけにもいかないからな。
「わかりました。それでは行きますよ」
そう言って時渡が両手を合掌すると、眩い光が俺たちを包み。そして光が晴れたと思うと、そこは森……森?
「……なんだここ?」
周りは確かに森だ。だが、木や植物が明らかに日本のものと違うし、何より空が真っ暗。まるで真夜中のようだ。
「おや……これはこれは……どうやら夏目様の縁の糸に引っ張られてしまったようですね」
「時渡? 何のことだ一体?」
「申し訳ありません。私の時を渡る力はこの世と別の世界とを利用しております。しかしその時事故が起きることがあるのです。移動するときに一緒にいる相手と強い結びつきのある相手が世の中にいる場合、時折その糸に引っ張られる形でそこに移動してしまうのです」
「事故だって!? ……じゃぁ、ここはどこなんだ?」
俺が問いかけるが時渡は首をかしげる。
「さて……夏目様にとって大きな縁の糸で結ばれた相手が近くにいるぐらいしかわかりませぬ」
「……なんだよそれ」
時渡の説明に俺は呆然とするしかなかった。
「まったく、迷惑な事故だな。しかし、折角来たんだし、何か美味いものでも探すか」
「そうですね。夏目様と強い縁を持つ相手がどのような方なのかも気になりますし、少し散策をしましょうか、斑」
そう言うと、時渡はニャンコ先生の上に乗って茂みの中に潜り込んでいく。
「お、おい!? 置いていくな!」
こんなところで一人にされたらたまらない。俺は慌てて二人を追っていく。しかしなんだこの森は? まるで何かが通ったかのような跡が光っているせいで昼ほどじゃないけど明かりには困らない。妖が通った後なんだろうか?
「……む? 向こうから何か気配がするな。行ってみるぞ夏目!」
「わ、待ってくれ先生!」
突然走り出した先生を追って俺も走るしばらくすると、俺は広間のように開いている空間に出た。その真ん中には誰かに積まれたかのように石が積み重なっていて、そのすぐ近くには俺と同じぐらいの女性と……その女性の腕を取っている妖がいた。
「あれは?」
「おや、これはまずいですね。あの石の中はこの世とは違う。あの少女、このままではこの世ではないどこかへ連れていかれるかもしれません」
「なんだって!? くそっ!」
時渡の説明を聞いた俺はすぐに少女に向けて走り出した。