夕呼の作戦の具体的な説明には納得がいった。実際聞いていると、凄乃皇の実用試験が成功するような気がしてきた。
それでも本来の歴史では作戦は最悪な方向へ向かってしまう。それを変えることができるのは龍臥ただ一人。この事実に、不安と緊張で押し潰されてしまいそうになる。
「――以上が作戦の趣旨よ。このテストの結果次第では次回以降のハイヴ攻略にかかる戦力が大幅に削減できる。そうなれば初めて『人類の勝利』という言葉が具体性を得るものとなる……。オルタネイティヴ4の成否はこの作戦の結果が大きく影響するわ――頼んだわよ」
『人類の勝利』はかつて誰もが夢見るものだった。それは叶わないと思われていたが、今はその現実が近付きつつある。
「「「「「「「「「「「「「「
―――了解!!」」」」」」」」」」」」」」
中隊全員の表情が明るくなり、いつも以上に声に緊張と期待がこもっていた。
龍臥はどうなるか不安だった。この作戦が成功したとして、その先の未来は『誰も知らない』ものなのだから――。
しかし、どのような未来が来ようとも今の彼は乗り越える気でいる。全ては皆の『笑顔』のために―――。
ーーーネェル・アーガマ MSドックーーー
横浜基地の敷地を借り、ペガサス級戦艦ネェル・アーガマを停泊させている。
ネェル・アーガマの内部はアニメや設定とは違って、モビルスーツ製造のためのドックが存在し、ドラゴニュート自体もここで製造したのだった。
明日へ備えるため、空いている時間は全て訓練や武装点検に回していたい。
(ビームマグナムのみだとEパックが無くなった時不安だ。――となると実弾兵器も必須だな…フルアーマーユニコーンの武装を使用しても…いや、重量的に邪魔じゃないか…?)
大量のBETA相手への武装を考え、タブレット状の小型端末を操作する。便利なことに端末と連動しており、瞬時にアームが操作どおりの仕事を行ってくれる。
ハロ小隊には一時休息をとってもらい(ロボットに休息というのは適切かどうか分からないが)、甲21号作戦には同行させずにおく。もし不在中にトラブルが発生した場合のため、彼らはここに残して行く。
(バンシィの武装も突撃砲くらいは持ってても…。exゼロは武の変態機動があれば問題ないか。『逃げれていれば撃墜されない』ってやつだな。)
そう考えている間にドラゴニュートの武装変更が完了したことを知らせる通知が鳴り、カメラを利用して全体像を確認する。
基本はビームマグナムで小型種を一掃しながら、ミサイルポッドやハイパーバズーカ、突撃砲などの実弾兵器を駆使しながら戦うのがベストだと信じる。
特に期待しているのはシールドファンネルと呼ばれる、サイコフレームの力によって促進剤無しでオールレンジ攻撃が可能となる武装。取り付けられたビームガトリングによる攻撃ならば、全方向からのBETAに対応できる。当然ながらシールドとしても使用できる点でも十分な価値はある。
光線級のレーザーをIフィールドが無効化してくれるのかは不明だが、かつてコロニーレーザーのレーザーを防御したサイコフィールドならば可能かもしれない、と考える。
シールドファンネルは三基、無駄なく有効に使っていきたい。
(…そろそろBETA戦のシミュレーション訓練の時間か……。)
気が付けばもうそんな時間か、と時の経過に驚く。
シミュレーション訓練をしっかりと積み、実戦へ備える。何事も練習が重要だと改めて実感させられる。
ーーーシミュレーションルームーーー
『――ヴァルキリーマムより、ヴァルキリーズに継ぐ。全機態勢維持のまま散開、左右の小型種を殲滅されたし』
『聞いたな!全機散開開始!』
了解、と応答し左右に赤い絨毯のように広がる戦車級の群れに突っ込んでいく。
水月と伊隅の提案でB小隊 突撃前衛に抜擢された龍臥は、BETAの大半を120mmマシンガン一丁で殲滅し、自分の仕事をこなしていく。
『
水月が龍臥の駆動にいつもと違う感覚を感じ、回線を繋げる。
「ドラゴニュートをフル装備にする予定なので、いつも以上に大きく動かないといけないんですよ。それに相手は決まった動きをしてくれないので…」
『…よく考えるわねあんた……』
若干呆れが混じった声を出す。
その横では武が駆るexゼロが奇妙な機動を行っていた。バーニアを吹かしては回転、吹かしては回転を繰り返している。
『龍臥…この機体、不知火より重いから勝手が違うぜ…』
「慣れろ、お前の機動を見込んで専用に造ったんだからな。それに、そいつは高機動・高火力のモビルスーツでありながらハイヴ単機攻略をコンセプトにしているから流石に不知火より操縦は難しいさ」
『…そんなもんかな?』
「というか、それでもお前がおかしいんだ。
普通、exゼロはシナンジュをベースにしていることからシナンジュと同等と思われてもおかしくない。
しかしexゼロは全く違うモビルスーツと言ってもいい程、機動のタイミングが早い。それを短時間で操縦できる武はやはりおかしい。
『…バルジャーノンのお陰かな…?なんかゲームと似ていた動きの機体だから、頑張ればあと数時間で慣れるかも』
バルジャーノン――武の元いた世界のゲームであり、戦術機に搭載された新OSの基盤となった存在。
流石衛士なだけあるがそれでも異常だ、そう思っていると要撃級が接近してくることを知らせる警告音が鳴り響く。
(…警告音、少し音量下げよう。耳に響く……)
耳障りな警告音を消し、ドラゴニュートをデストロイモードに移行させ、迫る敵に目掛けビームマグナムを構える―――。
ーーー横浜基地 ハンガーーーー
「いよいよ明日『甲21号作戦』が決行される。我々A-01は明朝4時00分に出撃、陸路にて帝国軍高田基地まで前身し全機起動。帝国海軍戦術機母艦『大隅』に乗って海路にて佐渡島を目指す」
伊隅が部隊の大まかな行動を伝える。
その説明を聞きながら龍臥はドラゴニュートやバンシィを見た他部隊の反応を想像するが、面倒な事は起こらないだろうと信じる。
「夕食後は身辺整理を済ませてさっさと寝るんだ、いいな!――以上、解散!」
解散の号令がかかり、更衣室へ向かおうとしていた時、武が伊隅へ確認するように質問する。
「身辺整理…ですか」
「そうだ、遺品を受け取った者が悲しむようなものは廃棄するか分けておけ」
「悲しむようなもの…?」
「例えば…だ。白銀少尉が速瀬中尉のシャワー室を隠し撮りしているとする」
武のその言葉に宗像が『小学生に算数を分かりやすく説明する』ように話す。
「はぁ!?」
「武、まさかそんな事しねぇよな!?」
武は思わず驚いて声をあげてしまう。
龍臥は冗談だと分かっていても、真っ先に反応してしまう。
「しねぇよ!絶対な!本当にな!!」
「なら良し!!」
「なんか…そう言われるとなんだか苛つくのはなぜかしら」
当の本人、水月は何故か不満そうであった。
「…要するに、いかがわしいピンナップとか写真なんかは分けておきなさいってことよ」
水月が要約してくれていると、宗像が武から龍臥へターゲットを変更したのか急にこちらを向く。
「そうかそうか…速瀬中尉を隠し撮るのは刻永少尉だったか。」
「へぇっ!?俺もしませんよ!?違いますからね!!?」
「処分するのが多いのか?それともお前は
「だから俺は違いますって!」
(何で俺がターゲットに…本来は武のイベントだろ!)
心の中で文句を言いながら、宗像のからかいを回避(できていないが)していく。
「――ったく…あの人たちにはかなわないぜ…」
「ふふ、これも出撃前の緊張を解す知恵だろう」
「御剣さん…そんなもんですかね……」
冥夜が微笑みながら龍臥へ話しかける。
「…だろうな、これが実質的俺らの初陣だからな」
武達はBETAとの戦闘は初めてではない。しかしそれはトライアル中の事件であったため、実戦ではなかった。
「そういえば――刻永は初ではないのだろう?副司令からは聞いているが、何処か国外で徴兵経験があるとか…」
夕呼には『海外の部隊出身ってことにしておくわね』と気を利かせて仮の身分証も発行してくれた。
全くあの人には頭が上がらない。
「…まあ、俺はBETAとの戦闘経験が幾つかあります。中尉達ほどではないですが…」
「そうか…では安心だな。同期に経験者がいて」
「……御剣さんは…」
「ん?」
「御剣さんは何のために戦っているんですか?」
冥夜がふむ、と顎を押さえて考えるような仕草をとる。
「あ、いえ…無理に言わなくても…」
「私はだな……」
冥夜の瞳が真っ直ぐこちらを向く。決意の目だ。
「この星とこの国の民……日本そのものだ。この世に人のいない国などないのだから……」
ーーー12月25日 甲21号作戦当日ーーー
朝4時ちょうどに横浜基地を出発したA-01部隊は移動用車に乗車、高田基地へ到着。
そこで戦術機の点検を再度行い、万全なものとする。
(「――じゃあ凄乃皇の護衛する時の注意点を伝えておくわ。まず第一に『凄乃皇・弐型』の機体装甲面から10m以上の距離を維持すること」)
艇へ乗り込み、佐渡島へ向かう中で夕呼の説明を思い出し、海を眺めながら作戦の成功を祈る。
(「『凄乃皇・弐型』の姿勢維持と機動は『ラザフォード場』と呼ばれる重力場によって制御されている。これに干渉すると急激な重力偏差に巻き込まれるわよ。コックピットでミンチになりたくなかったら距離には注意して」)
ミンチ…それだけはなりたくない。
(「じゃあ次――荷電粒子砲が発射態勢に入ったら機体より後方へ退避しなさい。発射時の射線周囲には強力な電磁場が形成されるから、それに巻き込まれれば戦術機も人間も即アウト。それに、真後ろは駄目ね。荷電粒子砲はビームなどの光学兵器じゃないから発射時に強大な反動が発生する。それを打ち消すのにかなり大きいラザフォード場が機体の真後ろに発生するからね。あと、機体に直接BETAが取り付くと致命的。近接装備は一切ないからね――あたしは帝国海軍の作戦旗艦『最上』から指揮をとるから――じゃあ佐渡島で会いましょう」)
今思い出すだけでもぶるっとしてしまう。凄乃皇…なんて凄い機体だ。ラザフォード場なんてものを開発してしまうこの世界の科学力は伊達じゃないな。
船内では武達元訓練生が集って結束している。
横を見ると、柏木晴子少尉――彼女が何やら考え事をしているのか、水平線の彼方を見つめていた。
その顔は、家族を想う人が見せるであろう表情をしていた―――。
晴子ちゃんンンン〜〜〜!!!