日本国召喚 独立艦隊の奮闘 作:yyyyyyyyyyyyyyyyyyy
本作に登場する鎮守府所属の艦船は、ミサイルなどは現時点では搭載していませんが、近接信管と近代的な管制装備により高い対空防御力と射撃制度を持っています。戦艦の艦橋にはデフォルトでエレベーターがついていたりします。
そして迎えた翌朝、偵察隊のワイバーンがロウリア王国の大艦隊を発見したという報告が舞い込んだ。日本とクワ・トイネ公国の連合迎撃艦隊は、昨夜立てた作戦に従い、すぐに出撃した。もとよりロウリア王国艦隊の接近はある程度察知されていたので、いつでも出港できるように万全の状態でいたのだ。日本国艦隊が先頭に立ち、公国艦隊が後から援護する形だ。本来ならこのような作戦を援軍の分際で提案するのは気が引けるが、犠牲を出さないためにはこれが一番良い方法であったし、何より日本の軍艦に圧倒された公国艦隊の幹部達が何も言わなかったので、思いの外すんなり決定された。
観戦武官のブルーアイは、はやる気持ちを抑えつつ、旗艦の「扶桑」に乗り込んだ。
彼は艦橋を見上げて思わず「大きい....」とこぼした。こんなに高い建物は公国には存在しないだろう。我に返ると、そこには森高と扶桑が並んで待っていた。森高が声をかける。
「ようこそ『扶桑』へ、ブルーアイさん。歓迎いたします。では参りましょう。」そういって歩き出す。
「ブルーアイさん、どうぞこちらへ。」扶桑もブルーアイの手を取り、奧へと進んでゆく。
ブルーアイはとても驚いていた。このような美しい人は美男美女が多いと言われるエルフ族にもそういないだろう。だがなにより驚いたのは、こんなにも儚げな女性がこの要塞のような船の長を務めていることだ。他の船にも、同じように女性が乗っていたが、そのどれもが若く、小型艦には少女といっていいくらいの幼い女性が乗っていた。なぜそんな事をしているのか昨晩森高提督に質問してみたが、
「申し訳ありませんがそれは軍事機密なので詳しくは教えられません。ですが、彼女たちしかあの船を動かすことができない、ということだけ伝えておきましょう。誤解しないでほしいのですが、彼女たちは自ら望んでここへ来ています。私は彼女たちの嫌がることは絶対にさせていません。それだけは知っておいて下さい。」と結局知ることは出来なかった。
だが、彼の前を歩く扶桑の表情は明るく、そこに嫌がっている素振りは微塵も感じられないので、ブルーアイはそれ以上気にしないようにした。
エレベーターに乗り込み、艦橋内戦闘指揮所に入る。ブルーアイはエレベーターにも驚いていたが、指揮所に入ってまた驚いた。見たことのない鉄で出来ているらしい何かが所狭しと並んでいる。彼はここに来て、改めて日本に援助を頼んで正解だったと感じる。この船が沈む所が全く想像できないのだ。ロウリア王国の艦船は数ではこちらを圧倒しているが、この船には手も足も出ずに海に没するだろう。
「ではブルーアイさん。観戦武官であるあなたに、特別に艦長席に座っていただきましょう。これであなたは、この船の一日艦長です。まあ、指示などは出せませんがね。」いたずらっぽく笑って森高はブルーアイを席に座らせる。なるべく彼の緊張を解こうとしてくれているのだ。感謝の言葉を延べ、席におそるおそる座る。
「では、準備はよろしいですか、艦長?」笑顔のままブルーアイに尋ねる。
「は、はいっ!大丈夫です!」と緊張で上擦った声を出してしまったことに、彼は自分でも分かるくらいに赤面していた。扶桑がくすり、と笑う。
「かしこまりました。」
森高はそう言って、通信機を手に取る。すると一気に表情が変わり、今までの柔和なものから司令官としての威厳あるものに変わる。それと同時に艦橋内の空気も一変した。これが軍人と言うものか。ブルーアイはごくりと生唾を飲み込む。
「では行くぞ!出港だ!全艦抜錨!!」すると、ガクンと船が揺れ、ゆっくりとこの巨大な船は動き出す。佐世保鎮守府所属、臨時迎撃艦隊は、同盟国を脅かそうとするロウリア王国を迎え撃つべく、その勇壮な姿を見せつけながら前進していった。
(凄い...!これほどの船が、風もないというのに我が国の船よりも速く進んでいる!)ブルーアイはいまだに夢のような不思議な気持ちだった。もう緊張は既に消え、高揚感が止まらなかった。彼の人生でもここまでの出来事は今まで間違いなく無かった。出港してしばらく経ち、艦隊は順調に進路を辿っていた。
「ブルーアイさん、ひとまず朝食にしませんか?接敵まではまだ時間がありますから。」そう声をかけられ彼が振り向くと、手にお盆を持った扶桑が立っていた。その後ろでは森高提督が何かを机に並べていた。そういえば早朝の出撃であったので、朝食をとっていなかった。思い出したかのように彼の腹の虫がぐう、と鳴く。
少し照れた顔をして
「いただきましょう。ありがとうございます。」と返事し、机に移動する。卓上にはお茶、お握りときゅうりの浅漬け、そして油揚げの味噌汁が並ぶ。どれもブルーアイにとっては見たこともない料理だったが、招かれている身として断るわけにもいかず、なによりいい匂いがしたのでおそるおそる口を付けた。
(美味しい...優しくて、何ともほっとする味だ)どうやら彼は、味噌汁がお気に召したようだ。鮭のおにぎりや漬け物も好評で、残らず食べてくれた。日本の二人は安心したそうだ。知らない料理に手をつけるには結構な度胸が必要である。完食してくれて良かった...と。
食事を終え、再びそれぞれの配置につく。あと一時間ほどで接敵するだろうと、偵察機の報告とレーダーによる追跡から推測されていた。ここで森高が通信機に向かって指示を出す。
「よし、吹雪と霞の2隻は艦隊より前進せよ」
すぐに返事が来る。
『吹雪了解しました』『霞了解』
ブルーアイが外を見ていると、2隻の小型船が速度を上げ、前進していった。とはいっても、この艦隊の中では相対的に小さく見えるだけで、公国の軍船よりも遙かに大きい。そもそも公国に100mを超える大きさの船は無かった。森高提督によると、先に接敵し警告を行うらしい。撤退しなければ攻撃を開始する、と。
数十分後、分かれた2隻から通信が入った。
『こちら吹雪、敵と遭遇しました』
『こちら霞、同じく敵艦隊と遭遇したわ』
「ご苦労、警告を出すから吹雪の拡声器と繋げてくれ」
『了解、接続完了しました。』
森高はすうっと息を吸い込み、通信機に向けて話し始める。これが最後の警告だ。
「こちらは、日本国艦隊である、貴艦達はクワ・トイネ公国の領海に不法侵入している。すぐに引き返せ、さもなくば撃沈する。繰り返す、こちらは―――」
ロウリア王国海軍、提督シャークンは驚いていた。かつてない規模の4000隻を超える艦隊を率い、クワ・トイネ公国を滅ぼさんと意気込んでいたところ、向こう側からかなりの大きさの船が突如高速で接近してきたのだ。その船は速度を落とすと、こちらに話しかけてきた。貴艦は公国の領海を侵している、すぐに引き返せ、さもなくば沈める、と。警告と言う名の命令にロウリア兵達は怒り狂っていた。領海を越えていることなど分かり切っている、我々は戦争をするためにここにいるのだ。何様だか知らないが、たった2隻に何が出来るというのだ。
「進路に変更なし。進軍を続けろ。」
シャークンはそう命令し、艦隊も当然のようにそれに従った。彼らは助かる最後のチャンスを自ら破り捨てたのだ。
『敵艦転進せず、進撃を続けています』
吹雪からの通信に、森高はため息をついた。本当はこうなることなど正直なところ分かっていた。しかし、自分の命令で何の恨みもない人が死ぬのは気分の良いものではない。だがこれは戦争だ。ここで戦わなければ、同盟国の人々が結局死ぬ。それは絶対に避けねばならぬ。覚悟を決め、命令を下す。
「吹雪、霞は敵艦隊に対しゆっくりと退却しつつ攻撃を受けた場合は反撃、合流後は艦隊に加わり、攻撃に参加せよ。数十分後には我々も合流する。」
『吹雪了解、戦闘開始します』
『霞了解、戦闘開始』通信が切られる。
こうしている間にも、多くの人々が命を落とすのだろう。艦隊は、ロウリアを迎撃すべく前進を続けるのだった。
「火矢を射よ!」
シャークンが命令を出すと、船団から霞と吹雪めがけて次々と火矢が投射された。だがしかし、鉄でできた船体は燃えるはずもなく、ダメージを受けた様子はない。2隻の巨大船は方向を変えると、そのまま距離を遠くしていく。
(刺さらぬ...燃えぬ......!!)
その様子を見たシャークンの頬に、一筋の冷や汗が流れ落ちた。火矢を食らって何も起きないなど、彼の人生で一度も見たことのない風景であったのだ。数の優位は圧倒的であったものの、嫌な予感がする。気づくと敵巨大船は、砲のようなものをこちらに向けて動かしていた。
「『霞』武装勢力から攻撃を確認。反撃を開始。」
「『吹雪』同じく攻撃を受けました。反撃を開始します。」
そして吹雪、霞の2隻はロウリア艦隊に向けて砲撃を開始していった。軍艦としては比較的小口径である12.7cm砲での攻撃ではあるが、木造船に対しては十分すぎるほどの威力であった。煙を上げ、次々と帆船が爆発、為すすべもなく沈没していく。主砲の射程外にまで距離を広めた2隻はそのまま引き返していった。
「こんな.....バカな....!!!」
提督シャークンは心が折れそうになっていた。敵の巨大船がバリスタの射程に入り次第、攻撃開始するよう命令していたが、その前に、バリスタの射程の遙か遠くで、敵艦は火を噴いた。
「何事だ?」
シャークンがそう呟いた途端、彼の隣を航行していた船が突然爆発した。あまりにもあっさりと軍船が沈み、彼も他の兵士達も驚きを隠せない。そして周囲には、恐ろしい大きさの水柱が次々と発生していた。
「何だ!何が起こった!」
怒鳴ったところで誰も分からない、こうしている間にも次々と味方の船は沈んでいく。だが、その内に恐ろしい事実が判明した。敵艦が火を噴くと、その数十秒後に我らの船が爆発するのだ。つまりこれは敵の攻撃だということだ。
このままだと全滅してしまう。そう判断したシャークンは、ワイバーンによる上空支援を要請した。ワイバーンは、船では落とすことが出来ないのが常識だ。だが、ワイバーン部隊が到着する前に、未知の巨大船はなぜか引き返していった。
艦長が「魔石切れでしょうか。恐ろしい敵でした。」とまるで終わったかのようにいうが、シャークンはまだ敵の増援が来る可能性を捨てていなかった。
「飛竜隊はそのまま上空にて警戒を続行せよ。」と命令する。すると数分後、味方のワイバーンが前方に島らしきものが見える、と報告してきた。シャークンは海図を広げ、首を傾げた。このあたりに島はなかったはずだ。
少しすると、確かに島のような物が見えてきた。双眼鏡をのぞき込んだシャークンは信じられない物を見た。それはあまりにも巨大な船だったのだ。先ほどの船が小舟に見えてしまうほど大きい。彼は大慌てで指示を出す。「何としてでも、あの巨大船を焼き払え!」と。指示を受けた飛竜隊は、未知の巨大船を沈めるべく飛んでいった。
「扶桑」艦橋内司令室―――
レーダーには、こちらに向かってくる影が映し出されていた。そして、艦橋最上部に設置された望遠レンズにはワイバーンの群れが捉えられていた。
それを見たブルーアイは青い顔をして森高に告げる。
「大変です!ワイバーンは炎を吐いて攻撃してきます。ですが、奴らは速すぎて船の装備では落とせません!あいつらは船を丸焼きにするつもりでしょう」
「なるほど、炎か...。それは困るな。よし、全艦対空戦闘用意!射程距離に入り次第全力迎撃せよ。」
『了解!』
返事が返ってくる。各艦の対空装備が仰角を上げ、空を睨む。
ロウリア王国飛竜隊所属の竜騎士アルゴは、未知の巨大船に向けて攻撃を開始しようとしていた。それは、まるで島のように巨大で、彼の見たことがない形をしていた。少し恐怖を感じるが、これほどの巨大な的、外しはしないだろう。隊長からの突撃命令が下る。ロウリア王国のワイバーン250騎が一斉に攻撃にはいる。ところがその時、敵船団が光ったかと思うと、彼の目の前に突如爆発が起きた。何が起きたのか気づく間もなく、竜騎士アルゴと相棒のワイバーンは一瞬で焼け焦げた肉塊と化した。そしてその他の殆どのワイバーンも一撃で撃墜され、僅かな生き残りも10分と経たずに雨のような対空機銃の弾幕に消えた。
(に...250騎のワイバーンがたった十数隻の船の前に全滅だと...!?)
シャークンは持っていた双眼鏡を取り落とした。飛竜はそもそも船の装備で撃ち落とせるものではないはずだ。だというのに敵船は僅かな時間に全ての竜を撃墜してしまった。呆然としていると、敵巨大船が噴火のような火を噴き、悲鳴のような報告が入ってくる。
「敵艦発砲っ!!」
数十秒後、戦艦武蔵の放った46cm弾はロウリア艦隊のほぼ中央に着弾、中心地に近かった帆船は一瞬で消滅、その周りの船も衝撃によって起こった高波により転覆、または衝突して次々と沈んだ。
武蔵は僅か一回の砲撃で数十隻を葬ったのだ。
(駄目だ....どうあがこうと勝てる相手ではない。私は無能の提督としての烙印を押されるだろう、だがこれ以上兵士を無駄死にさせるわけにはいかない)
「通信士、全艦に告げよ。退却だ。」
「はっ。」
こうしている間にも味方の船は沈んでいく。船はすぐには動けないので、方向変換にも時間がかかるのだが、もちろん敵は待ってはくれない。シャークンの乗る船も転進し始めたその時、巡洋艦天龍の放った14cm弾が彼の船に直撃した。衝撃で船は大きく揺れ、彼は海に投げ出される。シャークンが海面に顔を出すと、火を噴いて沈んでゆく自分の乗艦と、退却していく生き残りの味方が見えた。敵は砲撃を止め、近づいてきた。彼は捕虜の一人として、日本に身を拘束されたのだった。
ここに、後にロデニウス沖海戦と呼ばれた戦いは終了した。結果はロウリア王国の惨敗で、対して日本とクワ・トイネ公国には被害はゼロ。あまりにも一方的な戦いだった。
この戦いにより航空・海上戦力を大きく削られたロウリア王国軍は、しばらくの侵攻停止を余儀なくされた。これが幸いし、陸上自衛隊の派遣も間に合い、不安要素だった陸上での戦いにおいても非常に強力な味方が加わり、公国と日本は勝利を続けるのだった。
佐世保鎮守府所属艦隊は、大戦果と公国からの感謝を携え、無事に帰港した。この後鎮守府は本格的に独立軍としての整備を始める。
観戦武官のブルーアイは、戦後この戦いについてまとめた文章を書籍として発表。伝説の戦いのノンフィクションとして、ベストセラーになったという。
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