GHOSTRIDER:Dog Eat Dog   作:雁野 命

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※今回は裏編のため、メイン部分は後半にあります。読み飛ばす方はお手数ですが、†まで読み飛ばしてください。


Dog Eat Dog #07

朝日を受けて輝く沼津の海を望む山の中、ゲートをくぐってやって来た一騎はこの世界に渦巻く魔力と人ならざるモノの気配に顔を顰めていた。

 

(……度し難い悪行だな)

 

「(聖杯を求める、か……何時の時代も愚者の行いは変わらぬな)」

 

(いや、そちらの方がよほどマシだ……奴らの望みは聖杯ですらないからな)

 

反応を探りながら嘆息をもらすゴーストに対して一騎は呆れたように心の内で吐き捨てる。

 

(それで、場所はわかったか?)

 

「(……妙だ、反応が多過ぎて絞れん)」

 

(原因は魔術回路か令呪か……まったく、儘ならんな)

 

「(此の眼で見れば判る。一騎、奴等を探すぞ)」

 

困惑から立ち直って宣言するゴースト。状況に辟易しつつも頷いた一騎はバイクを呼び出すと眼下に広がる街へ向かうのだった。

 


 

沼津の街は中心部こそ夜でも明るい場所はあるが、路地裏や少し離れた場所では月明りや多少の街灯が辺りを照らすだけの場所もあった。そして、その夜の闇の中を一騎はバイクで走っていた。

 

(反応はあるか?)

 

「(幾つか在るが……此の先で罪の気配だ。此れは──刻印、か?)」

 

(どちらでもいい行くぞ!)

 

アクセルを全開にする一騎がバイクごと炎に包まれるとゴーストライダーへと変身する。そして、その勢いのまま車道を曲がってアーケードを抜けると目の前に広がる超常の霧へと突っ込む。

 

(あれは!?)

 

霧に入ったゴーストライダーの眼には困惑するグレーでウェーブの入った髪のボブカットの少女の姿とその背後から今まさに襲いかかろうとしているぼろきれを纏った少女の姿があった。迷わず少女へとバイクをぶつけるとそのままの勢いで通りを二つ越えた突き当りでブレーキをかけ空き地へと少女を吹き飛ばす。

 

「(気を付けろ、奴はサーヴァントだ)」

 

(だろうな)

 

「ひどいなぁ、もう……!」

 

「罪人にかける情けはない、例え童女の姿だろうとな」

 

軽く埃を払って立ち上がる少女を厳しく睨みつけるゴーストライダーはヘルバイクを降りて向かい合う。両者の間に不自然な超常の霧が立ち込めるが、罪を捉え魂を感知するゴーストライダーには視界不良や硫酸の霧など大した意味はなかった。

 

「うーん……あんまり効かないのかなぁ?」

 

「無駄だ、それはお前の手の内を晒したに過ぎん」

 

「ふーん、じゃあ、殺しにかかるよ。行くね」

 

微動だにしないゴーストライダーに対してつまらなさそうな態度の少女──ジャック・ザ・リッパーが一瞬で姿を消す。

 

「来るがいい、罪の権化──ジャック・ザ・リッパーよ」

 

「えいっ!」

 

突如、背後から振るわれる心臓を狙った鋭い一撃。意識の外から放たれる神速の刃はゴーストライダーの背中から心臓を貫く。しかし。

 

「あれっ?──いたっ!」

 

「その刃では俺の心臓には届かん」

 

確かにゴーストライダーの心臓の位置を貫いた一撃だが、それ故に骨と炎で構成されたゴーストライダーは全くの無傷であった。ゴーストライダーはそのまま驚愕するジャックを振り向きざまの裏拳で殴り飛ばすが、ジャックが咄嗟に背後に跳んだためかダメージは薄いようだった。

 

「むぅ~っ……帰っておやつにする……」

 

「!?逃がすか!」

 

自身の不利を悟ったのか即座に撤退するジャックに対して咄嗟にチェーンで捕まえようとするゴーストライダーだったが、そのチェーンは一瞬遅れて空を切る。そして、霧が晴れるとジャックの姿はどこにも見当たらなかった。

 

(追えるか?)

 

「(……無理だな。既に他の反応に掻き消されている)」

 

ゴーストの返答に変身を解いた一騎は、そうか、と短く返すが、妙な違和感に顔を顰める。

 

「(如何したのだ、一騎?)」

 

(ゴースト、俺は今、()と戦った?)

 

記憶がない、少なくとも先程、戦闘があったことは認識している一騎であったが、その相手が何だったのか、全く覚えていなかった。

 

「(成程、情報抹消か……今、記憶を同期させた。此れで良いだろう)」

 

(……そうか、ジャック・ザ・リッパー、厄介な相手だな)

 

復讐の精霊であり、条理の外にあるゴーストには能力が効かなかったのか、残っていた記憶を共有した一騎は脅威の一端を強く感じていた。

 

(記憶は何とかなる、が、あの速さ……策を練る必要があるな)

 

「(然り。だが、朗報だ。刻印の反応を見つけた)」

 

(そうか。なら一度、顔を確認するぞ)

 

考え込む一騎に同意したゴーストから朗報を受けた一騎はもう一度バイクに跨るとゴーストの示す方角へと走り出した。そして、しばらく走った一騎は浦の星学院──の見える場所でバイクを停めて様子を窺っていた。

 

(さて、どうしたものか……)

 

一騎が悩むのも無理はない。ただでさえ、先ほど遭遇した魂喰いを行うジャックへの対策を考えなければならない上に、ようやく見つけた転生者の周囲にも問題があったからである。

 

「(施しの英霊、カルナ……我等との相性は最悪だな)」

 

(太陽の輝きを放つ鎧、そして、竜の魔女……些か骨が折れるな)

 

分析するゴーストの声を聴きながら観察する一騎の目にはダイヤとその傍らに立つカルナ、そして、ジャンヌ・オルタと転生者──松平広樹の姿が映っていた。

 

「(如何やら、同盟を組んだらしいな……小賢しい真似を)」

 

(まったく……儘ならんな)

 

辟易する一騎とゴーストだったが、そんな彼らに気づかず、何事かで盛り上がっている転生者たちがどこかへ去ると静かにその後を追うのだった。

 


 

翌朝、転生者が黒澤家から学校に向かったことを確認した一騎はジャックの反応を探して、沼津の町をバイクで走っていた。

 

(見つからん、か)

 

「(霊体化されてはな。だが、痕跡は掴んでいる)」

 

昼過ぎまで走り回っていくつかの地点を巡った一騎だったが、サーヴァントの痕跡はあってもマスターの正体までは掴めていなかった。

 

「(此処が最後だ)」

 

(『十千万(とちまん)』……ここは、旅館か?)

 

反応のあったいくつかの地点の最後の一つである旅館──十千万その前を通りがかったところで一騎の中に妙な違和感が生まれる。

 

(……見られている?)

 

「(然り。如何やら、旅館の中だ)」

 

周囲に車通りがないことから、一度、Uターンをすると十千万の駐車場に入ってバイクを停めた。そして、一騎がバイクを降りたところで背後の気配に振り向くと白髪で浅黒い肌の従業員らしき青年が歩いて来た。

 

「あの、何か御用ですか?」

 

「下手な芝居はやめて貰おう、ここに何の用だ?」

 

無害な青年を装う一騎だったが、即座に看破する青年。ため息を吐く一騎に向けられたその鋭い視線は心の奥底まで見通すような歴戦の戦士の目をしていた。

 

「話を聞きに来ただけだ。アーチャー、いや、エミヤと呼ぶべきか?」

 

「……貴様ら、何者、いや、()だ……?」

 

「待て、こちらに敵意はない。俺は外狩一騎、守護者──のような者で、この人魂は相棒だ。ただ、話を聞かせてほしい」

 

小さく両手を上げて敵意がないことを説明する一騎に訝し気な視線を向けていたエミヤは肩の力を抜く。

 

「……そうか、いやなに、こちらも好き好んで戦いたい訳ではないのでね。時間があるのなら、少し寄っていくといい」

 

「(良いのか?)」

 

(どうせ手掛かりもない。それに、話が聞けるならそれに越したことは無いだろう)

 

敵意がないことを納得したエミヤは自らの働く十千万の喫茶スペースへと案内する。先導されるままに着いて行った一騎はお茶を淹れに行ったエミヤを喫茶スペースで待っていた。

 

「待たせたな。さて、ウチは旅館なのでね。緑茶だが構わんか?」

 

「ああ、構わない──それで、この街で行われている聖杯戦争について聞きたい。何か知っているか?」

 

緑茶を受け取った一騎の質問を受けたエミヤは、ふむ、と考え込むと一騎の様子を窺ってから、一度ため息を吐く。

 

「悪いが、受肉した今の私はただの板前でね。生憎と気配は感じるが、君の望むような答えは持ち合わせていないな」

 

「受肉……そうか、前回の参加者だったか。なるほど、道理で異質な気配がするはずだ」

 

「では、先程、君は守護者のような者と名乗ったが、一体、この街で何をするつもりだ?」

 

「アヴェンジャーを倒してこの戦いを終わらせる。それだけだ」

 

「なんだと?どう言うことだ?」

 

訝し気な視線を向けるエミヤに対して正面から見返して答える一騎。二人の間に緊迫した空気が流れるが、その内容とは裏腹に周囲からは世間話をしているようにしか見えなかった。

 

「アヴェンジャー、ジャンヌダルク・オルタとそのマスターは危険だ。奴の願いは世界を歪ませる」

 

「ジャンヌダルク・()()()、だと?聖杯は汚染されていないはずだが……」

 

オルタ──反転化した英霊を示す一騎の言葉の真意を見極めるエミヤだったが、その言葉に真剣さを感じたエミヤは一度ため息を吐く。

 

「……それで、私に何をさせたい?」

 

「聞きたいことがある。太陽を落とす方法について心当たりはあるか?」

 

「太陽だと?無いことはないが……何をするつもりだ?」

 

「奴の同盟者であるカルナを倒す。オルタは問題ないが、俺は太陽と相性が悪くてな」

 

緑茶を飲んで肩を竦める一騎に少し考え込むエミヤだが、一騎の仕草と裏腹にその目に宿る真剣さに覚悟を決める。

 

「……いいだろう、それはこちらに任せておけ。だが、先にこちらの頼みを一つ聞いてもらえるか?」

 

「ああ、何だ?」

 

「この近くに魂喰いのサーヴァントがいる。そいつを倒してもらいたい」

 

生憎、今の私では手に余るのでね、とどこか申し訳なさそうに言うエミヤだったが、一騎は躊躇なく頷く。

 

「無論だ。俺も無辜の民が傷つくのは本意では無い」

 

では、交渉成立だな、とエミヤが差し出した手を握り返す一騎。そして、今、8人目のサーヴァントとマスターですらない部外者同士の同盟が成立した。

 

「ああ、ところで、魂喰いのサーヴァントについては不明だが、マスターらしき人物は分かっている」

 

「それは?」

 

「そこに越して来た──確か、桜内梨子、と言う少女だ」

 


 

放課後、チャイムが鳴って下校し始める生徒たち、ホームルームを終えた2年A組も一人、また一人と下校していくクラスメイトの声を聞きながら梨子は机に突っ伏している広樹の様子を窺っていた。

 

「ヒロくん、朝からお疲れだったみたいだけど、どうかしたの?もしかして、体調でも悪い?」

 

「あー、梨子か。いや、ちょっと聖杯戦争(ゲーム)をやってて寝不足でな」

 

顔を上げながら答える広樹に対して、ゲーム?、と梨子は首をかしげる。

 

「まぁ、気にすんな。それより、何か用か?」

 

「あー、うん、その、よければ一緒に──」

 

『生徒の呼び出しをします。2年A組の松平広樹君、生徒会室に来てください。繰り返します──』

 

帰らない?、と続けようとする梨子だったが、唐突に鳴った広樹への呼び出しによってその言葉は遮られた。

 

「あれ?広樹君、何かやったの?」

 

「千歌じゃないんだから、そんなことしないっての。梨子、悪いけど、呼び出しみたいだからまた明日な」

 

じゃあな、と鞄を掴んで教室を飛び出そうとする広樹だったが、あ、と何かを思い出したのか立ち止まる。

 

「あっと、梨子、千歌。最近、夜は物騒だから、気をつけて帰れよ!」

 

「えっ!?ヒロく──行っちゃった……」

 

「いってらっしゃーい!……ねぇ、梨子ちゃん、一緒に帰らない?」

 

「えっ?うん、別にいいけど……ヒロくん、心配してくれてるんだ……」

 

見送る梨子と千歌を置いて今度こそ教室から飛び出した広樹。その後ろ姿を眺める梨子の目に暗い輝きが宿っていることに気づく者はいなかった。

 


 

その日の夕方、ジャックのマスターとされる梨子の通う学校へと向かった一騎だったが、遠くから観察している限りでは近くにジャックのいる気配は無く、帰宅しても何の動きも無いままだった。

 

(どうだ、反応はあるか?)

 

「(……余程巧く隠れたな。此れでは動くまで見つからんだろう)」

 

(まったく……儘ならんな)

 

「(!?魂喰い、街の方だ……!)」

 

離れた所から監視しつつ辟易する一騎だったが、ゴーストの警告にバイクのアクセルを全開にする。

 

(くそっ、確かにマスターと動く必要はないが……やられたな)

 

「(然り。だが、まだ間に合う)」

 

ゴーストライダーへと変身した一騎はヘルバイクで空へと上がると反応のあった場所へ向かう。そこには今まさにジャックに襲われようとしている会社員風の女性の姿があった。

 

「(一騎!)」

 

(分かっている!)

 

上空から落ちるように駆けつけるゴーストライダーだったが、このままでは間に合わないと見るや、手元のチェーンの一部を飛ばして被害者の心臓に向けられた一撃を間一髪で止める。

 

「あれっ!?──きゃあっ!?」

 

「ふんっ!」

 

「のおっ!?」

 

勢いのままヘルバイクから飛び降りてジャックに殴りかかるゴーストライダーはチェーンでひっかけて被害者を転ばせて気絶させる。やはり、反応速度の関係か思いっきり飛び退いて紙一重で避けたジャックはクルリと着地すると、先ほどまでいた地面は大きく凹み、周囲はひび割れていた。

 

「また、あなたなの?」

 

「そうだ、簡単には逃がさん」

 

相対する両者の間に立ち込める霧。だが、その前にゴーストライダーはヘルファイアを纏ったチェーンをプロペラのように頭上で振り回して霧を払う。それは、ジャックの動きを牽制するものでもあったが、足元で気絶する被害者を考えての行動であった。

 

「むぅ~っ、どうして"わたしたち"の邪魔をするの?」

 

「お前に食われて良い魂などない」

 

「やだよ。まだお腹すいてるんだもん!!──うぅっ!?」

 

チェーンを回すゴーストライダーを無視して倒れる被害者を狙おうとするジャックだったが、動き出した瞬間に何処からかぶつかって来た燃えるチェーンの一部に動きが止まる。よく見れば戦場を取り囲むように燃えるチェーンの一部が散乱していた。

 

「無駄だ、俺の鎖からは逃れられん」

 

「いやだっ!"わたしたち"はっ……!」

 

「さらばだ、罪の権化よ」

 

ゴーストライダーが振り回したチェーンを叩きつけるが、不意のダメージで動けないジャックは避けられない。勝負は決する──はずだった。

 

「ちょっと待ったぁ!!」

 

「!?」

 

切り払われるチェーンと横合いからかけられる少女の声。驚愕するジャックの目の前にはゴーストライダーとの間に立つセイバーと、少し遅れて近くでポーズを取る津島善子の姿があった。

 

「何の用だ?」

 

「あなたが魂喰いのサーヴァントね!私は闇より出でし漆黒の盟主(マスター)、堕天使ヨハネ!!」

 

「マスター、危ないから下がっててくださいよ!」

 

ギラン!、と口で言いながらポーズを決めるヨハネこと善子に毒気を抜かれるゴーストライダーだったが、注意の逸れた一瞬でジャックが逃走していたことに気づき歯噛みすると振り返ってバイクに乗ろうとする。

 

「待ちなさいよ!」

 

「ちょっと、マスター!?」

 

「お前たちに用は無い」

 

善子の声に立ち止まって振り返るゴーストライダーは端的に警告してからバイクに乗ろうとする。

 

「なっ!──この、セイバー、行きなさい!」

 

「速攻でカタを付けます!いざ!」

 

せっかくの名乗りに反応せず、あまつさえ戦おうともしないゴーストライダーに激昂する善子の言葉に答えて切りかかるセイバー。踏み込みながら右手での左薙ぎの一撃を放つが、目にもとまらぬ速さの剣戟は振り向きもせずに左手で簡単に防がれる。

 

「っ──かったぁ!何ですかコレ!?」

 

「セイバー!?」

 

「だから言っただろう、用は無い、と」

 

あまりの硬さにバックステップで距離を取るセイバーと驚愕する善子だったが、切られたゴーストライダーはどこか呆れた様子で二人に向き直る。その姿に一歩下がる善子を庇うようにセイバーが前に立つ。

 

「セイバー、アレを使って!」

 

「承知!『無明三段突き(むみょうさんだんづき)』!!」

 

「っ!?」

 

トン、と軽く踏み出したセイバー─―沖田総司(おきたそうじ)の平晴眼の構えから()()()()に放たれる三つの平突きがゴーストライダーの喉元を突く。そして、今まで傷つくことの無かったゴーストライダーの首の骨がまさしく剣先の幅と同じ大きさで消滅していた。

 

「通った!?……こふっ!?」

 

「ちょっ──セイバー!?ホントに吐血した!?でも──」

 

「──なるほど。これは確かに、魔剣と呼ぶに相応しいな」

 

「「!?」」

 

戦果を上げたが魔剣の発動による負荷で吐血してしまう沖田とその光景に驚く善子。安堵する二人だったが先程の傷が塞がっているゴーストライダーが悠然と立つ姿に驚愕する。

 

「魂喰いは逃げた、ここに留まる理由は無い」

 

「……だ、そうですけど、マスター、どうしますか?」

 

チェーンをたすき掛けに戻したゴーストライダーは端的に言い放つとその姿に敵意を感じなかったのか、セイバーは背後の善子に指示を仰ぐ。

 

「……悪かったわね、間違えて。でも、そんな疑われる見た目をしている方も悪いのよ!」

 

「マスター、やった私が言うのもアレですけど、結構、無茶苦茶言ってますよ?!」

 

「……気にするな。俺は奴を追う」

 

お前たちは好きにしろ、と言い放つとゴーストライダーはヘルバイクに跨ってジャックの反応を探して夜の街を駆け回るが、結局、その夜は何の手掛かりも見つけることは出来なかった。

 


 

夕方、初日と同じように転生者を監視する一騎は校舎の屋上に広がる霧を見てバイクを走らせていた。

 

(ゴースト、これは……!?)

 

「(然り。魂喰いだ……だが、此の時間に動くとは……)」

 

意表を突かれた形となる一騎だったが、勢いよく霧が晴らされたことで学校の手前でブレーキをかける。そして、その一騎の視界数十m先に走って逃げる梨子と一瞬だけ見えたジャックの姿があった。

 

「(……一騎、罪なき命が、一つ消えた)」

 

(っ……そうか……俺の失策、だな──こうなる前に、マスターを殺しておくべきだったか……!)

 

内心で悔しさと憎しみに打ち震える一騎だが、それも当然である。罪なき者の死、それは復讐者である彼らの存在理由そのものであったが、被害者を無くすために戦う一騎とゴーストにとっては避けるべき事態の一つでもあったからだ。

 

「(否、確たる証拠が無いままでは彼奴等と変わらん。其れより、正しく使命を果たせ)」

 

(……そう、だな。ああ、そうだ、俺には、俺たちにはそれしかない)

 

表情には出さないまま自らの行いを悔やむ一騎だったが、ゴーストの鼓舞により持ち直す。そして、そんな彼らの内心を知らないまま、ジャックの影を追うカルナの姿が見えたかと思えば、屋上の方では善子の糾弾する叫び声と剣戟の音が聞こえていた。

 

「(魂喰いは心臓で追える……今は捨て置け)」

 

(……なら、もう一つの責任を果たそう)

 

優先順位を決めた一騎とゴーストの脇で屋上から飛び出した不可知の一団に対して業炎が迸ると、一騎はゴーストの導きでその存在を追うのだった。そして、学校からしばらく離れた所で不可知の一団──花丸の遺体を抱えたロビンフッドと善子を抱えてその手を握っていた沖田が姿を現した。

 

「放せ!放しなさいよ!!アイツは、私がぁっ!!」

 

「マスター、気持ちは分かりますが、今は抑えて……」

 

「あてて……ちったあ大人しくしてくれよ。こっちは背中をあぶられてんだぜ?……悪いな、マスター。これが精一杯だったわ──ところで、アンタは何の用だ?」

 

三者三様の状態だったが、そこに一台のバイクが近づく。警戒する三人だったが、フルフェイスのメットを脱いだ一騎は敵意がないことを示すために両手を上げていた。

 

「警戒しなくてもいい。俺は守護者のような者だ、協力のために来た」

 

「っ──あんた、昨日の?!いや、違う……?」

 

「いえ、マスター、たぶん、それで合ってますよ」

 

「あぁ?どう言うことだよ?こっちはマスターの死を悼んでるんだ、手短に済ませてくれ」

 

直感で一騎の正体に気づく善子と沖田だったが、時間のないロビンフッドに先を促されて一騎は頷く。

 

「先程の件、記憶がないことも含めて、アサシンのサーヴァント、ジャック・ザ・リッパーと情報抹消のスキルによるものだ」

 

「ジャック・ザ・リッパー?……なるほど、アサシンならこの傷の説明がつきますね」

 

「そんな、アイツらじゃ、ない……?」

 

「……なるほど。んで、オレらにどうしろって?こちとら死にかけなんだぜ、あんまりオレに期待すんなよ」

 

一騎の説明に納得する三人。続くロビンフッドの言葉に一騎は一瞬だけ言いよどむが、意を決して真っ直ぐロビンフッドの目を見る。

 

「……簡単な話だ。ロビンフッド、あなたには小原鞠莉と言うマスターと接触してほしい」

 

「おい、オタク、冗談にしちゃあ笑えないぜ……!」

 

一騎に食ってかかるロビンフッドは胸倉を掴むが、一騎は動じない。

 

「冗談ではない。こちらがアサシンを倒すための時間を稼いでほしい。やつらが──アヴェンジャーが勝てば世界は歪む」

 

「……ったく、どいつもこいつも……オレは不意打ち専門なんだぜ……ハァ、わかったよ」

 

一騎の言葉に頭を抱えるロビンフッドだったが、不承不承と言った形ではあるが、納得して手を放す。その様子を見た一騎は善子と沖田に目を向ける。

 

「沖田総司、津島善子、君たちにはアサシンの討伐に力を貸してほしい」

 

「私はいいんですけど……あなた一人でも大丈夫なんじゃないですか?」

 

「……花丸の仇が討てるなら私はそれでいいわ」

 

一騎の提案を肯定する二人だったが、対照的な姿勢に一騎は真実を話す決意を固める。

 

「それは、俺たちが昨夜の戦いでアサシンを逃がしたからだ」

 

「っ!?……じゃあ、花丸が死んだのは、私の……」

 

「っ、マスター、それは違います!あれは……」

 

「──あれは、俺たち三人の責任だ」

 

「ちょっ、何を言ってるんですか!?こう言う時はもっと、こう──って、ちょっと!」

 

一騎の言葉に激しく動揺する善子とどうにか宥めようとする沖田だったが、一騎は敢えて善子の襟を掴んで目を合わせる。

 

「目を背けるな。これは俺たちの罪だ……!」

 

「私、たちの?」

 

錯乱しかけていた善子の目に意志が戻り始める。

 

「そうだ。だから、()()()でその罪を贖う。背負った死の、責任を果たすぞ、津島善子……!」

 

「責任……そうだ、私は花丸の命を、願いを背負う!私はこの聖杯戦争を、犠牲を出さずに終わらせる!!」

 

「マスター……!」

 

一騎の恫喝じみた激励に奮起した善子の力強い宣言に静かに頷く一騎は襟から手を放すと、沖田を善子にそれぞれ目を向ける。

 

「まずは、アサシンを倒す。足止めは俺がやる、二人には止めを任せたい」

 

「セイバー──総司、出来るかしら?」

 

「昨日のアレですか……そうですね、沖田さん的には問題ないですよ」

 

「そうか、助かる。このまま追いかけるが、構わないか?」

 

一騎の提案に頷く二人、そして、作戦は決まった。準備を始める沖田と善子が立ち直った姿を見ながらロビンフッドも花丸の遺体を抱えなおす。

 

「さてと、んじゃ、オレもそろそろ行くかな……あ、そうだ、おいオタク、守護者、だっけか?」

 

「外狩だ、どうかしたか?」

 

「いや、時間稼ぎするのはいいけどよ──」

 

一度、言葉を切ったロビンフッドは皮肉気だが、どこか強い決意を秘めた笑顔を浮かべる。

 

「──別に倒しちまっても構わねぇえんだよな?」

 


 

夜、花丸の心臓を奪った梨子はそれをジャックに食べさせるべく、追っ手を撒いてから自宅への道を歩いていた。

 

おかあさん(マスター)お腹すいたー」

 

「こーら、もうちょっとでお家に着くから、それまで我慢なさい」

 

はーい、と霊体化したまま会話するジャックと梨子だが、ふと目の前に現れた異形──ゴーストライダーの姿に足を止める。

 

「見つけたぞ、罪人よ」

 

おかあさん(マスター)!こいつが"わたしたち"をいじめたの!」

 

「あら、困った骸骨ね。ジャック、()()()()()()()()()()()()()()()

 

「うん。殺しちゃおう」

 

ゴーストライダーの姿に警戒して実体化したジャックの言葉に梨子は令呪を輝かせて迎撃を命じる。霧を出して迎撃準備をするジャックだが、またもやゴーストライダーは燃えるチェーンを回して霧を払う。

 

「無駄だ、その霧にもう意味はない」

 

「むぅ~っ、おかあさん(マスター)、どうしよう?!」

 

「大丈夫よ、ジャック。()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「そっかぁ、さっすが、おかあさん(マスター)!」

 

困惑するジャックだったが、梨子の言葉で二画目の令呪が輝くと手に持ったナイフが鈍く輝き、喜ぶジャックはナイフを構える。

 

「此よりは地獄。"わたしたち"は炎、雨、力──殺戮を此処に……『解体聖母(マリア・ザ・リッパー)』!!」

 

周囲が一瞬、濃密な霧に包まれる。ジャックの宝具『解体聖母(マリア・ザ・リッパー)』はDランクのナイフだが、()()()()()()こと、()()()()こと、()()()()()()()()ことの三つが満たされた時、必殺の武器と化す。今は条件を二つしか満たしていないが、令呪によるブーストで無理やり発動させることでその威力を増していた。

 

「……愚かだな」

 

「!?いたっ!?」

 

必殺とはいかずとも強烈な一撃。だが、その一撃はゴーストライダーに届く前に周囲に散らばる燃えるチェーンの一部がぶつかって来て行動が止まる。そして、動きが止まったジャックに対して他のチェーンの一部が殺到し、ジャックは回避に徹するしかない。

 

「やだやだやだぁっ!やめてってばぁ……!」

 

「ジャック!?逃げ──んぐぅっ!?」

 

「させん……!」

 

さらに令呪を使おうとする梨子だったが、その動きを察したゴーストライダーは炎を消したチェーンで梨子を絡め捕って引き寄せる。

 

おかあさん(マスター)っ!?」

 

「私は責任を果たす!セイバー!!」

 

「お任せを!我が剣にて敵を穿つ……!」

 

驚愕するジャックの前に善子の命令で飛び出た沖田は瞬間的に距離を詰める。

 

「はっ!せいっ!」

 

「いたっ!?……う、うぅっ!?」

 

低い姿勢で踏み込みざまに右下段から斜めに切り上げると、返す刃で浮き上がったジャックの胴体を右胸から左胸へ右薙ぎの一撃、宙に浮いたままのジャックは予想外のダメージに動けない。そして、沖田は振りぬいた形から平晴眼の構えをとる。

 

「セイバー、止めを!」

 

「行きますっ!秘剣、『無明三段突き(むみょうさんだんづき)』!!」

 

善子の号令に応える沖田は『無明三段突き(むみょうさんだんづき)』を放つ。走る剣閃が過たずジャックの心臓を貫き、霊核を確実に消滅させる。

 

「ああっ!?……おかあ、さん……」

 

「むぐぅっ!?……ジ、ジャック!?」

 

霊核を失い、消滅していくジャックは無意識の内に梨子へと手を伸ばすが、その手が届くはずもなく魂喰いのサーヴァント、ジャック・ザ・リッパーはその姿は消滅させた。

 

「マスター、ご友人の仇は、取れましたよ……こふっ!?」

 

「もう、締まらないわねぇ……でも、ありがとう、総司……ねぇ、外狩さん、その人はどうするの?」

 

「お前の贖罪は済んだ。復讐は俺に任せておけ」

 

「そんな、ジャック……私と、広樹の可愛い子供(ジャック)……」

 

ひとまずの決着がついた二人を少し休ませる間にゴーストライダーは呆然とする梨子の襟を掴んで引き上げる。

 

「哀れだな……せめて、その闇を殺してやる」

 

「あ、あぁ……」

 

眼前にゴーストライダーの顔があっても気が付かない梨子に贖罪の眼(ペナンスステア)を覗き込ませる。その目には今回ジャックが殺した被害者が映り、彼らの痛みと遺族の悲しみに一度、魂を焼かれ、梨子は更生への第一歩を踏み出すのだった。

 

「……死んだの?」

 

「いや、罪を償わせた。さて、次はカルナだ」

 

「外狩一騎、こちらの準備は出来ているぞ」

 

「!?」

 

突如、横合いからかけられた声に目を向けると、そこには十千万から歩いてくる赤い外套を纏ったエミヤの姿があった。

 

「……誰よ、この人?」

 

「……それはこちらのセリフなのだが」

 

「……気にするな、協力者だ。それよりエミヤ、作戦はどうする?」

 

「ああ、それなら問題ない。まずは──」

 


 

 

その十数分後、戦いの終わったカルナの目の前に善子と羽織に着替えた沖田が姿を現す。その場面を数キロ先からエミヤが眺めていた。

 

「うむ、良い位置だ」

 

既にゴーストライダーは善子の背後のビルに待機しており、あとは沖田が鎧を壊すだけであった。おもむろに弓を構えるエミヤ、その視線は数キロ先の黄金の鎧を確実に捉えていた。

 

「行くか──I am the bone of my sword.」

 

善子の令呪が輝くと沖田の姿が掻き消える。投影によって手の中に現れた渦巻く炎を圧縮したような矢──『偽・炎神の咆哮(アグニ・ガーンディーヴァⅡ)』を弓に番えて引き絞る。

 

「──偽・炎神の咆哮(アグニ・ガーンディーヴァ)!!」

 

カルナの鎧の左胸、心臓に当たる部分の装甲が沖田の『無明三段突き(むみょうさんだんづき)』によって消失する。そして、エミヤの弓から放たれた一射は過たず消失した装甲の下、生身の体に突き刺さり眩いばかりの光が迸った。

 

「さて、私の役目はここまでだ。後は任せたぞ、外狩一騎」

 


 

「アヴェンジャー、ってそんな、同じクラスのサーヴァントが二体もいるワケ……まさか、猟犬!?」

 

驚愕する広樹を前に悠然と立つゴーストライダーだったが、猟犬、の一言に身に纏う炎の勢いが若干強くなる。だが、面白くないのはもう一人のアヴェンジャー、ジャンヌ・オルタも同様だった。

 

「急に出てきてアヴェンジャーを名乗るなんて……一体何様のつもりですか!」

 

「哀れな道化よ、お前たちの舞台もここまでだ」

 

睨むような視線のジャンヌ・オルタと広樹に対し冷ややかな視線を送るゴーストライダー。対照的な両者の睨み合いだが、ゴーストライダーの隣に沖田が並び立つ。

 

「セイバー、いや、沖田総司さん、なんでそんな奴と組んでるんだよ!?」

 

「何を言ってるかわかりませんが、ウチのマスターが世話になりましたからね。その分ぐらいは手伝いますよ」

 

「総司、勝つわよ!!」

 

承知!、と勢いよく答えて構える沖田と後ろに立つ善子。その姿には驕りも不安もなく、ただ、純粋な信念と決意が感じられた。

 

「ダイヤさん、下がっててください!──ジャンヌ、こいつは情報がない、()()()()()()!」

 

「仕方ないわね……来なさい、私の下僕ども!」

 

悲しみに打ちひしがれるダイヤがフラフラと下がる。広樹の左手の令呪が輝き二画目が消えるとともにジャンヌ・オルタが旗を振るうと竜の魔女としての力が増幅され、何処からともなく大量のワイバーンが現れる。

 

「何なんですかこの数はー!?」

 

「まだまだ、こんなモンじゃないわよ!!」

 

再びジャンヌ・オルタの旗が振るわれると上空から巨大な邪竜が舞い降りて来た。頭上を覆うワイバーンの群れと降り立った巨大な邪竜を従えるジャンヌ・オルタと広樹、その表情には余裕が窺えた。

 

「むむむ……これは流石に宝具を使うしかないですかね……」

 

「──上等よ!絶対に、コイツらを勝たせるわけにはいかない!──外狩さん?」

 

「ワイバーンは任せた……そこの元マスターも頼む」

 

小さく唸る沖田と怯みかけた心を奮い立たせる善子だったが、一歩踏み出たゴーストライダーの言葉にしっかりと頷く。

 

「ハッ、大きく出たじゃないの……それじゃ、喰われなさい!!」

 

「ちょっ、外狩さん!?」

 

「マスター、危ないですよ!」

 

ジャンヌ・オルタの指示で悠然と立つゴーストライダーに噛み付く邪竜。その攻撃から逃れるために善子を連れて下がる沖田だが、邪竜の動きが止まったことに違和感を覚える。

 

「アッハッハッハ……は?」

 

「どうやら、食い出がないものは好かないらしいな」

 

ゆっくりと開く邪竜の口、そこから無傷のゴーストライダーが姿を現すと邪竜の体がヘルファイアに包まれ、鱗や爪、牙が鋭く伸びて炎を纏った凶悪なヘルドラゴンとも呼ぶべき姿へと変貌するとゴーストライダーへと頭を摺り寄せる。

 

「なんだ、あの化け物は……!?」

 

「ウソ……私の竜が?──このっ、行きなさい、ワイバーン!」

 

「さて、今度はこちらの番だ」

 

驚愕するジャンヌ・オルタと広樹の前でゴーストライダーは悠然とヘルドラゴンに飛び乗ると空へと舞い上がる。飛び立ったヘルドラゴンへとワイバーンの群れが殺到するが、その(ことごと)くを燃え盛る翼の羽ばたきや尻尾の一振りで叩き落し、口からの獄炎で焼き払う。その様はまさしく地獄絵図と呼ぶに相応しかった。

 

「うわ~……これ、もう、私たちいらないんじゃないですか?」

 

「馬鹿言ってないで構えなさい、来るわよ!」

 

「……マジかよ?こりゃ、ヤバいかもな……?」

 

「……上等じゃないの!来なさい!!」

 

圧倒される二組だったが、奮起して旗を振るったジャンヌ・オルタが呼び出した二体目の邪竜に広樹を抱えて飛び乗ると、追加のワイバーンを呼び出して沖田と善子にけしかける。

 

「総司、宝具を!!」

 

「はい!──ここに、旗を立てます!」

 

飛びかかるワイバーンの群れの中、立てられた旗。その周囲の空間に魔力が満ち、何処からともなく浅葱の羽織の男たち──その中には先ほど倒れたバーサーカー、土方歳三の姿もある──が現れてワイバーンの群れとの戦いを始めた。

 

「外狩さん!こっちは新選組(私たち)に任せてください!」

 

「任せた──来い、竜の魔女よ。地獄の炎を見せてやる」

 

「──ッ!行くわよ、マスター!」

 

ワイバーンの群れと新選組が戦う中、ジャンヌ・オルタと広樹を乗せて飛び上がる邪竜は上空で待つゴーストライダーのヘルドラゴンと睨み合う。先に動いたジャンヌ・オルタの邪竜がヘルドラゴンに激突するとその勢いで怯んだヘルドラゴンの首筋へ喰らい付く。

 

「アハハハ!同じ邪竜の扱いなら私の方が──」

 

「殻も割れんか。邪竜も魔女も衰えたと見える」

 

「──え?」

 

悲鳴を上げる邪竜、その牙と口はヘルドラゴンの鱗で逆にボロボロになっており、その首筋はお返しとばかりにヘルドラゴンの鋭利な牙で喰い破られていた。

 

「そんなっ!──マスター、掴まって!!」

 

「ぬ、おぉっ!?」

 

力を失いもがきながら墜ちていく邪竜を必死に操るジャンヌ・オルタはどうにか近場の駐車場へと不時着させる。

 

「ぐ、うぅ……大丈夫か、ジャンヌ?」

 

「えぇ、何とか。それより、マスターは……無事みたいですね」

 

「ライダーとしては二流、と言ったところか」

 

魔力で構成された邪竜が消えてゆく中、後を追うように悠然と降り立ったゴーストライダーのヘルドラゴンをジャンヌ・オルタと広樹が睨みつける。

 

「っ!?──よし、滅ぼすわ」

 

「クソッ、見下しやがって」

 

「少し待っていろ──行け」

 

ヘルドラゴンから降りたゴーストライダーはヘルドラゴンを上空にいるワイバーンの群れに飛び込ませると、その中心でヘルドラゴンの魔力をヘルファイアで爆発させる。ヘルドラゴンの居た場所を起点に発生した上空を覆いつくす炎が群れのほとんどを焼き尽くした。

 

「なっ──何だ、あの威力は!?」

 

「待たせたな。さぁ、裁きの時間だ」

 

「……上等よ!血祭りにしてあげる!」

 

火の粉が舞い落ちる中、悠然と立つゴーストライダーに怯む広樹と怒りに燃える目で睨みつけるジャンヌ・オルタ。そして、最後の戦いの幕が上がった。

 

「このっ!喰らえ!」

 

先手を取ったジャンヌ・オルタは10mほどの距離を一足で詰めると右手に持った剣で右肩から左脇腹へ袈裟懸けに切り付けると左手の旗、その先端の槍で顎を救い上げる。

 

「アハハ!これで──え?」

 

返す刀で胴には旗、腹には剣でそれぞれ右薙ぎの一撃を放つ。だが、振りぬいたジャンヌ・オルタが見た物は無傷のまま立つゴーストライダーの姿だった。

 

「では、こちらの番だ」

 

「くっ……」

 

無造作に振り上げたゴーストライダーの右の拳が放たれる。これまであらゆる敵を打ち破った拳だが、その一撃は地面に突き立てられて旗によって防がれ、ジャンヌ・オルタは地面を削りながら数mほど下がる。

 

「ジャンヌ、やっちまえ!」

 

「ええ、分かってます!──報復の時は来た!これは憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮──『吼え立てよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)』!!」

 

自身の宝具である旗を引き抜いたジャンヌ・オルタは広樹の声に応じてその真名を解放する。宝具『吼え立てよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)』、それは自身と周囲の怨念を魔力変換して、相手の不正や汚濁、独善を骨の髄まで燃やし尽くす怨嗟の炎を巻き起こす。その業炎はゴーストライダーを飲み込み焼き尽くす──はずであった。

 

「──お前の憎しみは(ぬる)過ぎる」

 

「そんなっ……」

 

ゴーストライダーを飲み込んだはずの業炎は他ならぬゴーストライダーの手で渦巻きながらその形を定めてゆく。

 

「本物の、復讐の炎を見せてやろう……!」

 

「くうぅっ……私はまだっ……ああっ!?」

 

渦巻く業炎が濃縮された火球となってジャンヌ・オルタへと叩き込まれ爆発を起こす。爆発の煙が収まると、後には半ばからへし折れた旗と転がった剣、そして、力無く倒れ伏すジャンヌ・オルタの姿があった。

 

「ジャンヌ!?──そんな、馬鹿な……!?」

 

驚愕して駆け出す広樹だが、それより早くゴーストライダーがジャンヌ・オルタを掴んで引き上げる。

 

「さらばだ、歪められた聖女よ。せめて、その業は払ってやる」

 

「やめろおぉぉっ!!」

 

「どうして……私は……」

 

贖罪の眼(ペナンスステア)を覗き込まされたジャンヌ・オルタ。その目にはこの世界で歪められる前の自分の姿が映し出される。自らの行いを悔いたジャンヌ・オルタはアヴェンジャーとしての霊基を焼かれ、残った魂は聖杯へと消えていった。

 

「ジャンヌ?嘘だろ……俺の、ジャンヌが……」

 

「ああ、お前が歪めた──故に、俺が正す」

 

足を止めて愕然とする広樹に対し、冷たく怒りの籠もった言葉を言い放つゴーストライダー。僅かに残ったワイバーンが消滅したことで、周囲で響いていた戦いの音が止んでいた。

 

「お前は許さない!怪物だろうが何だろうが──俺が倒す!!」

 

奮起する広樹は下段に構えた剣を起動させると超人的な身体能力で数mの距離を一気に詰める。

 

「うおおおぉぉぉ!!」

 

ゴーストライダーの手前でもう一歩踏み込んで左脇腹から右肩へ切り上げると振り抜いた剣をその勢いのまま大上段に構える。

 

「まだだっ!聖カトリーヌの剣よっ、俺に力をぉぉっ!!」

 

構えた剣が勢いよく燃え上がる。これが聖カトリーヌの剣が持つ二つ目の機能、ジャンヌ・ダルクの宝具『紅蓮の聖女(ラ・ピュセル)』と同等の威力の持つ炎の剣を顕現させるものである。

 

「てああぁぁっ!!」

 

宝具級の威力を持つ燃え盛る剣を唐竹割に振り下ろす。鋭い一撃がゴーストライダーの正中線を勢いよく通り抜ける。

 

「ハァッ、ハァッ……これで、仇を──」

 

「──その炎は祈りだ」

 

「なっ──」

 

驚愕する広樹だが、それも仕方がない。炎が収まって剣が元の姿に戻ると目の前には無傷のゴーストライダーが怒りの籠もった目で見下ろしていたからであった。

 

「お前の祈り(ねがい)は届かない」

 

「この──ぶげぇっ!?」

 

吐き捨てるように宣言したゴーストライダーは右手で無造作に剣の刀身を掴むと、左の拳で顔面にフックを放つ。超人的な身体能力になった広樹だったが、強烈な一撃に踏みとどまるのがやっとであった。

 

「お前は英雄(ヒーロー)には成れない」

 

「え?──ごあっ!?」

 

刀身を掴んだままのゴーストライダーはヘルファイアで刀身を溶かしつくすと、振り抜いた左の拳を右手で包み、広樹の頭へとダブルスレッジハンマーを叩きつける。

 

「お前の人生(つみ)を悔い改めろ」

 

「う……あ……」

 

意識が朦朧としている広樹の首を掴み上げて贖罪の眼(ペナンスステア)を覗き込ませる。広樹はこの世界に魔術が齎されたことで起きた悲劇とこの聖杯戦争で死んだ者の苦しみと痛みをその魂に受けると、刻印を引き剥がされて体を焼き尽くされるのであった。

 

「──あ、外狩さん!そちらは大丈夫で──こふっ」

 

「ちょっ、総司!?──本当に締まらないわね……」

 

ちょうど使命を果たした一騎が変身を解除したところで一騎の援護に行こうとしていた沖田と善子がやって来た。

 

「こちらは終わった──聖杯戦争の勝者はお前たちだ」

 

「私たちが、勝者……?」

 

「やりましたね、マスター!」

 

一騎から告げられた勝利宣言に困惑する善子と無邪気に喜ぶ沖田。だが、それを眺める一騎の視線には複雑な感情が含まれていた。

 

「……戦いは終わったが、津島善子、お前は聖杯にどんな願いを懸ける?」

 

「私の、願い……」

 

「マスター……」

 

考え込む善子だが、それも無理はない。親友の花丸から受け継いだ”戦いを止める”と言う願いのために戦った彼女には特別な願いは無いからであった。そして、頭をよぎった”親友の蘇生”が願いとして正しいか測りかねていたからでもある。

 

「なら、一つ提案がある」

 

「提案、ですか?」

 

顔を上げた善子の目には真っ直ぐな目で見る一騎の真剣な表情があった。

 

「ああ、世界を元に戻す」

 

「世界を、って、どう言うことですか?」

 

「今からゴーストライダー()の力を使って、一つの可能性──聖杯戦争のない世界の姿を見せる」

 

「ちょ、だから、どう言うことなんですか?!」

 

説明しなさいよ、と少し怒りながら問いを返す善子に対して、ふむ、と一騎は小さく考え込むと自らの目を指さす。

 

「この()を見た者には過去の罪や可能性を見せることが出来る」

 

「魔眼の類ですか?──守護者って言ってましたけど、ホントに何者なんですかね?」

 

困惑しつつ訝しむ沖田に対して、それは重要じゃない、と一騎は疑問を一蹴すると善子へ改めて向き直る。

 

「つまり、聖杯戦争の起こらない、平和な世界を聖杯に願えばいい──出来るか?」

 

「……それなら、花丸も──」

 

「待ってください、マスター」

 

唐突に異議を唱える沖田に、総司?、と訝しむ善子だが、その様子を見る一騎はどこか予想していたようだった。

 

「聖杯にそこまで世界を変える力は無いはずです。それに、まだ()()のサーヴァントの魂しか溜まっていません」

 

「六騎って……!?それじゃ、もしかして──」

 

「いや、それは問題ない」

 

「「!?」」

 

悲し気に持論をぶつける沖田に困惑しつつも言わんとする事を理解する善子だったが、その言葉を予期していた一騎の宣言に二人は驚愕と困惑が入り混じる。

 

「浄化したアヴェンジャーに()()()を付けておいた──おそらく、もう一騎分ぐらいにはなるだろう」

 

「──じゃあ……!」

 

ああ、と頷く一騎の説明に喜ぶ善子と、え?私の決意は……、と複雑な表情の沖田だが、どこか嬉しそうではあった。

 

「それじゃあ、外狩さん、お願いします」

 

「ああ──俺の眼を見ろ」

 

意を決した善子の言葉に顔だけを変身させた一騎は贖罪の眼(ペナンスステア)を覗き込ませる。そして、その目に映ったのは戦いの無い、梨子や花丸のようなまだ死ぬはずではない死者の出ない、この世界本来の姿だった。

 

「──見えたか?それが、この世界の可能性だ」

 

「……はい。あの、外狩さんはこれからどうするんですか?」

 

「次の使命を果たす。ここでお別れだ」

 

「そう、ですか……あの、外狩さん、ありがとうございました」

 

「私からも、ありがとうございま──こふっ」

 

「総司……ハァ、結局、最後まで締まらなかったわね」

 

感謝を述べる二人だったが大事なところで咳き込む沖田に善子は呆れつつも穏やかな表情を見せる。そんな二人の姿を一騎は眩しそうに見ていた。

 

「さて、聖杯は黒澤家だ。津島善子、沖田総司──達者でな」

 

「はい!外狩さんもお元気で!」

 

「んんっ──そちらもお達者で!」

 

頭を下げて黒澤家へ向かった二人の姿が見えなくなると使命を果たした一騎はゲートをくぐって次なる転生者のいる世界へと向かうのだった。

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