GHOSTRIDER:Dog Eat Dog   作:雁野 命

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※今回は表編と裏編のため、表編のメイン部分は最後の方にあります。お手数ですが、読み飛ばす方は今回の†まで読み飛ばしてから裏編にお進みください。


Dog Eat Dog #06

転校初日の朝、不安と緊張と一握りの期待に押しつぶされそうになりながら、赤紫色のロングヘアーをハーフアップでまとめた少女──桜内梨子(さくらうちりこ)は自らの通う浦の星学園への道を歩いていた。

 

(……新しい学校、かぁ)

 

別に前の学校が特別好きだった訳ではないが、急に住み慣れた街を離れて見知らぬ沼津の街まで連れて来られたとなれば、彼女の複雑な心境も理解できるというものである。

 

(でも、空気は悪くないし、ご飯も美味しい。それに、やっと()()()()にも会える……!)

 

案外、沼津も悪くないかも、などと浮かれる梨子。先ほどまでの不安も何処へやら、心なしか足取りも軽く、見える景色も輝いて見えるようだった。だが、それも十年前に別れた幼馴染のヒロくんに再会出来るとなれば仕方のないことであった。

 

(そういえば、あれ以来会ってないけど、分からなかったらどうしよう……?)

 

途端に不安になる梨子。一度浮かんだ疑念は消えず、ぐるぐると良くない想像が頭の中を占める。そう思うと、また複雑な気分が彼女の表情を曇らせていた。ああでもないこうでもない、と内心で頭を抱える梨子。だが、そんな彼女の懊悩(おうのう)もバス停の前に立つ後ろ姿を見るまでであった。

 

「……ヒロ、くん?」

 

「え?……ってことは、もしかして、梨子?」

 

梨子の言葉に振り返る少年、まじまじと彼女を見るその顔に梨子の表情は途端に明るくなる。その少年こそ彼女の幼馴染、ヒロくん──松平広樹(まつひらひろき)その人であった。

 

「うん!久しぶり、だね!……えっと、その、お、大きくなったね!」

 

「大きく、って……まぁ、十年も経てばな。つーか、そっちも、うん、見違えたな」

 

「見違えた、ってどう言う意味よ!……フフッ」

 

色々と言いたいことはあったはずだが、緊張のあまり口をついて出てきた言葉でどこか気恥ずかしい雰囲気になってしまい噴き出す二人。ひとしきり笑いあうと二人にあった妙な緊張感は無くなっていた。

 

「そういえば、ヒロく──あ、ヒロくんのままで、いい、よね?」

 

「お、おう。まぁ、今さら苗字とかで呼ばれてもな」

 

「ヒロくんも浦の星なんだ」

 

「あー、そうだな、まぁ、静真も統合されたしな」

 

どこか照れくささが残っているのか少しだけ硬さの残る二人だが、制服から同じ学校であることが分かって、また、同じ学校に通えるね、と嬉しそうな顔の梨子にまんざらでもない様子の広樹。新しい平和な日常の始まりとしては申し分ない朝だった。──梨子の背後に忍び寄る影がなければ。

 

「広樹君、おはよう!」

 

唐突にかけられた声の方を向くと二人の元に走って来る橙色の髪で左側頭部に黄色いリボンの付いた三つ編みの少女──高海千歌(たかみちか)の姿があった。

 

「おーっす」

 

「お、おはよう、ございます……え、えぇと、ヒロくん、この人は?」

 

突如現れた千歌に妙な危機感のようなものを抱きながら恐る恐る広樹へ問いかける梨子。

 

「あー、こっちは千歌、こっちに来てからだから、十年くらいの友達だな。で、こっちは梨子、東京に居た時の幼馴染」

 

「初めまして、わたしは高海千歌、よろしくね!」

 

「ど、どうも、桜内梨子です、よ、よろしく……」

 

やけに積極的な千歌に対して若干及び腰な梨子。対照的な二人だったが、バスがやって来た事でそのやりとりも中断される。

 

「じゃ、行こっか!」

 

「おう、ほら、梨子も早く」

 

「う、うん、今行く!」

 

さっさとバスに乗り込んだ千歌と広樹、それに続いて慌てて乗り込む梨子。先に乗った二人はグレーでウェーブの入った髪のボブカットの少女──渡辺曜(わたなべよう)の座っている席へとまっすぐと進む。

 

「あ、広樹くんと千歌ちゃん、おはヨーソロー!……ってそっちの子は?」

 

「曜ちゃんおはよう!」

 

「おーっす。えーっと、俺の幼馴染で今日転校して来た梨子だ」

 

「お、おはよう、ございます……えっと桜内梨子です、よろしくお願いします」

 

また現れた親し気な女子の姿に内心穏やかでない梨子だったが、それを押し殺して挨拶をする。

 

「梨子ちゃんかー。わたしは渡辺曜!よろしくね!」

 

少し様子のおかしく見える梨子の姿を緊張していると感じたのか笑顔で挨拶を返す曜。ひとまず挨拶を終えた四人は曜の座る席とその前に分かれて座ったところでバスが出発する。四人がしばらく取り留めのない雑談をしていると、ふと何かを思い出したのか、あ、と曜が声を上げる。

 

「そういえば、知ってる?理事長が戻ってくるらしいよ?」

 

「あー、あの人戻ってくるんだ?」

 

「理事長?」

 

曜の口から、理事長と言う学生があまり気にすることのない人物が話題に上がることに、違和感を覚えた梨子はオウム返しで質問する。

 

「理事長、ってどんな人だっけ?」

 

「……えーっと、千歌ちゃん、ほら、入学式の時の凄かった人だよ」

 

鞠莉(まり)さんだよ。ほら、俺たちの一つ上の三年生で、学校ために外国に行ったりしてる、あの人」

 

「あー!あの人!?」

 

「……何だか、凄い人みたいね……」

 

凄かった、だけでは何を指すのか分からない梨子の頭に疑問符が浮かんでいるのが見えるようだったが、広樹の説明を聞いても具体的なイメージがつかないようであった。

 

「まぁ、どうせ今日の始業式で出るだろうし、実際に見た方が早いだろ」

 

そういえば、昨日の番組だけど、とどこか楽しそうな表情で続ける広樹。そうしてまたもや取り留めのない雑談を再開する四人だが、その中で抱いていた不安と緊張が消えていたことに気づいた梨子は胸に抱いた期待に小さく笑顔を浮かべるのだった。

 


 

「──抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ───!」

 

夜の帳の降りた和風な民家、その土蔵の中が一際大きく輝くと長い黒髪の少女──黒澤(くろさわ)ダイヤの目の前には白髪で暗中に輝く鋭い黄金を感じさせる男が魔法陣の上に立っていた。その姿を見たダイヤは英霊召喚の成功に安堵する。

 

「成功、ですわ……!」

 

「問おう、お前がマスターか?」

 

目の前の男の問いかけで成功の余韻から覚めたダイヤは小さく咳払いをすると居住まいを正す。

 

「ええ、(わたくし)があなたのマスター、黒澤ダイヤですわ」

 

「そうか。サーヴァント、ランサー。真名をカルナと言う。宜しく頼む」

 

端的に自己紹介を終えて黙るカルナに呆気に取られるダイヤ。ポカンとした表情のまま固まるダイヤに気づいたのかカルナの表情が小さく曇る。

 

「どうしたマスター。オレについて言うべきことは言ったつもりだが?」

 

「い、いえ、その、こうもあっさりと真名(しんめい)だけを明かされてしまうとは思わなかったもので……」

 

自らの召喚したサーヴァント、カルナのセオリーから外れた在り方に困惑するダイヤ。本来、聖杯戦争ではクラス名で隠した英霊の真の名前──真名は戦局を大きく左右する重要なカギであり、召喚された英霊がマスターにも真名を隠すことは珍しくもない。

 

「……そうか。いや、オレはマスターに隠し事をする必要はないのでな」

 

端的に告げるカルナにダイヤの困惑も無理はない。真名をマスターに明かすと言うことは自身に絶対の自信を持つか、あるいはマスターに全幅の信頼を寄せているか、そのどちらかである。そして、カルナと言う英霊が後者であると気づいたダイヤは小さくため息を吐く。

 

「いえ、分かりました。では、行きましょうか、カルナさん。いえ、ランサー」

 

「承知した」

 

「あら、行先は聞きませんの?」

 

「お前が命ずるなら、オレはそうするだけだ」

 

行先も告げずに土蔵を出るダイヤに二つ返事で付き従うカルナ。その返答に満足したのか笑みを浮かべたダイヤは中庭でカルナへと振り向く。

 

「街に出ます。あなたの力、見せていただけますか?」

 

「問題ない」

 

「へ?」

 

手を差し出したダイヤの言葉を受けて、カルナはダイヤを所謂お姫様抱っこの形で抱きかかえると、軽やかに20m近い高さでジャンプする。

 

「ぴぎゃあ!」

 

「マスター、気を付けた方がいい。舌を噛むぞ」

 

あまりの衝撃に奇声のような悲鳴を上げるダイヤをなんてことないかのような表情でジャンプを繰り返しながら(たしな)めるカルナ。どこかちぐはぐなまま空を駆ける主従だったが、町場の近くで急に一つのビルの屋上で立ち止まる。

 

「ゼェ、ハァ……ど、どうかしましたの?」

 

「マスター、この街では空を飛ぶ船はあるのか?」

 

「……船、ですか?飛行機ではなく?」

 

息を切らせるダイヤを抱えたまま問いかけるカルナだが、その言葉にダイヤは違和感を覚える。本来、サーヴァントは聖杯戦争に必要なその時代の基本的な知識を聖杯から与えられている。そのため、車やバイク、電話やネットと言った現代文明の利器を勘違いすることは無いからである。

 

「ああ。あの船だ」

 

「え?」

 

カルナの指さす方を見たダイヤは自らの目を疑った。そこには上空から隣のビルの屋上に落ちてくる巨大な帆船──ガレオン船の姿であった。勢いよくビルに当たりかける船だったが、当たる所で屋上の地面に音もなく半分ほど沈み込み、さながら、水面に浮かぶような姿でこちらに舳先を向けていた。

 

「な、何事ですの!?」

 

「ハァーイ!ダイヤ、久しぶりね」

 

驚くダイヤがガレオン船の方を見ると、甲板にはブロンドのセミロングヘアーを特徴的に結った少女──小原鞠莉(おはらまり)の姿があった。

 

「ま、鞠莉さん!?どうしてここに……と言うか、昼間も学校で会ってますし、そもそも勝手に他人のビルを壊して、何をやってるんですか!!」

 

「壊してないわよ!それに、そんなポーズで言われてもねぇ~?」

 

「なっ──こ、これには深い訳が……と言うか、それとこれとは関係ないでしょう!」

 

捲し立てるように詰め寄るダイヤだったが、鞠莉の反論にお姫様抱っこされたままの姿を振り返って赤面しつつも開き直ったように返す。

 

「ちょっとしたジョークよ。でも、意外とお似合いよ?」

 

「お黙りなさい!それより、カ──ランサー、そろそろ降ろしなさい!」

 

「いや、それは出来ない」

 

普段と変わらないようなやり取りをする二人だったが、ダイヤの命令を拒否したランサーの言葉とガレオン船の甲板に現れた一つの人影で空気が変わる。

 

「だとよ、大将。楽しそうな所悪いけど、そろそろいいんじゃないかい?」

 

「ライダー……そうね。残念だけど、そろそろスタートしましょうか」

 

甲板に現れたライダーと呼ばれる顔に大きな傷のある赤髪の女は鞠莉に呼びかけるとおもむろに前に出る。

 

「……やはり、鞠莉さんも聖杯戦争に参加するんですね」

 

「オフコース!よ。だって、魔術師の家系に生まれたんですもの、参加しない訳には行かない、でしょう?」

 

何時もと変わらないような口調で試すように投げかけられた鞠莉の言葉にダイヤの表情は険しくなる。

 

「……そう、ですわね。でも、私は負ける訳には行きませんの!」

 

強い決意を秘めたダイヤの力強い宣言に笑顔になる鞠莉。だが、楽しそうな表情とは裏腹にその瞳はどこか悲しげでもあった。

 

「フフッ、やっぱり、ダイヤはそうでなくっちゃ!ライダー!」

 

「あいよ!」

 

「っ──ランサー!」

 

「ああ」

 

サーヴァントの名を呼ぶ二人、相対する両者の間に緊張が走る。

 

「イッツ、ショータイム!」

 

「お願いしますわ!」

 

同時に叫んだ二人の言葉を合図に現代に蘇った英霊たちの戦い──聖杯戦争が始まりを告げた。

 

「コイツを喰らいなっ!」

 

まずはライダーが船首にある四門の砲をランサーへ向けて一門ずつ放つ。只の人間であればひとたまりもない攻撃だが、英霊同士の戦いであれば牽制程度の一撃。しかし、ランサーはその攻撃を3軒ほど隣のビルまで飛んで避ける。

 

「ああ?何だい、拍子抜けだねぇ?ま、お荷物(そんなもの)を抱えてちゃあ仕方がないか」

 

やれやれ、と言った風に肩を竦めるライダーだが、ランサーは気にした様子もなくおもむろにダイヤを降ろす。

 

「──そうだな。だが、これで戦える」

 

即座に跳躍、向かう先はガレオン船の甲板に立つライダーである。当然、直線的な動きから想定していたライダーは船首の砲をランサーへと向ける。

 

「見え見えなんだよ!」

 

「はっ!」

 

連射される四門の大砲。その斉射を受けるランサーだったが、右手に持った細身の槍を振るうと、そこから迸る炎によって撃ち落とされる。

 

「ちっ!大将、中に──」

 

「頭上注意だ」

 

「──っと、危ないねぇ!」

 

砲弾が撃ち落とされたところをみたライダーは鞠莉へと声をかけると右手にカトラス、左手にクラシックな拳銃を持つと横っ飛びして頭上に迫ったランサーの槍を避ける。鞠莉を庇うように立つライダーをランサーは船首側から静かに見据える。

 

「悪くはない、が、オレを落とすには足りんようだな」

 

「はん、舐めてくれたねぇ……こいつは高くつくよ?」

 

一触即発の空気の中、睨み合う両者。永遠のように感じられる一瞬の中で鞠莉が身動ぎした音を合図にランサーが動く。

 

「せえっ!」

 

「おっ、とぉ、アタシを焼くには──」

 

踏み込んだランサーの左薙ぎの一撃を軽やかなステップで躱すライダー。その後に続く炎も紙一重で避けると左手の銃をランサーへと向ける。

 

「火力が足りないみたいだねぇ!」

 

「ぐっ……」

 

「そらそら!これで──っ!?」

 

その見た目からは想像もつかない速度で連射される銃弾に一瞬怯むランサー。その隙を狙って踏み込もうとするライダーだったが、その足が一瞬止まり、バックステップへと切り替わる。すると、一瞬遅れて先程までライダーの居た場所をランサーの槍が掬い上げていた。

 

「──なるほど。いい反応、いや、いい勘をしているな」

 

「ちっ、まさかの無傷とは……こいつはヤバいね!どうする、大将!」

 

何とか態勢を立て直したライダーはチラリと後ろに視線を向けて鞠莉へと問いかけるが、鞠莉は戦闘の空気に飲まれているのか、立っているのもやっと、と言う感じであった。

 

「鞠莉!」

 

「──っ!?ライダー、プランBで!」

 

「まかせな!」

 

ライダーの呼びかけで気を取り直した鞠莉が指示を出すと、ランサーと対峙したままじりじりとにじり寄るライダー。不信に思ったランサーだったが、突如、ライダーが鞠莉の方へと跳ぶと、その背後にあった大砲がランサーに向けて撃ち込まれる。

 

「その程度で──!?ダイヤ!」

 

身をよじって避けるランサーだったが、躱した砲弾の行先に気づくとその先にいるダイヤへと叫びながら跳ぶ。その間にビルから飛び降りていた鞠莉をキャッチしながら降りるライダーは声に気づいて視線を砲弾に向けると、自らの失策に気づく。

 

「あっ、ヤベッ」

 

「ちょっ、ライダー!?」

 

「──え?」

 

遅れて意図を察するダイヤだが、砲弾は既に目の前、避けられるはずもなくランサーも間に合いそうにはない。着弾、普通の人間であればひとたまりもない爆発が起こり、ビルの屋上が煙に包まれる。

 

「ダイヤ!!」 

 

隣のビルに降り立ち動転するランサーと押し黙る鞠莉とライダー。しかし、突如、屋上の煙が切り払われ黒い竜の紋章が描かれた旗が立つ。そして、そこには旗を持ち漆黒の鎧を身に纏った銀髪の少女と隣に立つ活発そうな少年──松平広樹と無傷のまま女の子座りになっているダイヤの姿があった。

 

「立てますか?」

 

「は、はい──って、広樹君?どうして、ここに?」

 

「会長?えっと、これは、その……」

 

ダイヤの手を引いて立たせた広樹だが、ダイヤの質問にしどろもどろになる。が、そんな広樹の姿を見て面白くなさそうな表情の女は広樹を自分の方に引き寄せる。

 

「サーヴァントを連れてるなら、考えられることは一つじゃないですか?そんなこともわからないから、そんな無様な姿を晒すんですよ」

 

「なっ!?──な、何ですのあなたは!」

 

煽るような態度の女に助けてもらったことも忘れて詰め寄るダイヤ。その姿に女は冷笑を深めて高らかに宣言する。

 

「私はコイツのサーヴァント、アヴェンジャー!この旗を、この炎を恐れぬのならかかって来なさい!」

 

「ちょっ、ジ……アヴェンジャー、ケンカ腰はマズいって!」

 

「アヴェンジャー……?そんなクラス、聞いたことありませんわ……!?」

 

アヴェンジャーの宣言に慌てる広樹に対してどこか満足そうな表情のアヴェンジャーと彼らを観察する二組のマスターたち。

 

「アヴェンジャー……ヒロがマスター?」

 

「へぇ、随分な物言いじゃないか?どうする、大将?……大将?」

 

「──ええ、撤退よ、ライダー。それじゃ、ダイヤ、ヒロ、チャオ」

 

下から見上げる形の鞠莉とライダーだったが、何事かを考えていてライダーの二度目の呼びかけで反応した鞠莉は状況の不利を悟り、ライダーに抱きかかえられて撤退する。

 

「……鞠莉さん」

 

「ええっと、ところで会長、その、とりあえず、事情を伺ってもいいですか?」

 

広樹の言葉に一瞬、戦闘態勢を取りかけるダイヤだったが、既にやる気のなさそうな表情でファーの付いた黒いコートと黒いワンピースに着替えたアヴェンジャーの姿に気勢を削がれる。

 

「……わかりました。では、まずは監督役に挨拶に行きましょう」

 

話は道すがらいたします、と締めたダイヤは跳んで来たランサーを霊体化させてドアを開けるとワタワタと進む広樹とため息を吐きながら着いて行くアヴェンジャーを連れて監督役の所へと向かうのだった。

 


 

ビル街から離れた広樹たちは監督役のいる場所への道のりを歩いていた。本来ならば、態々歩かずともサーヴァントに運んで貰えばいいのだが、今回は監督役の所もあまり遠くないことから、徒歩での移動となっていた。

 

「……つまり、このサーヴァントの力を借りて願いを叶える聖杯を手に入れるために戦う、それが聖杯戦争、ってことですか」

 

「ええ、概ねそれで合っていますわ」

 

「まぁ、それぐらいなら私にも説明できますけど」

 

聖杯戦争についてのおおよその説明を受けた広樹の言葉に正しく理解していたことで笑顔になるダイヤだったが、その後ろでつまらなそうな表情のアヴェンジャーの一言に振り返って睨みつける。

 

「なら、あなたが説明すればよろしいんじゃないですの?!」

 

「私は実物を見せてからちゃんと説明しようとしたんですが、どこかの魔術師様が勝手に話を進めるもので」

 

困ったものです、と当てつけのように二人を見ながら言うアヴェンジャーにダイヤの表情も険しくなる。その様子を苦笑いで眺める広樹は内心でため息を吐いていたが、不意にダイヤが立ち止まる。

 

「コホン……着きましたわ、ここが、監督役のいる場所──浦の星学院の礼拝堂ですわ」

 

「学校にそんな役割があったなんて……」

 

そのまま進もうとした広樹とアヴェンジャーだったが、前にいたダイヤに手で制止される。

 

「どうしたんですか?」

 

「ここからはサーヴァントは入れませんの。ランサー、ここで待っていていただけますか?」

 

「承知した」

 

急に実体化したランサーは返事をするとその場で佇む。その姿に驚く広樹だったが、悪いけど、待っててもらえるか?、と告げられたアヴェンジャーは不承不承と言った感じで頷く。

 

「では、行きますわよ」

 

ダイヤの言葉に頷いた広樹が先導されて礼拝堂に入ると、灯りの点いた燭台と会衆席の並ぶ通路が祭壇まで伸びている。そして、その先には修道服を着た青い髪の長いポニーテールの少女──松浦果南(まつうらかなん)の姿があった。

 

「いらっしゃい、ダイヤ、広樹。こんな夜更けに何の用、ってなんとなくわかるけどね」

 

「果南さん……久しぶりですわね」

 

「果南さんが、監督役?」

 

穏やかな笑顔を浮かべる果南に対して、ダイヤはどこか辛そうな表情を浮かべ、広樹は見知った人物が監督役と言うことに驚いていた。

 

「うん、そう。そして、あなたたち二人で七騎のサーヴァントが全て揃った。よって──」

 

なんてことないかのように答えた果南は一度、言葉を切って息を吸うと、二人を交互に見る。

 

「──ここに、第五次聖杯戦争の開幕を宣言する。堅苦しくてゴメンね、一応、言う決まりになってるんだ」

 

厳粛に、だが、どこか優しさを感じさせる声で宣言する果南。その宣言を聞いてしみじみと実感する広樹は押し黙ったまま表情を曇らせているダイヤに気づいていなかった。

 

「……では、果南さん、(わたくし)は外で待たせていただきますので、広樹君に令呪の説明をお願いいたしますわ」

 

「……うん、わかった。それじゃ、またね」

 

逃げるように外へ出るダイヤに驚く広樹だが、静かに見送った果南は小さくため息を吐く。

 

「……ちょっとはゆっくりしてけばいいのに……さて、広樹は聖杯戦争についてはどこまで聞いたの?」

 

「ええと、大体は」

 

「そっか。それで、広樹は参加するの?今なら、その令呪を捨てて元の生活に戻ることもできるよ」

 

どうする?、とまっすぐ広樹の目を見て問いかける果南。だが、広樹はまっすぐその目を見返す。

 

「俺は、戦います。俺の選択が正しいのかわからないけど、会ったばかりの俺に願いを託してくれるアヴェンジャーのためにも、今日助けることが出来たダイヤさんのためにも、誰も死なせずにこの戦いを終わらせたいと思います!」

 

力強いがどこか致命的な危うさを抱えた広樹の宣言に果南は感心と呆れの混ざったため息を吐く。

 

「わかった。そこまで言うなら止めないよ。けど、気を付けて。あなたが二人のことを考えているように広樹の心配をしている人もいるんだから、ね?」

 

果南の心からの忠告に、はい、ありがとうございます、としっかりと頷く広樹。その様子に満足したのか、それじゃ、令呪の説明をしようか、と始まった果南の説明に広樹も気合を入れなおす。

 

「令呪、って言うのはその、手の甲にある紋章のことでね──」

 

一度言葉を切った果南が広樹の左手を指さすとそこには横向きに口を開けた竜のように見える赤い紋章が鈍く輝いていた。

 

「これ、ですか?」

 

「うん、基本的に令呪は聖杯戦争の参加者に与えられるサーヴァントに対する絶対の命令権のことで、それ自体が膨大な魔力を秘めた魔術の結晶なんだ」

 

「絶対の命令権、ってそんなのほいほい渡していいんですか?」

 

「そう、だから、その令呪には三回の使用制限がある。一度の使用で一画ずつ消えていって、三画目が消えるとサーヴァントとの信頼がない限り敗北となる」

 

「あの、信頼がない限り、と言うのは?」

 

広樹の令呪を指さしながら令呪の説明をする果南だが、画数の説明で疑問を口にした広樹に、うーん、と少し考えてから向き直る。

 

「そうだなぁ……例えば、広樹は自分に強制的に命令する相手がいたらどう思う?」

 

「ええと、そりゃ、何だコイツ、とか、ムカつくと思いますね」

 

「まぁ、そうだろうね。それじゃあ、その相手が急に命令できなくなったらどう?」

 

「それは、仕返しをすると……ああ、サーヴァントによっては下剋上(げこくじょう)される、ってことですね!」

 

正解、と笑顔を浮かべる果南に納得したように頷く広樹。それじゃ、次は応用編だね、と果南が説明を続ける。

 

「実は、令呪にはもう一つの使い方があるんだけど、それが何だかわかる?」

 

「うーん、確か、令呪はすごい魔力の塊なんですよね?もしかして、それが関係していたりするんですか?」

 

「あれ?まぁ、その通りなんだけど……勘がいいのかな?……ともかく、令呪にはその魔力を使ってサーヴァントの行動を補助することも出来るんだ」

 

ほぼ正解と言える広樹の回答に小さな違和感を覚える果南だったが、それを流して説明を続ける。

 

「例えば、物理的な距離を無視して移動したり、能力を底上げしたり、まぁ、色々な使い道があるんだけど」

 

要はマスター次第、ってことだね、と解説を締める果南に、ありがとうございました、と礼をする広樹。

 

「気にしないでいいよ。これも監督役の仕事だから……さて、あんまりダイヤを待たせるのも悪いから、今日はここまで。他に聞きたいことがあったらまた来てね」

 

「わかりました。それじゃ、また明日」

 

また明日、と返す果南を背にして外へ出た広樹は少し離れた所で互いに背を向けてそっぽを向いているダイヤとアヴェンジャーとそれを見守っているランサーの姿があった。

 

「説明終わったんですけど……これ、何事ですか?」

 

「別に、アヴェンジャーと気が合わないだけですわ」

 

「ええ、そこだけは私も同感です」

 

「この通りだ。マスターとアヴェンジャーでは話にならんのでな。ヒロキ、あとは任せた」

 

ざっくりと明らかに足りない説明を残して姿を隠したランサーとその言葉に剣呑な空気に包まれる二人に広樹は頭を抱える。

 

「それで、広樹君は聖杯戦争に参加するんですの?」

 

まっすぐと広樹の目を見て問いかけるダイヤ、その姿は先ほどの果南に重なって見えた。

 

「俺は、聖杯戦争に参加します」

 

ダイヤの目をまっすぐに見返しながら答える広樹にダイヤは一瞬、悲しそうに目を伏せる。

 

「そう、ですか……では、明日からは──」

 

「ちょっと待ってください!」

 

「は、はい?何でしょうか?」

 

決別しようと言葉を紡いでいたダイヤは突然の広樹の大声に割り込まれて反射的に返事を返す。

 

「あの、俺、誰も死なないで聖杯戦争を終わらせたいんです。そのために協力して貰えませんか?」

 

「ハァ!?アンタ、何言ってんの!?」

 

「そ、そうですわ!聖杯戦争で死人を出さない、なんてそんなこと……」

 

突然の広樹の提案に驚愕するアヴェンジャーとダイヤ。だが、ダイヤは否定しつつもどこか断り切れていない雰囲気を漂わせていた。

 

「一人では無理かもしれません、でも、二人なら、出来るかもしれない……だから、お願いします!」

 

深く頭を下げる広樹の心からの言葉に困惑するダイヤだが、直ぐに否定の言葉が出て来ない時点で答えは決まっているようなものであった。

 

「ダイヤ、オレは戦力は多い方がいいと思う」

 

「!?ランサー……そう、ですわね。ええ、確かに、一度に相手にする敵は少ない方がいいに決まっていますからね」

 

突如、実体化したランサーの言葉に背中を押されたダイヤは静かに頷く。

 

「わかりました、広樹君の提案、お受けいたしますわ」

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!アンタもそれでいいの!?何のための聖杯戦争なのよ!」

 

これじゃ、アイツとの時間が……と何事かをごにょごよと文句を言うアヴェンジャーに対して広樹は頭を掻く。

 

「まいったなぁ……なぁ、アヴェンジャー、()()()()共闘してくれよ──っ!?」

 

広樹の言葉に反応して左手の令呪が輝くと紋章の一画が消え、アヴェンジャーが片手で頭を押さえる。

 

「っ!?──この、なんでこんなことに令呪つかってんのよ!?あー、もう、わかったわよ、認めればいいんでしょ、みーとーめーまーすぅ!これで満足ですか、マスター様?!」

 

よほど堪えたのか投げやりになってへりくだるアヴェンジャーに、いや、本当にスマン、と平謝りするしかない広樹。そんな二人の姿にダイヤは呆れつつも笑顔を浮かべる。

 

「これでは先が思いやられますわね……そういえば、広樹君はこんな時間に出歩いていて親御さんは心配なさらないのですか?」

 

「あー、実は、昨日から両親が7泊8日のハワイ旅行に行ってて誰も居ないんですよね」

 

だから、大丈夫です、と返す広樹は、うぅ、二人きりの素敵イベントが、と呻くアヴェンジャーを置いて、それがどうかしたんですか?、と話を進める。

 

「いえ、共闘するなら安全性を考えてよろしければ(わたくし)の家に泊まってはどうかと思いまして……」

 

いかがですか?、と問いかけるダイヤに顔を見合わせる広樹とアヴェンジャーだったが、同時に、是非!、と賛成する二人の勢いにダイヤは若干引き気味になる。

 

「そ、そうですか……では、車を手配いたしますわ」

 

「それじゃ、よろしくお願いします!」

 

「……サーヴァントに部屋はいらないから実質同棲──よしっ……さぁ、行きましょう。あまり遅くなると他のサーヴァントに遭遇する可能性もありますからね。ええ、他意はありませんよ?」

 

「……オレはこのことを告げるべきか──いや、これは彼らの問題か……ダイヤ、オレに掴まれ。その方が早い」

 

車を呼ぼうとするダイヤだったが、三者三様の心境からの話し合いの結果、アヴェンジャーがダイヤをランサーが広樹を抱えて黒澤家へと向かうのだった。

 


 

「会長、お待たせしました!」

 

「広樹君、ブッブー!ですわ!」

 

授業が終わって生徒会室に駆け込んだ広樹は入って早々に体の前に手でバツ印を作ったダイヤに怒られると、動揺しつつも自分の行動を振り返る。

 

「えっと、急いできたんですけど、何か怒られるようなことしましたか?」

 

「廊下を走ってはいけません!そんなの常識ですわよ?」

 

「……あ、はい、すみませんでした」

 

至極当然の指摘に素直に謝る広樹の姿に満足そうに頷くダイヤは、さて、と空気を切り替える。

 

「今朝、監督役からサーヴァントによる殺人事件──魂喰いの情報が入りましたの」

 

これを、とダイヤが二つのファイルを差し出すとそれを受け取った広樹はパラパラと資料をめくると心臓を抉り取られた遺体の写真に顔をしかめる。

 

「……あの、魂喰い、って何ですか?」

 

「そうですわね……魂喰いとは生き物の魔力や命をサーヴァントに吸収させる行為のことですわ」

 

「つまり、この被害者たちは……」

 

「ええ、おそらく他のマスターに殺された、と思われます」

 

悔しそうな表情のダイヤの言葉に広樹は犯人への怒りを滲ませる。が、側に霊体化して控えていたアヴェンジャーは急に実体化してひょい、と資料を取り上げる。

 

「おい、アヴェンジャー勝手に──」

 

「これ、アサシンの仕業じゃないですか?」

 

資料を取り返そうとする広樹を押しのけてアヴェンジャーが指し示したのは遺体の写真、その切り口の所であった。

 

「ええ、その切り口の鋭さからするとキャスターよりはアサシンの方が可能性は高いと思いますわ」

 

「──そうだ、そしてバーサーカーであるならこの程度では済まない。となれば、自ずと答えは出るはずだ」

 

「まぁ、セイバーみたいな騎士道とか言ってるお上品な連中に魂喰いは出来ませんからね」

 

「じゃあ、敵はアサシン……!」

 

全員の推理をまとめた広樹は敵をアサシンと仮定するが、そこで一つの問題が浮上する。

 

「それで、どうやってコイツを倒すんですか?」

 

「それは……」

 

「それは……?」

 

広樹の質問に対しての回答に全員の視線がダイヤに注がれる。

 


 

「夜回り、ですわ!!」

 

そう、何と言うことは無い。単純に街を見回って現場を押さえる。それだけのことを言うために一人と二騎は黒澤家の門前に並ばされていた。

 

「えーっと、それで、どうやって探すんですか?」

 

「決まってますわ。これを使いますの」

 

これ、と言って差し出したのは一か所に矢印の付いた丸形のトパーズのブローチだった。まじまじと見つめ、これ、ですか?、と聞く広樹に用途はさっぱりわからないようだった。

 

「これは(わたくし)が探し物をする時に使う魔術具ですわ。こう、魔力を籠めると──」

 

と言って掌に乗せたブローチに魔力を籠めると、ひとりでに浮き上がったブローチが一方向を指し示した。

 

「おそらく、この方角にアサシンかその手掛かりがあるはずですわ」

 

「すごい……流石、ダイヤさん!」

 

ふふん、と誇らしげに胸を張るダイヤだったが、アヴェンジャーの冷たい視線に態度を取り繕う。

 

「コホン……ともかく、起こるとしたら今日か明日。ぐずぐずしている暇はありませんわ!」

 

ランサー、運転をお願いいたします!、と意気込んだダイヤは用意させた車のカギを黒のスーツに着替えていたランサーに渡す。

 

「承知した……全員乗ったな」

 

「それでは、行きますわよ!」

 

四人を乗せた車はダイヤの号令で走り出すと山の方へと向かって行き、やがて峠道へと入りしばらく走ったところでアヴェンジャーが顔を上げる。

 

「ランサー!」

 

「──ああ、承知している」

 

「?一体──」

 

何が、と広樹が言いかけたところで車が急ブレーキして言葉が途切れる。

 

「っ!?──何ですの!?」

 

「敵だ。アヴェンジャー、ダイヤを頼む」

 

突然の状況に驚くダイヤと広樹。敵に気づいたランサーとアヴェンジャーが車外へと出ると、上空からヘリの音が響き、鞠莉を抱えたライダーが降り立つ。

 

「ハァーイ!ダイヤ、ヒロ、二人でデートなんて大胆ね」

 

揶揄(からか)うような口ぶりの鞠莉に、デートって、と困惑する広樹と黙って睨みつけるダイヤ。

 

「さぁて、昨日の続きを始めようか!」

 

「ランサー、本当に一人でやる気ですか?」

 

「──無論だ。お前たちを巻き込むわけにはいかんのでな」

 

横に動いて森へと下がる鞠莉と一歩前に出たライダーに対してどこかズレたようなやり取りをしつつ、応じるように前に出るランサー。睨み合う両者、そして、ライダーの背後の空間から数門の大砲が現れる。

 

「さぁ、勝つも負けるも、派手に使い切ろうじゃないか!」

 

「いいだろう、行くぞ」

 

次々と放たれる砲弾を切り払いながら突撃するランサーとその後ろで抜けてきた砲弾を払うアヴェンジャー。その動きを見越したライダーは両手の拳銃を連射しつつ後退すると距離を開けて戦う。

 

「まだまだ、たんまり喰らいな!」

 

「ランサー!?」

 

銃撃とともに周囲に展開された大砲から放たれる砲弾。だが、その威力は昨日の比ではなく、切り払いつつ避けるランサーの顔に僅かな焦りが浮かぶ。

 

「ウチのマスターは払いが良くてね!おかげで景気よくぶっ放せるってもんさ!」

 

「ぐっ……」

 

宣言通りに連射を続けるライダーと思うように身動きが取れず、次第に押されているように見えるランサー。全員の視線が両者に注がれる中、一瞬、見守るダイヤたちの横にある木陰が揺れる。

 

「っ!?──マスター、ダイヤを!」

 

「え?──」

 

剣を構えて飛び出るアヴェンジャー、その前には刀で切りかかる黒い軍服の男の姿があった。激突によって周囲に剣圧の衝撃が走る。

 

「せりゃ!」

 

「チッ──このっ!」

 

踏み込もうとする男を無理やり弾き飛ばしたアヴェンジャーは剣を握りなおすと真っ直ぐに男の方を見る。遅れて衝撃から立ち直った広樹もつられてそちらを見ると森から暗い青紫色のサイドテールの少女──鹿角聖良(かづのせいら)が現れる。

 

「よく避けましたね、ですが、バーサーカーの前には無力です」

 

「ナイスよ聖良!」

 

「もう一組!?ダイヤさんはランサーを!──アヴェンジャー、行けそうか?」

 

「勿論、と言いたいところですけど……少々、手こずりそうね」

 

(どうする、()()を使うか……?)

 

聖良に目を向けつつ注意の逸れそうなダイヤに声をかけた広樹は苦々し気なアヴェンジャーの言葉に内心で切り札の使用を考えるほどに焦っていた。そして、同じく追い詰められたダイヤは切り札を切る。

 

「鞠莉さん!聞いてください!これ以上、聖杯戦争を続けるとルビィが死んでしまいますわ!!」

 

「な、何だって!?」

 

「ライダー、聖良、ウェイト!……どう言うことかしら?」

 

突然のダイヤの言葉に驚く広樹と一旦、攻撃を止めて問いかける鞠莉と渋々バーサーカーを制止する聖良。そして、一時的に戦闘は止まった。

 

「ルビィはサーヴァントの魂を集めて聖杯になる、聖杯の器なんですの。戦いが進めばルビィは、死ぬ……だから、私はこの戦いに勝って、ルビィの生存を──」

 

「ええ、知ってるわ」

 

「──え?今、何と……」

 

「私はルビィのこと知っている、って言ったの」

 

ダイヤの心からの訴えを聞いた鞠莉はなんてことないかのように言い放つ。鞠莉の表情は何時もと変わらず、余裕のある微笑を浮かべていた。

 

「そん、な……それなら、鞠莉さんもルビィの──」

 

「いえ、私の願いは第三魔法の実現、それだけよ──可愛そうだけど、ルビィには犠牲になってもらうしかないわね」

 

「っ……そう、ですか」

 

親友の妹を犠牲にする、そんな宣言を他人事のように語る鞠莉にダイヤの絶望は計り知れない。打ちひしがれるダイヤだったが、一つの決意とともに顔を上げる。

 

「鞠莉さん、いいえ、鞠莉!私はルビィのために全力であなたを倒しますわ!!」

 

力強く、しかし、泣きそうな声で宣言するダイヤの言葉を鼻で笑う鞠莉は敵を睨みつけるようなダイヤの視線にも動じていなかった。

 

「あら、これまで手加減しててくれたのかしら?でも残念、あなたのサーヴァントはそうでもないみたいだけど?」

 

「令呪を以て命ずる、ランサー──()()()()()()()()!!」

 

先程の攻防を思い出してあざ笑うような態度の鞠莉に対して右手の令呪を輝かせたダイヤがランサーに命じる。そして。

 

「承知した。我が身を呪え……『梵天よ、我を呪え(ブラフマスートラ・クンダーラ)』!!」

 

「っ!?──ライダー!!」

 

太陽のような圧倒的な輝きを放つランサーによって上空へと投げられる槍、その圧力を危険視した鞠莉は令呪を使ってライダーへと指示を出す。

 

「ここが命の張りどころってね!アタシの名前を覚えて逝きな!テメロッソ・エル・ドラゴ!太陽を落とした女、ってな!」

 

ライダー──フランシス・ドレイクの宝具──『黄金鹿と嵐の夜(ゴールデン・ワイルドハント)』の発動により、無数の船団がドレイクの背後に現れる。

 

「ワイルドハントの始まりだ!!」

 

一斉に突撃する亡霊の火船とそれを援護する大量の砲撃、サーヴァントとて当たればひとたまりもない宝具による攻撃。しかし、対するランサーは動じない。

 

「武器など前座。真の英雄は眼で殺す」

 

端的に宣言するランサーの右目が大きく見開かれるとその眼力(がんりき)──『梵天よ、地を覆え(ブラフマスートラ)』がビームのように放たれる。そして、その直線状にあった火船は爆発し、砲弾も撃ち落とされる。

 

「チッ、大将!令呪を──」

 

「頭上注意だ、悪く思え」

 

ドレイクの言葉が終わるより早く、先程投擲(とうてき)した槍によって上空からドレイクの場所へと太陽のような劫火(ごうか)──『梵天よ、我を呪え(ブラフマスートラ・クンダーラ)』が降り注ぎ背後の船団すら飲み込む。そして、劫火が収まると、そこには融けて抉れた地面が残されているだけだった。

 

「ライ、ダー?そんな、嘘でしょ?」

 

「バーサーカー!令呪を以て命ずる、私と鞠莉を連れて撤収!」

 

全員が呆然とする中、いち早く気を取り直した聖良の命令でバーサーカーは聖良と鞠莉を抱えると、山の中へと消えていった。そして、あとに残されたのは輝きの収まったランサーと疲労困憊のダイヤに困惑する広樹とアヴェンジャーだった。

 

「ハァッ、ハァッ、ハァッ……」

 

「ダイヤさん、大丈夫ですか!?」

 

「え、ええ。ハァッ、少し魔力を、ハァッ、使いすぎただけ、ですわ」

 

「──オレの全力にはまだ遠いが、ご苦労だったマスター」

 

倒れそうになるダイヤを支えるランサーと気遣う広樹。ひとまずの勝利を得た彼らだったが、この戦いがダイヤに齎した心の傷と広樹に与えた影響は大きなものだった。

 


 

昼休み、ほとんどの学生にとって昼食と長めの休息を取れるこの時間は正に至福の時間であったが、そんな時間でも同盟を組むダイヤと広樹にとっては数少ない作戦会議の時間でもあった。

 

「それで、ダイヤさん、体の方は大丈夫なんですか?」

 

「またその話ですの?(わたくし)の魔力も回復いたしましたから、問題ありませんわ」

 

昼食を終えて生徒会室に集まった二人は今朝も同じようなやり取りをしながら、黒澤家からもらった資料──現場写真を確認していた。

 

「それで、結局、昨日は魂喰いの活動はなかったんですよね?」

 

「ええ、ただ、謎のサーヴァント同士の戦いがあったようで……」

 

「ハァ?謎のサーヴァントってどう言うことよ?」

 

「おまっ、また勝手に──まぁ、いいや」

 

自分のサーヴァントの行動に頭を抱える広樹だったが、昨日の意見のこともあり、ひとまず黙認する。

 

「これは……何と言うか、バーサーカー並みの火力ですね。でも、バーサーカーとは戦ったから……」

 

お手上げですね、と開き直るアヴェンジャー。どうやら、彼女の知識でも今回はどうにもならないようだ。

 

「おいおい……にしても、なんだこの跡は?ハンマー、とかかなぁ?」

 

「そうですわね……この凹み具合からして拳、いえ、もしかしたらキャスターの使い魔や魔術の可能性もありますわ」

 

「それこそ、アーチャーの武器の一つ、と言う可能性も考えると……キリがないですね」

 

三者三様に意見を出しつつ悩んでいたが、突如、窓を割って室内に入って来た何かを実体化したランサーが掴み取った。

 

「っ!?──襲撃!?」

 

「いや、どうやらこれだけのようだ」

 

襲撃を警戒する広樹とダイヤだったが、手に持った矢に手紙が付けられていることを確認したランサーは手紙を差し出す。

 

「これは──一時休戦の申し入れ、ですわね」

 


 

放課後、チャイムが鳴り生徒たちが下校する中、ダイヤとの待ち合わせ場所である屋上への扉の前に向かう広樹は昨日の指摘を思い出してわざわざ少し手前から早歩きになる。

 

「ダイヤさん、お待たせしました」

 

「いえ、(わたくし)も今来たところです」

 

合流した二人はアーチャーのマスターを名乗る人物からの手紙で行われることになった会談の場所として指定された校舎の屋上への扉をくぐる。

 

「うわ、っと、風強いですね」

 

「ええ、ここは海からの風が来ますからね……ですが、アーチャーのマスターはまだ来ていないようですわね」

 

「いーや、ここにいますぜ」

 

「「!?」」

 

「チッ、やっぱり罠なの?」

 

何も無いはずの空間に軽そうな男の声が響く。辺りを見渡す二人と実体化した二騎のサーヴァントだが、何処にも姿は見当たらない。

 

「こ、ここです!」

 

少女の声とともに何かが正面に着地するような音がすると、空間ににじみ出るように緑の衣装とマントを纏った男──アーチャーと、それに守られるように立つ茶色でふわっとしたロングヘアーの少女──国木田花丸(くにきだはなまる)の姿が現れた。

 

「!?あなたがアーチャーのマスターですわね?」

 

「は、はい!その、オラ、じゃなくて、私は、国木田花丸、と言う者で……」

 

つっかえながら話始めようとする花丸だったが、これを遮るようにアーチャーが前に出る。

 

「いやー、すんませんね。うちのマスターは標準語で話すのが苦手なモンで」

 

後はオレに任せといてください、と話を引き継ぐアーチャーに、お、お願いするずら、と花丸は申し訳なさそうな顔になる。

 

「つーわけで、うちのマスターは戦いも嫌いな性分でして、手紙に書いた通り、出来ればこの戦いを平和的に終わらせたいんですよ」

 

「つまり、そのために一時休戦、いえ、無条件降伏をしろ、と言うことですの?」

 

「いや、オタク話聞いてました?むしろ、こっちが協力するんで、マスターを狙わない健全な戦いってやつをですね……」

 

「そうですか。では、花丸さん、あなたの願いはどうなりますの?」

 

アーチャーの物言いに納得していない様子のダイヤは花丸の方に目を向けながら問いかける。

 

「その、オラは……ただ、みんなと平和に生きていきたい。だから、願いも、聖杯もオラには必要ないずら」

 

「なら、あなたが戦う必要はないではありませんか」

 

精一杯の言葉で自分の心を語る花丸に対してダイヤは切り捨てるような言葉を投げかける。

 

「……確かに、オラが戦う必要はないずら。でも、この力で誰かを守れるなら、オラは戦う。そのためにここにいるずら!」

 

ダイヤの目を見つつ本心からの言葉を返す花丸。その視線と答えを受けてダイヤは小さくほほ笑んだ。

 

「わかりました。(わたくし)は、休戦協定を結んでもよいと思っていますわ。ランサーと広樹君はどうですの?」

 

「お前が命ずるなら、オレはそうするだけだ」

 

「……俺も花丸は信用してもいいと思います。アヴェンジャーもいいか?」

 

「どうせ拒否したら、()()令呪を使うんでしょ?だったら選択肢なんてないじゃないの」

 

「だ、そうですよ……やりましたね、マスター?」

 

「やったずら!これで、善子ちゃんも守れるずら!……ありがとう、アーチャー」

 

四人の同意を得られた事で三組の同盟が成立する。この事実に喜色満面になる花丸とアーチャー。沈み行く夕日に照らされるその姿はどこか兄妹のようにも見えた。

 

「さて、それでは、一度、(わたくし)の屋敷に──」

 

「ダイヤさん、何か、変じゃないですか?」

 

話をまとめるため黒澤家に戻ろうとするダイヤだったが、広樹の言葉で周囲に霧が立ち込め始めていることに気づく。そして、その時にはサーヴァントたちは周囲を見回していた。

 

「これは……何かしらの魔術、のように見えますわね」

 

「でも、何だか息苦しい感じが……」

 

「ゲホッ、ゴホッ、これ、喉が……」

 

「──毒だ!オタクら、耐性はあるか!?」

 

「──オレが霧を払う。伏せていろ」

 

毒、と言うアーチャーの言葉に、一瞬、全員に緊張が走るが、伏せたことを確認したランサーの魔力放出により一時的に霧が晴れる。しかし、その一瞬が命取りであった。

 

「こっちだよ!」

 

「──え?」

 

何処からともなく響く幼い少女の声と続いて聞こえる花丸の気の抜けた声。その声に反応してダイヤと広樹が花丸を見ると、そこには胸を切り裂かれた花丸の姿と抉り出した心臓を持つぼろきれを纏った幼い少女の姿だった。

 

「花丸……!?お前、何者──いや、アサシンか!?」

 

「正解!でも、()()()は貰ったから、もう帰るね」

 

「待て!」

 

屋上から身を投げるアサシンとそれを追おうとする広樹とアヴェンジャーだったが、その下に見えた人影に広樹の動きが止まる。

 

「ちょっ、マスター、アイツって……」

 

「そんな……梨子?」

 

下にいた人影──梨子は落ちて来たアサシンを抱きとめるとチラリ、と広樹を見てほほ笑んでからどこかへ走り去っていった。

 

「嘘だろ……?梨子が、魂喰いのマスター?」

 

「ヒロキ……」

 

「ランサー、追ってください!」

 

「命令とあれば」

 

ダイヤの命令で追跡に向かうランサーと愕然とする広樹にどうすることもできないアヴェンジャーだったが、その後ろで勢いよく扉が開く。そこから現れたのはダークブルーの姫カットの少女──津島善子(つしまよしこ)と和服にブーツの少女だった。

 

「一体何が……花丸!?──まさか、アンタたち騙し打ちを!?」

 

「ちが、俺たちは──」

 

「セイバー!!」

 

「承知!」

 

「っ!?──ぐあっ!」

 

激昂する善子の言葉に一瞬で広樹との間合いを詰めるセイバー。物理法則を無視したような移動により、懐に入られた広樹は動揺しつつも何処からか取り出した直剣──聖カトリーヌの剣で初撃を逸らすが、左腕を負傷する。

 

「ウソ!?この人ホントに人間ですか!?」

 

「うる、せぇっ!」

 

何の技術もない剣を振り回すだけの広樹の攻撃だが、その人間離れした膂力(りょりょく)にセイバーは距離を取る。そして、開けられたスペースにアヴェンジャーが入り込む。

 

「くそっ、まさかここで()を抜かされるとは……」

 

「マスター!?──コイツ、絶対に(もや)す……!」

 

「マスター、これ、ヤバいかもしれないですよ!?」

 

「くっ!?──どうすれば……」

 

奇襲から一転して優位に立つ広樹とアヴェンジャーだったが、その近くでは倒れて血を吐く花丸をアーチャーが抱き留めていた。

 

「おい、マスター、しっかりしろよ!?クソッ、おい、オタク治癒魔術とかないのかよ!?」

 

「一応、ありますわ。でも、この傷では……」

 

沈痛な面持ちのダイヤは無力さに歯噛みしていた。そして、同じように無力感に苛まれるアーチャーは必死で花丸に呼びかけていた。

 

「クソッ、マスター、アンタはこんな所で死んじゃいけないんだ!──マスター!?」

 

「アー、チャー……」

 

薄っすらと目を開ける花丸だが、その目はすでにほとんど見えていないようだった。

 

「!?ああ、オレはここにいますぜ!だから!──」

 

「れい、じゅを、もって……ゴホッ、命ず」

 

「おい、しゃべんなよ!」

 

「みんな、を、たす、けて……!」

 

瀕死の花丸の切なる願い。その言葉を受けて輝いた令呪が三画とも消えると花丸を抱えたアーチャーは静かに顔を上げる。

 

「……了解した。すまねぇな、マスター。オレじゃあアンタを守り切れなかった。……けど──」

 

「アーチャー?何を……」

 

「──まだ足掻くぜ……。オレは国木田花丸のサーヴァントだからな!」

 

花丸の遺体を抱えたままのアーチャーは右手の弓で広樹に威嚇射撃をしながら善子の元へと一気に走る。

 

「お、っとぉ!?」

 

「セイバー、こっちだ!!」

 

「!?マスター!」

 

一瞬の交錯。縮地で善子を抱えたセイバーが走り抜けるアーチャーの左手を握ると、アーチャーは宝具『顔のない王(ノーフェイス・メイキング)』を発動させるとその姿は誰にも捉えられなくなる。

 

「喰らえ!」

 

アヴェンジャーが旗を振るって正面の空間を業炎で焼き払う。が、姿が見えず、音や気配も捉えられない相手がどうなったのかは確認できなかった。

 

「逃げられたか。ぐうっ……!?」

 

「マスター!?とりあえず、止血を!」

 

一瞬、痛みでよろけた広樹を心配するアヴェンジャーだったが、ハンカチで応急処置をする。そうこうしている間にランサーも戻ってきたようだった。

 

「マスター、今戻った。だが、奴……敵サーヴァントには逃げられた」

 

「逃げられた?あなたが?」

 

困惑するダイヤだったが、どうやらランサーも困惑しているようだった。

 

「どうやら、奴に関する記憶が何もない。おそらく、宝具かスキルによるものだろう」

 

「……確かに、(わたくし)も花丸さんが切られたこと以外は何も覚えていませんわ」

 

「……俺は、覚えてます」

 

どう対策するか悩むダイヤだったが、応急処置を終えた広樹の言葉にランサーとダイヤの視線が向けられる。

 

「どう言うことですの!?」

 

「俺が覚えているのは、マスターが幼馴染の、梨子──桜内梨子だった、ってことです」

 

「なるほど。マスターの情報があるならばサーヴァントの居場所も自ずとわかる、と言うことか」

 

広樹の情報に納得するランサーとダイヤ。だが、広樹の表情は痛み以外で曇っていた。

 

「でも、俺には戦えません……!」

 

「……まさか、幼馴染だから戦えない、と?」

 

「はい、俺は、幼馴染と──梨子と戦うことは出来ません……!」

 

広樹の言葉に怒りを滲ませるダイヤだったが、静かに息を吐くとそのまま校舎内への扉へ向かう。

 

「今日は大人しくしていてください。決着は(わたくし)がつけますわ」

 

静かに、突き放すように宣言したダイヤの去って行く後ろ姿を広樹はただ見ていることしかできなかった。

 


 

夜、二日振りに一人と一騎で外を歩くダイヤはトパーズのブローチを使って目的地へと向かっていた。その途中、人通りの少ない寂れた通りを歩くその足取りは力強く確かなものであったが、その表情にはどこか陰りがあった。

 

「ランサー、(わたくし)は間違っていたのでしょうか?」

 

「──オレは無口な方だと自覚している。そして、一言足りないと言われたこともある。だからこそ言おう。オレはお前のような賢明なマスターの元で戦えて幸せだ、そう思う」

 

「ランサー……!ええ、そうですわね!あなたのような英霊がそう思ってくださるなら、(わたくし)は──っ!?」

 

お互いの信頼を確認したランサーと調子を取り戻したダイヤだったが、突如、上空から聞こえるヘリの音に空を見る。

 

「ハァーイ!ダイヤ、この挨拶も最後になるかもしれないわね」

 

「鞠莉……!」

 

「オーウ、そう怖い顔しないでよ。ちゃんと遊び相手も連れて来てるんだから……()()()()()、聖良!」

 

「だから、俺は不意打ち専門だって言ったでしょうが……ま、今回は通用する相手でもなさそうですがね」

 

「アーチャー、あなたまで……いえ、もはや言葉はいりません!ランサー!」

 

「ああ──承知した」

 

「行きなさい、バーサーカー!」

 

鞠莉と聖良の合図とともにアーチャーとバーサーカーがダイヤたちの目の前に降り立つと数歩下がったダイヤの言葉でランサーが一歩前に出る。睨み合う両者。そして、三度目のダイヤと鞠莉の戦いの火蓋が切って落とされるのだった。

 


 

 

黒澤家に割り当てられた自室で待機していろと言われた広樹は何をするでもなくごろごろしていたが、突如、鳴り響いた轟音と違和感で外に出る。そして、遠くに戦場のようなものが見えていることに気づいた一人と一騎は駆け出していた。

 

「アヴェンジャー、アレって、まさかバーサーカーの宝具か?」

 

「恐らくそうでしょうね。ったく、ホント、あの女、疫病神でも憑いてんじゃないの?」

 

言ってる場合か、と突っ込んだ広樹は自身の()()である聖カトリーヌの剣を取り出す。

 

「えぇ~?あの女のためにそれ使うの?」

 

「仕方ないだろ?……もし、梨子が出てからじゃ確実に間に合わない」

 

「……不本意ですが、そうですね。あの子がやられた瞬間が分かりませんでした。多分、アレは私と相性が良くないと思います。不本意ですが」

 

二回も言わんでも、と呆れる広樹だったが、一度立ち止まって深呼吸をすると聖カトリーヌの剣に魔力を通す。すると、剣から出たオーラが広樹を包み込んだ。

 

「よしっ!行くぞ!どっちも俺が守る!」

 

意気込んだ広樹はサーヴァントにも劣らぬ速さで走り出す。それは、彼の持つ聖カトリーヌの剣の名を持つ概念礼装の効果の一つである、人間に英霊と同等の力を付与する、と言う効果によるものであった。

 

「あと少しだ……って、あれ?」

 

その場に着いた広樹が見た物は融けて抉れた地面と、焼け焦げたビル、そして、ほとんど無傷で立つランサーの姿であった。よく見れば、上空にヘリも見えるが、その中には呆然とする鞠莉と聖良の姿があった。

 

「何よ、終わってるじゃないの」

 

「ダイヤさん!大丈夫……みたいですね」

 

「ああ、広樹君。ええ、何も問題はありませんわ」

 

「そう──なら、次は私と戦ってもらおうかしら!」

 

「「「!?」」」

 

二組が声の方に視線を向けると、そこには善子と浅葱色の羽織を着たセイバーが立っており、その姿に近くにいたランサーが一歩前に出る。

 

「なるほどですわね。連戦で疲弊したところを狙う、実に理にかなっています。ですが、そんな小細工は──」

 

一度、言葉を切ったダイヤは改めて一人と一騎を見据える。

 

「──(わたくし)とランサーの前には無力ですわ!!」

 

力強い宣言とともに槍を構えるランサー、一触即発の空気の中、ふわり、とセイバーが進むのにあわせて善子は握った右手を構える。

 

「一歩音越え、二歩無間、三歩絶刀!──」

 

「セイバー!!」

 

「──『無明三段突き(むみょうさんだんづき)』!!」

 

「!?」

 

善子の叫びに令呪が反応して輝くと一瞬その姿が消える。そして、全員がセイバー─―沖田総司を見たのは、奥義『無明三段突き(むみょうさんだんづき)』がランサーの鎧の一部を()()()姿とその後、元の位置まで戻った姿だった。

 

「なっ!?──」

 

そして、驚愕はそこでは終わらない。突如、ランサーの真正面、遠く離れた所から放たれた赤い光のようなものがランサーの鎧の壊れた部分、その下の生身の体に突き刺さり眩いばかりの光が迸った。

 

「カルナ!?」

 

「ぐっ──」

 

そして、光が収まるとそこあったのは打ち砕かれた黄金の鎧と倒れ伏すランサー──カルナの姿だった。駆け寄ったダイヤはカルナを抱き起す。

 

「ここが、限界か……」

 

「カルナ、しっかりしてください!」

 

「ダイヤ、不甲斐ない男で、すまない……」

 

「カル、ナ……いいえ、あなたは……最高の、サーヴァントでした」

 

消えていくカルナの姿に涙を流すダイヤ。こうして施しの英霊カルナは今回の戦いを終えたのだった。

 

「そんな!?カルナと言えば、あの最強クラスの英霊だぞ?」

 

「マスター、どうやら、次は私たちの番みたいですよ?」

 

「!?」

 

アヴェンジャーの声で気を取り直した広樹が前を向くと驚愕した。それは、咳き込む沖田とそれに驚く善子、ではなく、その後ろから現れた燃え盛る髑髏──ゴーストライダーの姿であった。

 

「な、何なんだお前は!?」

 

悠然と前に進み出るゴーストライダー、その異形に圧倒される広樹の問いかけに立ち止まったゴーストライダーは地獄の底から響くような声で答える。

 

「俺か?俺は復讐者(アヴェンジャー)だ……!」

 

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