これは俺の(私の)新しい友人(繋がり)の物語   作:雨宮季弥99

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割と本気でこの辺を書きたくてこのシリーズを始めました。


幕間
幕間 チセが抱く淡い想い


 ルツと家族になってから二日後。私はシルキーに手伝ってもらって夏目君の為の料理を作っていた。昨日時渡に来てもらって夏目君が来る時間を確認した私は、急いでシルキーにお願いして夏目君へのお礼の料理を作っていく。シルキーが作るのはどれもこっちの料理だから私は手伝えることがほとんどないけど、それでも一所懸命に用意していく。

 

「うん……こんなところかな。シルキー、手伝ってくれてありがとうね」

 

 料理を作り終えた私はシルキーにお礼を言うと、彼女も無言のまま頷いてくれる。さぁ、後は夏目君たちが来てくれるだけだ。

 

 いつ彼が来るのかとソワソワとしながら待っていると、程なくして庭に一瞬強い光が現れたと思うと、ドアがノックされた。出ると、やはりそこには夏目君、ニャンコ先生、時渡の三人が立っていた。

 

「やぁ、羽鳥。お邪魔してもいいかな?」

 

「もも、勿論! ささ、中に入って入って」

 

 夏目君の手を引っ張って私は彼をリビングに案内する。そこには事前に用意しておいた料理が並べられていて、シルキーが準備を終えてくれていた。

 

「へぇ、美味しそうだな。羽鳥が作ったのか?」

 

「う、うん。シルキーにも結構手伝ってもらったけど……私も頑張ったんだよ」

 

「そうなのか、ありがとうな羽鳥」

 

 うう、こうしてお礼を言われるなんていつぶりだろう。お母さんが死んでからは本当になかったもんなぁ。

 

「おい羽鳥。あの半端者はどこにいる。姿が見えないと気になるんだが」

 

 シルキーに抱きしめられながらニャンコ先生がそんな事を言ってきた。半端者……確かエリアスの事だったような。

 

「エリアスなら今は寝室にいるよ。この間からちょっと篭りっぱなしだけど、夏目君が来ることは了解してるから」

 

「そうなのか。それじゃぁまずかったかな。エリアスさん、俺の事好きではなさそうだし……」

 

「あまり気にされずともよろしいかと。もしエリアス殿が本気で嫌がるなら了解などしていないでしょう」

 

 時渡の言葉に夏目君は少し不安そうにしてる。ダメダメダメ、ここで申し訳ない気持ちにしたらお礼にした意味がない。

 

「夏目君、エリアスも別に夏目君の事を嫌ってるわけじゃないから、気にしないで。ほら、料理が冷めるちゃうよ」

 

「あ、ああ。わかった」

 

 夏目君は納得してくれたのか席についてくれる。そうして彼は料理に手を出してくれた。

 

「ん……これ、美味しいな。日本じゃあんまり馴染みのない味だけど」

 

「あ、それ私も最初そう思ったよ。でもけっこう美味しいよね」

 

「そうだな。美味しいよ」

 

 私の作った料理を美味しそうに食べる夏目君に、今日彼を招待出来て本当に良かったと思えた。自分がこうして誰かのために料理を作ることになるなんて思ってもなかったから。

 

(……これが誰かのために何かしてあげる喜びなのかな)

 

 夏目君やにゃんこ先生、時渡と話、シルキーやルツと一緒に過ごし、私はこの時を楽しむ。ずっと諦めていた友達とのひと時を楽しむ。そして、既に料理を全て食べ終えた後、シルキーは食器を片付けに入った。私も手伝おうとしたけど、シルキーに止められてしまい、今も夏目君と一緒にいる。

 

「ん……?」

 

「どうかしたの?」

 

 ふと夏目君が眉間に皺を寄せて耳の中に指を突っ込む。

 

「ああ……こないだから耳の中になんか妙な違和感があって……」

 

「ちょっと、見せてくれる?」

 

 一言断って私は夏目君の耳の中を横から覗く。光はあまり入らないけど……あ、これかな?

 

「あ~、多分これだ。耳垢が引っかかってるよ」

 

「え、そうなのか……仕方ない、家に帰ってからなんとか取るか……」

 

「え、夏目君って耳かきできるの?」

 

「ああ、一応は。頼める相手がいなかったしな」

 

 ……そうか、夏目君や私の立場だとそんなの居なかったよね……。うん。

 

「……夏目君、私が耳かきしてあげる。大丈夫、私もできるから」

 

「え? い、いや、流石に悪いよ羽鳥」

 

「だ、大丈夫! ちゃんとやれるから!」

 

 断られた私はつい意地になって夏目君へ詰め寄る。そこからしばらくの間夏目君と言いあった後、私は強引に夏目君を自分の膝の上に寝かせていた。

 

「な……なぁ、羽鳥。本当に良いのか? その、エリアスさんとか……」

 

「だ……大丈夫。これぐらいでエリアスも怒らないから……」

 

 ……ど、どうしよう勢いに任せてここまでやっちゃったけど。こ、こうなったら全部やるほうがいいよね……。

 

「シ、シルキー。耳かき取ってくれる?」

 

 シルキーにお願いすると、彼女は耳かきをと言われて首を傾げた。

 

「あれ、シルキー。耳かきってここにはないの?」

 

「羽鳥さん、イギリスでは耳かきの習慣はないですよ。耳かきよりも綿棒のほうがよろしいかと」

 

「え、そうなんだ……じゃぁシルキー。綿棒と……あ、そうだ、ティッシュ取ってきてくれる?」

 

 時渡の言葉に驚きながらもシルキーに改めてお願いすると、彼女は程なくして綿棒とティッシュを取ってきてくれた。

 

「じゃ……じゃぁ、やるね、夏目君」

 

「な……なぁ、羽鳥。本当にやるのか? 俺は別にやらなくても……」

 

「だ、大丈夫だから!」

 

 なおも渋る夏目君に私はふと自分の事が重なった。だから余計に夏目君を逃がすわけにはいかない。

 

「ん……と。まずは外側から……」

 

 まず、外の部分を綿棒で擦っていく。ゴシゴシと擦っていくと、白い綿棒が徐々に黄色く染まっていく。

 

「わ……夏目君の耳、けっこう粉がついてるね」

 

「そう……なのかな? そう言えば最近はドタバタしてたからなぁ……」

 

「それって、妖関係で?」

 

「ああ。ちょっと……な」

 

 そこで夏目君が言い淀んでしまったのでちょっと会話が途切れちゃう。ああ、きっと彼も何かあったんだとわかるから。

 

「……夏目君、ちょっと汚れすぎだよ。ほら、もう綿棒が一本こんなに汚れちゃった」

 

 気を取り直して私は夏目君の耳を擦っていた綿棒を彼の前に移動させる。元々は真っ白な綿棒だけど、夏目君の耳の粉を絡めとったおかげですっかり黄色くなってる。

 

「うわ……確かにこれは汚れすぎだな」

 

「でしょ。折角だし今日はちゃんと綺麗になるようにしてあげるね」

 

 そう言って私は次の綿棒で夏目君の耳を擦っていく。今度は流石に汚れ切る前に夏目君の耳を擦るのを終えることができた。だから次はその奥に視線を向ける。

 

「今から奥に入れるから。動かないで」

 

「あ、ああ」

 

 夏目君に注意してから私は慎重に綿棒を奥に入れていく。よく考えればこうして他人に耳かきをするのは初めてだ。これまでは勢いでやれたけど、ここからは慎重にやらないと。

 

「ん……塊あった」

 

 上から覗き込んだだけでも夏目君の耳の中には耳垢がいくつか見える。まずは一番手前のやつを突いてみると、微かに動いた。

 

「あ、これは簡単に取れそう。行くよ」

 

 綿棒で慎重に耳垢を擦り、剥がしにかかる。何回か擦る事で徐々に耳から外れていく塊を下に落としたりしないように慎重に擦っていき、ついにポロッと取れた耳垢を綿棒で絡めとり、外へ運び出す。

 

「よし……一つ目が取れたよ夏目君」

 

「ん……結構大きいな」

 

 ティッシュの上に捨てた耳垢を見て夏目君が呟く。

 

「うん。他にも塊あるから、しっかりとってあげるね」

 

「ああ、頼むよ」

 

 あ、夏目君が素直になってくれた。よし、これは頑張らないと!

 

「じゃぁ次に取り掛かるね。……あー、これは固いかも」

 

 次の塊は綿棒で突いても中々動く気配を見せない。ちょっと時間かかっちゃうかな。

 

「夏目君、ちょっと時間かかりそうだけど……じっとしててね」

 

「わ、わかった」

 

 夏目君の頭を押さえて、ゆっくりと耳垢を擦っていく。う、けっこう手間取りそうだなぁ。でも焦っちゃダメ。

 

「ぐ……羽鳥、ちょっと痛痒い……」

 

「ご、ごめん。もうちょっとだから」

 

 夏目君の眉間に皺が寄っているのを見た私は慌てそうになるけど、それでもなんとか綿棒を慎重に動かしていって、おかげで何とか少しずつ剥がれてきた。

 

「う……すげー指突っ込みたい」

 

「だ、ダメだよ。まだ我慢して!」

 

 膝の上に置かれた彼の手が拳を作っている、気持ちがわかるけど、変に動かれたら下に落ちちゃう。

 

「ほら、夏目君落ち着いて……ね」

 

 そう言って昔お母さんがやってくれたように頭を撫でてあげる。あ、髪柔らかくて触ってるのも気持ちいい。

 

「う……は、羽鳥。流石にそれは恥ずかしいんだけど」

 

「ご、ごめんね。すぐにとるから」

 

 夏目君の言葉に気を取り直した私はすぐに耳垢を取りにかかる。よし、もうちょっとで……取れた!

 

「はい、お待たせ夏目君。ちゃんととれたよ」

 

「ああ……すっげー痒かった」

 

 痒みから解放された夏目君がちょっと頬が緩んでる。うん、気持ちいよね。わかるなぁその気持ち。でもまだだよ。

 

「夏目君、こっちの耳は終わったから、後は反対側の耳ね」

 

「え、いや、本当に良いよ。そっちは別に痒くは……」

 

「ここまでしたんだからもう片方やっても一緒だよ。ほら、反対側見せて」

 

 そう言って夏目君の肩を叩くと、夏目君は観念したのか一度体を起こし、体を反対側へ持っていって膝の上に頭を置いた。

 

「じゃ、始めるね」

 

 そう言って私は夏目君の耳かきを始める。片方の耳を終えたことで私自身の緊張もほぐれていたのか、少し肩の力が抜けてるのが自分でもわかる。そうして改めてみると自分の膝の上に頭を置いている夏目君がなんだか可愛くて、耳かきをしてるのも楽しくなってくる。

 

「夏目君、こっちはそんなに大きな塊ないけど、大丈夫? 痒くない?」

 

「ああ……だいじょ……ぶ……」

 

 気のせいだろうか、なんだか夏目君の声に力がない気がする。それでも特に気にすることなく耳かきを進めていって、そして粗方綺麗になった。

 

「夏目君、終わったよ……あれ?」

 

 夏目君の反応がない。彼の顔を見てみるとその眼は閉じられていて、口からは僅かに寝息が漏れ出てる。

 

「……寝ちゃってる」

 

 そう言えば、昔母さんに耳かきしてもらった時の私も、大体こうして寝ちゃってたっけ。

 

「……夏目君って、綺麗だよね」

 

 じっくりと彼の顔を観察してみる。彼の顔は中世的と言うよりやや女性よりで、正直ちょっと嫉妬してしまう。髪も柔らかく、パッと見では本当に女性と見間違えるだろう。でも。

 

(目の下……よく見たら隈ができてる。それに、小さな傷も)

 

 こうして顔を近づけたら見えた隈や小さい傷はきっと夏目君が妖と何かあったのが原因なんだろう。彼の家は彼が妖が見えることを知らないんだって言ってた。エリアスに守られてる私と違って、彼には守ってくれる人間は居ない。ニャンコ先生は用心棒だって言ってたし、あの姿の時はきっと頼りになるんだろうけど……。

 

(……私が魔術を身に着けたら、夏目君の力にもなれるかな)

 

 ふとそんな考えが頭を過る。彼と知り合ってから会った事はほんの数回だけど、私は夏目君の事がとても好きだし、夏目君の周りの事もわかるつもりだ。だから、彼に力になってあげたい。その為にも。

 

(……まずは、夏目君が気軽に妖の事を話せるって判断してもらえるようにならないと)

 

 きっと今の私じゃ夏目君の相談相手にもなれない。だから、まずはそこから始めよう。でも、取り合えず今は。

 

「……寝顔、可愛いなぁ」

 

 私の膝の上で寝てる夏目君の寝顔をじっくり観察しよう。次の機会なんているあるかわからないんだから。

 

 結局私はその後夏目君が起きるまで観察してて、起きた夏目君は凄い勢いで謝ってきた。それから夏目君達は帰っちゃったけど、もしも次の機会があればまた耳かきをしてあげよう。そう私は思った。

 

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