SOS団VSスケット団   作:SPIRIT

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 今回はSOS団とスケット団がジェネシス大会に出場します。
 しかしジェネシスって、クソゲー入りしてるけど、れっきとしたスポーツなんじゃ……。



第9話『開幕! ジェネシス大会』

 それから3日は、別段のこともなく過ぎた。

 ……と言うと嘘になる。

 ハルヒ達は他校に迷惑をかけたと言うことで、北高から3日間の自宅謹慎を食らった。

 本来ならもっと長引くはずなのだが、古泉曰く、ハルヒがじっとしているのが嫌いだからこれだけ短くなったらしい。

 自宅謹慎が終わって翌日。

 ハルヒの風邪も治り、いつもの日常がすぎていく。

 SOS団パシリから平団員に戻ったキョンは、古泉と一緒にオセロをやりながら暇な時間をつぶし、ナース姿のみくるが皆にお茶を配り、部屋の隅っこで長門が黙々とパソコンを動かすのもいつものこと。

 そんな時、ハルヒがいつものハイテンションで、とあるチラシを持ってきた。

「みんな! 1週間後に町内ジェネシス大会があるのよ!! 北高SOS団の名を天下にとどろかせるために、ぜひとも参加しましょうよ!!」

 キョンはやれやれと息をついた。謹慎明け、すぐにこれか。

「断る。大体俺はジェネシスなんて知らないし」

 断っても有無を言わさず、こいつは参加を強制するだろうが。

 すると、パソコンを動かしていた長門が口を開いてきた。

「ジェネシスは競技人口こそ少ないけど、世界に広まっているスポーツ。アジアでは黄(ウォン)老師が広めたと言われている、ドッジボールとバレーボールが合わさったようなスポーツ」

「はあ……」

「実は開盟学園の山野辺邦夫先生は、黄老師からジェネシスの教えを受けている。彼の意をうけて開盟学園スケット団が、ジェネシス世界大会に参加して優勝してから、こっちの地域でも結構広まっている」

 またスケット団が絡んでいるのか。ともあれ、まさかここでも広まっているなんて、ちょっと信じられないな。

 そうキョンが思っていると、イエスマンの古泉が声をかけてきた。

「賞品はプロテイン1年分だそうですよ。僕と貴方とで、シュワルツェネッガーみたいになってモテたいと思わないのですか?」

「……いや、俺はいいよ。大体1年分ってどんくらいだよ……それに今のシュワは知事だぞ」

「ったく、相変わらず付き合いの悪いやつね!!」ハルヒが文句を言ってくる。「そんなら多数決にしましょうよ!! 参加したい人!!」

 挙手したのは、キョン以外の4人。

 みくるはスポーツが苦手なはずなのだが、恐る恐る手を上げている。ハルヒの機嫌を損ねるのが怖いのだろう。

 キョンは肩をすくめて、

「……わかったよ。参加するよ。しかしジェネシスのルールなんて知ってるのか?」

「だーいじょうぶ!! ためしにやってみたことあるから!! 有希、ジェネシスのルールを調べて印刷しておいてくれる?」

「わかった」

 長門がパソコンを動かし、ジェネシスのルールについて調べ始めた。

 キョンは、

「俺達以外に参加する人がいなくて、大会中止になるといいんだがな……」

 と呟いた。

 

 

「なあ、ぜひとも参加してくれないか!? 1週間後の町内ジェネシス大会!! ぜひともこの大会で、町内にもジェネシスの面白さを伝えたいんだよ!!」

 スケット団の部室では、地理教師の山野辺邦夫が訪れ、スケット団にジェネシス大会の参加をお願いしていた。

 山野辺先生と向かい合わせのボッスンはやる気なさげである。

「そうはいってもよお、俺達はこの前世界大会に出て優勝しちまったし。疲れちまって今更やりたくもねえんだよなあ」

「そやな。キャプテンだって、今回は参加を希望するかどうかもわからへんし……」

 ヒメコも同調する。

 山野辺先生は表情をほころばせ、

「それなんだけどな……。高橋さんはOKと言ってくれた」

「へ?」

 ボッスンたちが戸惑う前に、山野辺先生の後ろにある部室の入り口から、ドラえもんのしずかちゃんのようなおさげ髪をした女の子が入ってくる。

 キャプテンこと、高橋千秋である。

「ボッスン、私は参加してもいいわよ」

「……おいおい、お前も世界大会に出たんだから、もう十分なんじゃねえのか。それにソフトボール部はどうするんだね。お前本当のキャプテンだろ」

 ボッスンはやる気のない声で言ってきた。

「大丈夫。上手く折り合いはつけるから。それに副賞が焼肉食べ放題というじゃない。ぜひとも参加したいわよー!」

 キャプテンは小柄な割に大食いである。どうやら焼肉食べ放題という宣伝文句に惹かれてしまったらしい。

 スイッチは部屋の隅っこにあったロッカーから、長い紐のついたごつい虫取り網(モーニングスターという)を4人分取り出して、

『世界大会で優勝した俺達なら、ぶっちぎりで勝てるだろう』

「な、ボッスンもヒメコちゃんも、参加してくれるよな?」

 手を合わせて山野辺先生は、にこやかに参加を頼んだ。

「……分かったよ」

 しぶしぶ、ボッスンとヒメコは承諾した。

 

 

 それからSOS団とスケット団は1週間、ジェネシスの練習に打ち込んだ。

 ちなみにジェネシスのルールについて手短に説明すると、

① チームは4人1組、それぞれモーニングスターと呼ばれる紐のついた虫取り網のようなものと、バレーボール、ドッジボールコートを用意する。動けるのは自分の陣地の中のみ。

② コイントスで先攻・後攻を決める。

③ 攻撃側は相手陣地の中にいる相手チームのメンバーに向かってボールを投げ、相手の体に当たれば攻撃側に1ポイント、相手がモーニングスターでボールをキャッチできれば相手側に1ポイント(この時にモーニングスターの紐が地面についてなければ2ポイント)となり、得点したほうが攻撃側となる。

④ 誰にも当たらなければどちらも無得点となり、これが3回続いた場合は攻撃側と防御側が入れ替わる。

⑤ 得点は1ポイントにつき7点となり、先に49点とったほうの勝ちとなる。

「しっかしバレーボールにドッジボールコートを使うって、胡散臭げなスポーツだな……」

 練習中、キョンはつぶやく。

 やがて運動音痴のみくるは補欠兼応援団員として、ハルヒに指名されることになった。

 

 

 町内ジェネシス大会、当日。

 会場となった体育館近くのドッジボールコートは、ガラガラどころか人の波であった。

 子供から親子連れ、お年寄りまでもが座席に座り、食物の売り子がサンドイッチやらおにぎりやらを売りさばいていた。

 入り口付近では参加者と思しき老若男女が、自分の身長に合った長さのモーニングスターを借りている。

「にぎわってるわねえ! この大会で優勝すれば、北高SOS団の名はさらに広まるわよ!!」

「そうですね。僕もプロテインをぜひとも取って、体を鍛えたいですし」

 からからと笑いながら言うハルヒに対し、古泉が例のごとく同調の姿勢を取ってくる。キョンは自分の格好を気にしながら、驚きの表情で、

「こんなにみんなジェネシスに興味があるのか……。まあ物珍しさで集まってるとも思うんだが……」

 SOS団のメンバーはみくるを除いて皆、学校の体育着の上に赤い半被、頭には黄地に黒く『億万長者』『小春日和』などと四字熟語もどきが書かれた鉢巻、背中には同じく黄地に『SOS団』と書かれた幟旗をつけているという仰々しさ。

 もちろんハルヒの発案である。彼女自身は他の皆と同じ格好で、赤字に白く『天下御免』と書かれた鉢巻をつけている。

「ところで長門、どんな人たちが競技に参加するんだ?」

 キョンが尋ねると、長門は無表情でパソコンを動かしながら、

「まちまち。老人ホームや町内子ども会、中年サラリーマン、主婦の社交クラブなど」

 おいおい、年齢とか男女比率とか考えないのかこの大会は……。

「それと」長門が続ける。「桜ヶ丘高校と榊野学園からも参加する人たちがいる」

 唯一黄色いポンポンと青いミニスカートというチアガール姿のみくるは、長門のパソコンを覗き込みながら、

「桜ヶ丘代表主将は軽音部部長の田井中律さん……榊野代表主将は天文部部長の西園寺世界さん……何でこの人たちが参加してるんだろう。

あっ、ひょっとしたら山中先生と澤永さんも来るかも!」

「それは俺もわかりませんよ」

「大事なことがあった」長門が声を出す。「涼宮と古泉も聞いて」

 ハルヒと古泉は振り向いた。長門は真剣な顔で皆に向き合う。

「何なのよ。大事な話は相手に気を持たせず、すっぱり言うべきでしょ」

「開盟学園、それもスケット団がこの大会に参加することになっている。

メンバーも、かつて世界大会で優勝したときと同じメンツ」

 皆の表情に、同じ翳が走った。

「なーに話してんだ? ……っていうか、何だその格好は?」

 うわさをすれば影、ボッスンらスケット団がこちらにやってきた。

 おさげ髪の女の子と、山野辺先生と思しきグラサンオールバックの中年の男性が隣にいる。

 ヒメコの隣にいるおさげ髪の女の子は、ハルヒを見た瞬間、少し後ずさりをした。

 山野辺先生はじっと品定めをするように、SOS団全員を見つめている。

 ハルヒはハイテンションで、

「何って何よ! これがSOS団のユニフォームよ! それにいっつも半ズボンとサンダルのあんたに言われたくないわ! ところでボッスン、誰、この人達?」

「おさげの子は高橋千秋、ソフトボール部キャプテン。中年のおっさんは山野辺邦夫先生だ。……それにしても派手な格好だな」

「山野辺」長門が口を開く。「ジェネシスをアジアに広めた黄老師の教えを受けたと言う……」

『よく知っているな』

「成程、その目……」山野辺先生はグラサンを動かしながら、「君達ならスターライトキャプチャーになれる可能性も高そうだ」

 何じゃそりゃ。

「正直君達は、我がチームの強大なライバルになると思うね」

「本当ですか!?」ハルヒは大喜び。「ぜひとも貴方達のチームと戦いたいですよ!!」

「何言ってんだか……」ヒメコは冷淡である。「あんたらなんか初戦で敗退が関の山やろ。経験や経験」

「なにぃ!!?」

 彼女の発言にいきり立ったハルヒをキョンは抑え、

「あの時は冗談のつもりでああ言ったけど、まさかどちらも競技に参加して、こうやって顔を合わせるのは不思議なぐらいです。

お手柔らかにお願いしますね、ヒメコさん……」

 ヒメコも言い過ぎたと思い、

「それもそやな。ま、健闘を祈るわ……」

 開盟チームは踵を返し、コートの中に入っていった。

 SOS団の姿が見えなくなると、

「あれが、北高SOS団……?」

 キャプテンは不安な表情で、ボッスンに囁く。

「ああ、そうだけど……」

「あの人達、ボランティアとか偽って、周りにいたずらやら幽霊騒ぎやらを起こしているという話よ。生徒会の椿君にはすでに目をつけられてるらしいし……」

 どうやら透明人間騒ぎの一件以来、開盟ではSOS団に関して悪い噂が広まってしまっているらしい。

 まあ確かに幽霊騒ぎとか起こしているし、胡散臭げな集団でもある。

 とはいえ、話せば悪い人ではないだろう。

「大丈夫だろう、調子に乗らなければ悪いことは起こさねえやつらだ。それに面白いことが大好きな連中だしな。キャプテンも『キャプ食い』見せてあげれば? 気に入ると思うぜ、あいつら」

「よしなはれや、ボッスン。キャプテンは大食いをコンプレックスとしとるんやで」

「あ、いや、コンプレックスとまではいかないけれど、ちょっと恥ずかしいかな、と思って」

 ボッスンをたしなめるヒメコに、キャプテンは頬を染めて返した。

 

 

「ヒメコの奴……言いたい放題言ってくれるじゃない……!」ハルヒは歯軋りをしながらつぶやく。「世界大会で優勝したからといって舞い上がっちゃって……こうなったらぎゃふんと言わせたいわよ……!!」

「よせよせ。山野辺先生はジェネシスの創始者から教えを受けた人だ。ヒメコさんがその人に教わって、世界大会でも優勝したわけだから、とてもかなう相手じゃない」

 対照的にキョンは、あきらめ気味である。

 ハルヒはそれをまったく意に介せず、

「よーし、こうなったらスケット団を打ち負かして優勝を狙うのよ!!」

「はあ?」

 呆れ気味のキョンを気にもせず、ハルヒは、

「世界大会で優勝したスケット団を下したとあれば、SOS団の名はさらに広まるわよ!!

今回の目標は『打倒! スケット団!!』よ!!」

 キョンの口から「やれやれ……」と言う声が流れた。

 大体ジェネシスからしてマイナースポーツなんだし、そんなに知名度が広まるかどうか。

 俺達の変態性は高まりそうだが。

 やがて対戦カードが決まり、皆掲示板に集まる。

 トーナメントを見たキョンの第一声は「げ……」だった。

「これじゃあ俺達、決勝までスケット団と戦えないじゃないか……」

 横から古泉がやってきて、

「どうやら涼宮さんは、一番盛り上がる結びのステージでスケット団と戦いたいと思っているみたいですね。おいしいところは最後に持っていくと」

「その前に俺は帰るぞ……」

「そんなことをしては、涼宮さんの機嫌を損ねてしまいます。世界を守るためと思って、どうか付き合ってください」

「わかったよ……」

 キョンの口から再び「やれやれ」という言葉が出てきた。

 

 

 ついに対戦が始まった。

 ドッジボールコートは2つ設置してあり、2試合同時にすることが可能になっている。

 とはいえお互いの競技の邪魔にならないだろうか、とキョンは思う。

 ちなみに背中の幟旗は、競技の邪魔になるということで外さなければならなくなった。

 SOS団の最初の相手は、榊野学園代表。

 ハルヒとセミロングヘアーに1本アホ毛をたらした女の子が向かい合わせで、コイントスを行う。

 隣ではスケット団と桜ヶ丘代表がコイントスを行っている。

「先攻! 榊野学園代表!!」

 審判の声と共に観客席から、

「西園寺!! 頑張れよー!!」

「りっちゃんも、優勝候補なんてくそくらえの気持ちで打ち負かしちゃいなさーい!!」

 長身で茶髪、能天気そうな男性と、茶髪を腰にまでたらした眼鏡の女性が声をかけてくる。恋人同士のように腕を重ね合わせながら。

 一方、おどおどしていたみくるは、その声をかけてきた男女を見て、はっと胸をつかれた。

「もしかして、澤永さんと、山中先生……?」

 その時、審判の声が入る。

「さあ、ウォークライダンス、はじめっ!」

 それと共に、審判は変な踊りを始めた。榊野メンバーとSOS団、スケット団と桜ヶ丘メンバーも同じように踊り始める。

「ハーイハーイハーイハーイ、トントントントン……」

 両手を挙げて腕と腰を反対方向に動かす。何だか水中でワカメがなびく感じである。その後片足けんけん。

 キョンは、この踊りに何の意味があるんだ、と思いつつも、見よう見まねでウォークライダンスを皆と一緒に踊り始めた。

 飄々と踊る周りを見て、すごいなと思った。

 

 

 榊野側が先攻。

 青と白の体操服を着た榊野主将は、バレーボールを右肩の上に上げて構える。

 キョンは剣道の正眼のようにモーニングスターを構え、相手側の攻撃を待った。

 小半時ほど経つ。

 隣のコートで、スケット団が早速先制点を入れる。

 それと同時、

 主将は姿勢を低くし、掬い上げるようにボールを投げてきた。

 アンダースロー。

 キョンがその動きに見とれていると、すぐ近くにバレーボール。

 ガンッ!!

 キョンの顔面に、見事に激突した。

 無様な格好で、仰向けに倒れる。

「ブレイク! 榊野1ポイント!!」

 審判の声と共に、ハルヒの、

「何ボーっとしてるのよキョン!! ちゃんと取りなさいよ!!」

と言う不満の声と、

「あ……ごめんなさい!! 手元が狂っちゃった……」

 榊野主将の声が聞こえた。

「いえいえ……大丈夫です……」

 ばつが悪そうにキョンはふらふらと起き上がる。

 隣では、キャプテンの「行くわよ!」と言う声。

 すると桜ヶ丘主将がその声に反応し、

「あー、あー……、そういえばアンタ、私と声そっくりだなあ」

 するとキャプテンも「あー、あー」と言い、

「確かにそうね……」

 投げかけたバレーボールを降ろしてしまう。

「そんなことどうでもええやろ!! はよはじめろや、キャプテン!!」

 ヒメコの文句が飛んできた。

 キョンは、ま、俺とスイッチのこともあるからな、と思いつつ、競技に集中した。

 

 

 榊野主将のそばで、長身で短髪、ボーイッシュな少女がなにやらひそひそ話をしている。

 主将はうなずくと、「頼むわね、七海」と言ってボールを彼女に渡す。

 先ほどと同じことがないように、モーニングスターを正眼に構えてキョンは待った。

 少女の視線は、キョンに集中している。

 …………

 時間が妙に長く感じる。

 少女はボールを投げた。が、キョンに投げたのではない。

 古泉のひざに向けて投げたのだ。

 狙いをはずさず、ボールは彼のひざに吸い込まれてゆく。

 が、その前、一瞬。

 目にも留まらぬ、いや、目にも映らぬ速さで、長門が横に突っ走り、ボールに向かって横っ飛びをかけた。

 パシッ!

 ボールは見事に、長門のモーニングスターに入る。

このときの横っ飛びで、モーニングスターの紐は地面についていなかった。

「ネッティン! 北高SOS団2ポイント!」

 審判の判定がこだました。

「やるじゃない、有希」

 ハルヒも感心して、長門をほめたのである。

 

 

 みくるは我を忘れてしまっていた。

 山中先生と澤永さんがすぐここにいる。

 自分が応援団員であることもすぐに忘れ、こっそりとコートから抜けると、2人のもとへ駆け出していた。

 いろいろな話が聞きたい。

 観客席へ駆け寄ると、件の2人は仲良く手をつなぎ、試合の動向を見ていた。

 みくるは、「うん」とつぶやき、2人に思い切って声をかけることにした。

「山中先生と、澤永さん……ですよね……」

 2人は瞬きしながら視線をみくるにむけ、

「そうだけど……」

「君はいったい?」

 2人の問いかけに、みくるはおどおどしながらも、

「ええと……私は北高SOS団のマスコット、朝比奈みくると言います。山中先生と澤永さんが付き合っているというのは前から知っていて、どんな生活をしているのかいろいろと聞きたくて……」

 彼女のもじもじした調子に、澤永は、

「そんなに堅くならなくてもいいじゃないか。実際俺とさわちゃんはラブラブ生活でさあ。夜な夜なベッドを共に……」

 このあとの言葉は、バキッと言う音にさえぎられた。

 澤永の顔を叩き潰したのは、16歳くらいの中肉中背、しかし王子を思わせる容姿の好男子。

 その手を7歳くらいの小さな少女がにぎっている。これは大方彼の妹だろう。

 妹のもうひとつの手を、16歳くらいの黒髪を腰までたらした少女が握っている。

「やらしいからやめろって……」

 その少年は、裏拳を開いて言う。

「誠君も、もう少しマイルドなツッコミの方法があると思いますけど」

 黒髪長髪の少女が言う。よく見るとこの少女の胸は妙に大きく、みくるは、自分とどっちが大きいんだろうとちらりと思った。

「あ、あのお、貴方達は……」

「あ、その……私、桂言葉(かつらことのは)と言います。こっちは彼氏の伊藤誠君」

 多少どぎまぎしながらも、桂と名乗る少女は答えた。

「お、おい言葉……。彼氏なんて恥ずかしいからやめてくれって……」

「いいじゃないですか」 

 その話を聞きながら、みくるは、この人がヘテロカップル第0号の伊藤君かと思った。

 どうやらこの容姿だと、平沢さんより先に彼女がいたと言う話も嘘ではないだろう。

「あ、あのお……ヘテロカップル第0号の伊藤君ですよね……」

「ん? 何ですか、それは?」

 伊藤は何がなんだか分からない様子。

「ホントお前、世間の噂話に興味ないのな」

 澤永が鼻を押さえつつ、突っ込んでくる。

「伊藤さんと桜ヶ丘の平沢さんが付き合ってたと言う噂は、北高でも広まっていまして……平沢さんはどこですか?」

「ああ、唯ちゃ……平沢さんなら、さっき弁当を買いにいって……あ」

 伊藤達のところに、茶髪ショートボブの女の子と、桂と同じく髪を腰までたらした、姫カットで背の高い少女が、両手にスーパーの袋を手にしてやってきた。

「おまたせー、マコちゃん! ……あれ、その人は?」

「あ、平沢さん。この人はどうやら北高の人で、朝比奈みくるさんっていうらしいんだけど……俺と平沢さんの仲についても知りたいらしくて」

「ホントに!?」

 と興奮する平沢を、隣の背の高い少女がさえぎり、

「まああれは、単なる事故さ」割って入ってきた。「唯の奴が、伊藤に彼女がいるとわかってながら首突っ込んできて、それで言葉とごたごたしてさ」

「そう……なんですか」

 みくるはちょっと信じられなかった。大体最初、伊藤は平沢のことを名前で呼ぼうとしていたし。

 確かに今、伊藤の彼女は桂だけど、まだまだ伊藤は平沢に未練があるのかもしれない。

「それよりさあ、私と泰ちゃんの話は聞きたくないの?」

 話から置いてけぼりにされた山中先生が、不満げにぼやいた。

「あ、いえ! 聞きたいです!! どんな生活を澤永さんとしてるんですか?」

「それはね……」

 わくわくしながら聞こうとするみくる。

 ぺらぺらと山中先生は、みくるに自分達の関係について話し始めた。

 

 

 みくるのいない間、試合はどんどん進んでいった。

 ジェネシスに不慣れな北高SOS団は、榊野側に少しずつ押されていった。

「ネッティン! 榊野1ポイント!!」

 再び榊野側に1ポイント入る。チェックメイトだ。

 コリコリコリコリ……。

 すると何やら、異様な音が響いた。

 何だとキョンが思っていると、ハルヒの歯軋りの音。

 古泉はふっと表情を曇らせ、

「また閉鎖空間が発生してるみたいですね……」

 スコアは42対14で榊野がリード。

 すなわち、榊野側が王手をかけている。

「みくるちゃん! こんなときには応援するものでしょ……って、あれ……?」

 コートの外側にいるはずの、みくるがいない。

 ハルヒの歯軋りの音が、さらに大きくなっていった。

 いつも笑顔の古泉も青ざめ、

「まずいです……閉鎖空間がどんどん広がってきています。このままだと本当に世界が滅亡するかもしれません」

「……ったく、朝比奈さんも朝比奈さんだが、本当にハルヒはでたらめなやつだ」

 キョンのいつものボヤキである。

「とりあえず、長門さんに相談してみますね」

 長門は相変わらず飄々としている。その耳に、古泉はそっと何かをささやいた。

 

 

 ふたたび試合開始。

 短髪で長身の少女が、再び剛速球を投げてきた。

 今度はハルヒの下半身を狙って。

 長門がそれを見て、何かぼそぼそとつぶやく。

 すると奇妙なことに、バレーボールはハルヒの足に当たる直前で、ぴとりと空中で停止してしまった。

「今だ!」

 ハルヒはこれ幸いと、金魚すくいのようなフォームでボールをキャッチする。

「ネッティン! 北高SOS団2ポイント!」

 審判の声。

 得点は、42対28。

「ちょっと待て、さっきボールが空中で停止してただろ!! 何でそんなことが起きたんだ!?」

 短髪で長身の榊野生徒が文句を言ってくる。

 古泉が頭をかきながら前に出て、

「すみません。僕達、ちょっと非常識なチームでして……」

「非常識でも何でも、ボールが空中でとまったんだぞ!! ありえねーだろそんなもん!!」

「……とにかく、このまんまだと試合が進みませんから、我慢してください」

 古泉が笑顔で往なして、自分の陣地に戻っていく。

 不機嫌な表情で少女も戻る。

「この調子でがんがん行くわよ!! ボッスン、見てらっしゃい!! ……って、あれ?」

 隣のコートでは、勝負がもう決まっていた。

 スケット団の圧勝。

「わりい」ボッスンはハルヒに声をかけてくる。「俺達はもう勝っちまったから。せいぜい頑張れよ」

 そう言って他のスケット団メンバーと一緒に、観客席のほうに行ってしまった。

 後にはひざをついた桜ヶ丘キャプテンだけが残る。

 ハルヒは再び歯軋りして、

「このおっ!! みんな、勝つのよ!! 絶対勝つのよ!! みくるちゃんも何やってんのよ!! あとでこっぴどく叱らないと!!」

 皆々にがなる。

 キョンは再び、やれやれとつぶやいた。

 

 

 再び攻撃側はSOS団側に。

 ハルヒは再びボールを投げる。

 剛速球というべき速さであったが、榊野チームは何とかかわす。

 すると再び、長門のぼそぼそと言う声。

 次の瞬間、投げたボールはブーメランのように大きく曲がって戻り、榊野メンバーの背中に激突する。

「ブ、ブレイク! 北高SOS団1ポイント!!」

 審判も戸惑いながら、判定の声を出す。

 ボールを当てられた生徒は、何がなんだか分からず戸惑う。

 返す返すも、長門は万能だとキョンは思った。

「ちょっと待って! 今ボールがブーメランのように戻らなかった!?」

 榊野主将が文句を言ってきた。

「いやあ、すみませんねえ。僕達の少しな非常識さがこういう出来事を起こしてしまいまして……」古泉が頭に手を当てて、再び弁明してくる。「たぶん風も強いんで、ボールも曲がってしまったんだと思います」

「いや、風が吹いていてもこんなに大きく曲がって戻ってこないでしょ!?」

「まあ、僕たちはちょっと非常識な集団ですから……」

 古泉は苦笑いしながら往なした。

 キョンは小声で、

「もうこれ以上、長門の力を使わないほうがいいんじゃないのか?」

「とはいえ、この試合で勝たないと確実に世界は滅んでしまいますから……。おまけにもう榊野側にチェックメイトがかかってますしね……」

 世界の行方が、一人の少女の機嫌にかかっているなんて、本当に世界の価値がべらぼうに下がってしまったもんだ。キョンは改めて思った。

 

 

「す、すごいですう……」

 みくるは試合の行方を気にもせず、山中先生と澤永の話を聞きながら、目を輝かせていた。

 2人は結構やることやっているらしい。

 ピクニックに行ったり、一緒に買い物をしたり、温水プールで泳いだり。

 たまに伊藤と桂もつれて、ダブルデートをすることもあるらしい。

「私も早く、彼氏を作りたいですよお……」

 目をきらきらと輝かせて、みくるは言う。

「まあ、朝比奈さんなら」伊藤が穏やかな声で、「いい彼氏できると思いますよ」

「おいおい、その台詞俺に言わせてくれよお!」

 澤永が文句を言ってきた。

「いいじゃんかよ。……あれ、あの子」

 伊藤の指差した先を、みなは注目する。

 みくるの額に冷や汗が流れた。

 長門が目にも写らない速さの剛速球を投げ、榊野生徒をなぎ倒してしまっていた。

 当然北高側に1ポイント入り、同点となる。

「何なんだあの子……どんだけスポーツ万能なんだ……」

 澤永が唖然としてつぶやく。

 みくるはうろたえていた。

 自分達の普通でない部分を、彼らに見せたらまずいのでは……

 ちらりと横を見る。

 観客席の中で、紛れもない椿が、瞠目しながら試合の様子を見守っていた。

「あいつら……何者なんだ……?」

 とつぶやきながら。

「あわわわ……」切羽詰ったみくるは、「ご、ごめんなさいっ!!」と言って桜ヶ丘と榊野生徒達の間を抜けて逃げ出した。その様子をハルヒが目撃したらしく、

「こらあっ! みくるちゃん!! 早く戻って応援しなさいよっ!!」

と怒鳴り散らしてきた。

 その間にキョンが、ボールを榊野生徒に向かって投げる。

 長門のぼそぼそ声によってボールは加速し、ボールは長身の女子生徒のつま先に当たった。

 42対49。

 北高SOS団の勝利であった。

 

 

「やったあ!! 1回戦突破だあ!!」

 ハルヒは大喜び。対照的に榊野主将は、 

「あれこれがんばったのになあ……」

 と、がっくりした表情。

 すると桜ヶ丘主将の、茶髪でカチューシャの少女がやってきて、

「なあ世界。あんたも負けたのかあ」

 榊野主将は隣の対戦スコアを見ながら、

「律さんも残念でしたね。まあ、さすがは優勝候補といった感じですけど」

「ちくしょう!! こうなったら世界!! このグラウンドの土を持って帰るぞ!!」

「……律さん、そういうのは甲子園でしょ……」

 掛け合っている桜ヶ丘代表と榊野代表の2人のそばに、山中先生と澤永、それに伊藤と平沢、桂ともう1人の黒髪長髪の少女がやってくる。

「ま、今回は残念だったな!! ファミレスにでも行ってなんか食おうぜ!! 全部誠がおごるからよ!!」

「おいちょっと、勝手に決め付けるなよ!」

 短髪で長身の少女は、「いや、私は帰るわ」と言ってさっさと立ち去ってしまう。

「いいじゃないですか」桂が伊藤の腕にくっついたまま、「誠君なら、いい店を知っていると思いますよ」

 とねぎらってくる。

 榊野主将は、

「それにしてもSOS団って、何者なのかしら……。なにやら超能力みたいなものを使えるみたいだけど……」

 と、誰にも聞こえないようにつぶやく。

 その会話を聞きながら、キョンは思った。

 1回戦で敗退したこいつらと、残った俺達のどっちがラッキーなんだか。

 観客席にいるスケット団の様子を見てみる。

 なにやら唖然として、SOS団の皆を見ていた。

 そりゃあ、あれだけトンデモな物を見せられりゃあな……

 コートに戻ってきたみくるを、ハルヒは思いっきりしかりつけていた。みくるの頬をひっぱたきながら。

「まったく、今回は接戦だったんだからね! みくるちゃんの応援が必要だったのになんでいなかったのよ!! こうやって面白げな表情にしちゃうからね!!」

「や、やめてください……。それより、長門さんの能力をこれだけみんなの前で見せちゃって大丈夫なんでしょうか……椿さんも来てるんですけど……」

 みくるはひっぱたかれながらも、必死に抵抗する。

 スケット団と激突して勝利する時まで、ずっとこのごたごたが続くのか。

 キョンは悟り、いつもの「やれやれ……」と言う言葉をこぼす。

 

 

続く

 




 てなわけで、チュウさんの薬の次は、山野辺先生のクソゲーですね。
 ハルヒには草野球の話があるので、インドアゲームよりもジェネシスが一番引っ掛けやすいということでこのクソゲーを選択しました。(ハルヒの草野球についての話は『涼宮ハルヒの溜息(アニメでは第8話)』を見てください)
ジェネシスがどんなゲームか、そして世界大会でボッスンたちが何をしたかについては『ジェネシス・ジェネレーション(第3巻収録)』・『ジェネシス・ワールド・グランプリ(第14巻収録。アニメでは第49話)』を見てください。
原作を読むと専門用語がかなり多いので、それを省いて分かりやすくするのにかなり苦労しましたが。

 Cross Balladeのメンバーが登場しているのは伏線を結晶させるためなのですが……
 急に登場人物を増やしてごめんなさい、という感じです。
 彼らを見て、みくるが何を思うのか、そしてボッスンとハルヒにどう伝えるかがカギ。

 次回はいよいよSOS団とスケット団が直接対決の予定。
 ようやくタイトルどおりになったわけだ。
 ともあれ、ただの『スポーツ小説』を書きたくはないですので、ヘテロカップルも絡めて話を盛り上げていきたいのですがね。
 ちなみに、
『懸賞がプロテイン1年分、副賞が焼肉食べ放題』
 というのはまんまニセキュー!!(ニセコイとハイキュー!!のコラボ漫画)のパクリです。
 すみません。
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