GHOSTRIDER:Dog Eat Dog   作:雁野 命

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Dog Eat Dog #01

夜、現代日本の首都である東京と言えどもこの時間であれば人気(ひとけ)のない場所は存在する。例えば森や山、そして廃墟である。特につい半年前に特定特異災害──ノイズによる事件が起こったドームとなればなおさらである。しかし、本来なら静寂に包まれているはずのこの場所には鉄火場を思わせる剣(げき)の音が響いていた。まず目に入るのはライダースジャケットを着た燃える骸骨であり、それに対して剣を振るっているのはマゼンタと銀で彩られた仮面の戦士──仮面ライダージオウ。明らかに疲(へい)しつつも異形と相対するその姿はまるで特撮番組のワンシーンのようであった。

 

「……っ!?くそっ!何なんだ、こいつは」

 

その姿の異様さに一度、反射的に距離を取るジオウだったが、それでも異形に動きは見られない。異形の姿は傍目(はため)に見れば隙だらけにしか見えないが、攻めあぐねているジオウからすればむしろ何かを待っているようにさえ見えていた。

 

「そっちがその気なら!」

 

『フィニッシュタイム!』  

 

短い時間ではあったが、ジオウにとっては永遠にも思える睨み合いの中、膠着(こうちゃく)した状況を打開するべくベルトを一回転させたジオウは必殺技のために飛び上がる。

 

「こいつで──」

 

『タイムブレーク!』

 

「──どうだぁー!」

 

異形の周囲に浮かぶキックの文字をエネルギーとして右足に収束させてライダーキックを放つ必殺技タイムブレーク。轟音とともに放たれるその強烈な一撃は確実に異形を粉砕する──はずだった。

 

「これで全てか?」

 

「……え?」

 

放たれた必殺の一撃は異形の左腕によっていともたやすく防がれていた。あまりの事態に困惑したジオウは思考が停止して動けないでいた。

 

「では、こちらの番だ」

 

事態を把握出来ないままのジオウだったが、それよりも早く動いた異形はフリーになっている右手でジオウの足を掴んで持ち上げる。

 

「ちょっ、まっ──ぐぇっ!」

 

異形はそのまま流れるような動作で混乱したジオウを地面に叩きつけると轟音と共に地面が凹み放射状の亀裂が走る。

 

「……ゲホッ、ガハッ」

 

「まだだ」

 

ジオウが仰向けに倒れたまま動けずにいることからもその衝撃がうかがい知れるが、間髪入れず炎を纏った異形の右の拳がジオウの胸部めがけて叩きつけられる。

 

「ぐげぇっ!」 

 

二度目の衝撃で亀裂が広がり地面が周囲に瓦礫が飛散する。衝撃とダメージで動けずにいるジオウの姿は周囲の惨状と相まって打ち捨てられた玩具のようだった。

 

「……う……あ……」

 

「まだだ。俺の怒りはこんなものじゃない」

 

もはや立つことさえ叶わなず後ずさりもできないジオウに対し、悠然と近づいた異形は片手でジオウの首を掴んで持ち上げる。

 

「ぐぇっ……く、くそ……お、お前は、一体……」

 

「……最後に教えてやる。俺はゴーストでも、仮面ライダーでもない──」

 

「う、うわぁぁぁーーー!!」

 

異形の手から放たれる獄炎が広がりジオウの全身が燃え上がる。異形は無造作に手を放すとその場に崩折れたジオウには目もくれず振り向いて数歩進む。そのまま右手をかざし円を描くと何もない空間に異形が通れそうな大きさのゲートが開いた。

 

「俺はゴーストライダー。転生者(お前たち)を狩るものだ」

 

異形──ゴーストライダーがジオウを一瞥してゲートをくぐると空間が閉じる。そして、後には壊れた地面と灰の山が残されたのみであった。

 

 


 

住宅街から少し離れた公園。当然、夜になれば人気のなくなるこの場所に一人の少女──市ヶ谷有咲(いちがやありさ)が特徴的なツインテールを揺らして駆け込んできた。公園の真ん中まで進み、息を整えながらもしきりに背後を気にする様子は何かから逃げているようにしか見えなかった。

 

「ゼェ、ハァ……こ、ここまで、ハァ、来れば──」

 

大丈夫、と言いかけたところで背後にドスン、と重い物──例えば人間ぐらいの──何かが落ちたような音がした。音だけならまだしも何者かの気配を感じた有咲は祈るような面持ちで恐る恐る振り返る。

 

「──ひっ!?」

 

いた。悪魔のような見た目をした怪物が、甲高く(おぞ)ましい咆哮(ほうこう)のような奇声を上げる。その距離、およそ5m。人間相手ならば逃げられなくもないが、相手がこの世の道理の外にあるであろう怪物であればそれも怪しい。

 

「……は、はは」

 

そればかりかここまでの逃走で体力を消耗し、怪物に怯え完全に足の(すく)んだ彼女には尚更、難しい話である。

 

(……何だ、コレ。生徒会で遅くなっただけなのに、急に怪物に追いかけられるとか……もしかして夢だったり──)

 

悲鳴を上げることすら頭にないのか、恐怖と混乱で青ざめた顔のまま立ち竦んでいる有咲に対して怪物がにじり寄る。

 

「ひいっ!?──っ痛、やっぱ夢じゃねー!?」

 

突然のことに驚き有咲は反射的に数歩後ずさりしたところで足がもつれて転んでしまう。痛みで正気に戻ったが、腰が抜けてしまった状態ではどうすることもできず、徐々に近づいてくる怪物に怯えることしかできない。

 

(ヤバい、絶対ヤバい!でも、どうしろってんだよ~!)

 

咄嗟(とっさ)に周囲を見渡すが、どこにも人気はなく、状況を打開してくれるものは見当たらない。戻した視線が怪物と合う、その瞬間、表情のわかりにくい怪物がニヤリ、と笑ったように見えた。

 

(あぁ、みんな悲しんでくれるかなぁ。うん、香澄(かすみ)は泣くな、絶対。りみなんかも号泣しそうだし、紗綾(さあや)もなんだかんだで泣きそうだなぁ。おたえも……ま、まぁ、流石に泣く、よな?つか、ばーちゃん、これから一人で大丈夫かな?……いや、ダメだ、まだ死ねない!)

 

一瞬、諦めかけるが、最後の抵抗のつもりか有咲は涙目になりながらも睨みつける。

 

「ち、ちくしょー!!こんな所で死んでたまるかー!!」

 

精一杯の虚勢で叫ぶ有咲に対して怪物は甲高い叫び声を上げて飛びかかる。

 

「~~っ!?」

 

反射的に目をつぶった有咲は衝撃を覚悟した。しかし、予想していた衝撃はなく、代わりに正面からドン、と何かを突き飛ばしたような衝突音と遠ざかる苦しそうな叫び声に違和感を覚える。

 

「大丈夫か?」

 

「──えっ?」

 

正面からかけられた労わるような声に恐る恐る目を開ける有咲。そこには白いコートを着た青年が手を差し伸べて立っていた。よく見ればその背後、5mほどの所に転がっている先ほどの怪物らしき姿が目に入った。

 

「怪我はなさそうだけど、立てるか?」

 

「えっ、と……す、すいません。こ、腰が抜けちゃって」

 

すぐには状況が呑み込めない有咲だったが、自分を助けてくれたと思しき青年の手を借りてなんとか立ち上がる。

 

「あ、あの!ありが──」

 

「気を抜くな、勇牙!」

 

「ぬあっ!?指輪がしゃべった!?」

 

「わかってるよ、ザルバ。キミ、危ないから下がってて」

 

驚く有咲を庇うように勇牙と呼ばれた青年は怪物の転がっていった方へ向き直る。それにつられて有咲も目を向けると先ほどの怪物が立ち上がっている姿が見えた。勇牙に対して睨みつけるような視線を向ける怪物は獲物をとられた怒りか、はたまた敵対者に対する防衛本能からか大きく咆哮を上げて飛びかかった。

 

「危ないっ!!」

 

「させるかよ!」

 

勇牙は白いコートの裾を翻すとどこからか取り出した鍔のない赤鞘の長剣を突き出して飛びかかってきた怪物を突き飛ばす。鞘のままとはいえその鋭い突きを受けた怪物は先ほどの位置まで吹き飛ばされていた。

 

「……すげぇ」

 

「まだまだ、こんなモンじゃないぜ」

 

感嘆する有咲に気をよくした勇牙は得意気に鞘に入ったままの長剣をクルクルと回して見せる。戦いの場においては油断にしか見えない無駄な動きではあったが、その動きが洗練されたものであることは素人である有咲の目にも明らかであった。

 

「おい、素体相手とはいえ油断しすぎだぞ!」

 

「大丈夫だって、あれぐらいなら片手でだって──」

 

「あ、前、前!!」

 

「へ?」

 

ザルバの忠告もどこ吹く風と聞き流す勇牙だったが、有咲の声に前を向くと素体と呼ばれた怪物が公園の外へ飛び去って行く所だった。

 

「あぁーー!!」

 

「ハァ、だから言わんこっちゃない」

 

「……何なんだよ、この状況?」

 

どうすっかなー、頭を抱える勇牙とそれを見て呆れるザルバと呼ばれた指輪。命を狙われた恐怖と目の前のコミカルなやりとりとのギャップについていけず混乱するばかりの有咲だったが、あ、と声を出して急に顔を上げた勇牙と目が合う。

 

「ところで、キミ、大丈夫──って、もしかして生徒会の市ヶ谷有咲?」

 

「え?はい、そうですけど──って、この間、職員室であった、えぇーっと……」

 

「あー、そういえばちゃんと名乗ってなかったな」

 

落ち着いてみれば面識のある人物だったことに驚く二人だったが、名前を思い出そうと努力する有咲に対して申し訳なさそうな表情になった勇牙は改めて向き直る。

 

「俺は3年A組の冴島勇牙(さえじまゆうが)。そして──」

 

「そして、またの名を黄金騎士(おうごんきし)・ガロ!で、俺様がお目付け役のザルバだ」

 

「黄金騎士……ガロ……」

 

「おい、俺のセリフをとるなよ、ザルバ」

 

「いや、これは俺様のセリフだろ」

 

ああだこうだとザルバに文句を言う勇牙だったが、ガロの名を噛みしめるようにつぶやく有咲を見てうーん、と唸ると一度ため息をつく。

 

「あの、どうかしたんですか?」

 

「あー、いや、流石にこのまま返すのは危ないかなー、と思ってさ」

 

「あ、危ないって……?」

 

「違う違う、流石に放り出したりしないって!そうじゃなくて、有咲さえよければ家まで送ろうか、って話だよ!」

 

危ない、と言う単語を聞いて大きく反応した有咲の表情が青ざめていることに気づいた勇牙は身振り手振りを交えて慌てて訂正する。

 

「……へ?な、何だ、脅かすなよ~~!って、すいません、先輩にタメ口とか失礼でしたよね?」

 

「いや、そっちの方がしゃべりやすいなら、俺は構わないけど…ははっ」

 

「あの~、私、何か変なこと言いましたか?」

 

安心したのか砕けた口調になったことで逆に慌てる有咲だったが、急に笑いだす勇牙に不安げな視線を向ける。

 

「いや、思ったよりフランクと言うか荒っぽい感じだなー、と思ってさ」

 

「ぬあっ!?こ、これは、その~クセ、と言うか何というか……」

 

「ところでお二人さん、いつまで立ち話をしているつもりだ?」

 

あはは、と照れくさそうに笑ってごまかす有咲に内心でほっとしている勇牙。そんな二人を見かねたザルバの言葉に勇牙は、あー、と小さく唸った。

 

「……それもそうだな。んじゃ、家まで送るよ」

 

「あー、そう、ですね。その、お願い、します……ん?つーか、何で指輪がしゃべってんだよ!?」

 

異性に送ってもらう、と言うなれないシチュエーションに一瞬、意識してしまう有咲だったが、それよりもしゃべる指輪という非常識にツッコミを入れる所が彼女らしいとも言える。

 

「おいおい、今更かよ?」

 

「まぁ、それは道すがら話すとして。遅くなると親御さんも心配するだろうし、早く行こうか。」

 

勇牙に促されて公園を出て帰途へと就く二人。だが、遠ざかっていくその後ろ姿を物陰から風に舞う灰とともに見つめる怪しげな人影に気付くことはなかった。

 


 

誰しも人生で一度は聞いたことがあるであろうチャイム音が鳴り響き本日の授業が終わったことを告げる。HR(ホームルーム)も終わりそれぞれ放課後の自由な時間を過ごすために動き始めていた。そんな中、一人浮かない顔で生徒会室へ向かう有咲の姿があった。

 

(うぅ、生徒会、入んなきゃよかったかもなぁ)

 

昨晩の非日常的な体験のせいか一人で行動することに抵抗のある有咲だったが、一人が怖いから着いて来てほしい、などと気軽に友人に言えるほど単純な思考回路はしていないことも事実であった。

 

(それに、あんな話を聞かされたらなぁ……)

 

心なしか青い顔をしながらふと手元を見ると昨晩はなかった銀製らしき指輪が小指に嵌まっていたことから、それを渡された際に聞いた突拍子もない話を思い出すのだった。

 


 

「ホラー?」

 

「そう、魔獣ホラー、それが奴らの名前だ。陰我(いんが)、まぁ、いわゆる邪念が溜まった物をゲートにして現れ人を食らう怪物だな」

 

公園を出た直後に始められた説明に、ふーん、とおっかなびっくりと言った様子で周囲をうかがいながら気のない相槌を打つ有咲を見て勇牙とザルバは苦笑する。

 

「何だ、嬢ちゃん、まだビビってるのか?」

 

「ぬおっ!?ビ、ビビってねーし!あと、急にしゃべんなよ!びっくりするだろ!」

 

ザルバがしゃべったことで予期せぬところから聞こえた声に驚き、小さく飛び上がった有咲に勇牙は少し申し訳なさそうな表情になる。

 

「あ、そういえば、先輩のことは何て呼べば?」

 

「あー、まぁ、名前でも苗字でもいいけど、名前の方が好きだな」

 

「そうですか?じ、じゃあ、勇牙先輩、でいいですか?」

 

「オッケー、それでいいよ。あと、なんとなく名前で呼んでたけど、大丈夫だった?」

 

「え、っと、まぁ、大丈夫、です、はい」

 

うぅ、なれねぇー、と文句をこぼしつつも有咲は一度、深呼吸をして気持ちを落ち着けると目線で続きを促す。

 

「それじゃ、次は魔戒騎士(まかいきし)の話だ。俺たち魔戒騎士は人々を守るために日夜ホラーと戦っている。んで、そのために使っているのが──このソウルメタル製の剣、魔戒剣(まかいけん)だ」

 

言葉を切った勇牙は白いコートの裾を(ひるがえ)すと赤鞘の長剣──魔戒剣を取り出し、鯉口を切って少しだけ刃を見せる。

 

「これが、魔戒剣?何か、見た感じ包丁とかとあんま変わんないような……」

 

「いや、包丁って……あ、言っとくけど、()()()!ソウルメタル製の武器に触らないように」

 

勇牙は不用意に近づいた有咲から魔戒剣を遠ざけつつ念を押すように、絶対、の部分を強調する。

 

「え?何でですか?あ、もしかして、めちゃくちゃ高い、とか?」

 

有咲のあんまりな物言いにズッコケそうになる所を必死にこらえる勇牙の姿にザルバは呆れつつも笑いをこらえていた。

 

「えぇー……いや、まぁ、それなりに貴重なのは確かなんだけど、基本的に訓練しないと重くて持ち上げることも出来ないんだよね」

 

「重い、ってどれぐらいなんですか?」

 

「えーっと、人や状況によって違うけど、最大でクレーン車のアームが折れるくらいかな?まぁ、そういう訳で、うっかり落とすと人間の骨ぐらいは簡単に折れるから、気を付けてくれると助かるかなぁ」

 

「うえっ!?何て武器使ってんだよ!あぶねーじゃねーか!!」

 

俺に言われてもなぁ、と魔戒剣をしまいながら頭を掻く勇牙だが、何の気なしに目の前で振り回されていた物がそんな危険物だったことを後から聞かされた有咲の気持ちを考えればその反応も仕方がないと言える。

 

「んじゃ、次は俺様の番だな」

 

「お、おう。えーっと、確か、ザルバだっけか?」

 

三度目ともなれば流石に慣れたのか、急にしゃべり始めるザルバにも戸惑いながらも何とか対応する有咲。

 

「そう、俺様は魔導輪(まどうりん)ザルバ。ま、この未熟な黄金騎士様のお目付け役、ってところだな」

 

「未熟は余計だっつーの」

 

カチャカチャと音を立てながら得意気にしゃべるザルバの姿を有咲は好奇心を抑えつつまじまじと見ていた。

 

「な、なぁ、コレって生きてんの?」

 

「あー、まぁ、生きてる、と言えば生きてるか」

 

へぇー、と返事をしつつザルバを指で突くぐらいには緊張の解れた様子の有咲に勇牙はこれを頃合いと見てザルバに目配せをする。

 

「そうだ──なぁ、有咲、ちょっとザルバの前に手を出して」

 

「へ?こんな感じ?」

 

何の疑いもなく出した有咲の掌にザルバの口から細く短い銀のような流体の金属が吐き出された。

 

「ぬあっ!?気持ち悪っ!」

 

反射的に金属を振り払おうとする有咲だったが、それより早く動き出した金属は有咲の左手の小指に巻きつくと、シンプルな指輪の形に落ち着いた。

 

「どうなってんだコレ!?」

 

「それはザルバの一部で作られた指輪だ」

 

「いや、一部、っつーか、目の前で吐き出されれば誰でもわかるわ!!」

 

しかも外れねー!と騒ぐ有咲は大して窮屈でもない指輪がびくともしないことに困惑する。

 

「いいから、聞いてくれ。それがあれば有咲の近くにホラーが来ると俺に伝わるようになってる。まぁ、警報装置の類だな」

 

「へー……って、そんなの貰っていいんですか!?」

 

「いいに決まってるだろ。俺は守りし者だからな。ホラーに狙われている人を守るためにはこう言うやり方も必要なのさ」

 

「……あ、ありがとう、ございます……」

 

屈託のない笑みを浮かべる勇牙にどことなく照れ臭さを感じながら、小さな声で礼を言う有咲。二人の間に気恥ずかしい空気が流れるが、ふと前を見た有咲の視界に見慣れた自宅の門が目に入った。

 

「あ……ここが私の家なんで、もう大丈夫、だと思います」

 

安心するはずの家の前でどこか寂しさを感じる有咲は自然と声のトーンが落ちる。それを見た勇牙は何を思ったのか有咲の肩に手を置いてもう一度笑顔を見せる。

 

「うえっ!?あ、あの?これは、どう言う……?」

 

「大丈夫!」

 

「はい?」

 

思っていたより近い距離にしどろもどろになる有咲だったが、突然の勇牙の一言にきょとんとした表情になる。

 

「俺が──黄金騎士・ガロが絶対に有咲を守るから」

 

「──っ!?ま、真顔で恥ずかしいセリフ言うな!……でも、あ、ありがと……そんだけだ、じゃあな!」

 

まっすぐな勇牙の言葉に真っ赤になりながらもとりあえずの感謝を告げた有咲は脇目も振らずに家へと駆け込んだ。

 


 

「うあぁ~……なんであんな風になっちゃったかなぁ」

 

思い返しているうちに所用を済ませた有咲は生徒会室を出た辺りで昨晩の自身の失態を強く恥じていた。うっすらと頰を赤らめながらああでもないこうでもないと頭を抱える姿は側から見ればいささか滑稽(こっけい)ではあるが、本人にとっては重大な問題である。幸い近くに人もおらず、すぐに気を取り直したため、恥の上塗りをすることはなかったのがせめてもの救いだった。

 

「──っと、そうだった、そろそろ帰んないと」

 

何とか気を取り直した有咲はカバンを背負い直しながら昨晩の件で祖母を心配させたことを思い出し、帰途に就くために急いで下駄箱へ向かう。一応、周囲を窺いながら靴を履き直し外へ出ると校門の辺りに目立つ白コートの青年が目に入った。

 

「……勇牙先輩?」

 

「おー、遅かったな……って、どうかしたのか?」

 

「う~ん?いや、なーんか昨日見た感じとちょっと違う気が……?」

 

こちらを見つけて軽く手を振る姿に安堵と軽い緊張を覚えた有咲だったが、昨晩よりもやけに目立つ白いコートに違和感を感じる。

 

「それは俺様たちの事情を知っているからだな」

 

「?どう言うこと?」

 

「さぁ?」

 

訳知り顔のザルバの言葉によくわからないと言った表情を浮かべる有咲。ちらりと勇牙を見やるが、彼も心当たりはないようだった。

 

「魔戒騎士の着る霊獣の毛皮で作られたコートには事情を知らない一般人に対して印象を薄くして目立ちにくくする効果がある。つまり、お嬢ちゃんが俺たちの存在を認識しているから、その効果が効かなくなった、って訳だ。」

 

「あー、何か昔そんな話を聞いた気がするかも」

 

「頼むからこれぐらいは覚えておいてくれよ、黄金騎士サマ」

 

気を付けとくよ、と悪びれる様子のない勇牙は背を預けていた校門から離れると敷地の外へ歩き出す。

 

「じゃ、送っていくよ」

 

「へ?あ、あの、いいんですか?」

 

有咲の返答代わりの質問に対して何が問題かわからないと言いたげな表情で振り向く勇牙とその裏でザルバは呆れたように小さくため息を()く。

 

「うん?何か問題でもあったか?」

 

「いや、あの、ホラーを探したりとか、パトロールみたいなのとかで忙しいんじゃないかな~って……」

 

照れ隠しではなく本当に申し訳なさそうな有咲の姿に、自分が何かしたのかと不安だったのか内容を聞いた勇牙の表情は途端に明るくなった。

 

「あー、そう言うことか。今のところザルバの探知には引っかかるホラーはいないし、基本的にホラーは夜にしか活動しないから、今の時間なら大丈夫。それに──」

 

「それに?」

 

意味ありげに切られた言葉をオウム返しする有咲と彼女に向き直る勇牙。その瞳はまっすぐに有咲を見ており、首を傾げている有咲と目が合った。

 

「それに、俺は有咲を守るって言っただろ」

 

「──っ!?ま、またそれですか……でも、わかりました。そんなに言うんならお願いします」

 

「はい、お願いされました」

 

昨晩のやり取りの焼き直しのような状態ではあったが、照れながらもなんとか返答を返す有咲は少し早足になりながらも軽い足取りで帰途に就く。そして、それに続く勇牙もその後ろ姿はどこか楽し気であった。

 


 

「それじゃ、有咲、また明日な」

 

「え!?あ、はい。それじゃ、また、明日……」

 

有咲が照れくさそうにしながら家に入るまでを見届けた勇牙はあふれんばかりの笑顔を浮かべていた。調査のために昨晩の公園に向かうその足取りは軽く、少し車道を歩いていたせいで背後からくるバイクにクラクションを鳴らされても笑顔で道を譲る姿は傍目にも浮かれていることが一目でわかるようだった。

 

「おい、勇牙、お前さんちょいと浮かれすぎだぞ。それに、あのお嬢ちゃんに肩入れしすぎじゃないか?」

 

「え?そうかな?」

 

別に普通だと思うけどなぁ、と悪びれる様子もなく忠告などどこ吹く風な勇牙に対してザルバはため息を吐く。

 

「まぁ、別に誰かを好きになるな、とは言わんが、黄金騎士としての自覚を忘れてもらっちゃ困るぜ?」

 

「……わかってるよ。俺だって、守りし者、だからな」

 

やることはやるさ、と軽く伸びをする勇牙は公園についたことでその意識を切り替える。多少日は傾いているが、いまだ夕日のさしている公園は人気がないだけで妙な不気味さを感じさせるようだった。

 

「で、ザルバ、反応はあるか?」

 

「……いや、ここにいたことは確かだが、あとは何も感じないな」

 

うまく隠れたもんだ、と感心したような態度のザルバに今度は勇牙が呆れてしまうが、予想していたのか、一度、ため息を吐くと即座に思考を切り替える。

 

「んじゃ、次はゲートを探すか。たしか、有咲はコンビニのあたりから視線を感じた、って言ってたよな?」

 

有咲の証言を思い出しながらコンビニがある方角にザルバを向ける。

 

「ふむ。確かに気配はそっちからだな」

 

「よし、日が落ちる前に見つけたいから、少し急ぐぞ」

 

「……お前さんの趣味に付き合ってなければもっと時間があったんだがな」

 

「……うっさい」

 

ザルバの小言に言い返せない勇牙が走りながら周囲を見てみるが、特に手掛かりになりそうなものも見つからないまま目当てのコンビニが近づいていく。

 

「……まいったな。おい、勇牙、こうなったら法師の力を借りるしかないかもしれないぞ」

 

「──いや、そうでもなさそうだ」

 

焦った様子のザルバに対して何かを見つけたのか勇牙の足が止まった。その目線を追うとコンビニの近くでチラシを配っている青年の姿が目に入る。

 

「うん?あの人間がどうかしたのか?」

 

「あのチラシ、多分、尋ね人だ」

 

白のワイシャツにジーンズのいかにも大学生といった格好の青年だが、その様子からは焦りのようなものが見えており、風に流されて足元に来たチラシを見ると高橋という青年を探しているようだった。

 

「なるほど。確かにこの事件がホラーのものなら、ここもヤツの狩場かもしれないな」

 

「そう言うこと」

 

感心したようなザルバの言葉に得意顔で返す勇牙。しかし、急にザルバがトーンダウンする。

 

「だが、これがホラー絡みかどうかわからんぞ」

 

「それなら、もうすぐ確認できると思うぞ」

 

「何?それはどう言う──」

 

「あの、すいません」

 

ザルバと小声でしゃべっていた勇牙が声をかけられて見ていたチラシから顔を上げると、チラシを配っていた青年が目の前に立っていた。

 

「あの、今そのチラシを見ていたと思うんですけど、はっしー……ええと、高橋について何か知ってるんですか?」

 

「いや、特に何か知ってる訳じゃないんですけど、何があったんですか?」

 

一瞬、青年の表情が曇るが、気を取り直したのか持っていたチラシを一旦脇に抱えて勇牙の方へと向き直る。

 

「まずは、自己紹介から。僕は外狩(とがり)、近くの大学に通ってる3年なんだけど、友達の高橋と2~3日前から連絡が取れなくてね。こう言う人なんだけど、見覚えないかな?」

 

説明を終えた外狩は、一度、言葉を切ると脇に抱えていたチラシを一枚取り出して勇牙に見せるが、当然ながら見覚えはない勇牙は首を横に振る。

 

「と言うか、2~3日連絡がつかない、なんて人によってはそんなに珍しいことじゃないと思うんですけど?」

 

当然の勇牙の疑問にザルバも内心でうなずいていたが、外狩は静かに首を横に振る。

 

「いや、はっしー……高橋はまじめな奴でこれまで講義に一度も遅刻したことすらないんですよ?それに、バイト先のこのコンビニにも来ていないみたいで……店長も不思議がっているんですよ」

 

静かに力説する外狩の姿に真剣さを感じた勇牙は一度、腕を組んで悩む姿勢になる。

 

「う~ん……わかりました。ちょっと俺も調べて見ますから、何かわかったら外狩さんに連絡します」

 

「本当かい?!ありがとう、えぇっと……」

 

「あー、名乗ってませんでしたっけ。俺は花咲川高校3年の冴島勇牙です、よろしくお願いします」

 

初めて安堵の表情を浮かべた外狩に対して自己紹介とともに右手を差し出す勇牙。慌てて握手を返しつつ、外狩は取り出したスマホに勇牙のことをメモする。

 

「冴島、勇牙君……か。それじゃ、僕はこれから一度大学の方に戻るけど、何かわかったらチラシに書いてある僕の番号に連絡してくれるかな?」

 

「はい、それじゃ、外狩さん、くれぐれも気をつけて」

 

「うん?なんだかわからないけど、注意しておくよ。それじゃ、勇牙君も気を付けて」

 

外狩は最初にチラシを配っていたあたりに置いていたリュックにしまうと、駐車スペースにあるバイクに乗って去っていった。あっという間に姿が見えなくなると呆れた様子のザルバのため息が聞こえた。

 

「どうした、ザルバ?」

 

「……どうしたもあるか。最後のアレはなんだ?あの男がお人好しだったからよかったものを、普通なら警戒されて面倒なことになっていたぞ?」

 

「大丈夫だったから、別にいいだろ。それに、危なそうな人間に警告するのも魔戒騎士の仕事、だろ?」

 

「……まったく、ここまで口の減らない黄金騎士は前代未聞だぞ」

 

相変わらずのザルバの小言にあからさまに嫌な顔で屁理屈をこねる勇牙。やいのやいのと店の陰で小声で言い合いをする二人だったが、店の裏手に来たところでピタリと止まる。

 

「なあ、ザルバ、この邪気は……」

 

「あぁ、どうやらそこにゲートがあったみたいだな」

 

流石と言うべき切り替えの早さで二人が見た先にはフェンスで囲われた中にある室外機の陰、外からすれば死角になる場所に古びたキーホルダーが放置されていた。

 

「こっちは間に合いそうだな」

 

ザルバが言うが早いか魔戒剣を取り出した勇牙がキーホルダーから出てきた邪念のようなもの──陰我を断ち切ると、その場に漂っていた不快感が霧散したような感覚があった。

 

「だな。さて、次はどうするかなぁ……」

 

先ほどの鋭さはどこへやら気の抜けた様子の勇牙は頭を掻きながら周囲を見渡すと手掛かりを探すべく、ザルバを地面に向けながら歩き始めるのだった。

 


 

「うーむ、ほんとに何も見つかんねーなぁ……」

 

あれから数日後、連日の捜索にもかかわらず(ろく)な手がかりも手に入れられていない勇牙は今夜のパトロールとして最初の公園のベンチでうだっていた。

 

「一応、手掛かりはあっただろ?」

 

「それだって、高橋、って人の血の付いたネームプレートだろ?確実に食われたかホラーになってんじゃん」

 

励ますようなザルバの言葉にも露骨に顔をしかめつつ、あー、どうやって報告すっかなー、と頭を抱える勇牙に対してまたもやザルバは呆れる。

 

「だが、今回はどう考えてもホラーの動きがおかしい。くれぐれも油断するなよ、勇牙」

 

「……あぁ、どうもそこは俺も気にかかってる。少なくとも、ただの素体ホラーができる芸当じゃない。もっと何かヤバい奴が裏にいる気がする」

 

内容だけならいつもと変わらぬ小言でしかない。だが、その中に含まれるいつもと違う真剣さに流石の勇牙も慎重さを深める。

 

「ま、何にせよ俺とザルバのコンビに勝てる奴はそうそういねーよ」

 

な?、と屈託のない笑顔を浮かべる勇牙にザルバはいつもであれば呆れるようなセリフにどこか頼もしさを覚えるのだった。だが、その時、ザルバの様子が一変する。

 

「!?勇牙、別のホラーの気配だ!」

 

「ようやく黒幕のお出ましか……場所は?」

 

「これは……俺様たちの家の方だ!?」

 

勇ましく立ち上がり、ザルバに声をかける勇牙。だが、その直後、ザルバから聞かされたのは想像もしていなかった場所だった。

 


 

 

「……これは、どう言うことだ?」

 

ホラーの気配を追いかけた勇牙がたどり着いたのは冴島邸──彼の自宅近くの森であった。困惑とともに周囲を見渡して見るが、何か罠が待っているような様子はなく、途中でホラーの気配が消えたことも相まってどこか違う世界に迷い込んだような違和感が彼の心に渦巻いていた。

 

「俺様にもわからん。だが、ホラーの気配があったことは確かだ」

 

「なるほど」

 

なら気配はどっちだ、と問いながらザルバを周囲に向けようとする勇牙。しかし、それより早く少し先の木陰が揺れる。

 

「遅かったな、黄金騎士」

 

「ッ!?──外狩、さん?なんでここに?」

 

横合いからかけられた声に目を向けると気配もなく森の中から出て来たのは先日の青年──外狩であった。

 

「気をつけろ、勇牙!邪気は感じないが、ヤツの周囲には微かにホラーの気配が残っている」

 

「なんだって!?」

 

「なるほど。流石に、倒した直後だと勘付かれるか……まぁ、当然だな」

 

(がく)する勇牙を黙殺し、ザルバの言葉に何事かを得心している外狩。その姿に異様な空気を感じ取った勇牙は無意識のうちに魔戒剣を握っていた。

 

「外狩さん、アンタは一体……?」

 

「あぁ、こっちの自己紹介はまだだったな」

 

勇牙の問いかけに一騎は改めて向き直り、宣言する。

 

「俺は外狩一騎(とがりかずき)転生者(貴様ら)を狩るのが俺の仕事だ」

 

「俺たちを狩る……?まさか、()()()の言っていた猟犬か!?」

 

勇牙の言葉に小さく顔を(しか)める一騎。その視線は酷く冷たく、以前にあった人の良さそうな態度はどこにも見受けられなかった。

 

「猟犬?おい、勇牙。何の話をしているんだ?」

 

「……そう言うことかよ。なら、斬らせてもらう!」

 

「何を言ってる、勇牙!あれは人間だぞ!?」

 

「アイツはバケモノだ!──今、俺が証明してやる!」

 

制止するザルバの声も気にせず魔戒剣を抜き、上段から袈裟懸けに切りかかる勇牙。が、一騎が右足を半歩後ろに引いて軽く仰け反ったことでその一撃は空を切る。

 

「なっ!?」

 

即座に返す刃で切ろうとした勇牙だったが、一騎が体を戻しながら伸ばした右腕に抑えられ剣が止まる。

 

「っ!?勇牙!」

 

「ちっ!?」

 

反射的に身を引こうとする勇牙だが、右腕と同時に前に出されていた右足で足の甲を踏みつけられていたため、その動きも妨げられる。さらに、勢いを殺さず左足を踏み出しながら放った一騎の左の掌打が動きが止まってガラ空きとなった勇牙の右脇腹に突き刺さる。

 

「ぐっ──このっ!」

 

一瞬、怯んだ勇牙だが、即座に抑えられてない左腕だけで左薙ぎに剣を振るう。しかし、その時には一騎はバックステップで3歩分ほど後ろに下がっており、苦し紛れの一撃は空を切ったがそれに合わせて勇牙も後方に飛びのくことで二人の距離は数mほど離れていた。

 

「大丈夫か、勇牙!」

 

「ハァッ、ハァッ……なんとか、な。ともかく、これでコイツがホラーみたいなモンだ、ってわかっただろ?」

 

呼吸を整えながら油断なく相手を見る勇牙だが、相対する一騎は軽く足を開いただけの自然体に近い姿で冷めた眼差しを向けていた。

 

「なんだ、黄金騎士の力はこんなものか?」

 

「あぁ?!なんだと!」

 

「落ち着け、勇牙!」

 

落胆混じりの挑発に怒りを露わにする勇牙だが、一騎はその態度に冷笑を深める。

 

「武器は良くとも技は単調、覚悟も半端──とんだ鍍金(メッキ)の騎士だな」

 

「黙れえぇぇーーー!!」

 

激昂(げっこう)した勇牙は怒号とともに自らの頭上に剣先で円を描く。すると円の中の空間が割れて中から鎧が飛び出し勇牙の体に装着され、その姿は狼の意匠を持つ輝く鎧を纏った黄金騎士・ガロへと変わり、持っていた魔戒剣が幅広で両刃の大型剣、牙狼剣へと変化する。

 

「鎧を着たか──なら、こちらも本気で行かせてもらう」

 

ガロの鎧を見ても一騎は動じることなく冷めた目のまま一度、目を閉じる。そして全身が炎に包まれると一回り大きくなった炎の中からゴーストライダーが姿を現した。質量を無視した変身はその存在がこの世の道理の外にあることを示していた。

 

「っ!?それがお前の正体か!」

 

「正体、か──やはりお前は何も見えていない」

 

「減らず口を!!」

 

ガロの言葉に対しゴーストライダーは地獄の底から響くような声で応じる。その異質さに一瞬たじろぐガロだったが、意を決して気合とともに一足飛びで距離を詰めて切りかかる。

 

「うおぉぉぉーーーー!!」

 

裂帛(れっぱく)の気合とともに左下段から放たれた右薙ぎの一撃は身長差でゴーストライダーの腰に横一文字の軌跡を描く。振りぬいた姿勢から返す刀で左の脇腹から胴を切り上げ、右肩から切り抜けた剣をそのまま振り上げる。

 

「はあぁーーー!!」

 

振り上げた牙狼剣を大上段に構えて全力で唐竹に振り下ろす。流れるような神速の連撃、彼にとって過去最高の鋭さで放たれた最後の一撃は必殺の確信があった。が、その一撃がゴーストライダーの頭部を砕くことはなかった。

 

「なんだと!?」

 

「そんな…牙狼剣が…」

 

驚くのも無理はない、振り下ろされる途中の刃が左手で掴み取られていた。それだけならまだしも、直前までに切り付けられたはずのジャケットにすら一切の傷がなかったからである。

 

「だから言っただろう。何も見えていない、と」

 

「っ!?う、動かねぇ!?」

 

ガロは剣を引き抜こうとするが、いくら引いても微動だにしない。それどころか、ゴーストライダーが剣ごと左腕を持ち上げると身長差もあってかなすすべもなくガロの体が持ち上がる。

 

「……マジかよ」

 

持ち上がった状態のガロの鳩尾(みぞおち)に炎を纏った拳が叩き込まれ、その衝撃で体がくの字に曲がる。そして、拳の炎が勢いよく弾けると剣を放さなかったガロは勢いを抑えられずに地面から2mほどの浮き上がる。

 

「ご──があっ!」

 

ゴーストライダーは一度、刃から手を放して頭上で右の拳を左手で包んで腕を組むと地面に倒れこみつつあるガロの頭めがけてダブルスレッジハンマー。

 

「ぐっ!──が、あ……」

 

そのまま地面にたたきつけられたガロはその衝撃で牙狼剣を取り落として地面に倒れ伏す。その身に受けたダメージの大きさは鎧が解除されたことからも(うかが)い知れた。

 

「おい、勇牙!しっかりしろ!」

 

「さぁ、裁きの時だ」

 

ザルバの声援も空しくゴーストライダーが倒れ伏す勇牙の首をつかんで自身の眼前へと持ち上げる。

 

「ぐぅ……俺が、何をした……!」

 

「では問おう。()()()()に何をした?」

 

「──っ!?……俺は、ただ……ガロとしての、役目を……」

 

ゴーストライダーの問いを受けて勇牙の脳裏には自らの選択で持ち込まれた災厄(ホラー)の姿がよぎったが、認められない彼は自己弁護のような言葉を返すのみであった。

 

「……そうか──ならば、お前の罪で身を焼かれるといい」

 

落胆とも悲嘆(ひたん)ともとれるその言葉を合図にゴーストライダーはその魔眼──贖罪の眼(ペナンスステア)を勇牙にのぞき込ませる。

 

「あ、あぁ……」

 

その魔眼をのぞき込んだ者は自らの罪にその魂を焼き尽くされる。勇牙は使命を果たさなかった自分を悲しげな眼で見つめる歴代の黄金騎士の姿を見ながら、自らの(もたら)した無数のホラーに食い荒らされる苦しみを味わっていた。そして、それを最後に魂ごとその身を焼き尽くされ、冴島勇牙と言う存在はこの世から消滅するのだった。

 

「……また一つ、復讐は成された」

 

そう呟き一つの戦いを終えたゴーストライダーは地面に落ちた灰の山からザルバと変化したままの牙狼剣を拾い上げる。

 

「なんだ、俺様も始末する気か?」

 

「お前は悪ではない」

 

まったく悲壮感を感じさせない、ともすれば常より明るいのではないかと思えるザルバの態度にゴーストライダーは感情を感じさせない声で静かに答える。

 

 「そうかい」

 

そいつはどうも、と返すザルバに適当な紐を付けたゴーストライダーはそのまま手近な所に牙狼剣を突き立てその(つか)に紐をひっかける。

 

「おっ、と。そうだ、最後に一つ聞いてもいいか?」

 

「……言ってみろ。答えるかは別だがな」

 

「ハァ、まぁ、いいさ」

 

さして興味もなく答えるゴーストライダーにザルバは半ば呆れながら質問する。

 

「お前さんはどうしてアイツを殺したんだ?」

 

生憎(あいにく)、俺様にはさっぱりなんでな、と付け加えるザルバを尻目にゴーストライダーはザルバから距離を取るため、森の方へ歩みを進める。

 

「俺はやるべきことをやっているだけだ」

 

「……なんだと?──いや、まさかお前さんは……?」

 

「好きに受け取れ。俺は次へ向かう」

 

何か感じるものがあったのか何事かを思案するザルバから少し離れたところでゴーストライダーはゲートをくぐる。が、その途中、用事を思い出したかのように、ふとザルバの方を向く。

 

「安心しろ、助けは呼んである」

 

ゴーストライダーはその言葉を最後に今度こそゲートをくぐると戦いの跡だけを残してその姿を消した。

 

「まったく、牙狼が怪物に説教されるとは。こいつは前代未聞だぞ……」

 

残されたザルバの嘆息(たんそく)まじりの呟きは近づいてくる足音と(そば)に積みあがった灰を吹き飛ばす風の音に紛れるのだった。

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