SOS団VSスケット団   作:SPIRIT

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第7話『透明少女・ハルヒ 後編』

 秋の末らしく、木枯らしが激しくなった中。

 キョンと古泉は、繁華街のど真ん中で落ち合った。

「どうですか、ご首尾は?」

「ああ、どうやらボッスンのやつがハルヒを見つけたらしい。ハルヒはつま先のあたりからもう見えはじめてきているから、隠れられる場所を探してほしいそうだ」

 神妙な顔で尋ねる古泉に対し、キョンはあっけらかんと答えた。

「機関からまた、閉鎖空間が頻発しているという情報が入ってきています。このまま隠れ場所を見つけられず皆に裸を見られたら、確実に世界は滅亡するでしょう。」

 いつもニコニコしている古泉だが、今回は不安と恐怖で表情がゆがんでいた。

「……そりゃあ、素っ裸で11月の空をうろついてるんだから寒くて当然だろう。皆に裸見られても自業自得。

まあ、とりあえず銭湯か何かを見つけなければ……」

 スイッチと長門のメールで、銭湯や温泉を確認した後、再び2人は分かれて、ハルヒの隠れる場所を探し始めた。

 

 

「待て待て、涼宮、いったん落ち着こう」

 灰色のビルの立ち並ぶ裏通りで、ボッスンはハルヒの腕と思しき部分をつかんで押さえた。腕が寒さで細かく震えているのが分かる。

「落ち着いてられないわよ!! 下から薬の効き目が順々に切れてるのよ!!」

「でもよお、隠れられる場所を探さねえと!」ボッスンはハルヒの腕をつかんだまま、再びスイッチと長門のメールに目を通し、「……そうだ、この銭湯ならば近そうだ」

 1つの銭湯を指差して、行く場所を決め、皆にメールを送る。

『これから俺達は、この銭湯に向かうから、急いでくれ』

 透明になったハルヒの体を改めて見ると、先ほどのケーキはなく、豆粒のように細かくなった状態になっている。

「あ、あれ……どうしたんだろう」

「どうやら完全に消化されたらしいな。とりあえずそっちの問題は解決と。ともあれ、この足をどうするかだな……」

 つま先から見え始めたハルヒの白い足は、どんどん見えるところが広がってきていた。

 ボッスンはポケットを探る。なぜかハンカチが複数あった。

 そのうちの2つを見えているハルヒのつま先にくるんでやる。

「な、何してんのよ……」

「見えると厄介だから、これでごまかすんだよ……」

 

 

 ボッスンはハルヒをうなり声を上げながら抱き上げた。

 それも、右手にハンカチでくるんだつま先を、左手に透明な両膝を抱えるような抱き上げ方である。

 当然、ハルヒの頭はさかさまになってしまう。

「あ、あんたすごい力ね……」

「キン肉マンじゃねえが、『火事場のくそ力』ってやつさ! 頭が逆さになっちゃうのは耐えてくれ!! つま先を握り飯のようにしてごまかす!!」

 なるほど、つま先にハンカチをかけると、握り飯をくるんだものに見えなくもない。

「……裸の大将じゃないんだから。それにそんなんでごまかせるの……?」

ハルヒの心配をよそに、細道を出て、皆が注目する場所をゆっくりとボッスンは歩み始めた。

「いいおにぎりが手に入ったなぁ……どんな味かなぁ……」

 とつぶやきながら。

 皆が奇妙な表情で、ちらちらと2人を見ていた。

 子供達は好奇心に満ちた目で、こっちに近寄ってきている。

「早くしてよぉ……頭に血が上るぅ……」

「静かにしててくれ、声を出したら不自然になるだろ!」

 ハルヒの不満の声を、ボッスンは小声で静止する。

 大人達はちらちらと見ながらも、かかわるのを恐れて誰もついてこない。

 厄介なのは子供達。友達と一緒に好奇心旺盛の目でついてきている。

「ああ……くそっ!」

 ボッスンは走れないので、早足にして横道に入り、子供達の目を上手くごまかしながら、細道を歩き回った。

 そして、再び大通りに戻る。

 子供達はどうやら、彼を見失ったらしい。

 

 

 それからどのくらい歩いたのか。

 長い間のように感じたが、時計を見ると10分しかたっていない。

 おまけに大通りから脱出もできてないから、あまり進んでないということになる。

「いいおにぎりが入った」

 とぼそぼそとつぶやくボッスンの耳に、サラリーマンの大声が入った。

「うわ!! 女の子のひざだけをこいつ抱えてる!!」

 そのサラリーマンの指差した先を見て、ボッスンはぎょっとなった。

 くるんでいるつま先から、脚の見える部分が広がっていて、両膝のあたりまで見えてしまっていた。

 ハルヒもぎょっとなってパニック状態に陥り、

「早くしてよ! このままじゃ本当に大事なところに到達してしまうわよ!!」

 急いでボッスンの腕から飛び降りた。

「待てよ! このままじゃ不自然になっちまうだろ!!」

「どっちみち不自然なのよ!! このままアウトゾーンに到達するよりましよ!!」

「待てって! ええい、もうこうなったら!!」

 ボッスンはハルヒの手をつかむと、ちょうど近くにあったインテリアショップへ連れ込んだ。

「な、何すんのよー!?」

 

 

 明るい電球が何棟もつくインテリアショップでは、ベッドやらカーテンやらが売り物の対象になっている。

「うわあ、あったかーい……」

 ハルヒのほんのりとした声。インテリアショップでは暖房がかなり効いていた。

「とはいえ、結構汗かく人も多いだろうな……。おっと、ちょっと待っててくれ」

 ボッスンは手近なトイレへと駆け出した。

 ハルヒは近くにあった売り物のベッドの布団にくるまる。

 羽毛布団で暖かい上に、肌に直に触れて気持ちいい。

 布団がもっこりしているのを周りが気にしているにもかかわらず、彼女はごろごろと布団を転がる。

「ちょっとお客さん! 何やってるんですか!!」

 店員がとがめてきたところで、ボッスンが戻ってくる。なぜかチェックのトランクスと灰色のブリーフパンツが片手にある。

「わ! まずい!! ちょっと待ってくださいおじさん!」

 ボッスンは急いでもぞもぞと布団の中に、自分のブリーフとトランクスを突っ込む。

「人の顔面に何くっつけてんのよ!!」早速怒鳴り声。「……もしかしてこれ、あんたの下着……?」

「このパンツで何とか見えるところを隠してくれ! 後は何とか俺がごまかす!!」

 ボッスンは小声で言うと、有無を言わさずにハルヒの脚に自分のパンツをはめる。

「いやよ、もっとましなのを隠すものにしてよー!!」

 というハルヒの文句も聞かずに。

「何してるんですかね。困るんですが」

 店員が怒っている。

 ボッスンはトランクスとブリーフでほとんど見えなくなったハルヒの両足を抱えながら、

「いやあ、新しい湯たんぽを買ったものでして、このベッドでどれだけ温まるか、実験していたんですわ。ははは……」

 そういいつつ、店員を無視してハルヒを抱き上げる。

「……とはいってもやっぱり見えちまうな。やっぱりここのトイレに隠れるしかないか……」

「こ……ここで!?」

 彼女はボッスンに担がれたままトイレへと急ぐが、そこのトイレは壁こそピンクなものの、床は灰色のタイル式。

 掃除も行き届いていないようである。

「いやよ、こんなとこをはだしで行くの! 絶対足が汚れるって!!」

「皆に裸見られるよりましだろ!? つーかノーパンになってるこっちの身にもなってくれよ!! アウトゾーンが寒いんだよ!! お前がトイレに隠れられればすべて解決するんだからさあ!!」

 仕方がないので、ボッスンは一緒に入ってきた女性の奇異な目線をかわしつつ、女子トイレの奥へと進む。心なしか歩き方が内股になる。

 顔から火が出るような思いだった。

「あーもう、何で俺が女子トイレに侵入しなけりゃいけないんだ……?」

 ボッスンはうつむき加減に進んでいくと、ハルヒの声が聞こえた。

「……トイレ、開いてないじゃない!!」

「あ……」

 なるほど、トイレは皆使用中で、すべて鍵がかかっているようである。

「しょうがない、撤収だ!! 次は男子トイレに!!」

「いやよ!! 男の立ちションとかアレとか見るの!!」

「……んなわがまま言える義理じゃねえだろ……」

 ボッスンは呆れ声を上げる。

 とりあえず、ハルヒを抱きかかえたままでトイレから店の入り口へと引き返す。

 店の入り口近くまで来たとき、

「あれぇ、ボッスン君……。もしかして、涼宮さんも一緒ですか……」

 気弱そうな声がかかる。

 見ると、朝比奈みくるであった。

「あ! 朝比奈さん!! いいところで会った!!」

「神よー!!」

 ハルヒのうれし泣きのような声が聞こえる。みくるはきょとんとして、

「この状況、どうなってるんですかぁ……?」

 ハルヒは見える部分を、ボッスンのトランクスとブリーフで隠され、横抱きにボッスンに抱き上げられている。

「あのねぇ! こいつねぇ!!」

「それはまあ、おいおい……。朝比奈さん、どっか手近なトイレはないですかねえ」

 文句を言うハルヒをボッスンは制止して、みくるにたずねる。

「……トイレなら2階にあると思いますよ……。 それにここのビル、4階が天然温泉になってますから。開いたばかりですけど……って、涼宮さん!」

「え? げ!!」

 みくるの指差した部分を見て、ボッスンもぎょっとなった。

 ハルヒの見えるところが太ももまで侵食しており、ボッスンの右肩のあたりでだらんと垂れ下がっていた。

「うわぁー!! これ本当にやべえ!! 急いで4階にいかねえと!!」

 ボッスンはハルヒを改めて持ち替えて安定させると、急いで4階へつながるエレベーターを探し始めた。全速力で走り、人の目に付かないようにする。

「ま、待ってください……」みくるは追いつこうとするが、もともと体力がないのですぐひいひいしてしまう。「本当に待ってくださいよぉ……」

「時間がねえんだ! 朝比奈さんはみんなに、こっちの温泉に変更すると連絡しておいてくれ!!」

 ボッスンはふと思った。

 長門とスイッチの行動は何だったんだろう。

 

 

 幸い4階へつながるエレベーターには誰もいなかったので、怪しまれずに4階までたどり着けた。

 昼ということでほとんど客は主婦のようで、右手で2人ぐらいくつろいでいる。正面には、店員と思しき恰幅のいい中年のおばさんが、退屈そうに宙をにらんでいた。

「ボッスン、あんたはあのおばさんの気を何とかそらして。私はその間に女湯に入るから」

「ちょっと待て、気をそらすっていってもどうすれば……」

 ボッスンがたずねるよりも前に、ハルヒは彼の腕から飛び降りて、駆け足で女湯へと駆け出していた。

 彼のパンツを脚にはめたまま。

 あわててボッスンは女将に声をかける。

「おばさん、すみませーん! この銭湯の切符売り場ってどこですかー?」

 おばさんは金壺眼をボッスンに合わせ、

「ここは天然温泉ですよ。あとここは、切符制ではなくて、ここでお勘定を払っていく仕組みなんです」

「あ、あ、ありがとうございます……」

 多少目が泳ぎながらも、彼は答えた。

 その間にハルヒは、どうやら更衣室に入ってしまったらしい。更衣室から悲鳴が聞こえないことを考えると、どうやら更衣室にお客はいないようだ。

 いや、それ以前、ボッスンのパンツを持っていってしまったが。

 ほっとボッスンが安堵の息をつくと、エレベーターからみくるがひいひいしながら出てきた。

 

 

 女湯の更衣室には誰もいない。

 ハルヒは大きく息をついて、自分の体を見てみると、ぎょっとなった。

 へそのあたりとアウトゾーンが侵食されてきていたのだった。

 あわててボッスンのパンツをかごに入れると、走って浴室に入っていく。

 さらにぎょっとなった。

 明るい浴室は4畳半ほどの広さしかないのに、若い女性やらおばさんやらが3人ぐらい体にタオルを巻いて歩き回っている。

「あわわ、何とかばれないように入らなくちゃ。」

 ハルヒは何の作戦も思いつかないまま、全速力で走り、真正面の黄色い大浴槽に飛び込んだ。

 

 

 そのまま、みくると一緒にボッスンは待機する。

 暖房こそ効いているものの、下着がないから、冷たい空気がダイレクトにボッスンの下半身に入ってきていた。

「あー……下半身が寒い……というかせめて入り口に入るときぐらいパンツ返してくれよぉ、涼宮ぁ……」

 ノーパンで下半身がすうすうするのを気にしつつ、ボッスンがつぶやいた。

「あ……、もしよければ、私のカイロを貸しましょうか?」

「パンツがねえから貼れねえよ! じかにカイロを貼ったら危険だって、しかも大事なところに!」

 ねぎらってると思しきみくるの言葉に、ボッスンは突っ込む。

 その時エレベーターから、キョンやヒメコら、SOS団とスケット団の皆が入り口にやってくる。

「どうですか!? 涼宮さん、裸なんて見られてませんよね!?」

 古泉がいのいちに声をかけた。

「ああ、大丈夫。というか俺のパンツもって浴室に入っちまったよ……」

「パンツってお前、女の子に何持たせてんだよ……しかも脱ぎたてを……」

「何とか涼宮さんの足が見えないように、ボッスン君が自分のパンツを使って見えるところをごまかしていたみたいなんです……」

 愚痴るボッスンに対し、突っ込むキョン。みくるが上手くフォローをかける。

「どっちにしてもほんまに世話の焼ける女やなあ! ボッスンもデリカシーなさすぎやで!!とにかくほら、涼宮の制服を持ってきたで」

 ヒメコが白いバッグをボッスンに見せる。中はまぎれもない北高のセーラー服。

「助かった。ありがとう、ヒメコ」

 ボッスンは手を首筋に当てて礼を言う。

 すると女湯から、

「ぎゃあああああああああああああああああああああああ!!!」

と悲鳴が聞こえ、ぞろぞろと服の乱れた若い女性やらおばさんやらが出てくる。

「え? え? どうしたんですか?」

 女将が聞いてくると、 

「湯船の中におばけが!」「ナイフを持った女が!」「いや、首なし女が!」などと悲鳴やら 怒鳴り声やらが聞こえてくる。

「首なし?」

 女将もボッスンたちも戸惑う。

「調べてみよう!」

 

 

 ヒメコとみくるを先頭に皆、黄色い壁に囲まれた明るい浴室へ行くと、驚いた。

 1つしかない大浴槽に、ハルヒが肩までつかっている。

 それは不思議ではないのだが、お湯につかっている部分だけは、ハルヒの白い体が屈折して見え、つかっていない頭の部分だけは透明のまま。

 ハルヒは、首なし人間になっている。

「す、涼宮……」

 唖然とするヒメコ達。隣でみくるが卒倒した。

スイッチは思いついて、

『すまん、水中では光の屈折率が違うから、透明人間は見えるの忘れてた……』

 ぼやくように言った。

「早く言えよ」とボッスンはつぶやくと、更衣室に戻って自分のパンツを回収した。

「ちょっとー!! あんた達何女湯に入ってきてるのよー!! スケベー!!」

ハルヒの怒鳴り声のあと、首から上だけが見えない女体が湯船からあがってきて、キョン・古泉・スイッチにたらいでお湯をぶっかけてきた。

「わわ! あんたの服までぬれてまうで!」

ヒメコはさっと白いかばんを後ろにする。

「涼宮さん! 裸見えちゃってますよ!!」

 古泉は顔を真っ赤にしてうろたえた。

男衆があわててそっぽをむいて逃げる中、キョンは、ま、これでとりあえず事件解決だな、と思った。

「とにかく、薬の効き目が切れるまでここで待機してくれ、ハルヒ」

 

 

続く

 




 この話をどういうオチにしたらいいのか迷ったけど、結局こんな形になりました。
 ひねったらもうちょっといいのが出たかなあ。というかパンツとか下ネタ使ったの生まれて初めてだよぉ……。
 ボッスンがブリーフとトランクスを重ね着していたというのは、自分の境遇に合わせました。(というか、書いてるこっちもそれで女の子の脚を隠せるのか疑問に思えてたりする)

次回はこの透明人間騒ぎで、チュウさんがピンチに立たされます。
 上手く危機を乗り切れるかな……?
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