時空間云々言っちゃうと話が分かりづらくなるので、しばらくは明るい青春応援歌ストーリーにしようと思っています。(Cross Balladeが小ネタを出しつつシリアスだったこともあるし。)
「ヒマーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
放課後の教室に、元気な女の子の声が響き渡る。
「何でこんなにヒマなのよーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
その傍らでは2人の男子生徒がボードゲームに熱中し、反対方向では紫の髪の少女が本を読んでいる。
一方で、オレンジ色の長い髪をした少女が、その声を聞いてびくっとし、持っていたお茶をこぼしそうになる。
もっとも、こういうことは日常茶飯事。
この少女、涼宮ハルヒがこんな愚痴をこぼすことなど、当り前なのだ。
紫の髪の少女、長門有希がゆっくりと振り向き、
「暇ならば、こういう本も読んでみたら?」
長門は感情のない声で、ハルヒに本を渡す。
「『もしも葛飾区亀有公園前派出所所長がドラッカーのマネジメントを読んだら』、ってタイトル長い!! これだけで読む気なくなるわ!! おまけに2つぐらいパクってるし!!」
がなり散らしてハルヒはあたりちらす。
「あのー、涼宮さん、こういうときには、SOS団内で恋愛する、というのはどうですか」
お茶を運んでいたオレンジ色の髪の少女、朝比奈みくるがおどおどしながら、ハルヒをたしなめた。
「恋ぃー?」
「ほら、桜ケ丘高校と榊野学園の、山中先生と澤永さん。榊野学祭で仲良くなってからラブラブのハートフルな毎日を送っているという話です。私もああいう恋愛をしたいなあ」
「ハートフル? 恋愛なんて一時の気の迷い。それに普通すぎじゃない。
それにかまけて、SOS団の任務を怠るわけにはいかないのよ」
ボードゲームをしていた少年の1人、キョンもまた、低い声で、
「どうもあの2人、夜な夜なベッドを共にしてるって話だからな……。俺が彼女を作っても、そんなふうにはなりたくないな……」
「もうお盛ん夫婦、ってところなんですか」
相手の少年、古泉一樹もまた、さわやかな笑顔を多少ひきつらせて答えた。
「朝比奈さん、澤永と山中先生の資料だよ」
一方で長門は、パソコンからプリントアウトした資料を用意する。
みくるは笑顔で、歌を歌いながらそれを読み始めた。
「♪若者よぉ~恋をしろ
身分やお金はなく~っても
こ~いすりゃ希望もわいてくる
この世のパ~ラダ~イス~♪」
うきうきと口ずさみ始めたみくるを見て、キョンは「やれやれ」と息をついた。
未来人の彼女が何でそんな古い歌を知っているのやら、などと突っ込みたくなる。
しかもSOS団は現在男2人、女3人なのだから、1対1を組もうとすれば女1人あまる。
平団員で、何もできない、言えない自分を恥じた。
このグループこそ、涼宮ハルヒが、超常現象などの面白いことを見つけるために結成した集団、北高SOS団(『世界を・大いに盛り上げるための・涼宮ハルヒの団』の略)である。
団長・涼宮ハルヒ、副団長・古泉一樹、マスコット・朝比奈みくる、無口キャラ・長門有希、そして平団員・キョンからなっていた。
さて、そのころである。
ハルヒ達が所属する、北高の正門で、3人の若者、正確には2人の少年と1人の少女が立っていた。
「確か、このあたりだったよな」
「ひょっとして北高に入ってもうたんかいな。他校に迷惑をかけるかもしれへんな……」
赤いツノつきの帽子をかぶったサンダルの少年に対し、金髪ショートカットで青いホッケークラブを肩にかけた少女が、ぼそりとぼやく。
『シロテテナガザルイエティは本来高いところを好む。いるとしたら屋上だろうな。とりあえず、学校の部屋には入らない形で探していこう』
もう1人の、ノートパソコンを首にぶら下げた眼鏡の少年が直接しゃべらず、PCに備え付けられた音声器で2人にアドバイスを送る。
「サンキュー、スイッチ。とりあえず、周りに迷惑をかけないように行こうぜ!」
「ボッスン、あんたが一番迷惑をかけそうなんやけど。
それにしてもあのエロザル、また女にちょっかい出してるんかいな……」
そして3人は、迅速に北高の校門に入り込んだ。
「ちょっと、みんなも考えてよ! 何か面白いことをさあ! 不思議なものを探してよさあ!!」
わがままなハルヒのがなり声が、文芸部、もといSOS団の部室に響く。
「そう言われても……」
恋愛以外思いつかないみくるが、しゅんとしょげてしまう。
成程天使だ、とばかりにキョンはみくるを見つめる。
「ああ、もう! トイレ行ってくる!!」
ハルヒがドアを開けた瞬間、白い猿が急に部室の中に飛び込んできた。
「ヒッ!」
ハルヒが悲鳴を上げると、その白猿はニヤニヤしながらハルヒのスカートをめくって下着を見、キッキッと笑いながら、猫のような身のこなしで部屋をとび回った。
「きゃっ!」
思わずみくるは、猿にびっくりしてお盆を落としてしまう。
がちゃんと音がして湯呑が砕け散り、中の緑茶が流れ出る。
赤い首輪が付いているところをみると、おそらく飼われている白猿であろう。
猿は飛び回って、壁をけったり長門が読む本に乗っかったり、みくるや長門のスカートをめくったり、好き放題である。
それでも動じない長門を見て、さすがは宇宙人……とキョンは思う。
その後、身軽に床に飛び降りて、部室を出てしまった。
「珍しいですねえ。シロテテナガザルイエティなんて……」
多少あっけに取られて古泉は、ぼんやりとイエティを見送った。
「あああ……。緑茶がこぼれちゃった、拭かないと……」
おろおろしながらふきんを捜すみくる。
「このぉっ、エロザル! あの猿をみんなで追いかけるのよ!!」
ハルヒは顔を真っ赤にして、例のごとくトップダウン式で命令を下した。
「みくるちゃんはこっち、古泉君はあっちね! 友希は私と一緒にいて!! キョンはこっちを!!」
古泉はニコニコと、みくるはおびえながら、長門は飄々と命令に従う。
キョンはやれやれと呟きながら、重い腰を上げた。
真昼の廊下は、蛍光灯が必要ない程に明るい。
対照的に静かな廊下を、長門と共に歩くハルヒ。
しかし先ほどの猿は全く姿を見せない。
「失礼します!」
ハルヒの前を、赤い帽子の少年が通りかかる。
ガッ
肩がぶつかる。
「いたっ! ちょっと、何すんのよ!!」ハルヒは少年の服装を見て、「……って、あんたここの生徒じゃないでしょ! なんでいるのよ!!」
文句を言う。
少年は高校2年生くらい、白いYシャツにゴーグル、赤いツノつき帽子、黒い半ズボンにサンダルという、高校生としてはいささか奇妙な格好をしている。
少年は後ろ頭をポリポリ掻きながら、
「わりい、俺らは開盟学園の生徒だ。実はうちの生徒の飼ってるペットが、この学校に入っちまったんでさあ。とりあえず北高の先生達には事情を話して、校内に入る許可をもらったから。もしよかったら一緒に探してくれ」
「開盟学園?」
北高からはさほど遠くない学校の上、自由な校風で名高い。
まして心臓に毛の生えていそうなハルヒである。全然驚かない。
「……もしかしてペットって、さっきの猿のこと?」
ハルヒに付き添う長門が、感情のこもらない声で言う。
「ああ、そうだけど、見かけたんか」
「ええ。さっき私達の部室を歩きまわって、廊下に行っちゃった」
「あんた達の学園の責任だからね! とにかく私達も協力するから、見つけなさいよね!」
例によって上から目線の発言の後、ハルヒは再び走り出した。長門が頭を下げ、その後に従う。
「『あんた』じゃねえ。俺はボッスンだ。……って、聞いてねえか」
ボッスンは頭につけた通信機で、連絡を取り始めた。
「スイッチ、そっちはどうだ?」
『あいにくまだ見つからない。ヒメコは2階を探しているが、まだ見当たらないらしい』
ったく、今回は一体何の風の吹きまわしだ。
そう思いながらキョンは、一人イエティを探して2階の廊下を歩きまわっていた。
もっとも、そいつはなかなか姿を見せない。
「あ、いた!」
キョンは女の高い声に胸をつかれた。
成程、顔を少し上げると白いイエティは、窓のレールを器用に跳んでいる。
「おりゃあ、またんかい!!」
声のする方を振り返ると、金髪のショートカット、黒いチョーカーを身につけ、青いホッケークラブを持った少女が全力疾走をし、キョンを追い抜いた。
ドキン
その白い顔を見て、キョンの胸が急に高鳴った。
動きが思わず停止する。
(可愛い……)
一目ぼれなんて自分らしくないと思いつつ、キョンは彼女の後姿を見送った。
「バカキョン、何ボーっとしてんのよ!」
ハルヒが廊下の突き当たりから、怒鳴り散らしてくる。
「たのむから君も協力してくれよ。この子の友達なんだろ?」
隣から帽子をかぶった少年も声をかけてくる。
「あれ、この人は……?」
「開盟学園の生徒。あの猿は友達が飼っていたもので、手元を離れちゃったんだって。
その友達の依頼でわざわざここまで来て、猿を探しているというのよ」
「はあ……」
「てなわけで、」こめかみをポリポリ掻きながら、ボッスンは「一緒に探してくれないか。こいつの仲間なんだろ?」
「はいはい……」
「言い忘れたけど、俺はスケット団のボッスンだ。頼む」
また面倒なことになったな、と思いつつ、キョンはハルヒとボッスン、それに長門に従った。
一同は再び散開してイエティを探すが、全く見つからない。
一旦ハルヒがキョンと共に廊下の十字路に戻る。すると、
『どうだ、ご首尾は』
キョンとそっくりの、しかし多少機械的な声。
「ん? キョン?」
「ちょっと待て、俺はここにいるぞ。……確かに、俺とそっくりな声を聞いたけどな」
廊下の横から出てきたのは、眼鏡をかけ、胸にノートパソコンをぶら下げた知的な少年である。
「お、スイッチか」ボッスンはスイッチを見るなり、「どうやらイエティは屋上になかなかいかねえようだが、どうしようか」
『ヒメコの足ならイエティにも追いつけるだろう。彼女に任せよう』
「う……」キョンは思わず気味悪がった。スイッチの声が、自分そっくりなのである。「あのさ……
『ん?』
「何でお前はパソコンでしゃべってるんだ? というか、何で俺と声がそっくりなんだ?」
『別に不思議なことではない。他人の空似はままあることだ。それと、パソコンでしゃべる理由は君に話す必要はない。突っ込まないでくれないか?』
スイッチは相変わらず無表情。声が似ていることにも動じていない。
それがますます、キョンの気分を悪くした。
「へえ……パソコンでしゃべる人か……。しかも音声はキョンそっくり……」
目の色を変えて、ハルヒはスイッチを見つめた。
その時、
「とったどーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
ヒメコの甲高い声が、廊下中に響いた。
その声に反応して、皆そちら側に走った。
「あの子たち、」ハルヒは不敵な笑みを浮かべて、「依頼でこんなことをやっているなんて、なかなか面白い活動してるじゃない……」
キョンはぎょっとなる。元々普通人でないハルヒが、また変なものに興味を持った。
これからどうなるかという不安が、頭をよぎる。
「お、ヒメコ、グッジョブだ!」
ボッスンが声を上げる。
イエティのつけている首輪が、ヒメコのホッケークラブに引っかかっていた。
白猿はがっくりとうなだれている。
捕獲成功。
それにあわせて、ボッスンとスイッチもヒメコの周りに集まってくる。
「おっしゃあ! スケット団、任務完了だ!!」
ボッスンは、ガッツポーズを上げながら声を上げた。
ハルヒと長門、キョンも思わずその場に集まる。
キョンはヒメコの金髪で白い顔を見て、思わず顔を赤らめ、さりげなく目をそむけた。
そこにハルヒの連絡を受けたみくると古泉もやってきた。
「スケット団……ボッスン……」ハルヒがけんか腰で、しかし冷静に言ってくる。「貴方……ボッスンとか言ったわね。なかなか面白い名前と活動をしてるじゃない。
せめて名前くらい改めて教えるのが、礼儀と言うものじゃない?」
いや、そんな礼儀はないだろう。
ボッスンはちょっと思ったが、せっかくだから他校の生徒に、自分たちの部の名をとどろかせるのも悪くないと思い、姿勢を正して、言った。
「開盟学園、スケット団部長、ボッスンだ!!」
そして右腕にある、黒字で白く『SKET』と書かれた腕章を見せる。
ヒメコとスイッチもそれを見て、
「私は副部長のヒメコ!」
『俺は書記のスイッチ』
右腕の腕章を同じく見せた。
「俺達、スケット団ス!!」
3人で決めポーズを取ると、なかなか様になる。
「成程。活動が面白いなら、名前も面白いわね」ハルヒは不敵な笑みを浮かべて、「私は北高SOS団団長、涼宮ハルヒ!!」
相手を指さす、お得意の決めポーズでがなった。
「涼宮……ハルヒ……。えすおーえす、だん……」
ポカンとするスケット団。
他のSOS団のメンバーも、呆れてものも言えない様子。
「あんた達の活動、気に入ったわ! これから追っかけをさせてもらうから!!」
恥も外聞もなく、ハルヒははっきりとそう言った。
「おいおい、それはこの人たちにとって迷惑だろう」
キョンがハルヒをたしなめる。
「こいつの言う通りだって……頼むからやめてくれ……大体お前らは他校の生徒だし、うちの部活の活動を邪魔されちゃあ困るんだよ」
呆れ声を上げるボッスンだが、ハルヒは全然聞きいれず、
「そうはいかないのよ! 不思議な出来事だけでなく、面白いことも探すのがSOS団の務め!」
「……ボッスン、こんな変な子は無視して、さっさと帰らへんと。矢場沢さんが待っとるで」
ヒメコがボッスンの肩に手を置き、進言してくる。
ボッスンも納得したらしく、とりあえずハルヒの言うことは無視して踵を返し、黙ってヒメコと去っていく。
『と言うわけだ、俺達にはあまり近づかないてくれ』
最後にスイッチがハルヒにくぎを刺し、ボッスンとヒメコについていった。
「何よ何よ!! 逃がさないからね! 私は狙った獲物は逃さない主義なんだから。大体、パソコンでしゃべる男と言うのも珍しいじゃない。声はキョンそっくりだし!!」
ハルヒはどんどんと足をふみならし、スケット団に怒鳴った。
キョンは、まあまあとハルヒをたしなめ、強引に引きずる形で他のメンバーと共に部室に戻っていく。
ほかのメンバーの顔を見る。
どうやら一連の彼女の言動は、まるっきりの冗談だと思っているらしい。
開盟学園、スケット団の部室。
スケット団のメンツは、依頼人にペットを捕獲したことを報告した。
依頼人のぽっちゃりした少女は、イエティを抱きかかえ、
「ありがとうね。ヤバイバーイ」
おさげ髪を振りながら帰っていった。
その後、暇になったボッスン達は、次の依頼を待つことになった。
「SOS団、ねえ……。あいつもちょっと変わった奴だなあ」頭に腕枕をしながら、ボッスンは呟く。「俺達に妙に興味を持っていたみたいだけど、どうしようか」
お茶を入れ、配っているヒメコが、ボッスンに聞いてくる。
「ボッスン、どしたん?」
「何でもねえよ」
『俺達に近づいてきた、あの北高の女の子たちのことか?』スイッチは勘が鋭い。『確かに、目の色が違っていたからな。特にあの女の子は』
「よくわかったな、スイッチ。……そうだよ、あの女の子たちのことだよ。涼宮ハルヒとか言ったな。俺達の追っかけをするとか言ってたし……あいつらに名を名乗ったのはまずかったかね」
「まあまあ」隣のヒメコが、「別に一時の気の迷いじゃあらへんかね」
『とりあえず、あいつらのことは暇があった時に調べよう。SOS団のことについて何か分かるかもしれない』
スイッチが冷静な声でたしなめた。
「SOS団、ね……」
「スケット団、か……」
部室に戻り、ハルヒは椅子に座って腕枕をしながら物思いにふけっていた。
「あの子……」
キョンもまた、腕組みで立ちながら、ヒメコの金髪で白い顔を思い出していた。
夕方の部室は、緋毛氈を敷きつめたように明るんでいる。電気をつける必要がない程に。
「2人とも、どうしたんですか? もしかして恋……?」
目を輝かせながら、みくるが近づいてきた。
キョンは「うっ」と呟いて、みくるから目をそむける。
返す返すも、一目ぼれなんて自分らしくないと思った。
「それはないない」
長門が冷めた声で言った。
「まあ、とりあえずあのイエティが捕まったんですから、終わりよければすべて良しじゃないですかね?」
古泉がさわやかな笑顔を浮かべつつ、しかしながら的の外れたことを言ってきた。
ハルヒはしばらく瞑目して、何かを考えていたようだったが、急にドンと立ちあがって、
「ようし、みんな!! さっきも言ったけど、明日からスケット団の追っかけをするのよ!!」
「はあ!?」
皆がドン引きしながら呆れ声を上げるのも気に掛けず、ハルヒは、
「つべこべ言わない! まず有希、スケット団についてネットで調べてくれる?」
「……わかった」
冷めた声で言うと、長門はパソコンに向かい始めた。
キョンは『また始まったか』とばかりの表情で、どかりと椅子に腰を下ろした。
「やれやれ……」
これが、SOS団とスケット団の、初めての出会いだった。
続く
正直、僕はギャグやコメディを書くのが苦手ですが、最後まで付き合ってくれるとありがたいです。