GHOSTRIDER:Dog Eat Dog   作:雁野 命

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Dog Eat Dog #05

7月、世間では夏休みに入ろうかと言うタイミングではイベントごとも多くなる。特に学園モノが核となる世界であれば尚更であり、雄英学園が見える所に出てきた一騎にとっては、転生者を見極めるに絶好の時期であった。

 

(僕のヒーローアカデミア……転生者のやる事はどこでも変わらんな)

 

丁度、昼時の最も暑い時間帯だが、どこからか調達したスマホで状況を確認した一騎はどこか呆れた様子で脇に停めているバイクに軽く腰かけていた。

 

「(然り、だが、今回も油断は出来ん)」

 

(()()、何か厄介な相手か?)

 

「(分からん、しかし、以前の例も在る)」

 

ゴーストの忠告に辟易しつつ問いかける一騎だが、対するゴーストもどこか疲れた声色で困惑していることで警戒を深める。

 

(まったく……儘ならんな)

 

着いたばかりとは言え、不透明な状況にため息を吐いた一騎だが、一度、深呼吸をして頭を切り替える。

 

(ともあれ、まだ転生者とは戦えん)

 

今は奴らが動くのを待つ、と静かに宣言した一騎はバイクに跨ると今回の準備のために町場へとバイクを走らせるのであった。

 

 


 

街中の休日の昼間にしては人気の少ないエリアに存在するとあるバー。開店していないにも関わらず店内には少年少女を含めた数人の男女が屯していた。その中で手の形をしたマスクを着ける少年──死柄木弔(しがらきとむら)は腹立たしそうに首を掻きむしっていた。

 

「……で、計画はまだ先なのに、何でここに集まってんのさ?」

 

「あらヤダ、ここは私たちの拠点(ホーム)でしょ?」

 

いつ集まろうと勝手じゃないの、と開き直りにも似た返事をする女性的なしぐさの男──マグネと、マグ姉の言う通りです、と嬉しそうに続く両サイドのお団子が特徴的な髪形のセーラー服の少女──トガヒミコ。そんな二人の態度に死柄木は面白くなさそうに、ふん、とそっぽを向くとカウンターに立つ黒い人型の靄のような人物──黒霧と視線が合った。

 

「何?何か文句あんの?」

 

「いいえ、順調にコミュニケーションを取れているようで何よりです」

 

非難するような死柄木の視線を軽く受け流す黒霧。どこか剣呑ながらある種の和やかさがある光景だが、そんな空気を打ち壊すように突如、扉が開き闖入者(ちんにゅうしゃ)が入って来た。

 

「っ!?すみません、まだ開店前ですので……」

 

Tシャツにフードの付いたベストを羽織ったラフな格好の闖入者に対し、やんわりと退出を促す黒霧だが、目深に被ったフードから覗く視線に剣呑さを感じて動きが止まる。

 

(ヴィラン)連合に入りたいんだが、ココで合ってるか?」

 

「「「「!?」」」」

 

突然の闖入者の言葉にその場にいた全員が警戒する。その姿に、正解か、とどこか芝居がかったように呟く闖入者。そして、入り口側に近かったトガヒミコがその一言に反応してナイフを持って意識の外から切りかかる。

 

「っ!?──痛っ!?」

 

「おっと、危ないじゃないか」

 

頸動脈を狙った一撃は予想外の速さで反応した闖入者の右手によって手首を捻られたことで防がれた。そして、取り落としたナイフは闖入者の左手で回収され、トガヒミコの首に当てられる。そのままトガヒミコを盾にする形の闖入者は右手で携帯型の端末──カイザフォンを銃にして死柄木の足元に威嚇射撃をする。

 

「「っ!?」」

 

「……この匂い……!」

 

「出来れば、動かないでもらえるか?」

 

仲間になるかもしれない相手は殺したくないからな、と殺気の混ざった鋭い視線のまま涼やかに言う闖入者と人質のような形だが、何事かを考える様子のトガヒミコ。一同の間に緊張が走る。

 

「……仮にここがその場所だとして、何で連合に入りたいんだ?」

 

一触即発の空気の中、闖入者に問いかける死柄木。対する闖入者はトガヒミコを解放してナイフを返すと、フードを取ってその下の少年の素顔を晒す。

 

「俺は、ヒーローごっこをしているような連中が嫌いでな。世間の奴らの目を覚まさせてやりたい、それだけだ」

 

交錯する少年と死柄木の視線。少しの沈黙の後、ボリボリと首を掻いた死柄木は諦めたようにため息を吐く。

 

「……いいだろう」

 

「死柄木弔……確かに、その通りですね」

 

「ちょっと、こんなの入れていいの!?」

 

「コイツは戦力になる。それに、暴れられても面倒だ」

 

戸惑いながらも死柄木の言葉に賛同する黒霧と仲間を攻撃した危険な闖入者を警戒するマグネだが、一瞬でトガヒミコの気配を感じさせない一撃を止めた実力を指摘されて何も言えなくなる。

 

「私はいいと思います。この人ちょっとカッコイイですし」

 

「えぇ……?まぁ、確かによく見れば可愛い気もするかしら」

 

「その基準は一体……ともかく、他のメンバーにも後で紹介しましょう」

 

人質にされたトガヒミコが受け入れたことで態度が軟化するマグネとその発言に小さくツッコミを入れる黒霧と、三者三様の反応を見せるメンバーたち。その変わりように困惑する少年だったが、何とか気を取り直す。

 

「あー、それはどうも、俺は、そうだな……カイザ、うん、カイザとでも呼んでくれ」

 

まぁ、よろしく、と軽く挨拶するカイザ。こうして彼が連合に加入したのは一騎たちが来る少し前のことであった。

 


 

「カイくん、何考えてるです?」

 

「いや、最初に会った時にトガに殺されかけたな、って思ってさ」

 

一騎たちが到着してから数日後、世間の学生が夏休みで浮かれている中、バイク──サイドバッシャーのサイドカーにトガヒミコを乗せたカイザが山間の道路を走っていた。運転中に物思いにふけるカイザとその姿に小首を傾げるトガヒミコ。仲の良さそうな二人の姿もそんな浮かれた学生のようにも見えた。

 

「殺されかけたのは私ですけど」

 

「俺もまだ殺されてあげる訳にはいかないからなぁ」

 

小さく唇を尖らせるトガヒミコに悪いとも思っていない態度のカイザ。どこかズレた様子の二人だが、それが彼らの信頼の証ともいえるものであった。

 

「でもカッコイイから許します」

 

「そりゃ、どうも。つーか、トガは俺のどこがいいの?」

 

えへへ、とどこか狂気を含んだ笑顔を浮かべるトガヒミコの態度に呆れたような表情で問いかけるカイザ。だが、無理に作ったような声色と合わさって、その態度は照れ隠しにも見えた。

 

「うーん……匂いですかね。あと、私のことわかってくれるじゃないですか」

 

全部終わったら殺したいです!、と照れながらも元気そうに答えるトガヒミコと、言葉自体は物騒だが、そこに含まれる明確な好意に、ふーん、とだけ返すまんざらでもない様子のカイザ。年相応な反応を見せているその姿はとても世界に喧嘩を売ろうとしている敵連合の人間には見えなかった。

 

「もっと血が出てた方がカッコイイんですけどねー」

 

「そりゃどうも。それより、そろそろ目的地に着くぞ」

 

自分を見ながら不穏な感想を漏らすトガヒミコに対して、軽く受け流すカイザは目的地が近づいたことを告げる。そして、どこか楽しそうな二人の視線の先には開闢(かいびゃく)行動隊の集合地点が待っているのであった。

 


 

「(一騎、反応は近いぞ)」

 

(そうか。想定通り、だな)

 

山へと向かう道のりをバイクに乗って進む一騎はゴーストの言葉に自身の見立てが間違っていないことを確信していた。

 

「(しかし、また其れか?)」

 

(……またその話か)

 

普段は空いているバイクの後ろに積まれたバッグの中身──高精度のカメラや望遠レンズ、野営用の装備に不満げなゴーストと、その反応にどこか呆れた様子の一騎は小さくため息を吐く。

 

「(だが、監視ならば我の眼で事足りる)」

 

確かに、超感覚を持つゴーストにとっては自身の能力よりも非効率な監視機器に否定的なのも無理はない。しかし。

 

(お前の力は分かるが、隠れて監視するにはこの方がいい……それに、力に頼り切りでは奴らと変わらん)

 

「(成程、()()の矜持、と言う物か)」

 

(……必要なら使う、それだけだ)

 

どこか感心したようなゴーストの物言いに興味なさそうに返す一騎。そんなやり取りの中、目的地である山頂が近づいてきたことでバイクはスピードを落とした。周囲に人気がないことを確認した一騎は荷物を降ろすとバイクをゲートの向こうへ送った。

 

「(着いたか、では、如何する?)」

 

(そうだな……ここでいいだろう)

 

荷物を背負ってしばらく森の中を歩いていた一騎はちょうど周囲の地形が見渡せる場所を見つけると、その近くの開けた所に荷物を置いた。

 

(ここからなら見渡せる)

 

「(では、其の時まで待とう)」

 

監視のために野営の準備を始める一騎。その眼下に広がる山野、そこで行われる雄英学園ヒーロー科の合宿。その果てに何が起こるのか彼らはまだ知る由もなかった。

 


 

(……妙だな?)

 

カイザと名乗る少年──神代怜(かみしろれい)は夜の森の中を訝しみながら走っていた。敵連合開闢行動隊、そこに所属することになった彼は本隊と離れて行動することになっていたが、刻限になっても合図がないことに違和感を感じていた。

 

「とは言え、俺には俺の仕事もあるしなぁ」

 

周囲に誰もいないせいか、これまでとは違った軽い調子で、うむむ、と唸る怜だが、目的地が近づいてきたことに気づき足を止めると、一度、ため息を吐いた。

 

「ま、いいや。とっととやることやって、トガちゃん助けて好感度アップ!……出来たらいいなぁ」

 

懐から取り出したベルト──カイザドライバーを腰に巻くと手に持ったカイザフォンで9、1、3、Enterと入力する。

 

『standing by』

 

準備が整ったことを告げる電子音声に続いて独特の待機音が鳴る中で怜は左肩の前に閉じたカイザフォンを構える。

 

「変身!」

 

『complete』

 

言葉とともにカイザドライバーに斜めにセットしたカイザフォンを横に倒した怜が電子音声とともに光に包まれると、その姿は紫の複眼と黄色のラインの入った灰色の装甲を持つ仮面の戦士──仮面ライダーカイザへと変身したのだった。

 

「おっ、来たか。んじゃ、狩りを始めますか」

 

「っ!?お前は!?」

 

変身を終えたタイミングで予定よりも遅いが合図となる爆発音を確認したカイザは目標の目の前へ姿を晒すと腰のカイザブレイガンをガンモードにして構える。そして、突如、目の前に現れた仮面ライダーカイザの姿に標的は驚愕の声を上げる。

 

『burst mode』

 

「見つけたぞ──スパイダーマン、飛田八雲(とびたやくも)

 

静かに宣言するカイザの構えた銃口の先にあったのはスパイダーマン──この世界の転生者の姿であった。

 


 

ドサッ、と重い物が投げ出されるような音に目を向けた敵連合開闢行動隊の面々が見た物は、力無く地面に倒れ伏すMr.コンプレスの姿であった。

 

「「「!?」」」

 

「コンプレス!?」

 

真っ先に驚愕の声を上げたのはマグネだったが、近づこうとした所でコンプレスが放り出されたであろう森の中から現れた存在──ゴーストライダーに戦慄した。

 

「三人目、奴はもう戦えない」

 

「っ……何だ、キサマは!?」

 

警戒する開闢行動隊に地獄の底から響くような声で告げられる撃破宣言に対し、大剣を持ったトカゲのような青年──スピナーは怯みかけつつも問いかける。

 

「罪なき者の代行者だ」

 

「邪魔をするなら!」

 

大剣を構えて跳びかかるスピナー。だが、その一撃が届くことは無く、拳の一撃で大剣を砕かれてそのまま破片ごと殴り飛ばされるとその体は動かなくなる。

 

「スピナーが!?」

 

「四人目」

 

「よくも──おぉっ!?」

 

気絶するスピナーの姿に激昂するマグネは武器を構えようとするが、その前にゴーストライダーの左手から伸びるチェーンに絡め捕られる。そのまま引き寄せられた身動きの取れないマグネは腹部に叩き込まれた右手の一撃で戦闘不能になる。

 

「マグ姉っ!?」

 

「五人目。そして──」

 

静かにカウントしたゴーストライダーはヘルファイアを纏わせた燃えるチェーンの輪を分解して周囲に飛ばす。無軌道に飛ばされたかに見えるチェーンだったが、その一つ一つが意思を持ったかのように動くと、ゴーストライダーを狙っていたトガヒミコとその近くにいた黒と灰のラバースーツの男──トゥワイスに殺到する。

 

「きゃああっ!?」

 

「ぐああっ!?」

 

「これで七人」

 

四方八方から迫りくる攻撃に滅多打ちにされた二人は何も出来ずに気絶してしまう。そして、残されたのは継ぎ合わせたような皮膚のピアスをした男──荼毘(だび)だけだった。だが、荼毘は怯むことなく爆炎のような青い炎を撃ち出す。

 

「威力ならこちらが上だ」

 

撃ち出した腕が後ろに弾かれる程の威力の爆炎、まともに受ければ防火服であっても無傷ではいられない──はずであった。

 

「……馬鹿な」

 

青い炎がど真ん中──ゴーストライダーのいた辺りを中心に渦巻くと、赤く染まっていき、大きな火球となって宙に浮かぶ。そして、その下には無傷で佇むゴーストライダーの姿があった。

 

「火遊びが過ぎるようだな」

 

「っ……があぁっ!?」

 

「八人目。あと一人……いや、ここからでは間に合わん、か」

 

荼毘に向かって飛ばされた火球は当たる直前で破裂すると、その強い衝撃で荼毘を吹き飛ばす。そして、強かに体を打ち付けた荼毘も戦闘不能になると、ゴーストライダーは周囲に倒れる開闢行動隊をチェーンで縛り上げる。

 

「(一騎、転生者の反応だ)」

 

(分かっている。だが、後始末はしておく)

 

ゴーストの報告に答えたゴーストライダーは指笛を吹くとヘルファイアで乗っ取ったトラックを呼び寄せる。そして、拘束した開闢行動隊を事前に同じようにしていたガスマスクの少年──マスタードと拘束服の男──ムーンフィッシュとともにトラックの荷台に積むと、トラックを雄英の合宿所へと走らせる。

 

「(何処で降ろす?)」

 

(生徒の居そうな場所だ)

 

細い木程度なら物ともせずに進む強化されたトラックに乗るゴーストライダーは開けた所で遠くから響く爆発音に気づく。

 

(あれは……転生者の方か)

 

「(だが、妙な反応も在る)」

 

(なら、話は簡単だ)

 

どちらも殺す、と静かに宣言するゴーストライダーは運転席に書置きを残してトラックを置いて行くと、呼び出したヘルバイクに跨って音の方へ走り出した。

 


 

「クソッ!何でカイザが──うわっ!?いるんだよ!」

 

スパイダーマンこと飛田八雲は迫りくるサイドバッシャーのミサイルを避けつつ焦っていた。元々、原作知識で敵連合の襲撃が予想されていた合宿ではあったが、自分以外の転生者による予想外の襲撃を受けて完全に混乱していた。

 

「おいおい、逃げてるだけじゃ死んじまうぞ!」

 

後ろから煽るようなカイザの声が聞こえるが、八雲にとってそんなことはどうでもよかった。入学以来やる気をなくして腐っている自分に優しくしてくれた、クラスメイトの梅雨ちゃんこと蛙水梅雨。元々、彼女を守るために同行していたが、まさかそのせいで危険な目に合わせてしまうとは思ってもみなかったのだ。

 

「ぐあっ!?」

 

「おいおい、ちゃんと避けろよ?」

 

(好き勝手言いやがって……それより、梅雨ちゃん、無事に逃げられたかな?まぁ、俺より万能型だし、大丈夫か)

 

数発のミサイルを食らって吹き飛ばされながらも梅雨の無事を祈るだけの八雲だが、それも仕方のないことである。糸を強化するウェブシューターもなく、言い訳程度に持って来ていた自作のスパイダースーツを着ているだけの現状では、10m先に糸を飛ばして常人の3倍程度の身体能力がある程度の戦力にしかならないからである。

 

「ハァー、転生者を狩るのが仕事だが、お前、トップクラスに弱いぞ」

 

「ぐ、うぅ……」

 

防戦一方で動けなくなった八雲に呆れたような態度のカイザ。その対照的な姿を見ればわかるように完全に勝敗は決していた。通常の殴り合いなら合宿中に受けた戦闘技術の強化の成果を見せられたが、乗り物に乗る相手に対して有効な網や電撃のウェブを撃てない現状ではまず無理な話であった。

 

(くそ、ここまでか……)

 

「ま、俺はこれからトガちゃんを助けなきゃならないんでな。さっさと死んでくれ」

 

じゃあな、と軽い調子で死刑宣告をするカイザ。身動きも出来ない八雲がもうこれまでかと諦めかけたその時、後ろから来た黒い影が八雲の脇を走り抜けるとサイドバッシャーの足が壊れてその体が斜めに焼き切られていた。

 

「……え?」

 

「っ!?──くそっ!?一体何なんだ!」

 

咄嗟に飛び降りるカイザと驚愕とダメージで動けない八雲。そしてその二人は爆発するサイドバッシャーの向こうから悠然と近づくその影に戦慄する。

 

「俺は、お前たちの死だ」

 

地獄の底から響く声で宣言する執行人──ゴーストライダーがその姿を現した。

 


 

 

「俺たちの、死?」

 

「燃える髑髏の怪物……な~るほど。アンタが俺たちの偽物か」

 

「偽物、か。ならば、お前が()()だな」

 

困惑する八雲を置いて睨み合うカイザとゴーストライダー。二人の間には5m程の距離があったが、超人同士の戦いにおいてその程度の距離は有って無いようなものであった。

 

「大当たり!俺は猟犬(ハウンド)の神代怜」

 

ま、どうぞよろしく、と軽く一礼するカイザだが、その行動に反応を示さないゴーストライダーに不機嫌になる。

 

「無視かよ!ったく、これだから礼儀知らずの偽物は──」

 

「まずは、お前だ」

 

「ハァ?」

 

唐突にカイザを指差して宣言するゴーストライダー。その姿に一瞬、困惑を示したカイザだが直ぐに大笑いする。

 

「はははっ!……アンタ面白いわ──ぜってー殺す」

 

急に声のトーンを落として宣言するカイザは腰のカイザブレイガンを右手に構える。狙う先は当然ゴーストライダーであった。

 

『burst mode』

 

「フェイクはとっととくたばりやがれ!!」

 

引き金を引きながら走るカイザに対して、それを迎え撃つゴーストライダーは飛んでくるフォトンブラッドの光弾を左腕を盾にして防ぐ。

 

「それぐらいは──」

 

『ready』

 

「──想定済みよ!」

 

全弾受け切ったゴーストライダーにダメージは見られない。が、吶喊(とっかん)するカイザは一歩も怯まず、ミッションメモリーをカイザブレイガンに装填すると、電子音声とともにグリップエンドから光刃──フォトンブレードを発生させて左の脇腹から右肩へ切り上げる。

 

「たあっ!てあっ!はぁっ!」

 

肩口を切り抜けた剣から一度手を放すと、即座に左手でキャッチしてそのまま胸を真一文字に切り裂く右薙ぎの一撃を放つ。そして、またもや切り抜けた先で剣を放し、右手で刀身を上にして持ち替えると、左肩から右の脇腹へ袈裟懸けに切り下ろす。

 

「コイツはオマケだ!──」

 

『burst mode』

 

「──とっときな!!」

 

切り下した先で剣を左手で逆手に持ち直すと、右手でレバーを引いてリロードしながら十二発の光弾を連射する。銃と剣が一体化したカイザブレイガンならではの連続攻撃は、長らくこの装備を使い続けているカイザの得意な技でもあった。

 

「どうやら足りないようだな」

 

「な──ぐえっ!?……っと、ま、これで倒れるワケはないわな」

 

連続攻撃の終わり、弾丸を撃ち切って次の動作に移る直前の一瞬の隙をついてゴーストライダーの右ストレートがカイザに叩き込まれる。大げさに5mほど吹き飛ぶカイザだが、予想していなかった訳ではないのか、危なげなく着地する。どうやら、攻撃が当たる直前に自分から後ろに飛ぶことでダメージを抑えていたようだ。

 

「猟犬を自称するだけはあるか」

 

「へっ、そりゃどうも」

 

「……これが、転生者同士の戦い」

 

流れるような連続攻撃のカイザとそれを物ともせずに一撃で吹き飛ばすゴーストライダー。睨み合う形に戻る二人とその両者の激突に自分との実力差を実感して戦慄する八雲、三人の間に緊張が走る。

 

「もう来ないのか?」

 

「アンタにもチャンスをやろうと思ったんだが──」

 

『exceed charge』

 

ゴーストライダーの言葉を挑発と受け取ったカイザが、おもむろにベルトのカイザフォンのEnterを押すと、電子音声とともに甲高いチャージ音が鳴り、ベルトから体の黄色のライン──ダブルストリームを通してカイザブレイガンへとフォトンブラッドが注入される。

 

「──いらないみたいだな!」

 

「ぬっ!?」

 

カイザは言葉とともに右手に持ち直したカイザブレイガンをゴーストライダーに向けると、黄色のエネルギーネットがゴーストライダーの動きを封じる。

 

「コイツで──」

 

駆け出すカイザ。その前にはΧ(カイ)を模した光があり、そのままゴーストライダーへ突進する。

 

「──どうだぁ!!」

 

ゴーストライダーに当たる直前、光に合わせてΧ(カイ)の字に切り裂いて駆け抜けるとフォトンブラッドが反応したのか、背後でゴーストライダーが爆発する。これこそがカイザの必殺技──カイザスラッシュである。だが、カイザの動きは止まらない。カイザブレイガンをデジカメ型のパンチングユニット──カイザショットへと持ち替えて、ミッションメモリーも付け替える。

 

「あぁっ!?」

 

「念には念を──」

 

『exceed charge』

 

もう一度、カイザフォンのEnterを押すと、先ほどと同じように電子音声とともに右手に装着されたカイザショットへとチャージが始まる。周囲から見れば完全に隙だらけの姿だが、驚愕するだけの八雲は一歩も動けずにいた。

 

「──入れないとなぁ!」

 

「何て容赦のない攻撃なんだ……」

 

カイザがゴーストライダーの居た位置に着くタイミングでチャージが完了すると、その勢いのままカイザショットでパンチを叩き込む。これもカイザの必殺技として知られているグランインパクトである。八雲の漏らした感想のように、この技を受けて無事だった敵はそうおらず、二つとも食らってしまえばひとたまりもない──はずであった。

 

「あぁ?」

 

違和感、カイザが最初に感じたのはそれだった。確かに命中した、その実感はある。しかし、これまでとは何か手応えが違うような、そんな気がしていた。そして、その感覚は正しかった。

 

「これがお前の全てか?」

 

「……え?」

 

「……おいおい、どんだけの威力だと思ってんだよ」

 

八雲とカイザの驚愕も無理はない。合計で十トン以上の破壊力を持つ攻撃を受けたはずのゴーストライダーが五体満足で立っているだけでなく、その左手でグランインパクトを受け止めていたのだった。

 

「次は、こちらの番だ」

 

「……あ?」

 

ミシリ、と音がしたと思えば右手に握られていたはずのカイザショットが見当たらない。それどころか、その下の拳すら見えなくなっていた。

 

「あ、ああ……あああああぁぁぁ!!」

 

握りつぶされた、カイザがそれを認識したことで激痛とともに叫ぶ。ゴーストライダーが手を放すとカイザは右手を抑えて後退る。が、ゴーストライダーがそれを許す訳がない。

 

「お、俺の手があぁぁ!──あがっ!?」

 

「喚くな、見苦しいぞ」

 

一歩、踏み込んだゴーストライダーの右ストレートが喚くカイザの顔面に突き刺さる。完全に意識が逸れていた所に叩き込まれた一撃に反応できなかったカイザは3mほど吹き飛ぶとそのまま地面を転がっていた。

 

「うあ……ああ……あ」

 

仰向けになって呻くカイザからは既に最初の威勢のよさは鳴りを潜めていた。そんなカイザに悠然と歩いて行くゴーストライダー。傍から眺めている八雲は衝撃的な光景に声を出すことすら忘れていた。

 

「……どうやら、遊びが──」

 

「ひっ!?」

 

「──過ぎたようだな」

 

「ぐえっ!?」

 

目の前に現れたゴーストライダーの姿に怯えるカイザ。だが、カイザの体が動くよりも早く踏み抜かんばかりの勢いで右足をベルトへと踏み下ろした。その衝撃で地面にひびが入り、カイザの体がくの字に曲がると、ベルトが壊れたことでカイザの変身が解けて怜の姿に戻る。

 

「ゲホッ、ガハッ……ひいっ!?」

 

「呆気ないな。この程度で猟犬とは」

 

倒れたまま咳き込みながら怯える怜の首を掴んで持ち上げるゴーストライダー。決着は着いたかに見えたが、猟犬の一言に一瞬だけ怜の目に生気が戻る。

 

「そう、だ……俺は猟犬、なんだ。こんな所で……」

 

「お前は終わりだ」

 

生気の戻った怜に対して贖罪の眼(ペナンスステア)を覗き込ませるゴーストライダー。

 

「あ、あぁ……」

 

怜の眼にはこれまで猟犬の仕事で殺して来た転生者の姿と彼らの齎した罪が映される。そして、それらの苦しみを一身に受けると、多くの刻印を引き剥がされたその魂は焼き尽くされるのだった。

 

「……これでは、犬死だな」

 

怜の魂からは過去に殺した転生者のことしか分からなかったゴーストライダー。その声には落胆の色が含まれていたが、右手に力を籠めて抜け殻となった怜の首の骨を折るとその体を地面に打ち捨てた。そして、打ち捨てられたその体はカイザの変身に耐えられなかったのか灰となって崩れ去った。

 

「な、何で、殺したんだ!」

 

一連の衝撃から立ち直った八雲は非難の声を上げると、その声に反応したゴーストライダーの冷たく鋭い視線が八雲に注がれる。

 

「な、なにも、殺すことは……」

 

「では、その力はどのように得た?」

 

「っ!?……それは、アンタだって──」

 

「黙れ……!」

 

悠然と近づくゴーストライダーだったが、八雲の言葉に殺気の籠もった視線を向けると気圧された八雲は何も言えずに押し黙ってしまう。

 

「俺は転生者(お前たち)とは違う……やっていることは変わらんがな」

 

冷静になったのか自嘲気味に返すゴーストライダーの姿に困惑する八雲だが、目の前に来たゴーストライダーから向けられている冷たい視線に何も言葉が出なかった。

 

「お前に言うべき言葉がある。大いなる力には──」

 

「──大いなる責任が伴う、だろ?」

 

よく知ってるよ、と言葉を継いだ八雲だったが、どこかその言葉に鬱陶(うっとう)しさを感じているようだった。

 

「どうせアンタもアメコミ好きだろ?俺だってそうだったさ」

 

諦めと後悔の籠もった八雲の言葉にゴーストライダーは微動だにしない。黙って独白を聞くその姿はどこか懺悔を聞く処刑人のようでもあった。

 

「でも、自分で使ってわかった。こんな力じゃ身を守る以外に何にも出来ない!これ以上、どうしろってんだ!!」

 

情けなく叫ぶ八雲。自らの命を狙っているであろう相手に対して吐露するにはあまりにも惨めな言葉にゴーストライダーは冷たい視線を向ける。

 

「……どんな力にも責任がある。お前は責任を果たさなかった」

 

「じゃあ、無駄でも立ち向かえ、ってことか?」

 

ゴーストライダーの言葉を鼻で笑う八雲は、俺は死ねばよかったのか?、とどこか投げやりに返すが、ゴーストライダーは静かに首を横に振る。

 

「出来ることをする。それが責任だ」

 

冷たく、しかし、真っ直ぐに返したゴーストライダーは八雲の胸倉を掴んで持ち上げる。その言葉とどこか哀れみが含まれているような視線に八雲は観念したように力を抜く。

 

「なぁ、俺はどうすりゃよかったんだ?」

 

「あるべき場所で考えろ……それがお前の責任だ」

 

「ぐうぅ……う、ぁ」

 

ゴーストライダーが贖罪の眼(ペナンスステア)を覗き込ませると八雲は最後に自らが見逃した犯罪の被害者と悲し気な数多のスパイダーマンたちの姿を見る。そして、その罪に魂を焼かれながら刻印が元の世界へ戻ると、ゴーストライダーはその体を燃やして灰にする。

 

「(此れで終わりか)」

 

(いや、違う)

 

これからが始まりだ、と宣言する一騎。今回は殺したが、転生者を狩る猟犬と言う多くの謎を残したままの存在に新たな戦いの予感を感じながら、戦闘の音の聞いて近づいてくる雄英の教師らしき足音を背にした一騎はトラックへの道のりのメモを残すと、次なる転生者のいる世界へ向けてゲートをくぐるのだった。

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