「…シナンジュ=エクスゼロ?」
武はその機体の名前を聞き直した。
龍臥はこくりと頷き、話を続ける。
「このモビルスーツには戦争をゼロにするという想いが込められている。だから、どんな手段を取っても目的を達成するために『ゼロシステム』を搭載しているんだ」
ゼロシステム-超高度な情報分析と状況予測を行い、毎秒毎瞬無数に計測される予測結果をコクピットの搭乗者の脳に直接伝達するインターフェースである。
要は、未来を…様々な可能性をパイロットへ見せるシステム。
それを武と夕呼へ説明する。
「未来を見せるって…そんなことできるのか!?」
「あくまで可能性や憶測でしょ?なら外れることもあるわよね?」
「ええ。ただし、ゼロシステムを使用すると大きな負担がかかることに…それにゼロシステムは勝利のために非人道的な事……例えば、仲間殺しも行うので基本は使わずにおいておきます。」
「そう…そんなシステム、確かに使わない方がよさそうね。」
「それに、その背中のキャノン砲?みたいなのは何だ?」
武が武装について質問してくる。
「ネェル・アーガマに、ガンダムDXという機体がある。その機体にはツインサテライトキャノン、月の光をマイクロウェーブとして放出し、膨大なエネルギーをダイレクトに撃つ物がある。それを簡易式に、ビーム砲として改造したものを付けた。」
「月の光?それって月にエネルギー送信装置がなきゃだめなんじゃないの?」
「さすが天才、鋭いですね。その通り、月に装置が無ければそもそもエネルギーを取得出来ません。なので、自給できるようにエネルギーをある程度入れておき、チャージする形で武装に利用します。」
武が頷きながらも、よくわからんという顔をする。
「そうすれば送信装置も不要であり、チャージする間は通常通り戦闘し、その最に溜まってしまう熱をエネルギーに変換しチャージできるようにします。」
「なるほどね。それならハイヴ最深部へ行ってから発射して、内部から破壊する……中々いいじゃない。威力はどのくらいあるの?」
「オリジナルのツインサテライトキャノンよりも小さいのですが…まともに撃てば横浜基地が吹っ飛びますね。」
「!?」
武がぎょっとする。
「腐ってもサテライトキャノンなので、そこは変わりませんね。まあ使用するまで時間がかかってしまうので当然の威力ですよ。」
(ツインサテライトキャノンを簡易式に…?)
ここで武はある疑問に気付く。
「龍臥、それじゃあそのビームキャノンも工場で作ってんのか?この世界の技術力じゃ間に合わないんじゃないか?」
龍臥はその質問に、得意げに返す。
「それが違うんだなぁ武君…。言ったろ?基本的な装甲を加工してもらうだけだって。仮に工場で作ったとしても、情報が漏れてオルタネイティヴ5促進派に強奪されて終わりだぜ。それこそ一番不味い。」
「確かにな……。」
「それに、今ネェル・アーガマ内部でももうひとつモビルスーツを改造してるんだからな?こっちはエクスゼロのような汎用機体じゃなくてNT専用機体だけどな。」
「ヤバそうなのがまだあったのか…」
呆れと驚きが混ざった息を漏らす武。
「着イタゾ、着イタゾ、降リロ!降リロ!」
運転手ハロが横浜基地に着いたことを伝えてくれた。
「ああ〜っ……やっぱり、ここが一番落ち着くぜ!!」
龍臥達が基地に着いて、しばらく伸びていると一人の男性が近付いてくる。
「少しいいか?香月博士…と刻永少尉、白銀少尉。」
横浜基地司令官 パウル・ラダビノッド 准将だ。彼に呼ばれるとなると、何かあるに違いないと、急いで彼に着いていく。
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「以前、刻永少尉の戦闘シミュレーションのデータと純白の戦術機の映像を見た国連軍が、その機体を譲渡して欲しいとの事だそうだ。」
「な…なんですかそれ…そんなの承諾できませんよ…!」
司令の言葉に勿論、納得することなど出来ない。武もその思いだった。
司令官は、その言葉が出るだろうと思っていたのか、険しい顔をする。
「……言い難いのだが…構わないだろうか……」
「司令官、何かあったのなら話して頂きたいです。俺個人が聞いてどうにかなるならですが…」
司令官が重い口を開く…
「実はだな……どんな手を使っても、その機体を手に入れる気だ……。おそらくオルタネイティヴ5計画の促進者だろう……」
武は開いた口が塞がらなかった。夕呼は司令官よりも更に険しい顔をしていた。
「…G弾よりも効率がよく、一気にBETAを殲滅できる兵器が…その機体だと思われているのだ……。それに…応じなかった場合、
A-01部隊を解体後 機体を捕縛するそうだ
」
「!!!」
龍臥は理解できなかった。何故そんなことをする必要があるのだ。
「……分かりました………。少し考えさせて頂きます……。」
「龍臥ッ……!?」
武は混乱していた。龍臥ならすぐ断ると思ったからだ。しかし独自の判断で断れば、伊隅ヴァルキリーズは解体させられてしまう。絶対にあってはならない。
部隊か…ガンダムか…選ぶのは一つ。
いや、ガンダムを選べば部隊も解体させられ、ガンダムも失う。
……どうすべきなのだろうか。
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「クッソがぁぁぁぁぁぁ!!!なんで大人たちは!勝手にものを考える!!何がオルタネイティヴ計画だ!!だからBETAにも負けるんだよぉ!!」
龍臥は個人部屋に着いたとたん、国連軍の奴らに向けての怒号をあげる。歯を食いしばり、唇を噛んでしまう。口の中に鉄の味が広がる。こぶしをキツく握る。爪がくい込み、手のひらから血が流れる。
「……!どうしたの!?刻永君!?」
「刻永!?何!?何かあったの!?」
涼宮姉妹がその声を聞き、駆け付けたのだろう。龍臥を見つめる。
「「「………………っ……」」」
武と茜、遥は見ていることしかできなかった。
龍臥自身も、重く受け止めていたのだ…自分が転生してきたせいで、ユニコーンを持ってきたせいで部隊が解体してしまう。そんな結果などあってはならない。
「龍臥……。」
「だいたい何だよ……あのトカゲ野郎……ふざけんなよ!……………………………………カオリ……俺は……どうしたらいいんだ…………?」
落ち込む彼を見て、武は聞いてみることにした。
「龍臥……その……カオリって……誰なんだ……?知りたいんだ……お前の事…この世界の…親友として……」
「カオリ…………?」
(女の人の名前……?)
「…………カオリは…………俺の……」
龍臥はしばらくしてからその口を開く。
生前、彼に何があったのか。それを知るのはこの場にいる4人だけになる…………
to be continued
次回、龍臥の過去が全て明らかになります。11話分の伏線を一気に回収していきたいです。
次回もお楽しみに!!俺のターン!ドロー!()