日本国召喚 独立艦隊の奮闘 作:yyyyyyyyyyyyyyyyyyy
第62話 カルトアルパス到着
1月17日 午後3時37分 ムー国 首都オタハイト―――
ここオタハイトに駐留している艦娘の一人である「レパルス」は、習慣である午後の散歩に出かけていた。彼女はロングコートに身を包み、白い息を吐きながら優雅に歩を進める。
今日はいつものコースとは違うところに行ってみよう、そうふと思ったレパルスは、普段の海側への道とは反対の、内陸側の道を歩いていた。
前から思っていたが、このオタハイトの町並みはどこか、地球における100年ほど前のロンドンや、東京に似ている。赤煉瓦造りの建物が整然と並ぶ光景は、とても美しいものだ。
大通りをはずれ、レパルスは人気の少ない裏道を歩く。彼女はここを気に入ってはいたが、同時に佐世保が少し懐かしくなりつつあった。やはり一人で歩いていると、いつのまにか色々なことを考えてしまう。
ぼんやりと歩いていると、ふと視界の隅で違和感のあるものが通り過ぎた。思わず立ち止まり、そこにあるものを見つめる。小さな空き地になっている所に、古そうな石像が立っていた。
どうやらそれは―――
「......地蔵?」
思わず声に出てしまった。しかし道端に佇む小さな石像は、日本でも時々見かける地蔵菩薩によく似ていた。安らかな表情、身にまとう袈裟。本当にそっくりだ。
しかしなぜムーの首都に、このようなものがあるのだろうか。よく観察してみると、像は雨風に浸食されているし、苔も少しまとわりついている。遠い昔からここにあるようだ。
したがって、日本から送られた...とは考えにくい。
(......なんでこんなところに....?)
レパルスは不思議そうな表情で考え、たどり着いたものは隣国であるヒノマワリ王国に関連するものではないか、というものであった。ムーの隣国であるヒノマワリ王国は、どうやら日本と関係があるらしい。そして、その友好国であるムーにもこのようなものがおいてあるのかもしれない。確定ではないが、あまりに日本の匂いがするそれがどこから来たのかは、それ以外あまりしっくり来る考えが出てこなかった。
レパルスとしては、ヒノマワリ王国のことがそれなりに気になっていた。噂によれば古代日本人の末裔が作った国、つまり日本人とは気の長い時間を隔てた同胞ということになる。まだ本格的に調査はされていないため真偽は不明であるが、興味深い話だ。彼女はいつか、この国を訪れてみたいと思った。
(暗くなってきたな.....帰るか。)
気づけばもう、日はほとんど落ちてきていた。あまり遅くなると使用人に心配されてしまう。そのことを思い出したレパルスは、ゆったりと帰路に就いた。
1月18日 午前6時32分 神聖ミリシアル帝国近海―――
赤松は今日も6時頃には目を覚まし、手早くシャワーを浴びる。まだまだ寒さが厳しいので、入念に体と髪を乾かすと、慣れた手つきで髪を纏める。
(髪伸びたな.....髭もか。)
鏡を見ながらそんなことを一人思う。日本に戻ったら少し短くしようか、それともヘアスタイルを変えようか.....。彼の現在の容姿は、センター分けにした前髪、長い後ろ髪をヘアゴムで結び、整えたあごひげといったものだ。気に入ってはいるが、少しだけ胡散臭さも放っていた。
「はあ......。」
どうも、昨日は考え込みすぎてしまったようだ。確かに制限こそあれど、流石にいつまでたっても状況が変わらない、なんてことはないだろう。それに今のところは、実際自分たちだけでも問題ないのだ。むしろ、パーパルディア皇国には過剰戦力だったかもしれない。それに魔帝がやってくるのはまだだいぶ先だ。時間はある。
コンタクトレンズを付け終わり、朝の支度を終えた赤松は食堂へと歩いていく。
食堂の前にたどり着き、重厚なドアを開ける。広い食堂だが、視界に入る人影は少ない。というのも、乗組員である妖精は、基本的に食事を必要としないのである。食べれないというわけではないが、無くても問題ないらしい。
それでもこのスペースがあるのは、万一人を大量に乗せなくてはならなくなった時を想定しているからだ。食事をするのは、人間である赤松と艦娘のリットリオだけだ。
とはいっても、さすがにこの広さの中で二人だけで食べるのは落ち着かない。なので、調理だけはここでして、食べるときはラウンジなどに移動するのがお決まりだ。
キッチンに入ると、そこには既にこの船の主の姿があった。赤松は彼女に軽く手を振る。
「よう、おはよう。」
「おはようございます、一誠さん。」
艦娘「リットリオ」は、朝食の準備をしていた。挨拶をそこそこに、赤松も手伝いに入る。今日の昼は、神聖ミリシアル帝国において会食が予定されているため、今は軽めにサンドイッチとサラダで済ませるつもりだ。
昨夜のうちに予め具材を作っていたこともあり、10分もかからずに作り終えた。熱いエスプレッソを淹れ、二人で分担してそれをラウンジまで運ぶ。
品のいい机の上に、手際よく朝食が並べられていく。支度が終わると、二人はいただきますを言って食べ始めた。同時にテレビをつけて、ニュースを見る。
いまでは放送衛星の打ち上げにより、設備があればかなり広いエリア内で日本の放送を視聴することができるようになっていた。日本から神聖ミリシアル帝国までの距離はおよそ一万キロ離れているため、こことではおよそ3時間の時差がある。そのため、テレビ画面の時計は今赤松たちのいる場所のそれよりも進んで時を指していた。
『―――今月13日、クワ・トイネ公国の都市クワ・トイネにおいてエルフの女性に差別的な言葉をかけ、さらに性的暴行に及んだとして、大阪府在住、無職の○○容疑者が―――。』
テレビ画面には、全く覇気を感じない、不細工な男が映し出される。脂ぎった汚い肌、指紋だらけの眼鏡、ボサボサの髪、センスの無い服装と、赤松の嫌いな要素を詰め込んだような醜悪な容姿だ。彼は身だしなみに気を使わない人間が嫌いなのだ。
(.....朝からこんなニュースかよ.....勘弁してくれよ。)
こう、心の中で悪態をつく。
赤松の表情が苦々しくなっているのは、決してコーヒーの味のせいではない。テレビから流れてくる間抜けなニュースによるものだ。
転移後、各国との交流が深まるにつれ、海外に出向く日本人が増えた。それだけなら良いことだったのだが、問題を起こす輩が時々現れる。
例えば、脱サラして他国の冒険者ギルドに入る日本人がいる。他にも、重婚が認められている国へ出向き、エルフや獣人などと結婚しようとする輩もいた。
それだけならまだいいのかもしれない。だが、その行動のせいで人に迷惑をかけているのなら話は別だ。
前者の場合で言うと、魔力がほとんどない日本人が役に立てるはずもなかった。彼らの殆どが犬死にするか、大けがを負って帰国している。
後者の場合は、文化の違いからほぼ不可能であった。人間は彼らに比べ寿命が短いことや、そもそも子供を産むことができないといった理由でだ。しかしその事に逆ギレし、暴言を吐いたりするような人間も、転移後時々いた。フィクションと現実の区別もつかないのだろうか。
「........。」
このままでは食後のコーヒーが不味くなりそうだったので、赤松は黙ってチャンネルを変えた。そちらは朝の情報バラエティー番組を放送している。
一服でもしようかとポケットに手を突っ込むと、そこには空っぽになったソフトパックのガサガサとした感触だけがあった。
(.......ああくそ、切らしてるんだった。)
小さくため息をつくと、赤松はカプチーノを一気に呷る。飲み終わると、用を足すため席を立ち、部屋から出ていった。
およそ4時間後―――
午前11時3分 神聖ミリシアル帝国 港湾都市カルトアルパス
「日本国艦隊がまもなく到着するとのことです。沖合にて、引き渡しは既に軍によって完了しました。」
部下が局長ブロントに報告する。
「うむ、そうか。」
口調こそ穏やかなものの、興奮を隠し切れていないことは表情で丸わかりだ。部下は思わず苦笑いしてしまう。もっともブロントの軍艦好きは部下たちにも知れ渡っていたので、これは至って普通の反応であった。
「.......で、数は報告通りで間違いないか?」
しかし仕事はきちんとこなすのが、ブロントという男だ。やや興奮こそしているものの、仕事のミスは絶対にしない。この確認に、部下は少し困ったような顔をして答えた。
「それが.......。」
「どうした?何か手違いでもあったか?」
「いえ.....報告通り、戦艦4隻、大型巡洋艦3隻の艦隊のようなのですが.....この巡洋艦が、戦艦よりも大きいようなのです。」
日本からの報告にあった大型巡洋艦、これを管理局は自国における重巡洋艦と同義と解釈していたため、予想以上の大きさに混乱してしまっていた。そしてこのままでは、予定していた場所に係留できないかもしれない。
ブロントは咄嗟に解決方法を考える。
「なるほど......その巡洋艦と戦艦の全長は分かるか?分からなければ、日本の艦隊に直接私が聞こう。」
「では、日本の艦隊に通信を入れます。」
数分後―――
『はい、こちらは日本国艦隊、戦艦「リットリオ」。私は司令の赤松と申します。』
日本国の艦隊につながった。向こうからはやや低めの、ゆったりとした話し方の声が聞こえてくる。
「突然申し訳ありません、赤松殿。こちらはカルトアルパス港管理局、私は局長のブロントと申します。無礼を承知で申し上げます。あなた方の軍艦がこちらの予想よりも大きく、予定していた係留地では少し小さいのかもしれないのです。確実なものを用意したいので、そちらの艦の全長を教えていただきたい。」
ブロントは非常に丁寧な口調で話す。相手が誰であろうと、こちらに落ち度があれば謝るのが当然だ、と彼は思っていた。それに上からは日本の艦隊は列強国と同等に扱え、と指示されていたのである。だがそうでなくても、ブロントは同じ態度を貫いただろう。勇敢な海の男に敬意を払うのが、彼のポリシーなのだから。
『こちらこそ申し訳ありません、紛らわしい説明をしてしまいました。全長についてですが、戦艦4隻がおよそ240m、大型巡洋艦3隻が約270mです。よろしくお願い致します。』
「270m......!!わかりました、ありがとうございます。こちらの準備が終わり次第、また連絡いたします。」
『はい、了解しました。』
通信が切られると同時に、ブロントは部下に指示を開始する。
「海軍基地に連絡しろ!第零式魔導艦隊所属『コールブランド』『クラレント』『シャスティフォル』の移動を要請するんだ!」
今名前の挙がった3隻の艦は、どれも神聖ミリシアル帝国海軍最大級の「ミスリル級戦艦」だ。全長222m、排水量約30,000tの体躯を誇る。しかし日本の軍艦はそれよりも大きいらしい。海軍の機嫌を損ねてしまうかもしれないが、背に腹は代えられないのだ。そして部下も、早急に連絡した。これに海軍も了承し、3隻の戦艦はタグボートで一旦移動させられたのだった。
およそ30分後―――
「......まったく、何故我々が文明圏外国家ごときのために場所を譲らねばならんのだ。」
3人の男が、港をじっと見つめていた。そのうちの1人は見るからに不機嫌な様子である。
不機嫌な男の名前はノーリア・クロムウェル。第零式魔導艦隊旗艦「コールブランド」の艦長だ。誇り高き世界最強の艦隊が移動させられたことに、彼は苛立ちを覚えていたのだ。
「まあまあ、クロムウェル艦長。ブロント局長直々の嘆願なのだ、大目に見てやろう。」
隣に立つ男が、不機嫌なクロムウェルを宥める。こちらの名はレイノー・バッティスタ。第零式魔導艦隊の司令官である。その表情からは、純粋な好奇心が読みとれた。
噂の日本国がどの程度なのか、自身の目で確かめてやろう.....そんな表情だ。
「司令、私も日本国の艦隊に大変興味があります。」
バティスタの隣に立つもう一人の男が発言する。彼は大変にこやかな表情で、港を見つめていた。その名前はマーストン・ムーア。戦艦「クラレント」の艦長である。いつも仏のような形相であり、見かけは温厚そうだ。しかし最高練度を誇るこの艦隊に所属しているだけあり、実際は鬼のように厳しいことでも知られていた。特に彼の目が開いたときには、船員にはとてつもないしごきが待っている合図として有名である。
「ほう....君もか。おお、見えてきたぞ。」
バティスタが指さした先に、黒い煙が見える。それを見るやいなや、クロムウェルが素直な感想を述べた。
「ふん!黒い煙を吐くなど、優雅さのかけらもありませんな。美しいカルトアルパスの空気が汚されてしまいます。」
「まあまあ......。」
だんだんと近づいてくるそのシルエットを、カルトアルパスの人々は興味深げに眺めるのだった。
その頃 パンドーラ大魔法公国 首都ファンドルフ―――
今日も国立魔法学院では、数多くの人間がそれぞれの研究に没頭していた。その中には、古の魔法帝国―――ラヴァーナル帝国についての資料を集め、研究することを専門としている人間も多く存在する。
ある一人の教授が、はるか昔に記された魔帝についての資料を解読していた。所々文字にかすれがある上に、ラヴァーナル語で書かれているため、かなりの時間を要していた。
そして彼はおよそ1週間に及ぶ解読をちょうど終え、その翻訳文を大陸共通語でノートにまとめていた。そこには、こんなことが書かれていた。
『―――軍艦と、生物兵器を同期させることにより、より強大な力を得る研究が――― しかし些細な原因で研究は失敗し、それらは暴走を始めた。これによる死者が―――我々はやむなく研究を中止――― 転移魔法を使い、それらを別次元の世界に飛ばした。―――研究再開については―――』
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.......と。