GHOSTRIDER:Dog Eat Dog   作:雁野 命

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Dog Eat Dog #08

怒り、憎しみ、彼が最初に感じたのは人間に対する怨嗟(えんさ)の叫びだった。それから先はひどく曖昧で、自由にならない体が機械を纏った人間たちを容赦なく叩きつぶしていた。

 

(やめてくれ!!)

 

「(凶、殺、怨、痛、恨)」

 

彼の叫びは届くこと無く、留まる所を知らず代わりに体と心を蝕む()()と変身の解けた少年や少女に対して振るわれる圧倒的な暴威は止まる気配がなかった。

 

「やめて!!」

 

(もう、ダメだ……)

 

遠くで叫ぶ少女の声、だが、暴走する力に突き動かされる彼の心は絶望と悪意に飲み込まれ、やがて深い闇に沈んでいくのだった。

 


 

昨夜から転生者を探す一騎は初夏の昼間の駅前、その路地裏に出ていた。周囲を観察した一騎の目には街を行く人々の中に眼鏡のようなデバイス──ザイアスペックをかけた姿がちらほらと見受けられた。

 

(ザイアスペック……?ゼロワンだろうが……ヒューマギアが見当たらんな)

 

「(世界の簡略化、否、単純化、と呼ぶべきか……要素を削ったようだ)」

 

(なるほど、世界の矛盾を減らした訳か……まぁ、奴らにとっては無くても変わらんからな)

 

転生者の特典を仮面ライダーゼロワンと推定した一騎は、目に見える範囲で人型のロボット──ヒューマギアが見当たらないことに違和感を覚えるが、ゴーストの説明で世界の再構成による影響だと納得する。

 

「(だが、刻印の反応が弱い、其れが解せぬな)」

 

(上手く隠したか、弱っているのか……まったく、儘ならんな)

 

「あの、すいません」

 

刻印の反応の弱さに違和感を覚える一騎だったが、ふと、横合いからかけられた声に返事を返すと、そこには黒髪で両サイドの髪をリボンで結んだ眼鏡の少女──朝田詩乃(あさだしの)がチラシの束を抱えて立っていた。

 

「ええと、何か用ですか?」

 

「その、人を探しているんです。この人、見たことありませんか?」

 

一騎の問いに手元のチラシを見せて聞き返す詩乃。そのチラシには大人びた少年が映った写真が載っており、名前の所には飛電空也(ひでんくうや)と書いてあった。他にもいくつか情報は書かれていたが、一騎の知っている人間ではなかった。

 

「(飛電……転生者だな)」

 

(おそらくな……しかし、どう言うことだ?)

 

「あの、どうですか?」

 

「あぁ、すいません。どこかで見たことがある気はするんですが……一体、どんな方なんですか?」

 

押し黙る一騎に焦っているのか、もう一度問いかける詩乃に対して、空也を転生者と見た一騎は情報を引き出すために逆に質問をする。一瞬、気落ちした様子の詩乃だったが、彼女も情報を求めているのか少し考え込む。

 

「そうですね……空也──彼は私の幼馴染で、トラウマを抱えた私を守ってくれたり、克服のために一緒にゲームをやってくれたりして……」

 

「とても良い幼馴染さんだったんですね」

 

「はい、私にはもったいないくらいで……でも、先週の事件の辺りから突然、行方不明になってしまって……」

 

「先週の事件?……あぁ、すいません。何分、昨日、日本に戻ったばかりでよく分からないもので」

 

引き出した情報について質問した一騎を一瞬、訝しむ詩乃だったが、外国に行っていた、と言う言葉を聞いて、ああ、それで、と納得した様子を見せる。

 

「……実はここ半年ぐらいレイダーと言う犯罪者が兵器を使って暴れる事件が多発しているんです。それで、それと戦う仮面ライダーと言う存在がいたんですが……」

 

()()、とはどう言うことなんですか?」

 

「その、先週、仮面ライダーが無差別に人を襲い始めて……それ以来、仮面ライダーは一種の災害のようになってしまったんです」

 

「なるほど……それで、その事件の辺りでその飛電さんは居なくなった、と……それは心配でしょうね」

 

労わるような一騎の態度に、はい、と気落ちした様子で答える詩乃。それで、何か心当たりは?、と問う詩乃だったが、一騎は、いえ、お役に立てなくてすみません、と申し訳なさそうな態度で答えた。

 

「そう、ですか……いえ、ありがとうございました」

 

「(此れで、追えん理由も判明したな)」

 

(ああ、だが、どうしたものか……)

 

それじゃ、と離れようとする詩乃だったが、突如、通りの向こうから爆発音が響き、近くのビルの外壁が壊される。そして、通りの向こう側、爆発音の出所には赤い虎のモチーフをした機械のような人型──フレイミングタイガーレイダーの姿があった。よく見ればその手からは炎を飛ばしたような煙が立ち上っており、目の前には髪の右側の一部分を編み込んだモデルのような女性──小比類巻香蓮(こひるいまきかれん)が立ち竦んでいた。

 

「あれは、レイダー!?」

 

「あれがそうですか……それより警察を!」

 

「(如何する心算だ?)」

 

(決まっている、罪なき者を守る)

 

え、ちょっと!、と驚く詩乃を置いて駆け出す一騎。その足は迷わず通りの向こう、タイガーレイダーへと向かっていた。そして、その直前で足を踏み切る。

 

「はっはっはっー!どうだ、俺の力──ぶげっ!?」

 

「え?」

 

香蓮の驚愕も無理はない。本来、一般人が立ち向かおうとも思わない、直前まで高笑いをしていたレイダーと言う脅威が目の前で一般人(一騎)に蹴り飛ばされていたのだから。

 

「早く逃げて!」

 

「は、はい!?」

 

タイガーレイダーに飛び蹴りを放ち、着地した一騎の言葉に反応した香蓮は直ぐに走り出すと、周囲にいた人々も蜘蛛の子を散らしたように逃げ出した。

 

「いってて……おい、てめぇ、何してくれんだよ?あぁ!?」

 

「吠えるな、三下」

 

「て、てめぇ!?舐めやがってぇ!」

 

「こっち、こっちです!」

 

強者である自らに対して楯突く一騎に怒りを露にするタイガーレイダーだったが、チラリ、と後ろに人がいないことを確認した一騎の挑発にさらに激昂すると右手をかざして炎を撃ちだす。しかし、その動きを予想していた一騎は向かって右側、タイガーレイダーの左に飛び込んで避けると、そのまま先ほど助けた香蓮のいる正面の路地へ走り出す。

 

「あっ!?てめぇ、待ちやがれ」

 

「そこまでだ!」

 

逃げる一騎を追いかけようとするタイガーレイダーだったが、かけられた声に振り向くと特徴的な青い銃──エイムズショットライザーを構えた一人の男を先頭に後ろ横一列に四人ほど並んだ警察の特殊部隊のような集団が目に入った。よく見れば隊長以外の全員がザイアスペックと特殊なベルト──レイドライザーをしているのが見て取れた。

 

(あれは……エイムズか)

 

「お前ら、エイムズだな!?」

 

「その通りだ。お前を逮捕する」

 

先頭の隊長らしき男がシューティングウルフプログライズキーのスイッチを押すと、バレット!、と音声が鳴る。そして、そのままプログライズキーをショットライザーに装填すると、オーソライズ!、と電子音声が鳴ってプログライズキーが展開される。

 

「変身!」

 

『ショットライズ!』

 

「うおっ!?」

 

引き金を引いて飛び出た弾丸が正面のタイガーレイダーを掠める。そのまま反転してきた弾丸を男が殴り飛ばしてアーマーが展開されるとその姿は仮面ライダーバルカン、シューティングウルフへと変身した。そして、そのままタイガーレイダーに殴りかかるバルカンの背後で男たちもベルトにプログライズキーをセットする。

 

「うおおっ!」

 

「ぐげっ!?」

 

「「「「実装!」」」」

 

バルカンの攻撃でタイガーレイダーが殴り飛ばされる間に男たちがスイッチを押すと全身にアーマーと装甲が装着されて武装が装着されると、その姿は機械の兵士バトルレイダーへと変貌し、バルカンを支援すべく三人が銃を構えると一人が近接支援に向かう。

 

「斉射!」

 

「ぐおおっ!?このっ!」

 

バルカンの合図で射撃組の一斉射が始まり、流石のタイガーレイダーもたたらを踏むが、何とか持ち直して炎で銃弾を防ごうとする。が、その銃撃を合図に左右からバルカンとバトルレイダーが挟み撃ちにする。

 

「突撃!!」

 

「了解!!」

 

「おがっ!?この──げぎゃっ!?」

 

振りかぶったバルカンのパンチを諸に喰らったタイガーレイダーが反撃しようとするが、立ち直り切る前にバトルレイダーのタックルで弾き飛ばされる。

 

「くそっ、五対一なんて卑怯だろ……お?」

 

『『『『ハード!』』』』

 

『バレット!』

 

「悪いが、犯罪者に対する慈悲は持ち合わせていない」

 

何とか立ち上がるタイガーレイダーだったが、その前に横一列に並んだエイムズがそれぞれ、銃を構えて必殺技の準備を終えていた。

 

「マジかよ?」

 

「ディスチャージ!」

 

『シューティングブラスト!』

 

『インベイディングボライド!』

 

「うおあぁぁっ!?」

 

バルカンの号令で放たれたバルカンのバレットシューティングブラストとバトルレイダーのインベイディングボライドがタイガーレイダーに炸裂する。爆発が収まるとそこには男が倒れていた。

 

「ふぅ……さて、これで──」

 

「っ!?隊長、()()です!──ぐあっ!?」

 

「何っ!?──早瀬!?」

 

戦いが終わって気を抜いた瞬間、上空から落ちて来た銀色の影にバトルレイダーの一人が吹き飛ばされ変身が解除される。途端に警戒してエイムズが銃を構える先にはかつて仮面ライダーゼロワン、メタルクラスタホッパーと呼ばれた者の姿であった。そして、その姿は路地から隠れて見ている一騎と香蓮の目にも映っていた。

 

「仮面、ライダー……」

 

(メタルクラスタ……なるほど、これは暴走もする、か)

 

「(()()とは、言い得て妙だな)」

 

「撃て!──本部、《イナゴ》が出た、増援を頼む!」

 

悲しそうな目でゼロワンを見る香蓮に気づくこともなく射撃を開始するエイムズだったが、ゼロワンの正面に展開されたクラスターセルの盾に防がれ、全く通用していなかった。その間に応援を要請するバルカンだったが、その声色からどれほど状況が切迫しているか無線の通信先へ伝わるようだった。

 

「くそっ、全員、銃撃を絶やすな!絶対にここで止めるぞ!」

 

「うわあっ!?」

 

「六嶋!?──E-2で行く、撃ち続けろ!」

 

「「了解!」」

 

『バレット!』

 

銃撃の隙間を縫ってクラスターセルの一部がバトルレイダーの一人を襲い、六嶋が変身解除されて残り三人となったエイムズは起死回生の手段としてバルカンはバレットシューティングブラストの準備に入る。

 

「喰らえっ!」

 

『シューティングブラスト!』

 

「今だ!」

 

バルカンのバレットシューティングブラストが撃ち込まれたことで盾を強化するべくクラスターセルが集まる。そして、その一瞬を見逃さずにバルカンは合図を出す。

 

「「了解!」」

 

『『ハード!インベイディングボライド!』』

 

「……やったか?」

 

同時に放たれたインベイディングボライドがクラスターセルの盾ごとゼロワンを飲み込み爆発を起こす。一瞬、安堵しかけたバルカンだったが、油断なく銃を構えていた。──はずだった。

 

『メタルライジングインパクト!』

 

「うがっ!?」

 

「ぐあっ!?」

 

「な──ぬおっ!?」

 

煙の中から響く電子音声とともにクラスターセルで構成された二体の分身体とゼロワンによるキック──メタルライジングインパクトによって吹き飛ばされるエイムズ、変身の解けた彼らの前に佇むゼロワンの姿はまさしく災害と呼ぶに相応しいものであった。

 

「あ、あの、あれ!?マズいんじゃ……!?」

 

「……みたい、ですね」

 

「ぐ、くそっ……一ノ瀬、ぐぅっ……」

 

(これは、不味いな)

 

「(……!?奴は無抵抗の者を殺す気か?!)」

 

感情を感じさせない機械のような動きで倒れて動けない隊員──一ノ瀬の方へ向かうゼロワンは明らかに無抵抗の人間を殺そうとしているようだった。

 

「た、たいちょ──ぐえっ!?」

 

「ああっ、危ないっ!?って、ちょっと!?」

 

(チッ──やるぞ!)

 

踏みつけられた一ノ瀬の姿を見た一騎は目の前に転がっていたバトルレイダーの銃──トリデンタを拾い上げるとビルの陰に隠れつつヘルファイアで強化する。

 

「ぐ──」

 

(間に合えっ!)

 

『メタルライジングインパクト!』

 

「……!?」

 

電子音声とともに振り上げられるゼロワンの足、その直後にヘルファイアで強化された銃弾がゼロワンの腹部──ベルトの近くへと撃ち込まれる。そして、その衝撃でゼロワンは数mほど後ろへ吹き飛ばされて倒れた。

 

「な、何なんだ……?──まだ、起き上がれるのか!?」

 

(チッ、流石に太陽があると減衰するか……)

 

「(だが、今回は其れで足りたようだ。我らも行くぞ)」

 

「……ナイトさん、どうして……」

 

不意打ちから起き上がったゼロワンは警戒したのかクラスターセルの足場に乗って何処かへと飛んで行った。そして、トリデンタを放り投げた一騎だったが、逃げようとしたところで先程の場所にいた香蓮と目が合った。

 

(いや、()()()と合流する)

 

「(一騎!?……成程、若しや、と言う事も在るか)」

 

「あの、大丈夫でしたか?」

 

「はい、何とか……とりあえず、ここから立ち去った方がいいみたいですね──っ!?気のせい、か……?」

 

「何してるんですか、早く!」

 

周囲を探そうとしているエイムズに気づいた一騎はひとまず香蓮を連れて移動することになった。そして、そんな二人を見る視線に一瞬、気づく一騎だが、その正体を確かめられないままその場を離れるしかないのであった。

 

 


 

「(さて、此処から如何する?)」

 

とりあえず、少し離れた喫茶店に入った二人だったが、ちょっと連絡するところがあるので、と言う香蓮が席を立って電話を掛けに行ったため、残された一騎は頼まれた物と自分の分の飲み物を注文して時間をつぶしていた。

 

(まずは、彼女から情報を引きだす)

 

「(然り、彼女は転生者の情報を持っているやもしれんからな)」

 

(本来なら朝田詩乃に近付くべきだが……)

 

「(如何した?お前にしては歯切れが悪いぞ?)」

 

心の声で会議をしている一騎だったが、説明を求めるゴーストの声に小さく唸っていた。

 

(あのタイミングで出会ったのも妙だ。何か、違和感がある)

 

「(然り、だが、其れは小比類巻香蓮も同じこと。此の際、何方でも変わらんのではないか?)」

 

(それもそう、か……まったく、儘ならんな)

 

「あの、大丈夫ですか?」

 

注文したコーヒーが来ていたことに気づかないまま内心で頭を抱える一騎の姿がどこか遠くを見ているようにしか見えなかったのか、戻って来た香蓮が先に着きながら声をかける。

 

「ええ、大丈夫です。それで、連絡は取れたんですか?」

 

「はい、それで、まずはお礼を。さっきはありがとうございました」

 

「いえ、別に大したことは……」

 

「いや、十分におかしいですって!普通、レイダーに立ち向かおう、なんて人いませんよ?」

 

謙遜する一騎に対してツッコミを入れる香蓮だが、本当にナイトさんに似てますね、と小さく呟く。その表情はどこか寂しさを滲ませていたが、気を取り直したのか勢いよく顔を上げる。

 

「それで、助けてもらってついでで申し訳ないんですけど、その無鉄砲さ、と言うか、その勇気?を買って一つお願いしたいことがあるんです」

 

「ええと、まぁ、僕で出来ることなら」

 

「いや、出来るかはわからないんですけど……あなたには一緒に仮面ライダーを探す手伝いをしてほしいんです」

 

「(一騎、如何やら当たりのようだぞ?)」

 

「……それは、また、どうしてそんなことしているんですか?」

 

香蓮の提案に内心はともかく表向きには当然の返答を返す一騎だったが、その返答に香蓮の顔が曇る。

 

「その……実は、わたしの知り合いの子が仮面ライダーを探しているんですけど、見つけてもさっきみたいな感じで……」

 

「なるほど、それでわざわざ危険に飛び込む僕に声をかけた、と」

 

「ええと、まぁ、身も蓋もない言い方をすればそうですね。それで、彼女──詩乃ちゃんが仮面ライダーを探すのに協力してほしいんです、お願いします!」

 

「(一騎、如何する?)」

 

(まったく、ここまで来ると作為的なものすら感じるが……)

 

「(同じ標的を狙うのだ、(いず)れ、かち合うだろう)」

 

(まったく……儘ならんな)

 

内心で会議をしている一騎の姿を悩んでいると感じたのか、ダメ、ですかね?、と改めて問う香蓮。一つため息を吐いた一騎は真っ直ぐに香蓮の目を見る。

 

「わかりました。これも何かの縁でしょうし、協力しましょう」

 

「本当ですか!?ありがとうございます!えっと……」

 

「外狩一騎です、一応、私立探偵みたいなことをさせてもらっています。よろしくお願いしますね」

 

「あ、わたしは大学二年の小比類巻香蓮と言います。こちらこそ、よろしくお願いします一騎さん」

 

香蓮の提案を承諾した一騎は自己紹介をしつつ握手を交わすと、香蓮は店に入って来た人影──詩乃に軽く手を振る。

 

「詩乃ちゃん、こっち、こっち!」

 

「あ、レ──香蓮さん、お待たせしました──って、あなたはさっきの?」

 

詩乃が香蓮の手招きで席に向かうとそこに一騎がいたことに驚いていた。

 

「ああ、先ほどの──どうも、外狩一騎といいます……と言うことは、仮面ライダーの正体は……?」

 

「あ、どうも、朝田詩乃です──それより、どうしてそれを?……香蓮さん、この人にも協力を?」

 

「うん、まだ全部は話してないけど、自分からレイダーに突っ込んでくような人だし、ほら、どことなく空也君みたいな雰囲気もしない?」

 

香蓮の言葉に、うーん、と唸る詩乃だったが、いや、あんまり、と返すと、えー、とどこか不満げな顔の香蓮。これではどちらが年上か分かったものではなかった。そんな二人を見つつ一騎はふと疑問に思ったことを聞いてみる。

 

「ところで、仮面──その、空也さんでしたっけ?その人を探すと言っても、何か手掛かりはあるんですか?」

 

「一応、出てくる法則、みたいなものを掴もう、ってなってるんですけど……」

 

「香蓮さん、()()()に行きませんか?その、ここだとちょっと……」

 

「あー、それもそうか……え~っと、と言う訳なので、ちょっと一緒に来てもらえますか?」

 

「はい、大丈夫ですよ」

 

詩乃の忠告でここが喫茶店であることを思い出した香蓮の先導で店を出た一騎たちは詩乃たちが()()()と呼ぶ場所へと向かうのだった。

 


 

「着きました、ここです」

 

香蓮の先導で一騎たちが着いたのは詩乃たちが拠点として使っているマンションだった。そのまま合鍵を持つ香蓮を先頭に一騎たちはその一室へと入っていた。

 

「あの、だいぶ、高そうなマンションですけど……ここはどなたが借りてるんですか?」

 

「ええと、ここは──」

 

「ここは、スポンサーの借りている部屋です……初めまして、外狩一騎さん。僕は阿僧祇豪志(あそうぎごうし)と言います」

 

「どうも、外狩一騎です。それで、僕に何か手伝えることは?」

 

部屋に入った一騎たちを待っていたのは体格の良い精悍な顔つきの男──阿僧祇豪志だった。まずはこちらに、と促す豪志を先頭に四人はリビングに入った。広めの部屋に数台の大きなパソコンが並べられていたが、部屋の中央にあるテーブルに集まった一騎たちはシールや付箋の貼られた一枚の地図を見せられる。

 

「現在、僕たちは空也さんが現れる場所を絞り込もうとしています──まず、空也さんが出現した地域はこの地図の赤い点で示されています」

 

「なるほど──じゃあ、この、出現地点に多い青い点は何ですか?」

 

「そちらはレイダーの出現地域です。このことから、レイダーの出現地域に来る、とは思うのですが……」

 

「レイダーを見つける方法がない、と?」

 

説明を受けた一騎の問いに、おっしゃる通りです、と頷く豪志。周りを見ると詩乃と香蓮もどうにもならないとお手上げのようだった。

 

「実際に街中をしらみつぶしに探そうにも、僕たちはご覧の通り少人数ですから」

 

「それじゃあ、僕は街中を走り回っていればいいんですか?」

 

「それでもかまいませんが……出来れば、今日か明日にでもエイムズの施設に潜入してもらえませんか?」

 

「ちょっ、豪志さん、何言ってるの!?」

 

「空也のためとは言え、警察に侵入させる訳には……」

 

驚く香蓮と詩乃だが、それも無理はない。豪志の言うエイムズは複合企業であるZAIA(ザイア)の影響を受けてはいるものの、れっきとした政府機関の一つだからである。

 

「いえ、厳密に言えば政府の敷地内にあるZAIAの施設なので、捕まったとしても精々、興味本位の不法侵入者か産業スパイ程度の扱いで済むでしょう」

 

「いや、そう言う問題じゃ──」

 

「いえ、わかりました、お引き受けしましょう」

 

「ええ!?」

 

一騎さん、ホントにいいんですか!?、と驚く香蓮と、その、ありがとう、ございます、と驚きつつも感謝する詩乃だったが、最も驚いていたのは提案したはずの豪志であった。

 

「……まさか、本当に受けてもらえるとは──ともかく、サポートは任せてください」

 

「はい、お願いします。それじゃ、必要な物をメモに書くので……これの調達をお願いできますか?」

 

その辺のホームセンターで買えると思うので、といくつかの物品の書かれたメモを見た豪志は、わかりました、しばらく待っていてください、と言い残して外へと出て行った。

 

「ねぇ、一騎さん。どうして、こんな危ないことに付き合ってくれるんですか?」

 

「うーん、そうですね……困っている人がいて自分なら何とか出来るかも知れない。なら、やらない理由は無いじゃないですか」

 

「(一騎、如何言う心算だ?)」

 

(言ったままだ……それに、不本意だが、情報を集めるならいずれ行く必要があるはずだ)

 

「……一騎さん、ってかなり普通じゃないですよね」

 

「まぁ、探偵なんてやっている人間は多かれ少なかれそんなものです」

 

当然の問いを投げかけた香蓮に対して内心でゴーストに返答しつつあっけらかんと返す一騎。その返答を受けて、それじゃ、データ見ときますね、とどこか疲れた様子でパソコンに向かう香蓮を見送る一騎に、ちょっといいですか?、と詩乃が近づいてきた。

 

「ええと、何かありましたか?」

 

「その、これを施設に入った後に使ってください」

 

詩乃が差し出した手の中には一台のライズフォンが握られていた。よく見れば一般的に出回っている仕様とは違い、何やらUSBケーブルのようなものが収納されているようだった。

 

「これは、一体?」

 

「それは空也が私に預けた物で、仮面ライダーの技術を使ってどんなパソコンでもハッキング出来る物らしいんです」

 

「どうしてそんな物を?」

 

「私に預けた理由はさっぱり……でも、一騎さんなら上手く使ってくれるんじゃないかと思って」

 

どうぞ、と差し出す詩乃に断り切れない一騎は、じゃあ、お借りします、と申し訳なさそうに受け取ると大事に懐にしまった。それじゃ、香蓮さんを手伝ってきます、と詩乃が離れたところで一騎は小さくため息を吐いた。

 

「(一騎よ、如何かしたのか?)」

 

(いや、さっきはああ言ったが……どうにも都合が良過ぎる、と思ってな)

 

「(然り、だが、其れは何時もの事だろう)」

 

(それはそうだが……まったく、儘ならんな)

 

作業を進める二人の背を見ながら、どこか奇妙な感覚に困惑する一騎だったが、時間がないことを思い出すと、豪志が戻ってくるまでの間に潜入のための計画を詰めるのだった。

 


 

「すいませーん、バイク便でーす」

 

都内にある日本政府の所有するビル──エイムズの施設の存在するこの場所にバイク便に扮して眼鏡をかけた一騎が荷物を抱えて受付に来ていた。

 

「バイク便、ですか?」

 

「はい、えーっと、一ノ瀬さんかその上司に直接、届けるように、って言われてるんですけど……」

 

「今、確認しますね……申し訳ありませんが、一ノ瀬は入院しておりまして、上司の相武も所用で出かけておりますので、お荷物をお預かりしてもよろしいでしょうか?」

 

「あー、困ったなぁ……いや、直接じゃないとダメだ、って言われてて……オフィスかどっかで待たせてもらえませんかね?」

 

いや、流石にそれは、と困惑する受付の女性だったが、なんだかんだと五分近くごねる一騎の態度に辟易したのか、奥のフロアに入らないことを厳命した受付によって一騎は中へと通された。

 

「(流石、腹芸と口八丁は十八番、だな)」

 

(黙れ、お前の出来ないことをやっているだけだ)

 

ゴーストの皮肉にも聞こえる賞賛に素っ気なく返答した一騎はエレベーターが目的の階に到着すると、トイレへと向かい個室に入る。

 

(まずは着替えだな)

 

荷物を開けた一騎はツナギを脱いでエイムズの隊服に近い衣装に着替えると、中に入っていた部品を眼鏡に取り付けてスイッチを入れた。その部品には赤外線でカメラに顔を映りにくくする細工が施されており、多少の違和感はあるが、身元を隠す分には申し分ない物であった。

 

「(では、作戦開始だ)」

 

トイレを出た一騎は真っ直ぐにライズフォンを使ってロックを解除した非常階段へと入ると、そのまま目的の階まで移動して一際大きな部屋──サーバー室へと向かった。

 

(残り時間は……何とかなりそうだな)

 

サーバー室へ入った一騎はその中の一台にライズフォンを接続させると、プログラム通り自動的にハッキングを開始したライズフォンの画面にはダウンロードまでの残り時間が表示されていた。

 

「(此の時間、もどかしいものだな)」

 

(ああ、だが、それよりも──)

 

「(然り、敵だ)」

 

「ここで何をしている!?──君は……!?」

 

気配を感じていた一騎はかけられた声に手を上げながら振り向くと仮面ライダーバルカンがショットライザーを構えていた。しかし、銃を向けた相手がつい二時間ほど前にレイダーに立ち向かった青年だったと気づいたバルカンの殺気が少し和らぐのを感じていた。

 

「(倒すか?)」

 

(いや、確かめたいことがある)

 

「ここで何を──」

 

「──僕はある人のために仮面ライダーを探しています」

 

「──何だと?」

 

「そのためにレイダーを見つけたいんです──見逃してもらえませんか?」

 

「……見つけて、どうするつもりだ?」

 

「仮面ライダーを解放します」

 

「……そうか」

 

仮面に隠されて表情の見えないバルカンの問いかけに真っ直ぐ視線を返して答える一騎。その返答を受けてバルカンはおもむろに銃を降ろすと何処からか取り出したUSBメモリを一騎に投げ渡した。

 

「これは?」

 

「ZAIAの所有するレイドライザーの工場の情報だ。レイダーが必要ならこの情報を使え」

 

「っ!?……そんな物もらっていいんですか?」

 

「ああ、俺はZAIAのやり方が気に入らないんでな。外にいる君たちでこの情報を役立ててくれ」

 

ありがとうございます、と頭を下げる一騎に、じゃあな、と言ってバルカンが部屋を出る。残された一騎はダウンロードが完了したライズフォンを回収するとざっと中身を確認した。

 

「(一騎、確認は出来たか?)」

 

(ああ、大体わかった、が……嫌な感じだ)

 

「(如何した?問題でも在ったか?)」

 

(いや、気にするな、俺の考え過ぎかも知れん……ともかく、ここから出るぞ)

 

何事かを確認した一騎は嘆息しつつも荷物を回収して非常階段から外へと出ると、そのまま止めておいたバイクに乗って尾行を警戒しながら拠点へと戻るのであった。

 


 

情報を得てから数時間後、夜の帳の降りて来た道を一騎は借りっぱなしのライズフォン使ってイヤホンマイクでグループ通話をしながらバイクで目的地──地図では森に囲まれた廃工場となっている場所へと向かっていた。

 

『一騎さん、そのエイムズの隊長は信頼してもいいんですか?』

 

『詩乃さん、その話はさきほどもしましたが、他に情報も無い以上、一騎さんに工場を調べてもらうしかないでしょう』

 

『でも、一騎さん一人で大丈夫なんですか?いや、わたしが行っても何も出来ないですけど……』

 

「詩乃さんも香蓮さんも心配してくださってありがとうございます。でも、あくまで内部の写真を撮って現物を確認してくるだけですから」

 

「(抑々、バトルレイダーでは我らを倒せぬがな)」

 

(黙っていろ……今回も油断は出来んからな)

 

通話を続けながらバイクを走らせる一騎だったが、目的地が近づいたことで速度を落とすと、近くの森でバイクを停めた。

 

「そろそろ着くので、一度、切りますね」

 

通話を切った一騎が少し歩くと、目の前には封鎖されているはずの廃工場から薄っすらと灯りが漏れており、周囲には警備員らしき姿も確認できた。

 

「(ふむ、悪党の成す事は何時の世も変わらんな)」

 

(同じ人間だ、どこもそうは変わらんさ……歪められない限りはな)

 

「(然り、では、歪みを正しに行くぞ)」

 

(ああ、ここからは俺たちの時間だ)

 

小さく頷いた一騎は姿勢を低くして静かに走り出すと、そのまま懐から取り出した小石をヘルファイアで強化した指弾を警備員の一人に撃つ。強化された小石は勢いよく胴体に命中すると警備員は気絶した。

 

「うっ」

 

(一つ)

 

「(動く気配は無い……練度は低いようだな)」

 

(銃やアーマーも無い……あくまで民間の警備会社、と言うことか?──いや、単に油断しているだけ、か)

 

周囲を警戒しつつ倒れた警備員の装備を調べた一騎は警備の弱さに違和感を覚えるが、懐に入っていたレイドライザーとバトルレイダーのプログライズキーを見て銃刀法に配慮した形だと納得した。尤も、レイドライザーが現行法で裁ける装備かどうかは別の話であるが。

 

(ともかく、現物の確保は出来たか)

 

「(残るは写真だ……だが、問題は無いだろう)」

 

(油断は出来ん……では、中を見るぞ)

 

持ってきていた道具で警備員を縛り上げて事務所らしき部屋へのドアを開けた一騎の前にはいくつか積まれた木箱が存在していた。その中の一つの蓋を開けてみると中にはレイドライザーが詰められていた。

 

(物はあるな……工場は奥の方か)

 

「(然り、幾つかの気配を感じる)」

 

(よし、行くぞ)

 

木箱に詰まったレイドライザーの写真を撮った一騎はこっそりと元工場のスペースへと続く扉を開けると予想通り、数台の生産装置が稼働しており、ライン上にはいくつものレイドライザーが流れていた。何人かの警備員もいたが、隠れて写真を撮る一騎には気づいていなかった。

 

「(では、(転生者)を誘き出すか)」

 

(ああ……だが、本当にこれで来るのか?)

 

「(今更だろう。怖じ気付いたか?)」

 

(嫌な予感がしただけだ──行くぞ)

 

小さな言い合いを終えた一騎はゴーストライダーに変身して飛び出すと、強化したチェーンを延ばして生産ラインを叩きつぶした。

 

「敵襲だ!?」

 

「野郎っ!──何っ!?」

 

ゴーストライダーに気づいた一人が叫ぶと五人ほどいた警備員が全員バトルレイダーへと変身する。その中の先走った一人がゴーストライダーを銃撃するが、びくともしていなかった。

 

「何だあの化け物は!?」

 

「撃てっ!」

 

連続して響くトリデンタの発砲音。ゴーストライダーの居た場所が発砲による硝煙の煙で見えなくなったころ、撃ち方止め!、の合図で銃撃が止んだ。

 

「流石に、これだけ撃てば──」

 

「無駄だ」

 

「なっ!?」

 

大量の銃弾を叩き込まれたはずのゴーストライダーは無傷であり、そのまま伸ばしたチェーンで驚愕するバトルレイダーたちをまとめて縛り上げる。

 

「ぐっ……おい、誰か動けるか!?」

 

「無理、だっ!」

 

「少し大人しくしていろ」

 

「ぐわっ!?」

 

身動きの取れないバトルレイダーたちに握りこんだ右の拳を叩き込むゴーストライダー。そのストレートを受けたバトルレイダーたちはまとめて壁へ叩きつけられた。

 

「ぐっ……くそっ」

 

「さて、奴が来るまで待たせてもらうか」

 

倒れたまま動けないバトルレイダーたちを放置したゴーストライダーは、世界の歪みが生み出したレイドライザーを破壊し始める。そして、先ほどの木箱を含めてあらかた破壊しつくしたゴーストライダーはふと違和感に気づく。

 

(奴の反応はあるか?)

 

「(否、何処にも無い……此れは、如何言う事だ?)」

 

(……やはり、早計だったか。こいつらを倒して退くぞ)

 

「ぐあぁっ!?」

 

ゴーストライダーが手をかざすとバトルレイダーを縛るチェーンが爆発し、壁ごとまとめて吹き飛ばされたバトルレイダーたちは変身が解除される。しかし。

 

(帰るぞ──っ!?)

 

「動くな!エイムズだ!」

 

空いた穴から外へ出たゴーストライダーを待っていたのは十人近いバトルレイダーを従えて銃を構えたバルカンの姿であった。上空にはヘリが飛んでおり、よく見ればその中にはカメラを抱えた人物の姿も見えた。

 

「(謀られたか!?──我が気付かぬとは、一体……!?)」

 

(どうやら、妙なことになって来たな……)

 

「お前がゴーストライダーだな?!」

 

「ならばどうする?」

 

「決まっている!世界の破壊者ゴーストライダー!貴様を逮捕する!!」

 

答えたゴーストライダーに対して銃を構えるバルカンとそれに続くバトルレイダー。十対一、本来ならば圧倒的に不利な状況でいつも通り悠然と構えていたゴーストライダーはその心中でこの状況に困惑しつつも一つの結論を出していた。

 

(決まりだな──こいつは猟犬だ)

 

「(何?……だが、刻印の反応は無い。如何言う事だ?)」

 

(何か仕掛けがあるはずだ……だが、今は退くぞ)

 

「っ!?──撃てっ!」

 

その場を立ち去るべく歩き出したゴーストライダーに向けてバルカンの合図で一斉に銃弾が放たれる。だが、それを意に介さずに歩き続けたゴーストライダーは工場から少し離れて立ち止まった。

 

「くそっ!こうなったら──」

 

「悪いが、捕まるわけにはいかんのでな」

 

「な──ぬわっ!?」

 

銃撃が効かないことに業を煮やしたバルカンが必殺技を撃とうとするが、その前にゴーストライダーがおもむろにチェーンを伸ばしてエイムズを薙ぎ払うと呼び寄せたヘルバイクに乗って空へと走り去るのであった。

 


 

「(一騎よ、次は如何する?)」

 

(一度、彼らの元へ戻る……何があるか分からんがな)

 

工場から脱出した一騎は、報告は明日、と豪志から連絡を受けたため、翌朝、指定された時間になってから拠点のマンションへと向かい、インターホンを鳴らすと応答したのは豪志だった。

 

『どうぞ、鍵は開いてますから、上がってください』

 

「(鬼が出るか蛇が出るか、と言ったところか)」

 

(無駄口を叩くな……まぁ、理解は出来るがな)

 

内心で辟易した一騎が部屋に入り、リビングへ入るとその場にいた詩乃、香蓮、豪志の三人の視線が一騎へと向けられた。おはようございます、と挨拶する一騎に対して、ぎこちない挨拶を返す三人、その視線にはどこか窺うような感情が込められているようだった。

 

(これは、何かあったな)

 

「(気を抜くな、一騎)」

 

「これが、昨日のデータとレイドライザーです」

 

「……どうも、ありがとうございます」

 

「いえ、ところで、皆さんは何か僕に聞きたいことがあるんじゃないですか?」

 

「「「!?」」」

 

素っ気なく返事をする豪志に対して問いを返す一騎。その言葉に驚く三人だったが、意を決した香蓮が、これを見てください、とスマホの画面に映る動画を見せる。そこには昨日のエイムズと対峙するゴーストライダーの姿が映っていた。

 

『──世界の破壊者ゴーストライダー!貴様を逮捕する!!』

 

「……これは」

 

「昨日のニュースで流れた映像です。こっちは今朝のです」

 

続いて見せられた映像は昨日の昼間のトリデンタを撃つ一騎の後に爆発して吹き飛ばされるバトルレイダーを合成した一連の映像だった。そして、映像の終わりには一騎がゴーストライダーとして指名手配されている、と言う情報が付随されていた。

 

「(やはり、謀られていたか)」

 

(なるほど。これは少々、分が悪いか)

 

「一騎さん、これ、どう言うことか説明してもらえますか?」

 

一騎を見つめる三人の視線。だが、その中には疑念だけでなく、一騎を心配するような感情も読み取れた。そして、状況を分析した一騎は大きくため息を吐いた。

 

(言い逃れは不可能、か……話すしかないな)

 

「(……良いだろう。こうなっては仕方あるまい)」

 

「──わかりました。全て話しましょう」

 

ゴーストとの会話を終えて、少し長くなりますが、と前置いた一騎に対して三人の真剣なまなざしが注がれる。

 

「まず、僕はゴーストライダー、転生者から刻印を回収するために外の世界から来ました」

 

「転生者……?」

 

「はい、奴らは元々、僕の世界の住人でした。しかし、刻印を使って僕の世界から存在するためのエネルギーを奪って超常の力──特典とそれを自由に使える世界を作った、人の姿をした、ある種の怪物です」

 

「そんな、同じ人間を怪物だなんて……」

 

「怪物ですよ。自分の願いのために世界とそこに住む人々を、死ぬことも出来ない苦しみで満たす。そして、他者から奪って身勝手に作り出した世界を蹂躙する──そんな存在が本当に人間と言えますか?」

 

淡々としているが、どこか深い憎しみを感じさせる一騎の語りに三人は言葉を失う。そして、そんな三人の姿を見る一騎の視線には薄っすらと哀れみのようなものが含まれていた。

 

「現に、この世界は存在するはずのない、仮面ライダーとレイダーによって混乱が引き起こされ、皆さんのように戦いに巻き込まれる人間も少なくはないでしょう」

 

「ちょ、ちょっと、待ってください!あの、その言い方だと、この世界が、その転生者?に作られた世界みたいに聞こえるんですけど……?」

 

「ええ、香蓮さんのおっしゃる通りです」

 

「「「!?」」」

 

一騎の返答に驚愕する三人。特に、質問したはずの香蓮のショックは大きかったのかその顔は薄っすらと青ざめていた。

 

「驚くのも無理はありません。ですが、転生者──おそらく、今は飛電空也と名乗る人物によって、僕の世界で作品として語られる世界を元に作られた世界です」

 

「そんな……彼が、この世界を……?」

 

「空也が、転生者……?」

 

「……一騎さん、それって、わたしたちは創作上の実在しない人間、ってこと、ですか?」

 

三者三様にショックを受けていたが、香蓮の一言に三人の視線が一騎へと集中する。

 

「いえ、皆さんは創作に近い世界を元にしていますが、れっきとした今を生きる人間です。そして、そんな人々を好き勝手にしていい権利は誰にもありません──それだけは覚えていてください」

 

「……そう、ですか……ん?あの、刻印が世界を作った、ってことは特典がなくなったらどうなるんですか?」

 

一騎の言葉に納得した香蓮だったが、ふと思い立った疑問を一騎にぶつける。そして、詩乃と豪志も同じ疑問に行き当たったようであった。

 

「そうですね……おそらく、世界は緩やかに終わりに向かって行くでしょう」

 

「そんな!?──それじゃ、わたしたちはどうすれば……」

 

「少し待ってください。緩やかに、と言うのは全ての問題が解決して発展しきった世界が衰退して行く、と言う意味です」

 

「えっと、つまり?」

 

「具体的には百年単位の猶予はあると思います。さらに、科学の発展によっては恒久的な存続の可能性も極僅かですが、あるでしょう」

 

まぁ、普通の世界とそう大きくは変わりません、と言う一騎の言葉に緊張していた三人の表情には薄く安堵が見えた。

 

「そうですか……じゃあ、続きをお願いします」

 

「はい。僕はそんな転生者の力の源である刻印を回収して、僕の世界を()()()()()()()()ためにゴーストライダーとして戦っています」

 

「正しく、終わらせる……?」

 

一度は納得した香蓮は一騎の言葉に困惑を深める。口には出さないが、詩乃と豪志も同じく困惑しているようだった。

 

「ええ、僕の世界はエネルギーを奪われた曖昧な状態で終わることも出来ません。そのため、住人は永遠に苦しみ続けるでしょう。だから、僕は刻印を回収して僕の世界を元に戻したいんです」

 

「あの、元に戻るなら、その世界は終わらないんじゃないですか?」

 

「いえ、無くなったものは元には戻りません。ですから、僕の世界は一度、生まれなおす必要があるんです」

 

「そう、だったんですか……」

 

予想以上の壮大な話ではあったが、一騎の戦う理由に言葉を失う三人。そんな三人に対して一騎は柔らかくほほ笑んだ。

 

「さて、これで僕の話は終わりです。それじゃ──」

 

「ちょっと待ったぁ!!」

 

部屋を出るために一騎が立ち上がろうとしたところで突如、部屋のドアを力強く開けて黒い長髪で小柄な女性──神崎(かんざき)エルザが勢いよく入って来た。

 

「話は隣の部屋で聞かせてもらった!転生者狩り、私にも参加させてもらおうじゃないの!」

 

「ピ──エルザさん!?何言って──いや、まぁ、そうなるよね……」

 

「いーじゃん別にー。それより、初めまして外狩一騎さん、私の事は──知ってるよね?」

 

「ええ、神崎エルザさん、ですよね。それで、先程の言葉の意味は?」

 

いきなり入って来たエルザの発言に頭を抱える三人だったが、そのまま挨拶を済ませたエルザに一騎は確認の問いを返すとエルザは楽しそうに笑った。

 

「そのままの意味。だって、転生者って怪物を正義の名の下にぶちのめせるんでしょ?そんな楽しそうなこと参加しないともったいないじゃない!」

 

「──一騎さん、こうなった彼女は止められません。なので、僕も協力しましょう」

 

「はぁ……この二人だけだと不安なので、わたしもお手伝いします。これも何かの縁、ですからね」

 

「……皆さん、ありがとう、ございます──詩乃さんはどうしますか?」

 

言い方は違えども口々に協力を申し出る三人に頭を下げて礼を言う一騎。そして、顔を上げた一騎の視線は押し黙る詩乃へと向けられた。

 

「私は……空也がどうしてこの世界を作ったのか聞きたい──だから、彼を信じるために協力させてください!」

 

「……わかりました。それじゃあ、改めて──皆さん、よろしくお願いします。それで、これからの事なんですが──」

 

自らの言葉で協力を表明した詩乃。全員の覚悟を聞いた一騎はひとまずの状況を整理するところから始めるのだった。

 


 

『聞こえますか、一騎さん』

 

「はい、大丈夫です。無事に着きました」

 

イヤホンから聞こえる香蓮の声に答えた一騎はゼロワンについて詳しく調べるために飛電製作所の封鎖された研究施設へと来ていた。施設の周囲はフェンスで囲まれていたが、難なく潜り抜けた一騎は監視装置などがない事を確認する。

 

「こちらは大丈夫そうですが、豪志さんたちの方から何か聞いてますか?」

 

『ええっと……今は分析待ち、だそうです。詩乃ちゃんも学校がありますからね』

 

今は二人で頑張りましょう!、と意気込む香蓮に対して、そうですね、と微笑みながら返す一騎。レイドライザーの分析が終わるまでに情報を集めるべく窓の一部を焼き切って内部へと潜入した一騎は、ライズフォンを取り出すと内部の地図を見ながら目当ての部屋へと向かった。

 

(さて、この部屋のはずだが、どう探すか……)

 

「(一騎、其処の壁から風の音だ)」

 

(なるほど──見つけた)

 

『オーソライズ!』

 

地図と風の音を照らし合わせた一騎はその壁にライズフォンを向けると、電子音声とともに壁が横にスライドして隠し通路が姿を現した。

 

『一騎さん、見つかりましたか?』

 

「はい、何とか。でも、幼馴染だけあって詩乃さんの情報は正確ですね」

 

『そうなんですか?わたしは情報を集める方なのであまり分からなくて……』

 

「まぁ、そうですよね──では、これから部屋に入ります」

 

『わかりました、気を付けてくださいね』

 

香蓮に報告しつつ隠し通路を進んだ一騎が突き当りの扉の前を開けると、その中には一台の大型の3Dプリンターと制御端末があるだけだった。

 

(端末、か……何か出るか?──いや、出るだろうな)

 

端末に近づいた一騎がライズフォンのケーブルを繋ぐと内部の資料が閲覧できるようなった。そして、ダウンロードしつつ資料を眺める一騎はその中にゼロワンのシステムに関する資料を見つけた。

 

「(何故、出ると確信した?)」

 

(直感、いや、推理だな──認めたくはないが、全て掌の上だったようだ)

 

「(?其れは如何言う──)」

 

意味だ、とゴーストが問いかけようとしたところで急にライズフォンの呼び出し音が鳴り響く。画面を見ると、香蓮からの着信だったため、一騎は通話ボタンを押す。

 

「香蓮さんですか?資料を見つけました──ゼロワンのAIに関する記述もあります」

 

『本当ですか!?──それより、早く戻ってください!』

 

「?何かあったんですか?」

 

『エルザさんから連絡があって、豪志さんがレイドライザーを持って出て行った、って!』

 

「──なるほど。とりあえず、理由は分かるかもしれません」

 

『どう言うことですか!?』

 

困惑した様子の香蓮だったが、端末で資料を確認していた一騎はゼロワンが作られた目的を知ったことで豪志の行動の理由に見当がついていた。

 

「ゼロワンは高度に発達したAIへの対抗策として作られました。なので、おそらく本能的に、いえ、システムの根幹として暴走するAIを狙うはずです」

 

『暴走するAI、ですか?……それと、どんな関係が?』

 

「はい、どうやらAI──ザイアスペックやそれに類するデバイスを持つ人間がレイドライザーを使うことが彼の現れる条件だったようです」

 

『!?今、調べてみますね……これは、確かに、その可能性は高そうです!──ってことは!?』

 

「つまり、専門家からそのこと聞いた豪志さんは、エルザさんが気づく前に自分が囮になるつもりだと思います」

 

まぁ、あくまで僕の想像ですが、と一騎が結論付けたところで、隠し通路の入り口近くから爆発音が鳴り響いた。

 

『今の音は!?』

 

「エイムズでしょう。ここは何とかするので、香蓮さんは豪志さんの居場所を見つけてください」

 

『は、はい、わかりました。一騎さん、上手く逃げてくださいね!』

 

「はい、なんとかやってみます……さて、こちらも急ぐとするか」

 

通話が切れたタイミングでバトルレイダーが雪崩れ込んで来る足音を聞いた一騎は状況を打破するべく動き出すのだった。

 


 

(これは……マズいですね)

 

人気のない港に鳴り響く銃声と爆発音、倉庫に吹き飛ばされたバトルレイダー─―豪志は内心で焦っていた。それは、立ち上がった豪志の目の前には推論が合っていたことを示すようにゼロワンの姿があったからである。

 

「ですが、ただ倒れる訳にはっ!」

 

『ハード!』

 

「……」

 

銃撃で足止めをしつつ距離を取った豪志は焼け石に水と知りつつも足を止めて必殺技の準備をする。そんな豪志の内心を知ってか知らずかクラスターセルで銃撃を防いだゼロワンは感情を感じさせない動きで豪志の方を見ていた。

 

「さぁ、来い!」

 

「……」

 

距離を取りつつ睨み合う豪志とゼロワン。じりじりと下がりつつゼロワンの動きを窺う豪志に対してゆらり、とゼロワンの体が動くとクラスターセルが小さなバッタの形となって豪志に襲い掛かる。

 

「っ──そこっ!」

 

『インベイディングボラスト!』

 

ゼロワンのクラスターセルを見た豪志は横っ飛びしつつカウンターで必殺技を放つ。銃口から放たれたエネルギーは無防備なゼロワンへと突き刺さる──はずだった。

 

「なっ──」

 

着地しつつ驚愕する豪志だが、それも無理はない。インベイディングボラストはバッタの群れの一部が盾となって防ぎ、残りのバッタが豪志に殺到したからである。

 

「ぐあぁっ!」

 

転がりつつも赤いエネルギーバリアで防ごうとした豪志だったが、そのまま勢いよく反対側の入り口まで吹き飛ばされて変身が解除されてしまう。

 

「ぐぅ……流石に、限界ですかね……」

 

「……」

 

倒れて動けない豪志に対して悠然と近づくゼロワン。あとは死を待つばかりだった豪志の耳にバイクの爆音が響く。そして。

 

「どうやら、間に合ってもらえた、みたいですね……」

 

飛び込んできたバイクが燃え上がりつつ変身、ゼロワンの直前でブレーキをすると、前輪を軸にして後輪を持ち上げるターン──所謂ジャックナイフターンと呼ばれるテクニックである。そして、その途中で持ち上がったヘルバイクの後輪で勢いよくゼロワンを倉庫の奥へと弾き飛ばした。

 


 

 

「まったく……大した度胸、いや、献身と呼ぶべきか」

 

「ええ、彼女を愛してますから」

 

ヘルバイクから降りたゴーストライダーは呆れたような態度で倒れた豪志に目を向ける。倒れつつ力強い返事を返す豪志に対してゴーストライダーは小さくため息を吐いた。

 

「──まぁいい。下がれるようなら下がれ。ここは戦場になる」

 

「そう、ですね……僕も死にたくはないので、下がらせてもらいます」

 

ゴーストライダーに引かれて立ち上がった豪志が倉庫の外へふらふらと歩いて行く姿を横目で見送ったゴーストライダーは、倉庫の奥──吹き飛ばされて立ち上がったゼロワンを見据える。

 

「来い、哀れな人形よ──いや、この言葉すら届かんか」

 

「……」

 

憐れむようなゴーストライダーの言葉にも無反応なゼロワンは防衛本能──基本ルーチンに従ってクラスターセルのバッタの群れをゴーストライダーに向けて解き放つ。そして、殺到するバッタの群れにゴーストライダーが飲み込まれた。

 

「無駄だ、意思無き力に俺は倒せん」

 

地獄の底から響くようなゴーストライダーの声が群れの中から聞こえると、突如、群れが燃え上がり、全てのバッタが融解しただけでなく形を失った飛電メタルが蒸発していた。

 

「では、こちらの番だ」

 

「……」

 

宣言とともに走り出すゴーストライダーが左手でチェーンを伸ばすと、それを受け止めたクラスターセルの盾が大きく後ろに押し出される。勢いよく迫るゴーストライダーに脅威を感じたのか感情が無いはずのゼロワンは焦ったように残りのクラスターセルをかき集めてアーマーを再構成する。しかし。

 

「遅い」

 

再構成の隙をついて巻きついたチェーンがゼロワンの体を宙に浮かせ、ゴーストライダーの元へと引き寄せるが、ゼロワンは拳を振りかぶって交差する瞬間のゴーストライダーの顔面に叩きつける。

 

「言っただろう、意思無き力では倒せん、と」

 

叩き込まれるはずだったゼロワンの拳は右手の指弾で逸らされていた。そして、そのまま体を捻ってガラ空きのゼロワンの胴体を右の拳で打ち上げると、天井に当たる直前でチェーンを操って無防備なゼロワンを目の前の地面に叩きつけた。受け身の取れないゼロワンはダメージの蓄積が許容値を超えたのか立ち上がることもなくそのまま地面に倒れ伏す。

 

「──ゲホッ、ゴホッ」

 

「まだ生きていたか。だが、それもこれまでだ」

 

変身が解除されて倒れ伏す少年──飛電空也は咳き込んでいるが、蓄積した疲労とダメージでまったく動けず、悠然と近づくゴーストライダーにも気づかないようだった。

 

「自らの浅慮を悔いるがいい──っ!?」

 

空也を掴んで顔の近くまで持ち上げたゴーストライダーは贖罪の眼(ペナンスステア)を覗き込ませようとするが、突如、横から放たれた銃撃によって空也は頭を撃ち抜かれる。

 

「(一騎、刻印を奪われた!)」

 

「何だと……!?」

 

「油断大敵だぜ?ゴーストライダーさんよ」

 

ゴーストライダーが銃撃と声の方向を見ると、そこにはゴーストライダーにショットライザーを向けるバルカン、アサルトウルフの姿があった。

 

「猟犬が狼を使うか」

 

「ハッ、そうやって油断してると足元掬われるぜ?」

 

「ああ、お前がな」

 

「何言って──うおっ!?」

 

ゴーストライダーの言葉に油断なく返したはずのバルカンだったが、背後のヘルバイクから飛んできた短いチェーンに足を引っかけられて態勢を崩したところにゴーストライダーの伸ばしたチェーンが叩きつけられる。

 

「逃がさん」

 

「ぐ、この──おあぁっ!?」

 

立ち上がろうとするバルカンだったが、伸ばしたチェーンと足元のチェーンが繋がって絡め捕られる。そして、そのまま天井近くまで持ち上げられたバルカンは先程のゼロワンのように思い切り地面に叩きつけられた。

 

「ぐ、う、流石はゴースト──」

 

「黙れ」

 

「──ぐあぁっ!」

 

何とか耐えていたバルカンが立ち上がって喋り出そうとするが、その前にゴーストライダーはヘルファイアでチェーンをバルカンごと爆発させた。

 

「もう終わりか?猟犬──いや、朝田詩乃」

 

「(一騎、其れは如何言うことだ!?)」

 

「へぇ、知ってたのか?」

 

驚愕するゴーストだが、それも無理はない。ゴーストライダー──一騎の問いかけた先、晴れた煙の中にはその言葉通りショットライザーを構えた詩乃の姿があったからである。

 

「違和感は最初からあったが、確信したのは製作所だ」

 

「ありゃ?演技は完ぺきだったと思ったんだがなぁ」

 

「演技は問題ない。だが、()()()と言い、都合が良すぎだ」

 

わざとらしいオーバーリアクションを取る詩乃──猟犬に対して指摘とともにゴーストライダーが放り投げたのは詩乃が渡したライズフォンだった。

 

「なるほど、そりゃそうか。ま、刻印は頂いたから何でもいいけどな」

 

「逃がすと思うか?」

 

「ハッ、逃げると思うか?」

 

『ランペイジバレット!』

 

猟犬を睨みつけて問いかけるゴーストライダーに対して、猟犬はショットライザーを撃ちつつポケットからランペイジガトリングプログライズキーを取り出した。そして、右手の指先だけでマガジンを回してから、手首のスナップで展開すると左手に持っていたショットライザーに装填する。

 

「何だと……!?」

 

「驚くのは早いぜ!」

 

『オールライズ!』

 

「変身!」

 

『フルショットライズ!』

 

人間の握力を超えた行動に驚愕するゴーストライダーを置いて、放たれた弾丸を受けた猟犬は仮面ライダーランペイジバルカンへと変身を遂げた。

 

「ほぅ、なかなか良いパワーじゃないか?」

 

「(一騎、奴から先程の刻印の力を感じるぞ!)」

 

「なるほど、奪った刻印を武器にしたか……!」

 

「ま、そういうことだ。んじゃ、とっとと死にな!」

 

『スピード!ランペイジ!』

 

ゴーストライダーの指摘をあっさりと肯定したランペイジバルカンは即座にプログライズキーのマガジンを二回回すと引き金を引いた。

 

「まずはコイツだ!」

 

「ぬ──」

 

ショットライザーから蜂の針を模したエネルギー弾が一斉に発射され、撃ち込まれたゴーストライダーは足を止める。

 

「まだまだぁ!」

 

「ぐ、う」

 

続いてショットライザーをベルトに戻し、チーターの力で高速移動したランペイジバルカンが連続でキックを叩き込むとその勢いでゴーストライダーは一瞬怯んだ。

 

「ここだあっ!」

 

『ランペイジスピードブラスト!』

 

止めとばかりにファルコンの翼で飛び上がったランペイジバルカンは頭上からキックを叩き込む──ランペイジスピードブラストと呼ばれる一連の必殺技がゴーストライダーに炸裂した──はずだった。

 

「軽いな」

 

「ま、そりゃ、そうなる──があっ!?」

 

頭上からのキックを左手で受け止めたゴーストライダーはそのままランペイジバルカンを地面に叩きつける。

 

「この──ぐえっ!」

 

ゴーストライダーの腕を振り解こうとするランペイジバルカンだったが、次の動作に移る前に再度、地面に叩きつけられその行動は防がれる。

 

「俺の邪魔ばっか──ごあっ!」

 

今度はプログライズキーを触ろうとするが、全身をヘルファイアに包まれつつ地面に叩きつけられたことで、流石のランペイジバルカンも動きが止まった。

 

「この、いい、加減に──」

 

「これで終わりだ」

 

「ぐおあぁっ!」

 

抗議の声を上げるランペイジバルカンだったが、その言葉を言い終える前に手首のスナップで体を放り上げられると、無防備な胴体へとゴーストライダーの右ストレートが突き刺さって弾き飛ばされた。そして、6mほど先の地面でバウンドして転がるとその先の倉庫の壁に叩きつけられて変身が解除された。

 

「……終わったか」

 

「(然り。だが、妙だ。刻印の反応が消えた)」

 

(消えた?どう言う事だ……!?)

 

ゴーストライダーの呟きに答えたゴーストの言葉に驚愕しつつも倒れた詩乃に近づくゴーストライダー。だが、大きな外傷もなく倒れる詩乃からは刻印の反応はなかった。

 

(猟犬だったことは確かなはずだ……)

 

「(然り、戦いの中では確かに刻印の反応はあった)」

 

(……()で確認するぞ)

 

困惑するゴーストライダーたちだったが、気絶する詩乃の目を開かせてその魂と記憶を贖罪の眼(ペナンスステア)で覗き込む。しかし、その記憶はメタルクラスタが暴走したところで終わっており、この数日間の記憶は存在していないようだった。

 

(これは……刻印も奪われたか)

 

「(然り、残滓は追えるが……完敗、だな)」

 

(ああ……だが、次はない)

 

自身の失策を痛感した一騎はゴーストとともに難敵を殺す決意を固めるとゲートをくぐり、次なる世界へと向かうのであった。

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