佐渡島へ向かう艇の甲板、柏木晴子少尉は水平線の彼方を見つめていた。龍臥は今のうちに仲良くしておこうと決意し、彼女の隣へ歩み寄る。
しばらく二人は海を眺めていたが、先に口を開いたのは、龍臥だった。
「……柏木少尉…どうかしましたか…?」
「………ああ…刻永か…。別にタメ口でいいよ。」
「あ、じゃあ……。――…柏木…家族が心配か?」
龍臥は彼女が今想っている存在について訊ねる。
「…よく分かったね…まぁ、その通りだよ」
数秒間、沈黙する。
「”凄乃皇”って言ったっけ…強そうな新兵器の名前」
(やっぱりこれも武のイベントなんだけどなぁ…)
「テスト…上手くいって欲しいよね」
「いかなきゃ困るよ…あれに人類の希望がかかってんだから」
龍臥は表情を柔らかくし、凄乃皇への期待を示す。
実際、あの新兵器には期待していた。あれ一つでこれからのハイヴ攻略での戦況が激変するほど、画期的なものなのだから。
「…もし凄乃皇が通常兵器として運用されたら…弟達は戦わなくてすむかな…?……私って…ワガママだね……」
「…そんな事ないさ、誰だって家族には戦ってほしくない。……柏木は…戦う理由は『家族のため』なのか?」
「うーん…。そう言われるとそうなのかな?そこが曖昧なんだけどね」
眉を八の字にし、考えるように上を向く。
しばらく待って、答えが出なかったことを見兼ねたのか龍臥が口を開く。
「柏木…ひとつだけ言わせてもらうが、”戦う理由”が必ずしもある訳じゃない。それでも、何か理由が無ければ戦うこと自体に疑問を持ってしまう……。」
柏木が龍臥の方を向き、話を真剣に聞いている。
これはアドバイスではなく、自論なのかもしれない。龍臥はそれでも、言いたかった。”誰でも持てる戦う理由”を――。
「だから柏木…”生き残るため”に戦え。それを、今の戦う理由にしよう。」
ふと、柏木の表情が明るくなったかと思えば、クスクス笑い始めてしまった。
「……??」
「ふふふっ…刻永、面白いこと言うね。じゃあ、そうしようかな。だったら刻永も、必ず生き残ってね。同期として、約束。」
「ああ。必ず守るさ…」
二人は拳を合わせる。武たち元訓練隊もその頃、生き残ることを約束していた。
それぞれの覚悟が決まる中、艇は佐渡島へと近付いていくのだった――。
ーーー 12月25日 佐渡島 ーーー
本来この日は、クリスマス。世界中の子供たちにとっては夢のようなイベントであった。しかし、この世界ではそんなものは無い。あるのは…BETAとの戦争だけだった――。
佐渡島の陸から少し離れた沖では、国連軍の戦艦や帝国海軍の戦艦、更には海底からの攻撃隊が作戦決行までの時間の準備を進めていた。
また、指揮官などの官僚が乗船している指令船が数隻、それぞれ戦術機母艦でも先行部隊が戦術機を起動し、準備は万全を期している。
「アンバス・ストリクス少佐!機体点検、完了しました!いつでも出撃可能です!」
「ああ、感謝する。」
ある戦術機母艦の整備士が、彼の新機体”ラプター:Break”の点検を終えたことを知らせる。
ラプター:Break――通称ラプターBは、龍臥のドラゴニュートとの戦闘後急ピッチで製造された彼専用機である。
ドラゴニュートの映像を解析した米軍が、機動力だけでも追いつかせようとスラスターを増設し、促進剤も通常のラプターの2.4倍の量を装備。
BETAへの陽動にも使用でき、その圧倒的な機動力は大型種の攻撃をも受け付けない。
そんな機体のコックピットに乗り込みながら、彼はあの戦術機と、”悪魔のダース”と名乗る衛士について考えていた。
”悪魔のダース”――国連や米軍はBETAよりも、その話題に持ちきりだった。何処にも所属していなかったその機体は、急に第4計画直属の部隊へ編入され、未知の科学力をも所持している。その話題に夢中にならない科学者や司令部がいないはずなどない。
国連は本作戦に、その戦術機が現れることを心待ちにしていた。
(あの坊主も…いるのか…?この島に。――……復讐などは考えていない…ただ、今度は”仲間”として共に戦いたい。……それが、失った部下への手向けだからだ…)
そう思いを巡らせていると、強化装備の無線へ現状報告としてオペレーターの音声が流れる。
『海底攻撃部隊、攻撃を開始!
『重金属雲濃度良好!面制圧開始まで30秒!』
アンバスは操縦桿に力を込め、深く息を吸い込み緊張を解す。BETAとの戦場ではない所で散っていった仲間を思い出す。
「――…聞いたな!フォースレイダー大隊……全機、出撃ィッッ!!!」
ーーー 戦術機母艦 大隅 格納コンテナ ーーー
(――遂に始まった!!)
武は緊張していた。額から汗が流れ、目に入りそうになりながらも、戦況ウィンドウから目を離さなかった。
それに、今日彼は普段搭乗している不知火ではなくシナンジュexゼロを操縦する。慣れない機体ではあるが、凄乃皇の護衛のみであるならば問題ない、と思っている。
(あの新兵器に…純夏が乗るのか……。リーディングするためにハイヴへ近付かなきゃいけないのは仕方ないが…俺たちでサポートしなきゃな…)
愛する者へ心配をする。彼の元いた世界では、彼が因果導体であるが故に体育の授業中に落下したバスケットゴールの下敷きになってしまった。
この世界の彼女に何があったのか、それを一番知りたい。
『武、緊張してんのか?それとももうチビっちまったか?』
龍臥がいつも通りの軽い調子で秘匿回線を繋げてきた。
「……大丈夫だ。ただ…凄乃皇のことでな…」
『ほーう……。…鑑さんのことか?』
「……心配だ」
『だからこそ俺たちが護衛のためにいるんだろ!お前が一番近い存在なんだから、サポートしっかりやろうぜ』
龍臥の明るい言葉に、思わず笑ってしまう。彼の話を聞いていると自然に心配事や不安が吹き飛ぶ。
「…ああ、そうだな!」
『――帝国連合艦隊第2戦隊は依然健在 現在砲撃を継続中!』
『轟沈81 うち戦術機母艦49 大破52……』
(くっ……やっぱり作戦開始から被害がとんでもない事になってる……)
龍臥と会話していると、現状報告の無線が鳴る。
作戦とはいえ、味方が撃破されているのを黙って見ているのは心苦しい。
『ウィスキー部隊 旧八幡新町及び旧河原田本町を確保!部隊損耗7パーセント!』
『ヴァルキリーマムより各機――― エコー揚陸艦隊は現在両津港跡へ向け南下中』
(ウィスキー部隊…大尉から聞いたが確か、一番下の妹がいるんだっけ……)
武は私情を押し殺し、作戦を成功させることを一番に考える。
『―――ヴァルキリー1より中隊各機 ウィスキー部隊母艦は沿岸部からのレーザー照射でかなり沈められている。いつでも発進できるようしておけ!』
伊隅からの無線に中隊は応答し、いずれ発信されるであろう出撃命令を待機していた。
『HQよりエコー揚陸艦隊 全艦隊連載機発進準備!繰り返す、全艦隊連載機発進準備!』
『エコーアルファ1よりHQ、全艦艦載機発進準備よし!』
遂に出た出撃命令―――全艦隊から大量の戦術機が出撃していく。
ヴァルキリーズの機体もコンテナから甲板へ移送され、出撃体勢をとる――。
『――行くぞヴァルキリーズ!!全機、続けぇッ!!』
『『『『『『『『『『『「
了解ッ!!
」』』』』』』』』』』』
戦術機母艦 大隅からスラスターの炎を青白く燃やし勢いよく出撃した機体は、かつては青く美しいはずだった海上を滑るように促進していく―――。
武ちゃん無双を早く書きたい……