朝。それは危険なモンスター達はなりを潜め、動物が歩き、村人達が仕事をする時間帯。勿論、クラフター達にとっても心休まる時だ。…まあ、緑色のアイツは残っているが。
そんな平凡で気持ちの良い朝、小さな木の家にオーゼンはいた。
「…ここは…?」
本能がまだ眠りたいと言っているのを抑え、オーゼンは起き上がる。辺りを見回すと硝子のついた木の壁に、何かブロックの様なものに、机と椅子も一セットある。そして今まで自分が寝ていた赤いベッドと、その隣のこれまた赤いベッド。こぢんまりとしているが中々良いところではないか。
しかし、そんなことは問題ではない。何故ここにいるのか、それだけが今のオーゼンの心境であった。それもそうだろう。4層の上昇負荷により死んだと思っていたら木造の一軒家に居るのだから。それに、もし仮に生きたまま回収されたとしても、このような場所には運ばれないだろう。
それに…と窓を見る。家の外に広がっているのは緑緑とした草原。少し先に林があるのは分かる。当然のことながら、高くそびえ立つ天然の壁などどこにも見当たらない。
「どういう事だ…」
その事に呆然とするも、頭の中では至って冷静に事態を俯瞰する。
(…ここは、少なくともあの孤島じゃあ無い。だが誰が?何の為に?…瀕死の私を連れて来る場所ではない)
他の探窟家が発見して連れてきた?ならばオースの街でなければ可笑しい。ならば他国の者が連れ帰ったか?いや、それもナイだろう。仮にそうだとしてもこんな場所に放置する訳がない。
…やはり、未知の遺物、もしくはアビスの魔力によるものと考えた方がいい、か。
まあいい、ここがどこなのか。それが重要だ。とりあえず外へ出ようかと起き上がり―――
―――ふと、違和感に気がつく。
(何だ…?いつもより非力に感じる。以前感じていた頭部の違和感もない?それに、こうやって立つのが何故だが懐かしい気もするが…?)
そう、今のオーゼンには長く眠っていたからというには余りにも大きな変化が訪れていた。
(足が、治っている?間違いない、これは以前の私の足だ)
オーゼンはアビスの呪いにより、異形の足となっていたが、目に映るのは紛れもなく呪いにかかる前の人間の足だった。
まさか、と自らの姿を窓に映す。白黒の特徴的な髪型こそそのままだが、その髪型もどこか安定していないように見える。
オーゼンはその髪型の原因である捻れた頭皮へ手を掛け、そして確信する。
やはり、私の頭皮も正常だ。
(あれか。ここがあの世というやつか。想像とは大分違うが、穏やかさという点は同じだろう。これなら本来の私の体でもおかしくは無い)
呆気なかったと思う反面、少し疑問が湧いてくる。確かに体には何ら異常はない。むしろ健康体だ。だが、装備がボロボロのままというのは如何なものだろう。
何故体は正常なのに装備だけが消耗しているのだろう。それにより、もう一つの候補が浮き上がってくる。
「ふむ、まだ冥土には遠いということかな」
私は、生きている。これまでの人生でも数えるほどしか味わったことの無い感覚が湧き上がる。
そうして立ち尽くすこと十数秒、先のことまで思考を戻す。
「さて、ここは何処かな?少なくとも私が来たことのない地ではあるが…」
そうしてまだ使える装備のみを装備し、木のドアから出ようと歩く、が…
“ふらり”
「おっと…。……感覚のズレが激しいな」
既のところで持ち直す。しかし今ふらついたことにより何かチェストに小さくは無い傷をつけてしまった。
何故オーゼンがふらついたか。それはオーゼン自身万全ではないということもある。が、それは大した理由にはなりえない。
そもそも、オーゼンの怪力のカラクリは、肉体に一刺しすることで千人力を得るとされる一級遺物『千人楔』を埋め込むこと軽く80箇所。それにより常人にはなし得ない怪力無双として様々な伝説を打ち立てているのだ。
そして現在、オーゼンの身に起こる異常は“全て”治っている。それは良い効果も例外ではない。
彼女の腕に埋め込まれていた千人楔は全て体外へと排出されているのだ。それが何処に収納されているかは言うまでもない。
それにより、今までの力に慣れていたオーゼンとしてはやりにくいことこの上ない。
傷つけてしまったチェストに対し、この家主に申し訳なく思った所、不可解な現象が目の前で起こっていた。
「これは…傷が再生している…!?」
そうなると話は違う。腰につけているピッケルで壁を力強く殴る。するとどうだ、その壁の傷はあっという間に修復され、そこにはささくれすら見られない壁が佇んでいた。
「チッ面倒だ」
そう、このなんの変哲も無い家こそが遺物である可能性が出てきたのだ。むしろ、こんな不思議な物体など遺物でないほうがおかしい。そうだとすると今見ている景色すらまやかしかもしれない。千年楔の効果が無いのは痛いが無いものはねだれない。警戒態勢を崩さずにゆっくりと足を進め…
そしてドアは勢いよく開かれる。
勿論勝手に開いた訳ではない。開けた人物がいるのだ。
そいつは焦茶色の髪の毛、茶色がかった肌、青い瞳をしていて中々整った顔立ちで顎髭が少し目立つ。水色のシャツ、紺色のジーンズに、暗い灰色の靴を身に着けている。背丈もオーゼン程ではないが高いようで、180程だろうか。そんな謎の男は家に入り込むとどこからかジャガイモを取り出し、もしゃもしゃとあまり行儀が良いとはいえない音をたて貪り始めた。
「………何故ジャガイモ?」
呆気にとられたオーゼンが思わず呟いても仕方ないだろう。
そこから紆余曲折、言葉が通じない中何とか住居を勝ち取った不動卿の姿があった。尚、このときに初めて異世界だと分かったり、コミュニケーションの類いは割愛するとしよう。
■
私はスティーブ、クラフターである。といってもまだまだ初心者の域を出ないのだが…。
まあそんなことは置いておこう。ダイヤのクワくらい意味が無い。昨日、洞窟へ鉄を採掘しにいったときに世にも珍しい黒服白黒頭の村人モドキを発見したのだ。
地上への帰り道、急に頭上から降ってきてダメージ音を響かせるため驚いて治癒のポーションを投げてしまった。そうしてよく見ると人型mobであることに気づいた。
私はこれが村人というやつか!取り敢えず保護せねば!そう思い精錬した鉄インゴットからトロッコを作り、拠点まで運んだ次第である。
ベッドに近づけたらなんと勝手にベッドを使ったので大変驚いた。おかげでもう一つのベッドを作らなくてはいけなくなり、家が少し狭くなってしまった。
そして何故だが牛乳入りバケツがあげれた為使ってみるとどう使うのかは分からないが千人楔というアイテムをゲットした。見た事も聞いたことも無いからレア物かもしれないと思い、大切にチェストにしまっておく。
そこではたと、ある一つの疑問が湧き上がってくる。私は村を見かけたことはないが先輩曰く村人は禿頭のデカ過ぎる鼻の持ち主らしいが、それとは似ても似つかないだろう。そして周囲にドロップしていたこれまた見たことのない防具。
スティーブはようやくこれが村人では無いと気がつく。ならば他プレイヤーかと思うも、頭上にネームが表示されない。ふむ、となるとプレイヤーでもない。生憎、そこまで詳しいわけではないので取り敢えずこいつを村人モドキと言うことにする。
しかし知らないmobとは面白い。さて今日はどうするかと扉を開ける。
するとどうだ。村人モドキが起きているではないか!よし、今日はこの村人モドキのことについてだ!そうと決まれば色々と準備せねば。あ、間違ってゾンビのレアドロップ生のジャガイモを食べてしまった。あれが最後の一個だったのに…。これではジャガイモ畑はまだ先になりそうだ。まったく、私はパニックになるとよくアイテムを使ってしまう。反省反省。
今回はいわゆる出会い回のため、マイクラ要素は薄かったと思いますが、次回からはマイクラを強調していくので乞うご期待。(なんてすると期待を裏切られる可能性が高いのであー、ハイハイ程度の期待でお願いします)