日本国召喚 独立艦隊の奮闘 作:yyyyyyyyyyyyyyyyyyy
時は少しさかのぼり、皇都爆撃の少し前―――
「おいコウスケ、寝てるところ悪いがそろそろ起きてくれ。」
誰かが肩を揺らしてくる。
「―――ん?ああ....」
名を呼ばれた男、吉川はゆっくりと目を開ける。そこには自分を見下ろす艦娘「ペトログラード」の姿があった。
「...あれ?寝ちまってたか。起こしてくれりゃ良かったのに。」
体をゆっくり起こし、彼女に向き直る。
「深夜なんだから無理もないさ。それに、寝顔が面白くてな、そのままにしてやりかったんだ。」
そう言ってペトログラードは笑みを浮かべた。
イルネティアでの思いがけないトラブルのせいで予定が遅れ、帰港が深夜になってしまった。壁の時計に目をやると、時刻はまもなく1時になろうとしていた。
吉川はあることに気づいた。
「...わざわざここまで運んでくれたのか。重かっただろう、すまん。」
二人がいる場所は艦内にあるペトログラードの自室だった。
各艦にはその艦娘の個室が必ず備え付けられてある。
だがクレムリン級戦艦である彼女の船体は292mもあるためとても広い。艦橋から体の大きい吉川をここまで運んでくるのはとても大変だっただろう。
だが彼女は笑って自分の腕をたたいた。
「なに気にするな、28万馬力の私にとってこれくらい容易いことだ。」
もちろんこれは彼女の冗談だ。その出力を出せるのは艤装である船体だけで、生身の彼女は一般人より力が強い程度だ。
吉川は彼女の心遣いに感謝した。
「ああ、ありがとうペトロ。」
「上司を支えるのは旗艦として当然のことさ。それより、あと少しで佐世保に着くぞ。荷物も既にまとめておいたからゆっくり準備してくれ。」
「助かるよ。ありがとう」
吉川が礼を言うと彼女は部屋を出ていった。
彼もベッドから立ち上がり、下船の支度をする。
といっても、ペトログラードが全てやってくれていたので、壁に掛けられていたジャケットを羽織り、制帽を被るくらいしかやることはなかったが。
そして数十分後、艦隊は佐世保に到着した。
ペトログラードと一緒にタラップを下ると、誰かがこちらに走ってくるのが見えた。
吉川にはそれが誰かすぐにわかった。長いつきあいの「雪風」だ。彼女は吉川のもとにやってくると、そのままその胸に飛びついた。
「しれぇ!おかえりなさい!」という台詞とともに。
四人の提督を名前で呼ぶ艦娘が増えたが、呉時代から長く吉川と共に働いてきた雪風は、今更呼び方を変えるようなことはせずに「司令」と呼び続けていた。ちなみに、他の三人のことは名前で呼んでいる。
吉川も笑顔を見せて彼女を抱き上げる。
「ただいま雪風。まだ起きてたのか?」
「はい!しれぇの帰りをずっと待ってました!」
「そうかそうか、待たせてごめんな。今日は一緒に寝ようか。俺は少し仕事があるからまっててくれ。」
「わかりました!」
「よし、いい子だ。」
雪風の頭をなでてやる。すると奥からまた誰か出てきた。吉川は彼女にも声をかける。
「ただいま、ホーネット。留守中は色々やっててくれたらしいな。ありがとうよ。」
その艦娘「ホーネット」も答える。
「仕事だから気にしないで。皆もお疲れ様。」
真面目な彼女はいつも頼りになる。
外交官の真壁も今日は時間が遅いので空き部屋に一泊することになった。
真壁に風呂や寝室を案内した後、吉川は執務室に向かった。
ノックをして部屋に入る。
「うい~、ただいま帰りましたぁ~。」
そして気の抜けた言葉と共に、部屋のソファへなだれ込んだ。
机に座る森高は笑顔で迎える。
「お疲れ晃輔。大変だったな。」
隣に座る秘書艦の「北上」も声を掛ける。
「おうおう、こんな遅くまで大変だったねえ。」
だらりとソファに寝そべったまま吉川は答える。
「ああ、本当にしんどかったよ。遅くまで待たせて悪かったな。」
「大丈夫だ。報告書は作成しておいたからもういつでも寝れるぞ。」
森高と北上は早めに報告書を作っておき、わざわざ起きて待っていてくれたのだ。
吉川は改めて二人に礼を言い、立ち上がって今回働いた艦娘達に振り返る。
「よしみんな、これで一段落だ。明日から一週間休みになるから、ゆっくり休んでくれ。」
「了解しました!!」
各々が部屋を出て行き、最後にペトログラードも退室しようとしたところで、吉川に呼び止められた。
「なんだ?コウスケ。」
「おれもこの一週間の間に少し休みを取るんだが、俺と雪風と一緒に温泉でも行かないか?金は俺が出してやる。」
「オンセン!?いいのか!」
「来るか?」
「勿論だ!」
北上が横槍を入れてくる。
「いいなーペトロっち。ねー千鶴さん、私たちもどっかいこうよー」
「ん?ああいいぞ、また今度休みが取れたらな。」
「やったー」
佐世保では提督が4人いるので、その内の誰か1人いれば問題はない。このおかげで、転移後は提督達もそれなりの頻度でまとまった休みをとることができるようになった。こうして時々、艦娘を連れてちょっとした旅行に行く事もあるのだ。
およそ一時間後
「じゃあ明後日の朝4時な、そんじゃお休み。」
「お休みなさい、ペトログラードさん。」
「ああ、二人ともお休み」
ペトログラードと、雪風を抱えた吉川はそれぞれの寝室に戻っていった。
そして二日後―――
「よし、行こうか。忘れ物は無いか?」
「あ、ああ。大丈夫だ。」
「そんなに堅くなるなよ、似合ってるじゃないか。」
「それは良かった。クレムリン姉さんに見繕ってもらったんだ」
二人は車に乗り込み出発した。吉川の愛車は赤いフォード・マスタングだ。
車の中でペトログラードは話し始めるが、少し緊張しているようだ。
「これは、コウスケの車なのか?」
「ああ、そうさ。俺たちはだいたい佐世保にいるからあんまりお金を使ってないんだ。だからこうして時々でかい買い物をするか、誰かと一緒に旅行に行くくらいしか使い道がないのさ。」
「なるほどな...そういや、何故私を選んでくれたんだ?」
「ん?俺の艦隊の旗艦を務めてくれた奴を連れてっているのさ。さすがに全員は多いし、一番よく働いてくれたしな。」
「そうか...。」
「まあお前を誘ったのは他にも理由があるんだけどな。」
「えっ?」
「まあそれはまた後でな。」
「あ、ああ。わかった。」
車内にはご機嫌な音楽が流れる。
およそ一時間半後、二人は博多駅に到着した。
「そういえば聞いていなかったが、どこに行くんだ?」
「あれさ」
吉川は掲示板を指さす。
「...MATSUYAMA?ええと...確か愛媛県か。」
「正解だ。お気に入りの旅館があるのさ。初めてだろ?」
「ああ。というか佐世保から出たのは今日が初めてだ。」
「はは、そういやそうだったな。すっかり馴染んでるから忘れてたよ。海外にはちょくちょく行ってるのになんだかおかしな話だな。」
「そうなんだ。だから今日を本当に楽しみにしていたんだ。」
「そりゃ良かったよ。そろそろ行こうか。」
二人を乗せた飛行機は富山県へ向かった。
そしてその日の夕方五時頃―――
「ここに泊まるのか?」
「そうだよ。ここが俺のお気に入りさ」
「きれいな所だな....」
「そりゃ良かった」
二人が来ているのは、とある有名な温泉地にある旅館だ。昔ながらの和風旅館で、吉川は時々ここを利用していた。
玄関に入ると、きっちり和服を着た女将さんが出てきてくれる。
「吉川様、お久しぶりです。いらっしゃいませ。」
「お久しぶりです女将さん。またお世話になります。」
「よろしくお願いします。」
二人も挨拶をして、チェックインをすませ部屋に案内された。
「では、ごゆっくり。」
女将さんは手早く案内をすませると、丁寧に頭を下げて退室した。
10畳ほどの畳の部屋と、川に面した小部屋があり、いかにもといった風情だ。川のせせらぎが心地よい。
上着をクローゼットにしまうと、ペトログラードはそのまま横になった。
「良い部屋だな。タタミは好きだ。」
「俺もさ。日本人で畳が嫌いなやつなんてほぼいないだろうな。」
「ここの女将さんに顔を覚えられているのか?ずいぶんと親しい様子だったが。」
「まあ、それなりに来てるからな。でもこの世界に飛ばされてからはこれが初めてだ。」
彼女はふと疑問に思い、吉川に尋ねた。
「前には誰と来たんだ?」
「ん?あー、誰だっけな。前は榛名、その前が雪風と曙、でその前が高雄と愛宕?だったかな。最初は確か足柄と那智だったか?いろんな所に行ってたし、かなり前だからいまいち覚えていないな。」
「随分とまあ贅沢な旅行だな。毎回連れている女性が違うなんて。」
「自分でもそう思うよ。でも毎回同じだと怒られるしな。まあそのせいで女将さんにはとんでもないやつだと思われてたらしいがな。」
「ははは、そりゃそうだろう。」
「あれには参ったよ。誤解は解いたんだけどな。そんじゃあ俺はちょいと風呂に行ってくるわ。」
そう言うと吉川は着替えの浴衣を取ろうと立ち上がった。
これにペトログラードもぴくりと反応し、畳から身を起こす。
「私も...一緒しても?」
吉川は笑って答えた。
「もちろんさ。」
支度をした二人は部屋に鍵をかけて、貸し切りの露天風呂へ歩く。
「良かった、空いてるぞ。」
風呂場の鍵を確認し、吉川とペトログラードは脱衣所に入る。
「わあ...良い景色だ。」風呂場を覗いて、彼女は素直な感想を述べる。
決して広くはないが、屋根のついた檜の四角い浴槽がある。そこに湛えられた湯が濁っているのを見て、ペトログラードはほっと胸をなで下ろした。
「すまんペトロ、ちょっと通るぞ」
その後ろからいつの間にやら服を脱いでいた吉川が声をかける。振り返ったペトログラードは思わず息を呑んだ。元々服を着ていても分かる立派な体格だが、脱ぐとさらに凄い。腕はそれこそ丸太のようだ。しかし決して行き過ぎということもなく、まさに理想的な体型といえるだろう。
「そんなにジロジロ見られると少し恥ずかしいんだが...」
苦笑いしながら吉川は頭をポリポリとかく。ペトログラードははっとして一歩下がった。
「すっ、すまない。つい....」
「大丈夫さ。俺は先に入ってるからゆっくり来な。」
「ああ、ありがとう。」
彼女がそう言うと吉川は入り口の扉を閉めた。少しすると、湯をかぶる音が聞こえてくる。
ペトログラードは吉川が先に入ってくれたことに感謝していた。やっぱり彼の目の前で服を脱ぐのはいくらなんでも恥ずかしかった。
だが、せっかく好きな男と二人っきりでいられるというのに、こんなことで時間を無駄にしてどうする。意を決して、風呂場へ乗り込んだ。
吉川は川の方に顔を向けてゆったりと湯に浸かっていた。
「こっちを見るなよ...」と伝え、かけ湯をして湯船にゆっくりと入る。
肩まで浸かると、彼女は思わず息をはいた。熱すぎず、それでいて温くもなく、少しとろみのある湯が肌に心地良い。
「ああ...これはいいなあ。疲れが取れそうだ。」
「だろう?温泉は最高さ。」
「だな。こういう事が出来るから、生きているってのは楽しい。」
「そうだな...。船のままじゃ風呂に入るどころか、食事も出来ないもんな。」
話に花が咲く。いつのまにかペトログラードの緊張は消えていた。いろいろと話す内にいつしか話題は移り変わっていた。
「―――この世界に来てからそろそろ一年か、早いもんだな。クビになるかと思ってたんだが、こんなことになるとは思っていなかった。お前もそうだが、未成艦はあったが、設計だけの計画艦が建造で出てきたことは今まで無かった。」
「そうらしいな。」
「この世界に来てからというもの、不思議なことばっかりだ。だけど、国が転移するなどと言うあり得ない事が実際に起きたんだから、もう何が起きても一概に馬鹿げてるなんて言えないな。」
「うむ...。」
「....そういやさ、朝は言わなかったけど、今日お前を誘ったのにはもちろん理由がある。単純だけどお前に礼が言いたかったのさ。」
「...?」
「何だか上手く言うのは難しいんだが、何と言えばいいかな。俺以外の三人には、パートナーや相棒といって差し支えない艦娘が一人か二人はいるんだ。千鶴は扶桑とサラトガ、京介は霧島、一誠は鳳翔さん...あれはもうほとんど夫婦みたいなもんだが、そういうのがいる。そいつらは全部、9年前の最初っから一緒にいる。俺の所の呉では、最初に出会ったのは雪風と曙だった。もちろん長いつきあいで今でも大好きだが、パートナーというよりは親子って感じでな...」
「ふむ..」
「もちろんそれが嫌ってわけじゃないんだが、俺だけ少し違っていてな...。んで、佐世保に鎮守府が統合されてから産まれたお前は、不思議と俺と気が合った。いつも俺を支えてくれる、要は『そういう』存在になってくれた。本当に感謝してるよ。今日お前を誘ったのはこういう事さ。」
「...!!!」
ペトログラードは、自身の胸に何か熱いものがこみ上げてきているのがわかった。
「まあ、とは言っても俺たちはそのうち老いて、そのうち死ぬ。だけど艦娘は歳をとらない。何だかお前達を置き去りにして先に死ぬのが少し寂しいような気はする。だから戦いが終わるか、俺が引退するまで俺を助けてくれよ。」
「―――任せろ、
「ああ、よろしく頼む。」
二人は互いの拳を軽くぶつけて笑った。
また二人は話を続けた。
「艦娘については、やっぱり謎だらけだ。姿こそ人間と同じだが、何故老いないのか、何故下手なことでは死なないのか、何故船と連動し、動かしたり出来るのかすら俺達は分かっていない。一部のことは長門にもわからないそうだ。」
最初の艦娘「長門」は艦娘の数々の謎を知っている特別な存在である。それについては彼女が自分から言わない限りは聞かない約束になっていた。
吉川は続ける。
「この世界に転移してからなぜこんなにも数が増えたのか、とかな。これはもう、何か人の理解の及ばない領域だな。ただ、艦娘を人間に限りなく近くした存在に出来る方法はあるらしい。そうすると、艦娘も年をとるし、子供も産めるようになるそうだ。元に戻ることは不可能らしいが。まあ、退役もしくは引退と言って差し支えないな。」
「そうなのか...。」
ペトログラードは出来ることなら最後まで吉川と一緒にいたかった。他の艦娘達も同じ事を考えているだろう。今すぐ人間になれるのならなっても構わない。だがそうは問屋が卸さないだろう。なんだか怖くなって、つい彼に体を近づけていた。
吉川は彼女の思いを汲んだのか、その体を持ち上げて自分の膝に乗せた。
「ひゃっ!?」
「そんなに悲しい顔をするなよ。俺もオッサンに片足突っ込んだ年齢になっちまったが、まだまだ半世紀は余裕で生きるさ。それにここ一年は見違えたように体調が良いんだ。きっと100年は生きるさ。おっと!」
ペトログラードは気づくと無意識に彼に抱きついていた。出来ることならずっとこうしていたかったが、そろそろ夕食の時間だったので仕方なく上がった。
翌日、短い休暇を終えた二人は佐世保に帰っていった。
今回匂わせたことはそのうちわかるので、ただの番外編として見てくれれば大丈夫です。
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