パリに来てから2か月が経ち、だいぶ生活にも慣れてきた。目が見えない俺1人では危険ということもあり、父さんが信頼している星さんと星さんのアシスタントの睦月さんと3人で暮らしている。
睦月さんは日本の美大で優秀な成績で卒業したのちに一星さんに大抜擢され、パリで仕事する一星さんのアシスタントをしているのだ。彼女も一星さん同様に凄い絵の才能に長けていた。
そんな2人の天才の絵から盗めるもは全て盗むつもりで学んだ。
美大での生活は凄く楽しかった。自分と同じような夢を持ってここへ来た仲間たちと互いを高め合っていけるのだから。
これまで絵を描いてる時だけが唯一目の見える皆んなと同じ景色を見ているようだったが、なんとなく心が通じ合っているのか、不思議と絵を描いていない時も仲間となら見えていた気がした。
こんな幸せな時間が続けば良かった。
そう、美大生とは言えもう社会人なのだ、両親からの仕送りでやりくりはしていたものの、これから絵で稼ぐとなるとお先真っ暗だった。
周りの学生もちょくちょく仕事などアシスタントの依頼など受けるようになっていく。
寿人(俺も追いつかないと行けない!)
そうやって焦っていってしまった。絵は着実に上達していった。他の美大の中でも長けている方だった。
寿人「やっぱり最後は才能がモノを言うのかな、、」
今まで目が見えない事で弱音を吐いたことがない寿人の口から初めて弱音を吐いた。
そうやってフランスパリの美大に来て2年が経とうとしていた。
寿人は杖を持ちいつも通りパリ郊外へと行き自分が描いた絵を街行く人に見てもらい少ないチップでやりくりをしていた。
両親、一星さん、睦月さんなどの助けもあり生活面ではなんとか出来ていた。
寿人(今日も売れないのか、やってらんないよ)
だが、今日は違った
男「この絵はあなたが描いたのかい?」
1人の男が近づいて来てそう言った。
寿人「はい。そうですけど」
男「申し遅れました、私の名はエンボです。昔パリの美大で先生をやっていた時にいた日本学生の絵に惚れてから日本語を覚えたんですよ。」
寿人「もしかしてその日本学生って?」
エンボ「その学生の名はたしか、KENZOU (健三)だったかな?」
寿人「それは父です」
エンボ「やっぱりそーだったんね。筆使いやタッチ、そして何より癖が似ていたからつい声をかけてしまったんだよ。」
寿人は父のすごさを改めて感じた。
エンボ「君の絵を買わせてくれないか?君の絵に僕は惚れた。
是非一度、僕に絵を一枚描いてくれ!」
久しぶりに人の暖かさに触れ気づけば寿人は涙を流していた。
パリに来て初めて自分の絵を認められたのだった。
エンボ「え、どうしたんだい?」
そうやって言うと腰に手を当ててさすり俺を落ち着かせようとした。
寿人「俺に描かせて下さい。」
それからエンボさんに沢山の絵を依頼された。そうしてみるみる成長していった。今まで暗闇に閉ざされて1人で悩んでいた頃が嘘のように上達していった。
星「やれば出来んじゃねーかよ」
睦月「最初は彼に才能は持ち合わせていないと思っていました。今では徐々に上手くなる彼に嫉妬を覚えるくらいです。」
星「あいつは努力の才能が長けていたんだよ。」
簡単そうに一星さんは言うが努力をする事は誰にだって辛い。
ましてや画家として売れる人間が目が見えないとなると、想像を絶する努力が必要だった。
寿人はそれを乗り越えるために筆を持ちトップレベルで闘おうとしていたのだった。
星「そういえば、今年のルーブル美術館に展示される作品が選ばれるらしいな。」
ルーブル美術館はフランスのパリにある世界的にもとても有名な美術館であり、世界で最も入場者が多い博物館・史跡でもあります。 先史時代から19世紀頃までの3万5000点を超える美術品が収蔵されている。
星「これに俺たちも作品を出すけどお前も出すか?」
寿人「え、あのルーブルに俺の作品展示されるの?」
星「バカ言え、何千との作品の中からまず一次審査で2つ選ばれる。そこから国民審査、プロによる審査を終え1つだけ選ばれるんだよ」
寿人「俺受けてみたい。」
そうやって寿人の新しい挑戦がまた始まった。
何ヶ月もルーブルに出す1つの作品に手をかけた。
その作品をエンボさんが見ると、エンボさんは何分もの間沈黙して口を開いた。
エンボ「今まで長いことプロの作品を見てきたが。この作品はずば抜けている。」
寿人「これは目の見えない俺が想像している世の中です。この作品は俺にしか描けないだから、描いたんです。」
〜一次審査の結果が出る日〜
俺は落ち着いていた。
結果はテレビで大々的に発表される。さすが美術大国フランスだ。
そうすると審査委員長が画面に出てきた。
審査委員長「今回のルーブル美術館に選出される1つの作品に手をかけた2人はなんと、日本人2人です。
1人は世界的に有名な、
ISSEI (一星)」
一星さんは当たり前かのように振舞っていた。
俺は一星さんが選ばれた事でより一層の緊張が走った。
審査委員長「2人目は、、、
HISAHITO(寿人)」
キャスター陣、街中が少しどよめいた。全くの無名が選出されたのだったから。
俺は初め、耳を疑った。
まさか俺の作品が選ばれるなんて思いもしなかった。嬉しいよりも先に思い浮かんだ事は両親だった。早く報告をしたい。
苦労に花が咲いた瞬間だった。
審査委員長「この2人は3日後ルーブル美術館に来てください。」
この瞬間、師である星さんはライバルとなるのであった。
かつて父が負けた一星さんに勝てる作品と信じて作ったのに、星さんを前にすると不安になった。
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