二発、三発と連続して響く銃声。夜も深いとはいえ現代の日本の街中では珍しい音が響き渡るが、それだけなら犯罪が多発し武偵と言う職業が存在するこの世界では
「いつまで逃げるつもりだ?」
「ったく、俺ちゃんはまだ死ねないんだって!冒頭でターゲット死ぬとか、あんたらも詰まんないだろ?」
地獄の底から響くような声で問いながら追いかけるゴーストライダーに対して、逃げるデッドプールは悪態とともに銃を撃ちながら
「いやー、やっぱり足止めにもなんないかー」
「(何余裕ぶってんだよ、このままだと追いつかれるぞ!)」
どーすんだよ!、とデッドプールの脇で叫ぶ魂だけの存在がぶんぶんと飛び回りながら主張する光景は、この状況の中でも異質ではあったが、それなりの素養のある人間か、当事者であるデッドプールにしか分からないものであり、普段から
「解説どうも!──んじゃ、次の手行きますか」
行くぞもう一人の俺ちゃん!、とどこか楽しそうなデッドプールは銃をしまうと肉体に引きずられる魂だけの相棒を連れて全力で走り出した。当然、追いかけるゴーストライダーもどことなく苛立ちを滲ませながら走る形となる。
「おーにさん、こちら、ってね!」
ルートの関係か急に右へ曲がるデッドプールはそのまま数mの距離を一気に走り抜け、線路を跨ぐ歩道橋を駆け上がる。
「……させるか」
「!?ああっと!?」
続くゴーストライダーはカーブする勢いのまま小石を拾うとヘルファイアで炎の塊に変えて投げつけるが、駆け上がった直後のデッドプールは前に飛びつつ、振り向きながらのクイックドロウでそれを撃ち落とす。
「腐っても殺し屋、か」
「感心したなら見逃してくれてもいいんだぜ?」
立ち上がりながら二発ほど連射するデッドプールだったが、45口径ではゴーストライダーにとって足止めにもならず、ついに歩道橋の真ん中で追い詰められる。睨み合う両者だが、ゴーストライダーに打撃を与えられていないデッドプールには圧倒的に不利な状況であった。
「あのさー、いくらゴーストライダーSSだからってちょっと厳しくない?」
「(んなこと言ってる場合かよ!つーか、どこ見てしゃべってんの?!)」
あと、今SSって言わなかったか?!、と
「覚悟はできたか、殺し屋、いや、道化よ」
「いやー、参った、参った。まさかここまで走って来るなんて」
走るゴーストライダーとかめっちゃレアじゃね?、と歩道橋を上り切ったゴーストライダーをおちょくるようなデッドプールの態度にゴーストライダーからは怒りの籠もった冷たい視線が向けられていた。
「おいおい、いくらイケメンだからってそんなに見つめるなって、照れるだろ?」
「黙れ。お前の時間は終わりだ」
ヘラヘラと笑うデッドプールに対し悠然と、しかし、どこかいつも以上の迫力を見せて近づいてくるゴーストライダー。間近に迫った首を掴もうとするその姿に、キャーこわーい、とおどけた様子のデッドプールだったが、チラリと腕時計を見るとゴーストライダーに向き直る。
「あー、残念、俺ちゃんの時間は延長入りまーす」
じゃーねー、と身を躱して下の線路──を走る電車へ飛び降りるデッドプール。その手を掴もうとするゴーストライダーだったが、掴んだ手は抜き放っていた刀で切り落とされたデッドプールの左手であった。
「道化らしい逃げ方だな」
「(小賢しいが、追わねばなるまい)」
高速で走る電車に刀を刺して無理やりしがみ付くデッドプール。逃げ方に辟易するゴーストライダーだったが、その姿を最初に見た時から他の転生者にはない執念と違和感を感じていた。
†
(緋弾のアリア……幾分か奴らを追いやすい世界だな)
周囲を見渡しながら、特に違和感のない都市部であること感じた一騎は比較的、転生者の傾向を予想しやすい世界であることも含めて小さく安堵していた。さらに、転生者の活動を確認しやすい昼間に来られたことも安堵する一助になっていた。
「(然り。だが、油断するな。位置は分かるが、反応が妙だ)」
(はっきりしないな……ともかく、警戒はしておく)
「(うむ、方角は
ゴーストの忠告を受けつつ、ひとまずの情報収集として指し示した方角──武偵高校の寮のある方へと向かう。が、一つ問題があった。それは、移動の過程で発覚したものである。
(……なんだ、これは)
道中にあった街頭のモニターから流れたニュース──一昨日のバスのハイジャックに関する情報であった。通常、この手の事件──
「(殺し屋か……如何する心算だ、一騎?)」
(力と見た目がわかったのは幸いだが……アレと遣り合うには些か骨だな)
頭を抱える一騎だが、それも当然である。通常、転生者と言うものは、特典と呼ばれる何かしらの特殊能力を持っているものだが、容姿まで含めて模倣した場合は本人の技術や特性まで再現されていることが多く、
「(殺し屋で在るなら我の手の内は読まれているだろう)」
(そうだな……だが、本物でないのなら、いや、本物だったとしてもやることは変わらん──転生者なら殺すだけだ)
「(然り。では何から始める?)」
(場所が割れているなら、まずは準備だ)
返答に満足した様子のゴーストとの相談を終えた一騎は手近なビルの駐車場で呼び出したバイクに乗ると、デッドプールに対する準備を行うために出発するのだった。
(……さて、あとはどう出るか、だな)
準備を終えた一騎がバイクで繁華街近くを走っていると目標はすぐに見つかったがそれも当然である。昼間の繁華街で赤い全身タイツの成人男性など遠くからでも一目でわかるからだ。
(……頭が痛くなってきた)
「(……耐えろ。あれが奴の常だ)」
バイクをゲートへ戻した一騎は辟易しつつデッドプールの追跡を開始する。休日の午後であるため、人が多く常であれば追跡は難しかったが、相手が一目でわかる特徴的な人物であれば、数々の転生者を追跡した来た彼らには大した問題ではなかった。……
(食べ歩きにナンパ……そこらの若者と大差はないが……)
一騎の困惑も無理はない。本来、転生者とは多かれ少なかれ何かしらの目的を持って動いている。しかし、今回は主人公とヒロインに関するイベントが起こっている日にも関わらず、することと言えば街をぶらついているだけ、と言うのが気がかりであった。そして、気がかりな点はもう一つある。
(ゴースト、奴は本当に転生者か?)
「(如何言う事だ?)」
(先ほどの反応の一件もある。俺には奴が転生者、と言うよりはデッドプールにしか見えん)
「(他人の空似だと?)」
(転生者ではあるはずだ。だが、ただの転生者ではないような……何か違和感を感じる)
違和感と表現したが、彼の感じているそれを表現するには適切な言葉が見つからないのか、難しい表情になる一騎。そして、その違和感はゴーストも感じているようであった。
「(確かに、殺し屋とは何処か違う。だが、元々、奴の考えなど分からぬぞ?)」
(だろうな。だが、それにしても妙だ。何か、見落としているような……)
それは直感のようなものであったが、彼らのように戦場に身を置く存在、ひいては超常の理で戦う戦士であれば誰しも持ちうる、ある種の本能のようなものでもあった。そして、それはしばしば重要な局面で発揮されるものである。
(第四の壁か!?)
「(ならば行動の説明はつく)」
第四の壁とは、所謂、
「(先手は取られた。さて、如何する?)」
(決まっている。
二人は相談を終えるとより細かく観察するべくデッドプールへと距離を詰める。が、そこで、転生者としてもデッドプールとしてもあり得ないもの──
(ゴースト、あれは、人、か?)
「(然り。そして、あれも転生者だ)」
(……なるほど。違和感の正体はそう言うことか)
わかってみれば何のことはない。その人魂こそが本来、一騎たちの追う転生者であり、デッドプールの特典を持つはずの人物であったのだ。
「(殺し屋の狂気に呑まれかけている。故に奴らは
(つまり、あれは俺たちかデッドプールにしか捉えられん、と言うことか……哀れだな)
「(だが、急がねばならん。奴は殺し屋に成りつつある)」
(なるほど。下手をすれば殺せなくなるか、刻印が消える、と言うところか)
然り、と返すゴーストに対し、またもや難しい顔の一騎。本来の目的である転生者を殺し、刻印を回収することが出来ないのでは本末転倒だからである。
(猶予は?)
「(凡そ一月程度だろうな)」
(まったく……儘ならんな)
言外に急げと言っているゴーストの言葉に内心でため息を吐く一騎。だが、ゴーストライダーとして戦ってきた彼にとってはこの程度の壁は日常茶飯事、一瞬で思考を切り替える。その目は少し先でタクシードライバーらしいインド人と肩を組んで陽気に歩くデッドプールの姿を確実に捉えていた。
「んで、出てくるのが遅れたってワケ?わかってんなら早く来いよ!もう19時だぞ!」
もー一日中歩いたから俺ちゃんヘトヘトよ、とおどけた様子で苛立ち交じりに言うデッドプールの前にゴーストライダーが姿を現していた。出て来ないゴーストライダーを引き寄せるためにデッドプールが選んだ場所は周囲には人気のない工事中のビルが並び立つエリアであった。
「殺し屋、覚悟はいいか」
「って、無視かよ!いいもんねー俺ちゃんだって好き放題やってやるかんな!」
「(ちょっ、勝てんのかよ!?)」
体取られて死ぬとか、勘弁してくれ!、と
「ですよね~……じゃ、そう言うことで!」
「(え、逃げんの?)」
効かないと見るや即座に後ろへ走るデッドプール。だが、リロードしながらとは言え、その速度は悠然と追いかけるゴーストライダーの視界に入り続けるようにギリギリの速さだった。
(遅い。ヘルバイクを封じる気か)
「(然り。時間稼ぎだ)」
「ピンポーン!ゴーストライダーさんに六点!」
振り向きざまに六連射するデッドプールだが、その銃弾は焼け石に水と言わんばかりにゴーストライダーに当たって燃え尽きる。
「(デップー!こっからどうすんのさ!)」
「決まってんだろ?逃げるんだよ~!」
デップー、行きまーす!とこちらに向かって話しかけるデッドプールは困惑する人魂を引き連れて走り続ける。そして、それに続く形で追いかけるゴーストライダー、その光景はさながら鬼ごっこの様相を呈していた。
「以上、回想終了!いやー、危なかったー」
電車に飛び乗ったデッドプールは窓ガラスを割って何とか車内に潜り込んでいた。周囲に人は居ないが、前後の車両には僅かながら人気が感じられる。座席で一息つくデッドプールの周囲を薄っすら赤色になっている人魂が抗議するように飛び回る。
「(危なかったー、じゃねーよ!何か無いはずの左手が痛いんですけど?!)」
「あー、もしかして、元々、もう一人の俺ちゃんの体だから、痛みも共有してるのかもなー」
あ、初めてだった?、と何故か照れながら茶化すデッドプールに表情のないはずの人魂がげんなりしているようにも見えた。
「まーまー、どうせ直に治るだろうし、このまま電車に乗ってりゃアイツも追ってこれないから安心しろって」
「(はあ!?ゴーストライダーだったらヘルバイクがあるだろ?電車ぐらいじゃ追いつかれるって!)」
どうしよう、と今度は薄っすら青くなりながらバタバタと慌てたように飛び回る人魂に噴き出すデッドプール。
「おいおい、アイツは一般人には手が出せない。つまり、人が多い場所とか事故が起きたらヤバい場所なら安全、ってことよ」
俺ちゃんあったまいいー!、と上機嫌なデッドプールに、なるほど、と納得して大人しくなる人魂。完全に安心しきった二人は笑いあう。
「(いやー、よかったよかった。ところで、もう一人の俺ちゃん、って何?)」
「いやいや、多重人格って言ったらやっぱ、相棒!かもう一人の~だろ」
手首を止血しつつ、ああだこうだと言い合う二人だが、少しすると妙な違和感に気づく。
「(なぁ、相棒。何か変な音がしないか?)」
「もう一人の俺ちゃんもそう思うか?……何かすっごく嫌な予感がするんだけど」
その時、突如、頭の遥か上から轟音が響く。咄嗟に頭を出したデッドプールと人魂は自らの選択を後悔した。そこには、遥か上空にヘルバイクに
「(なぁ、何であんな高さにゴーストライダーがいんの?)」
「あー、あの高さなら、どんな速度でも人は巻き込まないなー」
すごいなー、と感心した様子の二人だったが、その姿を見たゴーストライダーがチェーンを伸ばしたことで正気に戻る。
「ヤッベ、引っ込め!」
「(うおっ!?)」
何とか引っ込んだ二人だったが、全身が隠れるよりも早く右手にチェーンが絡みつく。その瞬間、勢いよく引っ張られるデッドプールは窓の外へと姿を消す。
「ウゲッ!?」
「(デップー!……って、俺もかあぁぁぁ!?)」
チェーンに引っ張られるデッドプールに引きずられて外に出る人魂。勢いよくヘルバイクに引きずられるその姿はさながら私刑を受ける罪人のようだった。
「(デップー、早く腕切って逃げようぜ!)」
「いや、武器持てないから無理だっての!つーか、落ち着け!」
焦る人魂に対して比較的落ち着いているデッドプールの姿に何とか平静を取り戻す人魂。だが、状況は依然としてデッドプールたちに不利であった。
「地の文、うるさい!よく聞け相棒、俺たちがまだ焼かれてないってことは、チャンスがあるってことだ」
「(地の文……もういいや。とりあえず、何か策があるんだよな、デップー?)」
「あぁ、あるぜ!とっておきの策がなぁ!」
†
「グエッ!?」
「(ぬおっ!?俺まで痛ぇ)!」
人に見つからないように小一時間ほど空を飛んでいたが、閑散としたビル街で地面に叩きつけられたデッドプールとそのダメージを共有して痛がる人魂。ヘルバイクから悠然と降り立ったゴーストライダーは冷たい視線で二人を見つめていた。
「道化、お前の自由はここで終わりだ」
「ちょ、ちょっとタンマ!」
冷たく言い放ったゴーストライダーに対してデッドプールは焦ったように止まるように訴える。
「何だ?」
「最後に、俺ちゃんの話を聞いてくれないか?」
必死な物言いのデッドプールにゴーストライダーの足が止まる。
「何故だ、俺に話を聞く必要はない」
「いいのかなー?俺ちゃんがこのまま死んじゃうと、朝には罪もない人々も犠牲になっちゃうんだけどなー」
聞いてくれなきゃ仕方ないなー、とわざとらしい口調と芝居がかった仕草のデッドプールにゴーストライダーは怒気をはらんだ冷めた視線を向ける。
「何をした……!?」
「おーこわ。まぁ、ちょーっと黙って俺ちゃんの話を聞いてくれれば、爆弾の場所を知ってる人を教えるからさー」
聞いてくんないかなー、と脅迫するデッドプール。心なしか、隣に浮かぶ人魂ですら冷たい視線を投げかけているようだった。
「いいだろう。お前の罪から探していては時間がかかる」
「ヨシ!んじゃ、まず、アンタ等についての話だ」
こっからは長台詞だから、よく聞けよ、と前置きしてから深呼吸するデッドプールは芝居がかった調子で話し始める。
「アンタ等、本当にゴーストライダーか?」
「どう言う意味だ?」
「言葉のまんまさ。アンタ等、ゴーストライダーって割にはバイクに乗ってるクセにMCUみたいにスリングリングみたいの使ってるしさー。ぶっちゃけ、何版よ?って感じ」
「それに何の意味がある」
べっつにぃー、と少し不機嫌そうな態度を作るデッドプールだが、飽きたのか、じゃ、次の話だ、と急に態度が切り替わる。
「では、事の起こりは──まぁ、いつでもいいや。ともかく、大事なことはアンタ等がゴーストライダーになった原因だ」
「(デップー知ってんの!?)」
「まーな。細かいことはさておき、光の柱に飲み込まれる世界、アレがアンタ等と相棒の世界、そうだろ?」
「……それがどうした」
愛想ねぇなぁ、と不機嫌になるデッドプールだったが、その返答から、それが図星であることは見て取れた。
「んで、その時に使った刻印、ってのを、どろろみたいに集めてる。ってことでいいか?」
「(それ、ドラゴンボールでもよくない?)」
「……」
沈黙は肯定として受け取るぜ、とどこかで聞いたような言い回しをしつつ、真実を引き出すデッドプール。その姿はさながら推理を披露する名探偵のようだった。
「ピッカッチュウ!……アレ、ウケない?ま、いいや。ともかく、アンタ等はその刻印さえ回収できればいいってことだろ?」
「何が言いたい?」
「つまり、刻印だけ回収して俺ちゃんを見逃してくんない?」
そして、名探偵が推理の果てに行きついた結論は命乞いであった。やらかした後のような居た堪れない空気がその場を支配していた。
「(……デップー)」
「えっ、何?俺ちゃん、地の文に言われるくらいやらかしたの?」
「……刻印は世界を蝕む力だ。それは世界の命を吸って万物を創造する」
人魂にすら呆れられて狼狽えるデッドプールのあまりの居た堪れなさにゴーストライダーがポツリと口を開く。
「?つまり、どういうことよ?」
「刻印の力は特典と歪んだ世界を生み出してそれらを維持する。|転生者
故に裁く、と宣言したゴーストライダーは怒りに燃える眼でデッドプールを睨みつける。この瞬間、その場の空気は完全に変わった。
「あー、コレ完全に失敗だわ」
「(どーすんのさ、デップー!)」
「まーまー、今、次の手を──」
「次はない」
「へ?」
慌てる人魂と悩むデッドプール。そして、その姿から何かを読み取ったのか、冷たく言い放つゴーストライダー。その眼はまっすぐにデッドプールを睨みつけていた。
「お前の話は推理で構成されていた。つまり、お前は過去や未来の壁はせいぜい数日しか越えられない」
「!?……ナンノコトカナー」
「そして、今日一日、お前は罠を仕掛ける余裕はなかった。つまり、爆弾は嘘だ」
「……」
「(デップー……?)」
「沈黙は肯定と受け取る」
完全に意趣返しされた形となったデッドプールは言葉を失い俯いて立ち尽くす。慌てる人魂を無視して悠然と近づくゴーストライダー。勝敗は決したかに見えた。
「残念、今回は俺ちゃんの勝ちだ」
「っ!?これは……!」
ゴーストライダーの驚愕も無理はない。なぜなら、昇りゆく朝日によって照らされたゴーストライダーの左半身の変身が解けているからであった。
「時間稼ぎはこのためか」
「そういうこと、俺ちゃんの粘り勝ち!──ぶげっ!?」
勝利宣言をするデッドプールだったが、自分の体を陰にした一騎は右手だけゴーストライダーに変身してデッドプールを殴り飛ばす。
「いや、まだだ」
「よくもやりやがったな!──ってアレ?」
勢い良く立ち上がったデッドプールは残った右手でクイックドロウをしようとしたが、その手は空を切る。よく見ればホルスターは両方とも空になっており、刀も片方しか持っていない。
「(デップー、電車の時持ってたっけ?)」
「あ」
あんな乗り方したら落とすわな、と諦めムードになる人魂だが、そこは歴戦の傭兵であるデッドプールはやる気だった。その間に一騎が3m程の距離まで迫る。
「うるせぇ!左手なんていらねぇ!弾きだって捨ててやった!野郎、ぶっ殺してやる!」
「(デップー、それ死亡フラグ!)」
「来い、俺の時間はまだ終わっていない」
残った右手に刀を持って意気込むデッドプールとチェーンを巻いた左腕を軽く前に出す三体式に近い構えの一騎。狩る者と狩られる者を決める戦いの火蓋が切って落とされた。
「そりゃっ!」
「っ……」
先攻はデッドプールだった。二歩踏み込んだ右薙ぎの一撃は片手にも関わらず、人一人を殺すには十分な威力と速度を持って放たれていたが、一騎は左足を半歩下げて仰け反ることで剣戟を回避すると、右足で踏み込みつつチェーンを巻き付けた左腕を刀の峰に添えて外へ思い切り受け流す。
「あ、っと、あぶねぇだ──ぶふぉっ!?」
受け流されたことで態勢を崩すデッドプールの左脇腹に一騎の右フックが刺さるが、直前に手首から先のない左腕でブロックされる。しかし、その間にガラ空きになった顔面に対して一騎が頭突きをかまし、デッドプールがたたらを踏む。
「てめ──ぬおっ、おりゃぁっ!」
「っ!?」
チャンスとばかりに払って引いていた左腕でアッパーを狙う一騎だったが、それを察したデッドプールが大きく仰け反ることで回避する。そして、起き上がる勢いで右の刀を突き出すが、一騎が左足を引いて半身になったことで薄く脇腹を切るだけに留まった。
「もらった!──第三部、完!」
一騎が避けた瞬間に刃を内側に向けたデッドプールはそのまま一騎の腹目掛けて左薙ぎの一撃を振るう。腕の力だけで振るわれた一撃だが、生身の一騎が当たれば致命的である。
「やらせん!」
「なっ──ウゲェ!?」
デッドプールが驚くのも無理はない。なぜなら、半身になった状態から即座にバックステップしていた一騎は、そのままの勢いの右フックをデッドプールの顔面に叩き込んでそこを起点に加速し、倒れこむように剣戟を回避したからだ。そして、殴られたデッドプールもバランスを崩して自身の右側に倒れこむ。
「あ~、痛ってぇ~。おまっ、顔ばっか狙うんじゃねーよ!」
「急所を狙うのは当然だ」
既に起き上がって構える一騎と顔を抑えて立ち上がるデッドプール。ダメージではデッドプールの方が大きく見えるが、日が昇り切るまでに倒さなければならない一騎の方が決め手に欠ける分、不利ではあった。
「ようやく、俺ちゃんを褒める気になった?」
「(やはり道化だな)」
「へっ、何とでも言いな」
どうせ勝つのは俺ちゃんよ、と強気なデッドプールだが、実際に太陽が昇りつつある現状を見ればその自信も納得である。
「こっからは本気で行くぜ!」
大きく踏み込んだデッドプールは右手の刀で上から打ち下ろすように叩き切る。力任せの一撃だが、予想よりも大きく踏み込まれたため、一撃目を躱しきれずにチェーンを巻いた左腕で防ぐ。
「そりゃ!そりゃ!どりゃ!こいつで!どうだ!コンチクショウ!」
二発、三発と打ち下ろされる剣戟に少しずつ一騎の態勢が崩れていく。都合、八発目の剣戟で流石の一騎も膝をつく。
「んじゃ、とっとと俺ちゃんに主役の座を明け渡しな!」
止めとばかりに振り下ろされる一撃。そのまま当たれば生身の一騎はひとたまりもない容赦のない攻撃は、たとえ盾や剣を持っていたとしても防ぎきることは難しいだろう。そして、その一撃が近づいたその瞬間。
「ゴバァッ!?──何だ、こりゃ、あ」
吹き飛ぶデッドプール。数m吹き飛ばされて木に激突して止まったその体は、胴体に大きな穴が開き、傷口の周囲は炭化していた。切られたはずの一騎の方を見ると連撃を受けたチェーンはボロボロだが、その体には傷はなく、右手には煙を上げながら元の形に戻る、切り詰めたショットガンが握られていた。
「策を使うのはお前だけではない」
一騎のしたことは簡単だ。デッドプールが振りかぶることで出来た陰で一部変身した右手に持ったヘルファイアで強化したショットガンを接射した。それだけであった。
「ま、まさか……昼間の準備、ってのは──グアッ」
「(デ、デップー──ぐえあっ!?)」
咳き込みながら状況を理解したデッドプールに対し一騎は足を狙ってショットガンを撃ち、立ち上がれなくなったデッドプールに対して悠然と近づく。
「ああ。この世界では簡単に手に入ったぞ」
「クソッ、対策も、ゼェッ、万全かよ……」
何と言うことはない。一騎の取った対策とは大げさに動かないことで描写せずに強化を行う、メタフィクション的な観点で行動する、と言うものであった。
「さて、どうやらお前たちも一つに戻ったようだな」
一騎の言葉で周囲を見渡したデッドプールは人魂がどこにも見当たらないことに気づく。
「あ、相棒、は?」
「痛みで消えたようだな」
これで問題なく消せる、と冷たく言い放つ一騎。歩きながらリロードを済ませる一騎は呆然としているデッドプールの前に立つ。そして、状況を理解したデッドプールはすでに勝敗は決したことを感じていた。
「ハァ……まいった、全年齢じゃ下ネタも出ないな」
「(其の心配はいらん)」
「お前の出番は終わりだ」
木陰に入った一騎は刀を蹴り飛ばしてから服を掴んでデッドプールを引き上げると、ゴーストライダーに変身する。
「う、ぐ。そうだ、最後に一つ、忠告だ」
「何だ?」
「
急がないと先を越されるぜ、と真面目な声色で告げるデッドプールに訝し気な様子のゴーストライダー。
「何故だ?」
「なに、ただの気まぐれさ」
俺ちゃんはトリックスターだからな、とどうやってかマスクを着けたままウィンクするデッドプールに呆れた様子を見せるゴーストライダーは、そうか、とだけ返すと
「ぐ、あ……」
「……流石に、骨が折れた、な」
「(ああ、だが、
変身が解除されると疲れた表情の一騎が近くの木に寄り掛かる。一晩中、正確には20時間近く活動を続けた人間であればこの疲労も当然である。だが、一度、深呼吸をした一騎は、関係ない、と短く答えて直ぐに木から離れるとゲートを作り出す。
(何があろうと、転生者なら殺すだけだ)
「(もう行くのか?)」
(当たり前だ──俺たちに休む暇はない)
自身の覚悟を改めて宣言した一騎はゲートを開くと、目の前に来たバイクに乗り込み、次の転生者のいる世界へと刻印の反応を追って走り出すのだった。