これは俺の(私の)新しい友人(繋がり)の物語 作:雨宮季弥99
第5話
オベロン達と会ってからしばらく時間がたった。あれから学校とか妖の事とかで忙しかったけど、そろそろ羽鳥の体調も回復してるだろうか。今日も学校が終わったし
「夏目、最近ボーッとしてることが多いけど、どうかしたのか?」
「え? そうか?」
不意に隣を歩いている田沼にそんな事を言われたが、そんなにボーッとしてたか?
「ああ。もしかしてまた妖関係でなにかあるのか?」
「ああ……いや、妖とはまた違うんだけど……」
どう説明すればいいかな。危険なことに関わってるわけじゃないけど、ロンドンに行ってるなんて事を言っても信じてもらえるかどうか。
「夏目様、夏目様」
「ん? 時渡?」
不意に道の脇から時渡が姿を現したその後ろからニャンコ先生も。
「あれ、先生と……もしかしてまた妖がいるのか?」
「ああ。でも大丈夫な奴だから」
田沼に声をかけつつ時渡のほうを向き直ると、時渡は真剣な声音で話し始めた。
「夏目様。羽鳥様の石から反応がありました。それもかなり切迫されているもようです」
「切迫した模様!? 羽鳥に何かあったのか!」
「そこまでは私には……どうされますか?」
「すぐに行こう。先生も構わないよな」
「ヤレヤレ。お前はまた面倒ごとに首を突っ込むのか」
「悪い田沼。ちょっと用事ができた」
「あ、夏目……!」
田沼が何か言うよりも先に俺は時渡の力で羽鳥の元へ飛んだ。
彼は起き上がった。銃で撃たれたはずなのに、頭から血を流しながら彼は立ち上がった。銃で撃たれた目の部分からは何本も触手が蠢いていて、そして、彼の後ろに暗闇ができたと思ったら、そこから人間……じゃない。人間の上半身に蜘蛛のような下半身。でも、足の部分は人間の腕や足でできてる。そして彼女の上半身を私は知っている。彼の記憶の中に出ていたイザベラ……彼女だ。彼女の死体が。
私の質問に彼は笑いながら答える。彼のせいであの二人は悲惨な事になった。多くの猫たちも死んだ。それをなんでもないかのように笑いながら……渡せない。あいつにこの子の事は絶対に渡さない!
体の中の魔力が暴れだす。エリアスの言葉が頭の中を滑っていく。相手が蜘蛛ならベッコウバチ。蜘蛛の天敵を……!
「わっ!」
「おわあ!」
私がベッコウバチを呼ぼうとしたその瞬間、あいつと私の間に割って入るように見覚えのある人が出現した。夏目……夏目君!?
「イタタ……こ、ここは?」
「……夏目、注意しておけ。あれは相当質が悪いぞ」
体を起こした夏目君とニャンコ先生はあれを目の当たりにしてすぐに警戒の体勢に入った。
「あれぇ? なんだい君たち? ……ふーん、面白そうだね。こんな力を持ってる人間は中々見ないよ」
あいつの視線が夏目君たちに向けられる。いけない! 夏目君たちを危険な目に合わせるのは……!
私が動こうとしたその時不意に私たちの周りを靄が覆い隠す。一瞬途切れる視界。だが次の瞬間、私達の目前からあいつもイザベラも消えていた。
「ここら辺なら墓からも遠いしあのヤローもそうそう追ってこないだろーヨ」
「助かったよ青い火」
見覚えのないフードを被った小柄な人物。エリアスが彼はウィル・ウォーウィスプという隣人だと教えてくれる。だけど、私はそれどころじゃなかった。体が熱い、全身の血が凄い早さで巡っている……気がする。これがエリアスの言いつけを守らなかった反動……?
「羽鳥! 大丈夫か!?」
夏目君の声が聞こえる。彼が手を握ってくれる。その声を聞いていると、彼の体温を感じていると、徐々に呼吸が落ち着いてくる。
「夏目、どいて。チセ、大丈夫だよ。落ち着いて」
夏目君の手が離れてエリアスが近づいてきた。そうだ、私、エリアスに謝らないと。
「エリアス……ごめんなさい。私、言いつけを破って……」
「次から気を付けて……それでいい」
そう言って私の頭に顎を擦り付けてくるエリアス。ようやく落ち着いた私はまず夏目君に向き直った。
「夏目君……どうしてここに?」
「え。羽鳥が時渡の石に呼びかけたって聞いたんだけど……」
「え……あ」
そうだ、最初にあいつに肩を切られたときに反射的に夏目君のことを考えたっけ……。
「うん……ごめん、無意識に呼んだみたい。ごめんね、こんな危険な状態で呼んじゃって……」
「大丈夫。羽鳥が無事なら良かったよ……でも、あれはいったいなんなんだ? 人間……じゃないみたいだけど……」
「……そうだ。エリアス、あいつは何なんですか? ウルタールの澱みの中でもあいつを見たんです」
私がエリアスに質問するとレンフッドさんが代わりにあいつの正体を教えてくれた。その間に私はまた体の血の勢いが早くなったけど、ウィル・ウォー・ウィスプのくれた石炭が私の体から嫌なものを抜いてくれるようなあたたかを感じさせてくれる。
そして、ウィル・ウォー・ウィスプが彼の足を叩き、叫ぶ。すると、彼の姿が人間の姿がどんどん犬の姿になっていった。彼は少しの間そのままだったけど、少しして私の所へ来た。
「知世、俺をお前の傍に連れて行ってくれないか」
突然の言葉。そこから続く言葉にウィル・ウォー・ウィスプが叫ぶ。理由もわからず、彼が言った結び。という言葉を反射的に返すとエリアスが説明してくれる。契約の意味を知った私は思わず声を上げるけど、彼はそれでも契約を求めた。
「……イザベルは待たなくていいの……?」
私の問いに彼が答えようとした時、不意に樹の上から声が聞こえた。上を向くと、そこにはあいつとイザベルが座っていた。いつの間に!?
「カルタフィルス!」
「その名前を呼ぶなって言ってるだろ!」
カルタフィルスがそう叫ぶとイザベルの髪がこちらに向かって突き出される。槍のように尖った髪がこちらに届くと思ったその前に、突然ニャンコ先生の体が煙に包まれたと思うと、そこに居たのは巨大な獣だった。
「消えろ!」
ニャンコ先生が叫ぶと同時に強烈な光が放たれて思わず目を閉じる。目を閉じている間にカルタフィルスの声が上がり、なんとか目を開けると、そこにはカルタフィルスの左腕を食いちぎったニャンコ先生の姿があった。
「……酷いなあ。使い慣れた腕が無くなると不便なのに。でも、これで済んだって思っておこうかな」
イザベルに庇われつつカルタフィルスはなんでもないように喋っている。やっぱりあれは異常だ。
「ニャンコ先生! あれは一体なんなんだ!?」
「詳しくはわからんが相当に質が悪いぞ。お前は下がっていろ」
夏目君もカルタフィルスの様子に驚いてる。
「頼む……チセ。あいつに絡めとられるより―――ここにいるより、俺はお前の……」
彼がそう言って私を見上げる。そんな彼を私は抱きしめた。
「大丈夫。もう独りになりたくないのは私も同じだから」
この言葉を合図に私達は契約を結んでいく。互いの手を繋ぎ、彼の後に続いて言葉を紡いでいく。そして最後……彼にルツと名付けた事で契約はなされた。
契約が終わった途端、ルツはイザベルに向かって走り、彼女の喉を噛み千切る。そうして、イザベルは息を引き取った。
それを見たカルタフィルスはレンドリフトさんの言葉にあっさりと引き下がる。エリアス達と会話を交わした後、彼はその場で霧のように姿を消した。それを見届けた後、私はルツに駆け寄り声をかける。その時アリスさんが連絡先を書いたカードを渡してくれた。そして、レンドリフトさんとアリスさんはこの場を去っていった。
「……気味の悪ィヤツだったなァ。さてと……オレはこいつをあっちまで送ってやんなきゃナ」
ウィル・オー・ウィスプはそう言うとイザベルだった灰の塊が青い炎に包まれる。そして彼はイザベルの魂を連れて行ってしまった。
「……じゃ僕たちも帰ろうか。説明だのなんだの明日にしよう、疲れたでしょ」
「はい」
「小言も帰ってからね」
「……はい」
きっと色々と言われるんだと思う。でも仕方がない事だから。エリアスの言いつけを守らなかったんだから……いや、それよりもまずやらないといけないことがあるんだ。
「夏目君! 今日はその……ごめんなさい。私のせいで迷惑をかけちゃって……」
「大丈夫だよ。羽鳥が無事で本当によかった。でも、あれはいったいなんなんだ? あれも魔法使い……なのか?」
夏目君の疑問に私は答えることができなくて思わずエリアスのほうを向く。
「夏目。その辺の事はまた後日説明するよ。今はチセを休ませたいんだ」
「……そうですね。それじゃぁ、俺達はこの辺で失礼しますね」
「あ……待って!」
慌てて夏目君の腕を掴むと、夏目君は不思議そうに私を見返してくる。
「……あ、明後日。明後日にまた来てください。できる限りのお礼をしますから……」
「……別に大した事はしてないよ。でも、楽しみにしておくよ」
そう言うと夏目君は帰って行った。明後日……どうしよう、勢いで言っちゃったけど、どうしたらお礼になるんだろう。そんな事を考えているうちに私はエリアスに抱き上げられて家に連れていかれていた。新しい家族……ルツと一緒に。
「……ふぅ。疲れたな」
「ふん、厄介な奴に目をつけられたかもしれないというのに呑気な」
「まぁ、あまり心配しなくても良いのではいか、斑よ。流石にこの国にまで手を伸ばすこともあるまい」
……あいつは一体なんだったんだろう? エリアスさんは知っている様子だったけど。
「先生、時渡。あれはいったいなんだったんだ?」
「さてな。だが、厄介な相手なのには変わりあるまい」
「ふむ……確証は持てないのではっきりとは言えませんが、私も斑と同じ意見です。なるべく関わり合いにならないのが一番だと思います」
二人はそう言うが、もしあれが今度も羽鳥達に害を為すのなら俺も何かしてやりたい。
「……でも、あれがもし羽鳥に何かするのなら、俺はできるだけ羽鳥の助けになってやりたい」
「ふん、おまえの言いそうな事だ……仕方ない、ちゃんと旨いもんを用意するんだぞ」
「私もお手伝いしますよ。これもまた縁でしょう」
二人がそう言ってくれて俺はホッとする。きっとあれは俺一人でどうにかできるやつじゃない……だからこそ、羽鳥があれに狙われるなら手助けをしてやりたいんだ。
(羽鳥……大丈夫だよな)
もしかしたら余計なおせっかいなのかもしれない。でも、俺は彼女の手助けをしてやりたい。だって、彼女は唯一の……妖が見える一般人の知り合いなんだから。