純夏との思い出話を通して、少しずつ記憶を思い出させていく武。この二人には本当の愛がある。
バンシィのメンテナンスをしながら、龍臥は二人を気にかけていた。このままいけば、甲21号作戦までには完全なコンディションで戦いに挑める。そうすればあの兵器も……。
これから起こりうることは全て龍臥が把握出来ていることであり、事前に防ぐこともできることだ。それに、こちらにはモビルスーツがあり、XM3も凄腕衛士もいる。注意すれば中隊に誰も犠牲者を出さずに終わらせることも可能なのではないか、と思いながらバンシィのモニターを操作していく。
(…こいつ…戦闘データが以上に取れている…!?)
それは当然、実戦やシミュレーションを重ねているからこそなのだが、それにしても想像以上だった。これも水月が操縦しているからこその、賜物なのであろう。
「終わった?刻永」
水月が確認しに来たのだろう、声が後ろから聞こえる。
「ええ、今データの確認で終わりです」
「じゃあさ、終わったら後で外行かない?」
「…?俺でよければいいですよ。もう少し待って下さい…」
水月の誘いとあらば断る訳にはいかない、と龍臥は内心ガッツポーズで快諾する。
(…でも何故わざわざ外に?)
---横浜市 ある丘---
曇った空に少し晴れ間が覗いている。季節は冬だというのに、不思議なことにゆずの木には葉がまだ付いている。もしもここで夏を過ごしたのなら、どれほど爽やかな気分になれるだろうか。そう思わせる程の風景だ。しかし、崩壊した横浜市が見えてしまうのは少し心苦しい…。
「…で、水月さん…どうかしたんでしょうか?」
「……私ね…」
水月がゆっくりと口を開き、呼び出した理由を告げる。
「昔…といっても3年くらい前なんだけど、好きな人がいたの…。刻永は知ってると思うけど…」
水月はかつての想い人の話をし始めた。
「私と遥は、その同じ人を好きになっちゃったの…それで、なんやかんやあって私達より先に正規兵になる事が決まったの。…それで、私達は正規兵になったらその人…孝之に同時に告白しようって決めてた。でも…」
水月の目はどこか遠くを見ていた。思い出に浸っているのか、そんな感覚だった。
「孝之は明星作戦で、戦死した。とても悲しかった。でも私達は立ち直って、遥とある約束をしたの」
「約束…ですか」
「そう…『BETAを一刻も早く倒して、孝之より良い男を見つけて、どっちが先に孝之を卒業できるか決着をつける』ってね…。」
そんなことがあったのか、と龍臥はその話に納得する。それが、彼女がバンシィに導かれた訳なのだと思う。
「…じゃあBETAとの戦争を…終わらせたいですね…」
「…うん…。それに……刻永、あんたには期待してるからね。あんたがあの機体を持ってこなかったら、対BETA戦術の幅が広がらなかった。」
「……期待には応えます…。それが俺の望むことでもありますから。」
「そう?それだけ?」
水月が何か知っているように、ニヤニヤしながら龍臥の目を見てくる。感性が強いニュータイプならば、彼の想いにも気が付いてしまうのかもしれない。
「え……」
「……ま、あんたには知っておいて欲しかったから、この話をしたの。…あんたの戦う理由って、何?」
龍臥の戦う理由について、それは共に戦う仲間ならば知りたいのは当然だと考える。
「『笑顔』…です。人々が笑いあっている世界を、俺は見たいんです」
単純。笑顔、そのひとつが理由なのだ。名声や評価などどうでもいい。香織との約束を果たすことが出来れば、後はどうなってもいい。それが一番の、目的だから。
「…素敵じゃない。当然その『笑顔』には、あんたもいるのよね?……そうでなきゃ…つまらないもの。」
水月の目がどんどん優しく、温かくなっていく。いつもは元気な上官もこんな表情もするのか、と龍臥は驚く。
「…俺は…皆と笑いたい。この世界を変えて……」
「……じゃ、お互い戦う理由が分かったって事で、午後の訓練に行きましょ。」
「はい!……って、え…さっきの…『つまらない』って、どういう意味ですか?」
「あー遅れるー。さっさと行かなきゃー」
棒読み感満載に水月はスルーする。
「……!?…まあ…いいか。」
気が付くと彼女は結構先に行ってしまったため、急いで追いかける。足、速い。流石先任なだけある。
「ほらぁ!早く!龍臥!!」
(……ん?龍…臥…?……ホアアアアアアアアアアアアアッ!!!!???)
---横浜基地 シミュレーションルーム---
『…ッ!!速い…何だこの機動!!』
「これが…ガンダムですッ!!大尉!」
午後の訓練として、シミュレーションでの対人訓練が行われていた。チームとしては龍臥、水月、風間少尉、宗像中尉。もう一方は伊隅大尉、武、茜、柏木。
今龍臥が操る機体はドラゴニュート。今のうちに技術力を上げておかなければ、デストロイモードに頼りきってしまうことになる。それは避けておきたい。
『横だ!!龍臥!』
伊隅の機体--不知火は、ヴァルキリーズの駆る日本製の戦術機だ。その不知火にビームトンファーを突き刺そうとした時、武のシナンジュがビル影からドラゴニュートに襲いかかる。
龍臥はターゲットをシナンジュへ切り替え、近接戦闘を繰り広げる。ビームアックスとビームトンファーがぶつかり合い、閃光と共に発生したスパークがビルを削る。
落ちる瓦礫に気を取られた風間の隙を突き、茜の機体が飛び出し彼女の機体へ突撃砲を撃ち込む。
『…っこんなんで…』
『祷子!避けなさい!』
さらにその中へ水月のバンシィが突撃し、茜機へ体当たりを行う。やはりモビルスーツと戦術機をつくる素材に圧倒的で根本的な差がある。
『速瀬中尉…!』
『右翼の連携がなってないわよ涼宮!』
おそらくそれは武の変態機動のせいでバランスが崩れたのだろう、右翼だけでなく左翼もバラバラだった。
(…!左側の編隊がズレた…)
龍臥はチーム連携を最優先事項に戦っている。連携が重要なBETA戦なら、これも必要な訓練である。
すぐさまシナンジュから距離を置き、配置に戻りながらビームマグナムを一発、二発発射。大尉の突撃砲の破壊に成功する。
「武!こっちだ!!」
『畜生…!』
『白銀!挑発に乗るな!まだ長刀がある、一旦退くぞ!』
伊隅は挑発に乗りかけた武を制止し、一時退避を促す。焦った龍臥は、逃すまいとビームマグナムを発射。ビームはシナンジュのシールドを掠めて明後日の方向へ飛んでいく。シールドがドロドロに溶けて原型を失ってしまう。
「武ゥ〜!それじゃあシールドの意味ないぜ〜?」
『刻永〜ズルいよその武器…』
柏木はビームマグナムの威力を見て、ビル影から不知火を覗かせ、ウィンドウで羨望の眼差しを向けていた。
「シミュレーションなら兵装くらい変更できますよ。博士に頼んでおきますね」
『同じ階級だから丁寧に話さなくていいのに〜』
『柏木ィ〜あんたには使いこなせるの?ソレ』
『速瀬にできてるんだからできそうね』
『ちょっとそれどういう意味!?』
宗像中尉の弄りが、水月のすぐムキになる性格にヒットし、彼女にからかわれている。その様子は、いつもからかわれている龍臥にとって正に『ざまあ』であった。
「中尉!伏せて下さい!!」
龍臥は前方からの突撃砲の気配を察知し皆に警戒を促す…しかし遅かった。既に宗像中尉の不知火は大破判定を受けており、行動不能であった。
(誰の…砲撃だ!?)
---横浜基地 ハンガー---
「では、こちらを副司令殿にお願いします」
そう言いながら戦術機工場の整備士がトラックに搬入され大きな布により隠されたある機体を指す。
「こちらが…例の…」
「副司令殿から聞いておりましたか、誰かの専用機体と聞いております」
その機体はかつて『ネオ・ジオン残党 袖付き』により運用された高機動機体の改造版。その黒く塗られた装甲に白いラインが施されており、国連軍のマークも入っていた。
龍臥が武のために開発した機体…シナンジュ=exゼロ---。
ポンポン!!(謎ω謎)