GHOSTRIDER:Dog Eat Dog   作:雁野 命

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※今回は前後編のため、読み飛ばす方はお手数ですが、†まで読んだらそのまま後編の†まで読み飛ばしてください。


Dog Eat Dog #02

夢を、夢を見ていました。

夢の中の私はどうにもならないことをどうにかしようと抗い続けている人になっていました。

地面から延びる光の柱に飲まれて消えていく街や人、その光景を眺めることしか出来ないその人は強く嘆き悲しみ、その人は祈りながら叫んでいました。強く、何度も……。

 


 

一騎がくぐりぬけたゲートの先にあったのは荒廃した大地と廃墟となったビルの点在する昼間のゴーストタウンだった。軽く辺りを見回した一騎は頭の中にある知識と周囲の環境に違和感を覚えたのか小さく顔をしかめる。

 

(この世界の軸はシンフォギアのはずだが……どう言うことだ?)

 

一騎が訝しむのも無理はない。本来であれば旧リディアン音楽院の校舎の地下にあったカ・ディンギル──の残骸(ざんがい)があるはずの場所だが、そこに廃墟ではあるが旧リディアン音楽院の一部が残っていた。そして、その近辺には形を残したままの廃ビルや()()()()()()()()()()と共に不自然に隆起した地面が存在しているとなればその違いは一目瞭然であった。

 

(転生者の仕業か。しかし、この()()と不自然な隆起は……ゴースト、お前はどう思う?)

 

「(分からん。だが、()るべきでは無い力の残滓(ざんし)を感じる)」

 

頭の中で呼びかけた一騎に対して彼にだけ聞こえる声で返答したのは、彼をゴーストライダーたらしめる相棒であり半身でもあるゴーストと呼ぶ存在である。その超常の力をもってか、辺りを調べたゴーストの言葉に一騎は一つの結論に至る。

 

(なるほど……なら、やることは一つ、か)

 

「((しか)り、何時もの如くだ)」

 

(情報を集める、か……まったく、儘ならんものだな)

 

ため息を()いた一騎はひとまずの目的として遠くに見える東京スカイタワーへと歩みを進めるのだった。油断なく周囲を見回しながら歩く一騎だったが、数分ほど歩いた所で頭の奥にピリッとした感覚が走る。

 

「(一騎、罪の気配だ)」

 

(転生者ではない──が、()()()()には丁度良いか)

 

静かに、だが、力強く呼びかけるゴーストの声に一騎は感覚の強くなる方向へと足を向けようとする。が、その時。

 

「やめてください!」

 

「(一騎、罪なき者の血が流れるぞ)」

 

(まったく、(まま)ならんな……!)

 

罪の気配の方向から少女の声が聞こえる。少女に迫る危険を感じたゴーストの警告と同時に一騎は内心でぼやきつつも声の方へと駆け出すのだった。

 

 

 


 

「やめてください!」

 

周囲を囲む不良──いっそチンピラと言った方が正しいぐらいの4~5人の男たちに囲まれながら、大きな白いリボンが特徴的な黒髪の少女──小日向未来(こひなたみく)は一歩も怯まず毅然と立ち向かっていた。

 

「おいおい、お嬢ちゃんよー。そんなにつれないこと言うなよー」

 

「そーそー、ここは危ないから、オレたちが守ってあげようか、って言ってるだけじゃんかよ~」

 

「ま、そのついでにちょ~っと一緒に遊んでくれればいーからさー?」

 

口々に勝手なことを言いながら笑う男たちの下卑た視線に恐怖よりも嫌悪が先立った未来は、自分でも気づかないうちに2~3歩ほど後ろに下がってしまう。その姿を自分たちへの恐怖と受け取ったのか、男たちは目に見えて調子づく。

 

「ホラホラ、怯えちゃって、カワイイねぇ~」

 

ヒューヒュー、と(はや)し立てる男たちを睨みつけるように見る未来だったが、その中の一人が進み出ると未来の腕を掴もうとする。が、その時。

 

「あの、それ、ちょっと待ってもらえますか?」

 

横合いからかけられた声にその場にいた全員がその声の方を見るとそこにはどこか申し訳なさそうな顔の一騎が立っていた。

 


 

「あの、それ、ちょっと待ってもらえますか?」

 

「(一騎、如何(どう)言う心算(つもり)だ?)」

 

(これが()()()の最善、だ)

 

声をかけたことをゴーストに咎められるが、それをいなしつつ、一騎は努めて申し訳なさそうな表情を作って前に出る。

 

「あ゛!?何だテメェーは!?」

 

「やんのかコラ!!」

 

「いや、その子も嫌がっているようですし、ここは穏便に治めてもらえませんか?」

 

喧々囂々(けんけんごうごう)に文句を言う男たちを前にしてもどこか申し訳なさそうな顔のままさらりと言ってのける一騎に全員が唖然となる。その中で最も未来に近かった男が怒りに任せて一騎へと近づく。

 

「おい、兄ちゃんよー。カッコつけてるとこわりーけどよー、この子は俺らと遊ぶ約束してんのよ」

 

わかったら引っ込んでな、と吐き捨てるように言った男は一騎の肩を軽く押そうとするが、半身になって(かわ)したことでその手は空を切る。

 

「テメェ、ふざけてんのか!?」

 

「暴力はやめましょうよ、ね?」

 

激昂する男に対してさも当然のように(なだ)める一騎。その態度に怒りを深める男は一騎に対して右手で大振りのステレオパンチを打つが、構えも取らない状態の一騎にあっさりといなされる。

 

「ふざけやがって……この野郎!」

 

「やめてください、これ以上は見過ごせませんよ」

 

冷静に(さと)す一騎の姿に周囲は驚きを隠せないでいるが、軽くあしらわれた男は怒りに任せて拳を繰り出すものの、一騎はそれを左腕で難なくブロックしてみせる。

 

「うるせぇ!」

 

「っ……まだ、続けますか?」

 

「ったりめぇだ、コラ!」

 

「いいぞー!」

 

「やっちまえー!」

 

ブロックされたとは言え、一打目を当てたことで勢いづき左、右と続けて拳を繰り出す男。それをブロックするだけの一騎は防戦一方と見た男たちは銘々(めいめい)に騒ぎ出す。

 

「どうした、口ほどにも──」

 

「……仕方ない」

 

しかし、四打目に入るところで一騎は左腕でブロックしつつ前進。調子に乗った男の大振りの一撃が届く前に踏み込んだ一騎の下からの掌打は男の顎を打ちぬく。

 

「ぐげっ!?」

 

打ちぬかれた男は汚い悲鳴とともに勢いでほんの少し体が浮くとそのまま仰向けに地面に倒れた。そのまま男がピクリとも動かなくなったことで周囲は水を打ったように静かになる。

 

「……気絶しているだけです。しばらくすれば目は覚めるでしょうが、病院に連れて行った方がいいでしょう」

 

勝ったはずの一騎は苦々しい顔をしながらそれだけを告げると道を塞ぐ男たちに目を向ける。悲し気な──それでいて射貫くような視線に男たちは意図せずに怯む。

 

「すみませんが、そこを退いてもらえますか?」

 

最初と変わらないトーンで告げられる言葉に男たちがあっさりと道を開けると、周囲の男たちと同じように固まっていた未来に向き直る。

 

「君、早く行った方がいい」

 

どうも、ここは危険みたいだからね、と悲し気な目で促され困惑しながらも進む未来。

 

「あの、ありが──」

 

「がははっ!見事にやられたなぁ」

 

「!?」

 

「ビ、ビフ君」

 

(……あの見た目、まさか、いや、確実にそうだな)

 

不意に後ろからかけられた声に一騎と未来が振り向くと肥満体の男──ビフが立っていた。その巨体と名前から導き出される正体に感づいた一騎は庇うように未来の前に立つ。

 

「ぎひひ……がはは──」

 

「やべぇ……」

 

「ビフ君が笑ってる」

 

急に笑い出したビフの姿の異様さに恐怖する男たちと未来だったが、大凡(おおよそ)の状況に察しの付いた一騎は半ば無駄だと思いつつ口を開く。

 

「あの、このまま放っておいてもらえませんか?」

 

「あ”っ!?……叩き潰してやるうぅるららぁ!」

 

(まぁ、そうなるか……)

 

激昂するビフの体が発光すると衝撃音とともに周囲の地面や壁面が分解されていくつかのクレーターが作られる。その前兆を見た男たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出していく。

 

「マ、マジかよ!?」

 

「逃げろぉー!!」

 

(……発光と分解、やはり──)

 

「(来るぞ、一騎!)」

 

(──()()()()、か)

 

分解に呼応するように灰色で楕円(だえん)の球体状の胴体が形作られ、4つの足が形作られる。その過程を見ながら、動けずにいる未来を庇いながらじりじりと後ずさる一騎。

 

「うららららら!!」

 

(彼女を庇いながらでは戦えん、か)

 

徐々に形作られる異形を横目に未来の方を見る一騎。その姿は未だ全貌(ぜんぼう)の見えない異形の巨大さに脅威を抱いているが、恐怖で動けない、と言うことはなさそうだった。

 

「君、走れるか?」

 

「はい、でも──」

 

「合図したら全力で走って助けを呼んで来てくれ」

 

どうやって、と言いたげな顔の未来だったが、出来るかい?、となるべく優し気な声で問う一騎に対し、動揺しながらも未来は力強く頷く。迂闊(うかつ)に動けないでいる二人の前で異形の右腕に大型のハンマーが形作られる。

 

「でやぁ!!」

 

(あと少し……一瞬だ、一瞬を待つ)

 

冷静に見極める一騎の前で右腕と比較すると小さな三本指のアームと二つの目がついた小さく丸い顔が形作られる。そして、ついに完成した巨大な異形──アルター、NRハンマーはその名の通り右腕にある巨大なハンマーが特徴的な大型ロボットのような姿をしていた。

 

「今だ!」

 

アルターが完成したことでビフの気が逸れた一瞬、その絶妙なタイミングでかけられた合図で一気に走る未来。だが、既に一騎しかビフの目に入っていないのか、走り去る未来の後ろ姿には目もくれなかった。

 

「覚悟しろ!これが俺のアルター、ハンッマーだあぁぁ!!」

 

(まぁ、好都合、だな)

 

高らかに宣言するビフは左手のアームで自身を掴み、安全を確保する。相対する一騎は構えも取らず、ただアルターの姿を眺めていた。

 

「さぁ、次はお前の番だ。持ってるんだろ、アルター?」

 

一騎の態度をアルターを持つ余裕の表れと見たのか、挑発をするビフだったが、そんなビフに対して先ほどと違って冷たい視線を向ける一騎。

 

「アルター?そんなものはない」

 

「あ”!?」

 

「それに──」

 

冷たく言い放つ一騎の態度に激昂するビフ。自分に注意を向けさせるために一度、言葉を切ると、あえてビフに視線を合わせる。

 

「──その程度なら一撃で十分だ」

 

「ッ!?……ぶっ潰してやるうぅ!!」

 

怒髪天(どはつてん)()くように怒り狂うビフはアルターの右腕のハンマーを勢いよく叩きつける。が、それより早く駆け出していた一騎はその一撃を避けつつ、正面右手──ビフの左側にあるガラス扉をぶち破って元オフィスビルの中に突入する。

 

「グッ!?……ちょこまかとぉ!!」

 

アルターの上半身を捻らせたビフがハンマーを打ちこむと一騎の突入したビルが呆気なく崩壊する。しかし、体を動かした分、タイムロスがあったのか、既に窓を破って飛び出していた一騎は、横目で未来の走った方を見つつ、アルターの足の間を抜けて背中側へ滑り込んでいた。

 

(彼女は──)

 

「(逃げ延びたようだな)」

 

(なるほど、流石は元陸上部)

 

横目で未来の姿がほとんど見えなくなっていたことを確認した一騎の動きが一瞬遅れる。それどころか、悠長に立ち上がって埃を払っている姿はビフの力を(あなど)っていることを如実に示していた

 

「ハンッッ……マァァーーー!!」

 

正面に一騎を捉えたビフの渾身の一撃、彼のこれまでの人生の中でもトップクラスに入る会心の一撃だった。しかし、その一撃は()し潰されるはずの存在によって軽々と受け止められていた。

 

「そんなあああ!!」

 

「なるほど」

 

驚愕するビフ。それもそのはずである。ただの人間だと思っていた男が異形(ゴーストライダー)に変身していれば、その存在を知らずとも畏怖(いふ)すべき対象だと理解するからである。そして、それが己の最大の一撃を防ぎ、今なおアルターの動きを封じていることを加味すればその心理的衝撃は想像だに難くない。

 

「お、俺の、アルターが……」

 

「やはり──」

 

地獄の底から響くような声とともに動けないままのNRハンマーへとゴーストライダーの右ストレートが叩き込まれる。その拳は一撃でNRハンマーを破壊し、余波だけで左手に居たビフを吹き飛ばして脇にある廃ビルにめり込ませる程の威力であった。

 

「あ、あぁ……」

 

「──この一撃で十分だったな」

 

日の当たる場所から元の姿に戻っていった一騎は底冷えのするような冷たい声をしていた。それだけでなく、アルターを破壊され気絶するビフを冷たく一瞥(いちべつ)したその姿からは最初の申し訳なさそうな姿は想像できなかった。

 

「さて──」

 

不意に口を開いた一騎に溶けてなくなったNRハンマーの後ろにいた男たちがビクッ、と震える。

 

「──お前たちはどうする?」

 

そして、冷めた目のまま男たちに問いかけた一騎は悪魔のように酷薄(こくはく)に笑った。

 


 

(もう少しだけ待ってて、未来)

 

ボブカットの少女──立花響(たちばなひびき)は半年振りに強い焦りを感じていた。何時ものように定期健診を終えて親友とも呼べる幼馴染からの連絡に出てみれば、緊急事態を告げる内容、となればこの半年ほど大きな戦いのなかった響には寝耳に水と言うべき状況であった。

 

(でも、今のわたしじゃ……)

 

親友を救いたい、と言う響の心情は最もであったが、彼女の体は度重なるシンフォギアでの戦闘によって(むしば)まれており、なるべくなら戦闘を控えるように厳命されていたのだった。だが、それでも。

 

(わたしは、未来を守る!)

 

決意とともに駆け出す響。その歩みに迷いはなく、その心のままに導かれるような最速で最短で真っ直ぐに一直線な足取りであった。

 

「──響ッ!こっち!」

 

「ッ!?未来ッ!」

 

不意にかけられた声に目を向ければ見慣れた──しかし、どこか何時もと違う焦りを含んだ未来の無事な姿に安堵したのも束の間、続く言葉に緊張を深める。

 

「まだ、あっちに私を助けてくれた人が!……でも──」

 

「わかった!……でも?」

 

未来の言葉に強く頷いた響は胸に手を当て聖詠(せいえい)を唱えようとするが、言葉を選ぶように悩むその姿に動きが止まる。

 

「多分、もう大丈夫かもしれない」

 

「?それって──ッ!?」

 

どう言うこと、と問いかけようとした響だが、廃墟の方から気配を感じて動きが止まり、自然と体ごとそちらに向き直る。そして、それにつられて未来も目を向けると、そこには先ほど別れた一騎の姿があった。

 

「あ!あの人、さっきの!?」

 

「へ?あの人が?」

 

「えっ、と、どうも、さっきの人です?……でいいのかな?」

 

困惑しながらも頭を下げる一騎の姿に、状況が分からず困惑する響と、何を問うべきか迷う未来と言う混沌とした状況が生み出されていた。そして、意を決したのか、未来は一度、深呼吸をすると一騎の方に向き直った。

 

「あの、さっきのアルター使いの人はどうしたんですか?」

 

「アルター……あ、先ほどの人たちですか?……それなら、あちらで倒れてますよ」

 

「へ?」

 

「……」

 

予想外の返答に思わず間抜けな声を上げる響と対照的に難しい顔になる未来。その姿に気づいたのか、一騎が口を開く。

 

「あの、それで、つかぬ事をお聞きしたいんですが……」

 

「え、っと、はい、何ですか?」

 

未だ唖然としていた響だったが、何事かを考えている未来が応えないことに気づいてかろうじて答えると一騎は安心したような表情を浮かべる。

 

「その、ここは、どこなんでしょうか?」

 

「えっと、ここは東京の旧リディアン音楽院で、今は、ええと、特別指定封鎖区域、そう呼ばれている所です」

 

困惑しかけながらも出した未来の返答に対して、うーん、と唸る一騎。数十秒ほど悩んだ挙句、肩を落とす。

 

「──ダメだ、何も思い出せない……」

 

「これは──」

 

「もしかして──」

 

二人にとっては当然ながら自然な反応にしか見えず、その姿に違和感は感じられない。そして、そこから導き出される結論は一つである。

 

「「──記憶喪失?」」

 

「どうも、そうみたいですね」

 

なんてことないかのように言う青年の言葉に、完全に予想外の事態に直面した二人は顔を見合わせて困惑するしかなかった。

 


 

「(一騎、()れは如何言う事だ?)」

 

(どう、と言われても、な)

 

わたしじゃどうにもならないのでちょっと待っててください、と響に言われたのが数分前。とりあえず、三人は迎えの車と後処理専門のチームが来るの近くのベンチで待っていた。

 

「「「……」」」

 

「(随分と肩入れしているようだが?)」

 

ベンチに座る響と未来──誰が座るかはじゃんけんで決まった──そして所在なさげに立つ一騎の三人の間に妙な沈黙が流れる中、そんな空気を意に介さず一騎に対する追求を深めるゴースト。言外に、使命を忘れていないか、と聞かれているような質問に心の中で頭を抱える。

 

(他意はない。だが、この状況は良くないな)

 

「(ふむ……では、次は如何する?)」

 

(()の目星は付いた。だが、先程の戦闘と言い、状況が不透明すぎる……不本意だが、流石に今回は深入りするしかない)

 

やっと先に進める、と安堵したのもつかの間、結局、転生者の居場所については何も分からずじまいである、と言う結論に辿り着き辟易(へきえき)する一騎。

 

(まったく……儘ならんものだな)

 

「あの、ちょっと、いいですか?」

 

内心でため息を吐きつつ押し黙る一騎の姿を緊張していると勘違いしたのか、ベンチに座る響が声をかけた。

 

「はい、何ですか?」

 

「あの、何か覚えてることとかないのかなー、って思って」

 

あ、まずは自己紹介ですかね、と軽く笑う響だったが、待ってください、と一騎がそれを手で制する。

 

「?どうしたんですか?」

 

(やはり、小日向未来に警戒されているか……やむを得ん、か)

 

神妙な面持ちの一騎に対して不思議そうな顔の響と何かを警戒する未来。その姿に危険信号を感じた一騎は内心でまた、ため息をついた。

 

「もしかしたら、いや、ほぼ確実に僕は普通の人間ではないかもしれません」

 

「「ッ!?」」

 

「(一騎、如何言う心算だ?)」

 

(黙って見ていろ)

 

ゴーストの困惑をよそに、一騎は悲しそうな目をしつつ驚く二人の前に右手を差し出す。

 

「僕の手を見て貰えますか?」

 

「「?」」

 

「このままでは何もありません。ですが、こうすると──」

 

差し出した手に左手で陰を作り意志を籠めると右手の陰になっている部分だけがゴーストライダーへと変身する。

 

「こ、これって!?」

 

「……さっきの、骸骨の?」

 

「(成程。先の戦いの説明、と言う事か)」

 

「はい、その通りです」

 

驚愕する二人の前で左手を退()けて光を当てると右手は元に戻った。

 

「その、これって……」

 

「どうしてこうなっているか分かりません。ですが、直感的に使い方がわかるんです」

 

「「……」」

 

押し黙る二人、それも当然である。いかに埒外物理(らちがいぶつり)の相手と戦おうとも、その本質は少女である彼女たちにとってこの現象は想定を超えていたのだから。そんな二人の前で一騎は一度、深呼吸するとそれぞれの目を見る。

 

「僕は知りたい。どうしてこんな力を持っているのか、僕がどんな人間だったのかを。だから──」

 

言葉を続けようとする一騎を今度は、わかりました、と響が手で制する。

 

「じゃあ、やっぱり師匠に連絡して正解でしたね」

 

笑顔で答える響に対して困惑した表情を浮かべる一騎。足りない言葉を埋めるように立ち上がった響は一騎に向き直る。

 

「わたしたちのいるS.O.N.G.(ソング)には、そう言う専門家の人がいっぱいいるんで、もしかしたら何かわかるかもしれませんよ!」

 

「でも、僕みたいな何もわからない存在なんて迷惑なんじゃ……」

 

力強く宣言するように話す響、その姿に一騎は困惑と躊躇(ちゅうちょ)を示す。その姿を見た響は、こほん、軽く咳払いしてから改めて真っ直ぐ一騎に向き直る。

 

「わたしは立花響、16歳です!あと、誕生日は9月の13日で、血液型はO型!趣味は人助けで好きなものはご飯&ご飯です!」

 

満面の笑顔で、自己紹介です、と言う響に呆気に取られる一騎だったが、その横でほほ笑んだ未来が、じゃあ私も、と一騎に向き直る。

 

「私は小日向未来、16歳です。誕生日は11月の7日のA型です。それと、さっきは助けていただいてありがとうございました」

 

響に(なら)って同じく笑顔で自己紹介と先ほどの礼を述べる姿につられて一騎も笑ってしまうが、では、と前置いて二人の目を交互に見る。

 

「僕の名前は外狩一騎、だと思います。誕生日とかはわからないですけど、二人に会えて本当に良かったと思っています」

 

常の彼を知る者ならば同一人物か疑ってしまうような爽やかな笑顔で自己紹介する一騎の姿に二人も心なしか笑顔になる。

 

「それじゃ、覚えてること、一つずつ上げていきましょう!」

 

まずは名前かー、と意気込む響をたしなめつつ嬉しそうな未来、心からの笑顔を浮かべる二人の言葉に、うーん、と唸りながらも同じように笑顔を浮かべる一騎は何かを思い出す振りをする。

 

「(狙い通りか?)」

 

(半分は、な。だが──)

 

ゴーストの言葉に対し疲れたように返す一騎だったが、二人の笑顔を見て一度、言葉を切る。

 

「(だが?)」

 

(彼女たちは怪物を拒絶しなかった……やはりここは救うに値する世界だ)

 

一騎のまさしく心からの言葉に、然り、と力強く頷くゴースト。その声色には心なしか喜色が浮かんでいるようだった

 

「(良い人間達だ)」

 

(そうだ、俺たちはこの笑顔を──人々の営みをこれ以上奪わせないためにどんな嘘を貫いても罪人を狩る)

 

そのためのゴーストライダー(俺たち)だ、と力強く、祈るように、呪うように心の中でゴーストと世界に宣言する一騎だったが、笑顔に隠されたその決意を二人は知る由もなかった。

 


 

自己紹介が終わった三人はやってきた後処理専門のチームに後を任せて迎えの車に乗ってその場を離れていた。車の向かう先はS.O.N.G.の本部であったが、その車内には後部座席で目隠しをさせられている一騎と、時折、申し訳なさそうに後ろを振り返る二人の姿があった。

 

「すいません、一応、規則と言うか安全のためなので……」

 

「あぁ、別に気しないでください」

 

申し訳なさそうな響の声に対してまったく気にしていないように振る舞う一騎だが、それもそのはずである。ある種の訓練を受けた人間であれば周囲の人間や環境から発生する音、匂いなどからおおよそのルートを把握することは可能であり、彼自身もこれまでの経験から似たようなことが出来るからであった。

 

「(抑々(そもそも)、只の布であれば、我らには関係ないからな)」

 

(まぁ、そんな奴は珍しいがな)

 

それ以前にゴーストによる超感覚を持つ彼にとってただの目隠しなど有って無いようなものだが、そうとは知らない二人からは安堵の声が漏れた。そんなやり取りをしていると目的地に着いたのか不意に車が止まった。

 

(……街中?いや、地下、か)

 

「あ、着いたみたいですよ」

 

「そうですか。あの、この目隠しは……?」

 

「はい、外してもらって大丈夫ですよ」

 

目隠しを外して一瞬、眩しそうに目を細める振りをした一騎が目にしたのはどこかの地下の駐車場と思われる場所だった。三人が下りたことを確認した車がどこかへ走り去ると響が前に出る。

 

(確か、本部は潜水艦だったはずだが……?)

 

「それじゃ、案内しますね」

 

(いぶか)しみながらもそんな態度はおくびにも出さず周囲を軽く見渡してから、お願いします、と軽く頭を下げる一騎。そんな内心を知らない二人は始めて来た場所が気になっていると判断したのかそのまま先導する。

 

(場所の違い……これも転生者の影響、か)

 

一騎が歩きながら自分の知識との差異について考えていると先頭を進む響が何を思ったのか振り返る。

 

「そういえば、一騎さんってガイコツになる時……う~ん、そう、変身!変身する時って疲れたり痛かったりしないんですか?」

 

「変身って……」

 

「(変身、か。悪くは無いな)」

 

(……少し黙っていろ)

 

変身の辺りで妙なポーズを取る響にやんわりとツッコミを入れる未来。そんな二人に一瞬、呆気に取られる表情をする一騎だったが、すぐに気を取り直す。

 

「え、っと、そうですね……とりあえず、今は特に異常はないですね」

 

軽く腕を回して見せたりしつつ答える一騎の姿にどこか安堵した様子の二人。そのやり取りの中、視線だけで周囲を見渡していた一騎の目には偽装された監視カメラや各種のセンサーが見て取れた。

 

「(芸が細かいな)」

 

(……仮にも国連機関の施設だろうからな)

 

相変わらずのゴーストとのやり取りの中、大き目のシャッターの前で三人の足が止まった。

 

「ここ、ですか?」

 

「いえいえ、ここからがすごいんですよ!」

 

どこか楽しそうな響が通信機を壁の一部に偽装された読み取り装置にかざすと、シャッターが開き、エレベーターが現れる。

 

「これは……すごいですね」

 

「秘密基地っぽくてカッコいいですよね!」

 

近未来的な設備に対して驚いた様子を見せる一騎に対してエレベーターに乗り込んで得意気な顔をする響に未来は苦笑いする。

 

「……立花さんっていつもこんな感じなんですか?」

 

「ええ、響はいつもこんな感じです」

 

「え?何の話?」

 

ううん、なんでもない、と乗り込む未来に続いて慌てて一騎が乗り込むと、シャッターが閉まりエレベーターは更なる地下へと下りていくのだった。

 


 

司令室と銘打たれた部屋で、先ほど終わった一騎のメディカルチェックの資料を読む赤のカッターシャツの男──風鳴弦十郎(かざなりげんじゅうろう)はその内容に困窮(こんきゅう)していた。内容自体は一騎がいたって健康で鍛えられているただの成人男性であることを示しているが、ある意味ではそれが問題であった。

 

「医学、現代科学、異端技術(ブラックアート)、その他あらゆる検査で今のところ何の異常も見つからない、か……残るはアルターだが、検査はHOLY(ホーリー)にしか出来ない。が、今のHOLYに預ける訳にはいかない。さて、どうしたものか」

 

ひとまず検討を保留として、資料から顔を上げた弦十郎は事態を聞いて真っ先に飛び出した弟子()のことを思い出す。

 

「まったく、響の奴、何のために翼を休業させていると思っているんだ」

 

一体、誰に似たのやら、と誰に言うでもなく呟いた弦十郎はもう一度、資料を眺める。写真と聞いた情報ではただの記憶喪失の好青年にしか見えないが、今年、()から初めて出たアルターと言う言葉に反応した点がどうにも気にかかっていた。

 

「やはり、会ってみなければわからないか」

 

理屈で考えればHOLYに預けるべきである。しかし、弦十郎は己の判断基準である直感で見極めるために一騎との面談を行うことを決める。そうと決まれば行動あるのみ、弦十郎は資料を置くと一騎を呼び出すべく内線をかけるのだった。

 


 

エレベーターを降りてから医務室でメディカルチェックを受けさせられた一騎は、結果が出るまで時間がかかる、と言う名目で近くのソファーで座って待機していた。

 

(まぁ、司令の判断待ち、と言ったところか)

 

実際に結果が出るまで時間がかかるものもあるだろうが、少なくとも、まともな組織であればどこかの機関に引き渡すか判断している可能性も大いに考えられる。だが、彼個人の意見で言えばこの時点でどこかへ引き渡される可能性はないと考えていた。

 

「(随分と呑気なものだな)」

 

(ここに来る前も言ったが、この状況では下手に動けん)

 

それに、果報は寝て待て、と言うからな、と心の中で呟きつつ何とはなしに周囲に目を向ける姿は、事情を知らないものからすれば秘密基地と呼ぶにふさわしいどこかSFチックな設備を珍しがっているようにも見えた。

 

「外狩さんですね?」

 

ふと横合いからかけられた声に目を向けるとスーツ姿の男──緒川慎次(おがわしんじ)が目の前に立っていた。

 

「はい、そうですけど」

 

「司令が話したいことがあるそうで……着いて来ていただけますか?」

 

一騎は静かに頷いて立ち上がる。特に会話もないまま先導する緒川に着いて行くと司令室と銘打たれたプレートのある扉の前で立ち止まる。そのまま緒川が扉の脇のボタンを押すと、二回ほど呼び出し音が鳴った後にその上部のパネルに通話中の文字が表示される。

 

「緒川です。外狩さんをお連れしました」

 

『わかった、入ってくれ』

 

通話中の表示が消えるとドアが開き、どうぞ、と緒川に促されるまま室内へと入ると、弦十郎のデスクの前まで進む。案内を終えた緒川が、失礼します、と一礼をしてから退出すると、座っていた弦十郎が立ち上がる。

 

「外狩一騎くんだったな。俺は風鳴弦十郎、ここの責任者をしている」

 

「どうも、外狩一騎です。それで、お話と言うのは……?」

 

まぁ、座ってくれ、と促された一騎が向かい合わせに置かれたソファーへと腰掛けると弦十郎も向かいのソファーに座る。

 

「話と言うのは他でもない、君の体のことだ」

 

「!?何か、分かったんですか!?」

 

演技には思えない程の立ち上がり兼ねない勢いで身を乗り出す一騎を手で制する弦十郎。その表情は申し訳なさそうに曇っていた。

 

「いや、君の期待に沿えなくて悪いが、検査では異常は見つからなかった」

 

「……そう、ですか……いえ、検査していただいただけでもありがたいです」

 

「そう言ってもらえるとこちらとしても助かる」

 

「(此の世界の技術で我らを捉えることは出来ぬ)」

 

(その心配はしていない……が、ゴースト、この先は少し大人しくしていろ)

 

「(此の男は()れ程か?)」

 

(ああ、相手は()()風鳴弦十郎だ、万が一、と言うこともある)

 

目に見えて気落ちした様子を見せるもすぐに気を取り直す姿を見せた一騎に多少、安堵する弦十郎。だが、その表情の中に一握りの緊張が垣間見えたことで内心で警戒を強める。

 

「そこで、だ。君に一つ聞いておきたいことがある」

 

「?何でしょうか?」

 

「カズマ──シェルブリットのカズマと言う名前に聞き覚えはないか?」

 

「……カズマ……シェルブリット……うっ、頭、が……」

 

「ッ!?大丈夫か!?」

 

シェルブリットのカズマ、予想していたその名前にあえて大げさに反応を示す一騎。頭を押さえて苦しむ姿に流石の弦十郎も動揺する。

 

「は、はい、何とか」

 

「そうか……それで、何か思い出せそうか?」

 

呼吸を整えながら答える一騎の姿にひとまず安堵する弦十郎。水差しから注いだ水の入ったコップを渡しつつ尋ねるが、それを受け取った一騎は、いいえ、とかぶりを振って答える。

 

「……でも、はっきりとは思い出せないんですが、どこか聞き覚えのあるような気がします……教えていただけませんか、そのカズマと言う人のことを」

 

静かだが力強い一騎の言葉に一度深呼吸した弦十郎が、少し長くなるが、聞いてもらえるか?、と問うと一騎ははっきりと頷いた。

 

「わかった。まず、我々S.O.N.G.について説明したいが、君はノイズについてどれぐらい知っている?」

 

「ええと、検査の時に少しだけ。確か、触れた物を灰にする神出鬼没の存在だと聞きました」

 

「そうだ。そして、ノイズに対抗するために国連が編成したのが我々S.O.N.G.だ。ノイズは特定特異災害と呼ばれ、オーバーテクノロジーで作られた無人兵器だ。奴らは無機物をすり抜ける能力を持つ、そのため、現代兵器は通用しない」

 

我々が奴らを災害と呼ぶのはそのためだ、と付け加えた弦十郎はコップに水を注ぎ、一度飲む。ここまではいいか?、と確認する弦十郎に一騎はしっかりと頷く。

 

「そして、奴らに対抗できるのはシンフォギアだけ……()()()。そう、三年前のあの日までは──」

 

一度、言葉を切った弦十郎は手元のコップに目を落としながら話し始めた。

 

「あるライブ会場にノイズが出現し、現場はパニックとなった。幸い、現地には二名のシンフォギア装者(そうしゃ)がいたが、状況としては大規模な被害は免れそうもなかった。しかし、そこに一人のアルター使いが現れてノイズを倒し始めた。その男こそ──」

 

「シェルブリットの、カズマ……」

 

「そうだ。彼のおかげで装者一名を含めた数十名の()()()を出したが、最小限の被害で事件は終わった……それから二年間、彼は姿をくらましていたが、ある時、響君を助けた彼を保護することになった」

 

そう、今の君のように、と語りながら真っ直ぐに一騎を見る弦十郎。その視線に向き合う一騎の目にも真剣な思いが込められていた。一騎の視線を正面から受けた弦十郎は小さく笑みを浮かべる。

 

「その後、我々はいくつかの大きな事件に遭遇したが、そのどれもが彼の協力によって収束している。若さゆえに暴走しがちだが、自分に正直であり続ける……そんな男だ」

 

思い出すように語る弦十郎の目は一騎の姿に別の誰か──カズマを重ねているようにも見えた。

 

「そうですか……それで、彼は今、何処にいるんですか」

 

「……彼は破天荒なところがあってな。残念だが、半年ほど前にHOLYに異動になった」

 

「そう、ですか……ところで、HOLYとはどんな組織なんですか?」

 

目に見えて落ち込んだ様子を見せる一騎だったが、本心から気になったHOLYの単語に興味を示す。

 

「そうだな、君はアルターについて覚えていることはあるか?」

 

「そうですね……以前に聞き覚えはある、と思います。それと、実際に戦いましたが、急に出てきて驚いたぐらいで……詳しいことはさっぱりです」

 

予想通りの返答だったのか、なるほど、と頷く弦十郎。

 

「我々も詳しいことはわかっていないが、アルターはアルター能力によって周囲の物体を分解して再構成された存在、のことだとされている」

 

「なるほど……なんとなく、分かったような気はします」

 

ひとまずの納得を見せる一騎に、すまないな、と申し訳なさそうな顔で言う弦十郎だが、すぐに頭を切り替える。

 

「そもそも、このアルター能力はカズマだけのものだと思われていた。しかし、八ヶ月前、我々が要請を受けて南米のバルベルデへ向かうとそこにいたのはノイズではなく暴走したアルター使いだった」

 

(なるほど……廃墟のアレは隆起現象か)

 

納得した内心をおくびにも出さない一騎だが、特に警戒していない弦十郎は気づかないまま説明を続ける。

 

「幸い、こちらの説得で保護することには成功したが、それを機に各地で大規模な地面の隆起現象とアルター使いの発生が確認されるようになった。そして、現状を危険視した国連によって作られたのがアルター使いの専門機関、HOLYだ」

 

(いい線はいっている、が、始まりが違う)

 

「HOLYはアルター使いの保護を名目に活動しているが、君も遭遇したようにアルター使いには力に溺れる者もいる。そんなアルター能力者による犯罪の取り締まりを行っているのがHOLYの実働部隊──カズマのいる所だ」

 

(つまり、そう言うこと、か)

 

分かってしまえば何と言うことはない、今回の転生者はアルター使いと戦うためにHOLYを作った、それだけの話であった。

 

「カズマが、そこに……」

 

「そうだ、実働部隊にはカズマのように民間人のアルター使いが数多く所属している。それゆえにいろいろと噂もあるが、実績を上げて今では世界中に支部を作りつつある」

 

まぁ、その代わりにS.O.N.G.の出番は減ったがな、と続けて一度水を飲む弦十郎。一騎にはその表情は先ほどまでと変わらないはずだが、どこか哀愁のようなものがにじんでいるようにも見えた。

 

「……あの、アルター使いではない僕がHOLYに入ることは出来ますか?」

 

「君が、か……出来ない訳じゃないが、やめておいた方がいい」

 

おおよその状況を理解した一騎は転生者に近づくために質問してみたが、それに対する弦十郎の返答は芳しくない。

 

「?なぜですか?彼に──カズマに会えば何かわかるかもしれないんですよ?」

 

力強く静かに問いかける一騎に対して弦十郎は言いにくそうに小さく顔をしかめる。

 

「……アルターの研究機関でもあるHOLYはその性質上、秘密主義の下に部門ごとに分かれて運用されている。カズマのようなアルター使いならまだしも、君のように限定的な力しか持たない人間では彼と接触するだけでも難しいだろう」

 

そう、ですか、と納得しつつも落ち込んだ様子を見せる一騎に、そこで一つ提案がある、と空気を切り替えるように弦十郎が手を叩く。

 

「提案、ですか?」

 

「そうだ。記憶が戻るまでここにいるつもりはないか?もちろん、カズマにも連絡しておくから、都合がつけば会えるようにしよう」

 

(確かに都合はいい、がどうしたものか……)

 

どうだ?、と続ける弦十郎に対して困惑した表情を浮かべる一騎。確かに状況だけ見れば彼にとって好都合ではあるが、彼らの本分としては過度な干渉を避けたいことも事実であった。

 

「ありがたい話ですけど……でも、ご迷惑じゃないですか?」

 

「なるほど。では、うちの協力者である未来君を助けてもらったお礼ならどうだ?」

 

「……わかりました。それじゃあ、次に住む場所が決まるまで置いてもらっても構いませんか?」

 

「もちろんだ。S.O.N.G.へようこそ、一騎君」

 

これ以上は断り切れないと悟った一騎が諦めて提案を受け入れるとニヤリと笑った弦十郎はソファーから立ち上がる。

 

「さて、細かい話は後にして、まずは飯だ!君も食うだろ?」

 

「……そうですね、よく考えたら何かを食べた記憶もありませんし」

 

「(此の男、良き人間だが……)」

 

(あぁ……まったく、儘ならんものだな)

 

ぐぅ、と腹の虫を鳴かせながら答える一騎に、それはいかんな、と先導する弦十郎。そんな彼に従いつつ心の中で辟易する一騎とゴーストであった。

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