これは俺の(私の)新しい友人(繋がり)の物語   作:雨宮季弥99

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第3話

 家の居間で俺達は互いの事情を話し合った。羽鳥は小さいころから妖(ニャンコ先生曰く、都市部に出てくる澱みのようなもので、妖怪とはまた別のものらしいが)に襲われて、両親が死んでからは親戚をたらい回しにされ、最後に違法なオークションに自ら出品して、今俺の目の前に居る骨頭の魔法使い……エリアスさんに買われたのだと言うことを。

 

 そして俺からは、小さいころから妖が見えていたこと。祖母と縁のある妖、時渡の力でここに飛んだ事。そして森の中で羽鳥が妖に連れ去られそうになっていたから慌てて止めた事を伝えた。

 

「なるほど……しかし、日本からここまで来るなんて、そこの妖怪は相当力があるみたいだね」

 

 俺の説明を聞いたエリアスさんがそんな事を言ってる。そう言えば、ここはどこなんだ?

 

「あの。ここってどこなんですか?」

 

「ここかい? ここはロンドンの西、イングランドの端っこだよ」

 

「ロ! ロンドン!?」

 

 まさかそんな所まで来てたのか! 確かに時渡は地球上どこでも行けるとは言っていたが……。

 

「……フフッ……あ、ごめんなさい。私と同じような反応だったからつい」

 

「同じような反応って……羽鳥も日本からここに一瞬で?」

 

「はい。オークション会場から本当に一瞬で……驚きますよね」

 

 ……と言うことは、エリアスさんも相当力の強い……魔法使いだったか。それになるんだろうか。

 

「なるほどなるほど、そう言った経緯があったのですね。しかし、人ならざる者が人の子を買うとは。面白いものですな」

 

「別にルールを破っているわけではないからね、それぐらいの融通はきくさ。さて、互いの事情については話し合ったけど、君たちはこれからどうするつもりなんだい?」

 

「俺達は日本に帰ろうと思います。こんな夜分にお邪魔してしまう形になってしまいましたし……。家の人にも心配をかけてしまう前に帰らないと」

 

 あれから何時間経ったか……早く帰らないと塔子さん達が心配するかもしれない。

 

「夏目君の家の人って……夏目君が妖怪が見えることは知ってるんですか?」

 

「いや、知らないよ。心配かけたくないから言ってないんだ」

 

「そう……なんですか……」

 

 俺の返事を聞いた羽鳥声が少し暗くなったような気がしたのは、きっと気のせいじゃないんだろう。だが、俺はどう返事すればいいかわからなかった。

 

「……あれ、そう言えば先生は?」

 

「む? そう言えば姿が見えませぬな」

 

 そう言えばさっきから先生の姿が見えない。途中までは一緒にいたはずなのに。

 

「あの猫の事かい? あれなら銀の君が連れて行ってたよ」

 

「え? シルキーが……ですか?」

 

 シルキー……ここに来た時に居たあの女性のことだろうか? 彼女が先生を?

 

「は~な~せ~」

 

 ふと耳に先生の声が聞こえてきた。どうもさっきまで話に集中してた製で聞こえてなかったみたいだ。

 

「えっと……ちょっと失礼します」

 

 一声断ってから俺が声の下方向に行くと、そこは台所だろう。魔法使いの家という割には近代的なキッチンが用意されてるが、俺の目に入ってきたのはそんな台所の中で先生を抱きしめているシルキーさんと、腕の中でもがいている先生の姿だった。

 

「せ、先生……?」

 

「な、夏目! こいつを引き剥がしてくれ! こいつ、ずっと吾輩を離さないのだ!」

 

 俺に気づいた先生が助けを求めるが、シルキーさんは……無表情だけど、でもなんか凄い嬉しそうな気配を漂わせながら先生を抱きしめている。もしかして多軌と同じ感性なのか?

 

「え……と……シルキー? その……離してあげて?」

 

 羽鳥も困惑してるのか、恐る恐る声をかけるが、シルキーさんはイヤイヤと首を横に振って先生を離そうとしない。

 

「あの……すみません。俺達もう帰らないといけないんです。申し訳ないですが、離して貰ってもいいですか?」

 

「そう言うわけなの。シルキー、離してあげて」

 

 二人でお願いすると流石に事情がわかったのか、シルキーさんは凄く残念そうな気配を漂わせながらも先生を離してくれた。

 

「ふぅ。まったく、多軌といいこやつといい、吾輩を可愛がるのは構わんが、度が過ぎる」

 

 そう言ってため息をつく先生を抱え上げ、俺は家の外に出る。

 

「さて……と、時渡。俺の家に帰りたいんだが……もう事故は起きないよな?」

 

「ええ。今回の事故は夏目様と強い縁のあるものがこの地にあったからですので、流石にもう起きないでしょう」

 

「……そんなの言ってたな。一体何なんだ? 俺と強い縁のあるものってのは」

 

 こんな縁も縁もない土地にそんなものがあるなんて思えないんだが……。

 

「ええ、それは彼女、羽鳥智世さんです」

 

 あっさりと断言された言葉に俺は声を失う。羽鳥が俺と?

 

「え? どういう事……なんですか?」

 

「さて、縁の理由まではわかりませんが……夏目様と羽鳥さんは強い縁で結ばれております。もし羽鳥さんが日本に居続けたなら、いずれお二人は出会うことになっていたでしょう」

 

 その言葉に俺と羽鳥は互いに顔を見合わせる。

 

「……そんな不確かな言葉を信じる必要はないよ、チセ」

 

 不意にエリアスさんがチセを後ろから抱きしめた。

 

「気にしなくていいよ、チセ。縁なんて不確かで確認ができないような言葉、気にする必要はない」

 

「えっと……エリアス? その……」

 

 まるで言い聞かせるように何度も言うエリアスさんに羽鳥は困惑している。俺もエリアスさんの突然の行動に困惑してしまう。

 

「……さて、夏目様。そろそろ帰りましょう、斑も早く帰りたそうにしておりますし」

 

「当然だ、そろそろ帰らねば朝食を食べ損ねてしまうではないか。さぁ、さっさと帰るぞ」

 

 そう言われてはどうしようもなく、俺は時渡の近くに寄る。早く帰らないと。

 

「あの……夏目君!」

 

 後ろを振り向くと、羽鳥がエリアスさんの腕の中から抜け出して俺の傍まで来ていた。

 

「あの……また、会えますか?」

 

 その言葉に俺は一瞬声が詰まった。ここに来たのは俺の力じゃないし、時渡が俺に力を貸してくれるかどうか……。

 

「私は別に構いませんよ、夏目様」

 

「……本当にいいのか?」

 

「ええ。これも何かの縁でございます。当分はお付き合いしましょう」

 

「……そう言うわけだから、また遊びに来るよ」

 

「……はい、お待ちしています!」

 

 そう言って俺の手を取る羽鳥。さっきまでの不安そうな顔から一転して笑顔になった彼女に俺もつい笑みが浮かんでしまう。

 

「そうだ、羽鳥さん。これをお渡ししておきましょう」

 

 不意に時渡が懐から手のひらに収まるぐらいの大きさの青い石を取り出して羽鳥に手渡した。

 

「これは?」

 

「これは目印でございます。それがあれば私の力で移動するときに羽鳥さんの元へ移動することができます。その石に念じていただければ、来て欲しいと伝えることもできますよ」

 

 時渡の説明に羽鳥はしばらく石をジッと見つめて、それから嬉しそうに笑った。

 

「さて、それでは行きますよ」

 

 時渡がそう言うと、俺の周りが眩い光に包まれ、そして光が収まったと思うと、そこは俺の部屋だった。時間を確認すると7時ちょうど。どうやら塔子さん達に気づかれる前に帰ってこれたようだな。

 

「無事に戻ってこれたか……良かった」

 

「やれやれ、まったくあの女め……。さて、さっさと朝食を食いに行くぞ。ドタバタして腹が減ったわ!」

 

 そう言って先生は部屋を出て行った。まったく、あの食いしん坊は。

 

「さて、それでは私もこれで失礼しましょう。もし御用がある時はこの石を持って私の事を念じてください。それでは」

 

 そう言うと時渡は羽鳥に渡したのと同じような石を俺に手渡し、窓から出て行った。

 

「……羽鳥智世……か」

 

 石を手にしながら俺はさっきまで一緒にいた少女を思い出す。俺と強い縁があるという彼女……俺と同じ、妖をハッキリと見ることができる……祓い屋じゃない、一般人。

 

「……もし、日本で会っていたら……どんな関係になれたんだろう」

 

 そんな事を考えていると、塔子さんが俺を呼ぶ声が聞こえた。俺は慌てて返事をして、リビングに降りて行った。

 

 

 

 

 

 

 光が収まると、そこには彼らの姿はなかった。まるで夢でも見ていたかのように。

 

「ようやく帰ったね……まったく、驚いたよ」

 

 後ろからエリアスがそんな事を言うのが聞こえた。

 

「本当……驚きました。あんな妖怪と仲良くしてるなんて……」

 

 私が知っている限り、日本で見てきたのは全部、あのニャンコ先生と言うのが言っていた、澱みのようなものばかりで、あんな昔話で出てくるような妖怪なんて見たことはなかった。夏目君はどうやって彼らと知り合って、あんな親しくなれたんだろう?

 

「それもあるけどね、僕が驚いたのは夏目の魔力と、あの猫だよ。正直恐ろしいね、あの二人は」

 

「え? そんなに凄いんですか?」

 

 とてもそうは思えない。確かに彼は私と同じ目をしてるけど、とてもそんな風には見えなかった。

 

「そうだよ。夏目のほうは人間にしてはとんでもない魔力を持ってる。もし魔法使いとして勉強したら、歴史に名前を残せるかもしれないね。それに、あの猫……あれはとんでもなく強力な力を持っている。おまけに僕ととても相性が悪い。もし彼が暴れでもしたらまずかったね」

 

 サラリと言われたエリアスの言葉に私は固まる。あれが? あんなブサかわいい系の猫がそんな力を? それに夏目君もそんなに強いの?

 

「まぁ、そんな事より今日はもう休もう。随分遅くまで起きてしまってるからね」

 

 そう言うとエリアスは私を抱え上げて家に歩き出す。確かに、今日は色々あってとても疲れた……。私の部屋だと案内された部屋のベットに寝そべると、すぐに睡魔が私を襲ってくる。

 

(また……会えるかな? 夏目君……)

 

 眠りに落ちる私の脳裏に映っていたのは……私と同じ、見える力を持っているあの人の姿だった。

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