GHOSTRIDER:Dog Eat Dog   作:雁野 命

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Dog Eat Dog #09

『ジャンプ!オーソライズ!』

 

夜の路地裏に響く電子音声。その音の発生源は死んだ魚のような目をした黒髪の少年──比企谷八幡(ひきがやはちまん)の腰に巻かれたベルト──飛電ゼロワンドライバーであった。そして、ライジングホッパープログライズキーを構える八幡の視線は目の前に立つゴーストライダーへと向けられていた。

 

「……()()、お前か」

 

「何言ってんだ?……まぁ、いいか──変身!」

 

『プログライズ!』

 

呆れ果てたような口調のゴーストライダーに対して八幡は訝しみつつも展開したプログライズキーをドライバーに差し込むと、上空から落ちて来たバッタ型のライダモデルがアーマーとなって展開され、八幡は仮面ライダーゼロワン、ライジングホッパーへと変身するが、ゴーストライダーはその姿をただ眺めているだけであった。

 

「来ないのか?なら、こっちから行くぞっ!」

 

「(一騎、()()()とは言え敵は討たねばならん)」

 

(ああ、分かっている、が……まったく、儘ならん、な)

 

跳びかかるゼロワンを前に辟易しつつ内心で頭を抱える一騎とゴースト。一見、油断にしか見えない姿であったが、圧倒的な実力差を持つゴーストライダーは片手間に相手をしつつ、この戦いの始まりを思い出すのだった。

 

 


 

猟犬の反応を追ってゲートをくぐった一騎は昼前の廃墟近くに出ていた。白い息を吐きながらライダースジャケットを着て周囲を見渡す一騎はフェンスの向こうに特徴的な台形の建物──ボーダー本部が見えたことで警戒区域近くに出たことに気づくが、その表情はどこか険しかった。

 

(ワールドトリガー、か……()の反応はあったか?)

 

「(否、既に此の世界から出たようだ)」

 

(そうか……跡は追えても奴にかかり切り、と言う訳にはいかんか)

 

猟犬がいないことを告げられた一騎は少し落胆するものの、一度、ため息を吐くと呼び出したバイク用のグローブを嵌めつつバイクに軽く寄りかかる。

 

「(……悪い知らせだ。今回も刻印の反応が弱い。此の周囲には居ないが、用心しろ)」

 

(了解した……まったく、儘ならんな)

 

またもや特殊な状況であることを警告するゴーストに頷く一騎は辟易しつつもフルフェイスを被ってバイクに乗ると転生者を探して街の中へ向けて走り出した。

 

「(一騎、近づかねば刻印は探せんが、如何する?)」

 

(本部にいないなら、次は学校だ。今の時期ならおそらく授業中だろう)

 

「(成程。ならば、我は捜索に専念しよう)」

 

(何か策があるのか?)

 

「(刻印が追えぬなら罪の気配を追う……些か時間は掛かるだろうが、他に手はあるまい)」

 

何かあれば呼べ、と言い残して集中したゴーストが静かになると、バイクを走らせる一騎の目にはもうしばらくでクリスマスの飾り付けが始まるであろう、平和な冬の街並みが映っていた。

 

(平和、か……仮初めであっても、いや、仮初めだからこそ俺たちが守らなければ……)

 

「(──見つけたぞ、学校、此の先だ)」

 

(っ!?分かった、誘導を頼む──なるほど、確かに、ここが転生者の居場所だろうな)

 

しばらく走り回っていた一騎が人々の営みに決意を新たにしていると、突如、かけられたゴーストの声に誘導されて交差点を曲がる。そして、声に導かれた一騎が辿り着いたのは三門市にあるはずのない一つの高校──総武高校であった。

 


 

(まったく……度し難いな)

 

学校を見張っていた一騎が見つけた転生者──比企谷八幡の姿をした少年を追跡する中で、彼がボーダー関係者であること、そして、特殊な(ブラック)トリガー使いであることを突き止めたが、帰宅した八幡の姿を夜の闇の中で監視する一騎は侮蔑の表情を浮かべていた。

 

「(然り、だが、此のような転生者は今までにも居た)」

 

(だからこそ俺には許せない。それに、奴は人の姿を──存在を奪っている)

 

反吐が出る、と吐き捨てる一騎だが、軽蔑するのも無理はない。本来この世界にないはずの少年の姿や家族だけでなく、総武高校の奉仕部やクラスメイトまでまとめて再現しているとなれば、この世界に与える影響は計り知れないからであった。

 

「(なればこそ、だ。我等は罪人を等しく憎まねばならぬ──そうであろう?)」

 

(……そうだな──ああ、その通りだ)

 

ゴーストの言葉で冷静になった一騎は意図せず固く握っていた拳を解きながら一度深呼吸をすると、八幡の家を見張りながら思案を始める。

 

(……しかし、刻印の反応が弱いのが気になるな)

 

「(然り、弱った様子は無い。が、此の世界には他の反応は無い。仕掛けぬ道理は無い筈だが?)」

 

(ああ、だが、一応、様子を見る──いつも通り、確実に仕留める)

 


 

「──ん?何だ、コレ?」

 

放課後、三々五々に帰って行く生徒の中で下駄箱を覗いた八幡は丁寧な筆跡の手紙が入っていることに気が付いた。差出人は不明だが、よく見れば、比企谷八幡さんへ、と宛名まで書かれていれば入れ間違えた、と言うことは無さそうであった。

 

「……マジかよ……?」

 

慌てて手紙をしまいつつ周囲を見回す八幡だったが、気づいた生徒はいないようで忘れ物をした風を装ってトイレの個室へと駆け込んだ。

 

「……これは……!」

 

市販されている便せんだったが、丁寧な筆跡で書かれた内容は要約すると、話があるから今日の放課後に屋上に来てほしい、と言うものであり、ともすれば告白──あるいは決闘ともとれるような呼び出し状であった。

 

「誰だ?由比ヶ浜、って線はなさそうだし、雪ノ下──はこんな事しなさそうだからなぁ……」

 

ああでもないこうでもない、と唸る八幡だったが、考えても仕方がない、と気合を入れると確認のために急いで屋上へと向かいその扉の前で立ち止まる。

 

(ん?屋上の扉って封鎖されてなかったっけか?)

 

ドアを開けようとした瞬間に何か違和感を感じた八幡だったが、ま、いいや、と思考を放棄するとゆっくりと扉を開け放った。

 

「あれ?誰もいない……騙されたとか、無いよな?──誰だっ!?」

 

扉を開けっ放しのまま夕日に照らされる屋上の真ん中へと進む八幡は自分の前に影が伸びていることに気づくと勢いよく振り返るが、その時には目の前、ちょうど先ほど入って来た入り口の前に一人の男──一騎が降り立ったところだった。

 

「お前たちを狩る者だ」

 

「なるほど、猟犬、って奴か。犬なら犬らしく骨でもくわえてろっての」

 

「犬、か。確かに、虎の威を借る狐、いや、他人から奪うことしか出来ん愚物を狩るにはちょうどいいかもな」

 

「チッ、言わせておけば!──トリガー起動(オン)!」

 

軽く挑発する八幡だったが、それを上回る一騎の罵倒に怒りを露わにすると、懐から取り出した握りの付いた柄のようなもの──トリガーを起動する。そして、その体はトリオンで出来た青い隊服を着た戦闘体──トリオン体に換装されると、右手にはトリオンで形成された光刃を持つ日本刀──弧月(こげつ)が握られていた。

 

「さぁ、アンタの能力を見せてもらおうか!」

 

「御託はいい、とっとと来い三下」

 

「──ッ!?吠え面かくなよ、野良犬がっ!」

 

一騎の更なる挑発に激昂した八幡は一足で距離を詰めると、右手の弧月を一騎の首めがけて片手で真一文字に右薙ぎの一撃を放つ。超人的な身体能力を持つトリオン体から放たれた一撃は常人では捉えることすら難しく、ましてや遠征組のA級アタッカーにも勝ち越せる八幡の一秒にも満たない速度で振るわれる剣戟を避けるのは不可能──なはずだった。

 

「動きが単調だ」

 

「な──ぬあっ!?」

 

突如、衝撃を感じて転ぶ八幡だが、驚くのも無理はない。必殺の一撃は弧月を持った手を掴んだ一騎がそのまま勢いを使って投げ倒すとそのまま倒れた八幡を取り押さえつつ弧月を取り上げていた。

 

「このっ!離せ!!」

 

「ああ──いいだろう」

 

「え?──ぶげえっ!?」

 

関節を押さえられているため、想像以上に力が伝わらず体をよじるのがやっとの八幡を宣言通り解放した一騎だったが、そのついでに手元の弧月で両腕を切り落とす。そのまま、八幡を屋内へ蹴り飛ばすと受け身の取れない八幡は階段の踊り場へ転がり落ちて顔面を強かにぶつけた。

 

「借り物の力に頼るからそうなる──哀れなものだな」

 

「ぐ、くそっ!」

 

無様に這いつくばっていた八幡は両腕がないため、壁に寄りかかってなんとか立ち上がる。対する一騎は手元の弧月をその辺に放り投げつつ、八幡が必死に足掻く様子をつまらなさそうに見下ろしているだけだった。

 

「クソっ……分かったよ。それじゃ、俺の本物を見せてやる──トリガー解除(オフ)!」

 

 

「……いいだろう、見せろ、()()()本物を」

 

「散れ、千本桜!」

 

一度トリガーを解除した八幡は懐から取り出した刀身の無い鍔の付いた日本刀の柄──(ブラック)トリガー、千本桜(せんぼんざくら)を起動する。見た目には先ほどと同じトリオン体に換装しただけだが、その右手には先程の柄にトリオンで形成された金属の刀身が備わった日本刀──千本桜が握られていた。

 

「さぁ、これが俺の()()だ!!」

 

「……そうか、なら、()()本物を見せてやろう」

 

得意気な表情で刀を見せる八幡に対して冷めた視線を向ける一騎が静かに宣言して屋内に入ると体が炎に包まれてゴーストライダーへと変身した。

 

「っ!?なるほど、()()がアンタの本物か」

 

「……今のお前に本物は掴めない」

 

「何言ってるかわかんねー、よっ!」

 

悠然と見下ろすゴーストライダーに対して刀を向けた八幡は刀身を桜の花びらのように細かく分解させて殺到させる。そして、あらゆる物を切り裂くトリオンの刃で作られた桜吹雪がゴーストライダーを飲み込んだ。

 

「ハッ、口ほどにも──」

 

「愚かな。手応えも掴めんとは」

 

「──え?」

 

余裕の表情を見せていた八幡であったが、桜吹雪に飲み込まれて切り刻まれたはずのゴーストライダーの声が響いたかと思えば、突如、立ち上った炎で桜吹雪が吹き飛ばされたことで姿を現した無傷のゴーストライダーを見て言葉を失った。

 

「これでは話にならんな」

 

「くそっ、それなら──卍!解!」

 

悠然と降り始めるゴーストライダーに対して狼狽える八幡だったが、一度、言葉を切って息を吸うと刀身を再形成した千本桜にさらにトリオンを注ぎ込んで刃先を下に向けて落とすと、周囲の地面から──視界に入らないものも含めて千本もの巨大な刀身が姿を現す──千本桜景義(せんぼんざくらかげよし)が完成した。

 

「千本桜景義!!──さぁ、これでアンタもお終いだ!」

 

「この距離でそれを使うか……やはり、愚かだな」

 

「負け惜しみにはまだ早いぜ?ま、すぐに終わらせてやるけどなぁ!」

 

呆れたような態度のゴーストライダーに対して威勢よく吠えた八幡は下の階や外の屋上から分解させた刀身を操り、大量の桜吹雪で再びゴーストライダーを包み込む。

 

吭景(ごうけい)・千本桜景義、こいつで──」

 

「無駄だ」

 

ゴーストライダーを包み込んだ桜吹雪が爆発とともに吹き飛ばされるとやはり、無傷のままのゴーストライダーが姿を現す。先ほどの再現のように見えるが、八幡は余裕の表情を浮かべていた。

 

「だろうな──だが、コイツはどうかな!」

 

八幡は桜吹雪が吹き飛ばされることを想定していたのか、自身の周囲に残りの桜吹雪を集めて桜の翼にしており、吹き飛ばされたはずの残りも八幡の右手に集まって剣の形になった。

 

「……」

 

終景(しゅうけい)白帝剣(はくていけん)!どうした、驚いて声も出ないか?」

 

「……もはや、お前と語る舌は持たん、それだけだ」

 

「ハッ、その減らず口、利けなくしてやるよ!」

 

自慢気に技をひけらかす八幡に対して冷めた口調で突き放すゴーストライダー。その態度を虚勢と受け取った八幡は桜の剣を大上段で構えて桜の翼で飛ぶと勢いの乗った全力の唐竹割りをゴーストライダーへと叩き込んだ。運動エネルギーと大量のトリオンを使った全力の一撃はその余波で床に入った亀裂は屋上の中ほどまで伸びていた。

 

「──フッ、この技を使ったのはお前が初めてだったぜ」

 

「そうか、これまで余程楽な戦いをしていたようだな」

 

「え?──ぐえっ!?」

 

油断していた八幡はゴーストライダーの言葉を認識した瞬間に殴り飛ばされていた。そして、そのまま真っ直ぐ壁に叩きつけられた八幡のトリオン体が限界を超えて崩壊する。トリガーが解除された八幡が地面に落ちながら見た物は無傷のまま右の拳を突き出したゴーストライダーの姿だった。

 

「そんな……俺の全力の一撃が……」

 

「お前に()()を見せてやる」

 

「あ……あぁ……」

 

精神的なショックとなれない痛みで動けない八幡に対して悠然と近づいたゴーストライダーはその首を掴んで持ち上げると贖罪の眼(ペナンスステア)を覗き込ませる。そして、己の罪を突き付けられた八幡がその魂ごと体を焼き尽くされると、刻印──の欠片が零れ落ちて元の世界へと戻って行った。

 

「……刻印が分割されている?──っ!?これは!?」

 

違和感を覚えたゴーストライダーだったが、その言葉にゴーストが答えるよりも早く、目の前の世界が崩れ落ち、その体はそのまま()()()()()()()へと落ちて行くのだった。

 


 

「……ここは──緋弾のアリア、だと?」

 

先ほどの世界から落ちる中で世界の外殻を見て緋弾のアリアの世界であることを確認した一騎は昼間の廃ビルの屋上から周囲を見渡していた。

 

「(一騎、如何やら此度の相手は刻印を分割したようだ)」

 

(……なるほど、それで奴の弱さと世界の脆さも合点が行く……が、意味が分からんな)

 

「(然り、刻印が小さければ出力も落ちる。自明の理のはずだが……)」

 

困惑する様子の二人だが、それも当然である。本来の刻印でさえ維持するのがやっとである特典と仮初めの世界を、崩壊しやすくする愚行を犯してまで複数を再現する時点で怒りを通り越してまさしく理解が出来ないからであった。

 

(まぁ、おそらく、それほど欲望が深い、もしくは……)

 

「(何かの実験、であろう)」

 

(おそらく、な……しかし、度し難い連中だ)

 

ため息を吐いた一騎は辟易しつつも廃ビルから出ようとするが、ふと、何かに気づいたように顔を上げた。

 

(ところで、()()()()の転生者の場所は分かるか?)

 

「(然り、分割された刻印の反応は武偵高校からだ)」

 

(……だろうな。一応、聞くが、数は分かるか?)

 

「(()()()()には一つだ)」

 

「……何だと?」

 

げんなりする一騎だったが、さらに続いたゴーストの言葉に思わず口に出して問いを返してしまう。

 

「(此処を除いて残る欠片は七つ。つまり、此の下には最大で七つの世界が在る)」

 

「……まったく……儘ならん、な」

 

頭を抱えた一騎は天を仰ぎつつ珍しく文句を口に出した一騎は緋弾のアリアの世界の比企谷八幡を苦も無く倒すと三つ目──ゼロワンの世界の比企谷八幡と戦うことになるのであった。

 


 

 

「ぐわあぁぁっ!!」

 

思い返す片手間に吹き飛ばされたゼロワンはその全身を炎で包まれてその装甲ごと燃やし尽くされると、刻印の欠片が戻った後には灰の山が残されるのみであった。

 

「(一騎、呆けるな、終わったぞ)」

 

(……ああ、分かっている……あと、五回、か)

 

「(何時もと同じであろう……多少、短い期間に同じ顔が続くだけだ)」

 

(……それが問題なんだろうが──いや、お前に言うべきではないか)

 

「(否、人の身では苦行であろう。其れに、我らは一蓮托生、気にするな)」

 

(そう、か──いや、待て、何かがおかしい)

 

崩壊する世界で大きくため息を吐いた一騎はゴーストとのやり取りで多少だが気を取り直す。そして、周囲を見渡すと明らかにこれまでと違う闘技場のような世界であることに気が付いた。

 

「(然り、恐らく、此処は最下層の世界だ)」

 

(なるほど、全ての世界を集めたか……それなら好都合だ)

 

「待たせたな!!」

 

現状の判断を終えた一騎とゴーストは突如かけられた声に顔を上げると目の前にはまったく同じ背格好で同じ顔をした四人の比企谷八幡が横並びで立っていた。そして、げんなりした表情の一騎を気にせず、一番右の八幡が一歩前に出る。

 

「俺はfateの八幡!この干将(かんしょう)莫邪(ばくや)で貴様を撃ち抜く!」

 

勢いよく自己紹介をしたfateの八幡は双剣を改造した二挺の拳銃を構えてポーズを取ると、隣の八幡が同じく前に出た。

 

「俺はヒロアカの八幡!デュアッ!このセブンスーツとスペシウムソードが貴様を切り裂くぜ!」

 

「いや、奴を倒すのはこの俺、シンフォギアの八幡だ!この聖遺物、サンライトハートでお前を倒す!」

 

「そして、俺はバンドリの八幡!能力は、ない!!」

 

「……お前たちは阿呆なのか?」

 

威勢よく名乗りを上げた八幡たちを前に一騎は呆れた様子を隠しもせずに頭を抱えて思わず思ったままを口に出してしまう。

 

「……そもそも、お前、能力がないのはどういうことだ?刻印の無駄だろう」

 

「失敬な!!俺には世界とハーレムがある!!」

 

「……話にならんな」

 

流石に気になった一騎はバンドリの八幡に指摘をするが、根拠の不明な自信に満ち溢れた力強い言葉で否定され完全に言葉を失う。

 

「ははーん、なるほど、貴様、俺たちに嫉妬してるな?」

 

「流石、ヒロアカの俺!!」

 

「そうか!自分がモテないからって俺たちの本物の生活を奪う気なんだな?」

 

「……まさか、ここまで突っ込みどころしかないとは……」

 

勝手な言い分を喚く八幡に一騎は呆然とするが、シンフォギアの俺の言う通りだ!!、と続くバンドリの八幡の力強い合いの手でさらに盛り上がる八幡たち。同じ顔をした四人の人間が喚き散らす光景はまさしく地獄絵図であった。

 

「(一騎、奴らの欲望は肥大化し過ぎた。最早、言葉は届かん)」

 

(……そうだな)

 

「──と言う訳だ!……おい、お前!何黙ってんだよ!」

 

「シンフォギアの俺、もしや、あいつは怯えてるんじゃないか?」

 

「そうだそうだ!!」

 

「なるほど!流石はfateの俺、観察眼に優れているな!」

 

「流石だな!!」

 

傍目には押し黙っているようにしか見えない一騎に対して文句を言うシンフォギアの八幡だが、fateの八幡の的外れな分析と合いの手で囃し立てるバンドリの八幡に乗せられてまたもや盛り上がる。そして、その喧噪に耐えられなくなった一騎がその一歩を踏み出した。

 

「もういい、黙れ下郎」

 

「「「「「え?──ぐあっ!?があぁっ!!」」」」」

 

ゴーストライダーに変身した一騎はチェーンで全員をひとまとめにするとそのまま持ち上げて地面に叩きつけ、ヘルファイアでまとめて爆発させた。まさしく、一網打尽にされた八幡たちは煙が晴れるとその姿は消えており、後には大量の灰と刻印の欠片が元に戻った気配が残されているだけであった。

 

「……茶番、だな──さて、いつまで見ているつもりだ!」

 

「……何だよ、気づいてんじゃねーか」

 

チェーンを戻しつつ周囲に向けてゴーストライダーが叫ぶと、戦場の世界が崩壊し、虚無で満たされた漆黒の空間──世界の狭間がこの世界の刻印を持つ比企谷八幡の本体とともにその姿を現した。

 

「当然だ。魂の追跡はこちらの本業だからな」

 

「なるほど、ま、そりゃそうか……んで、俺を見逃してくれるつもりはないんだよな?」

 

「それも当然だ。お前が()()()()()を奪った罪は重い」

 

どこか諦めを含みつつヘラヘラとした態度の八幡に対して憎しみの籠もった視線を向けるゴーストライダー。相対する両者だが、その姿も対照的であった。

 

「なんだよ、誰だって()()を求めてるはずだぜ?そいつらはいいのかよ?」

 

「黙れ、簒奪者(さんだつしゃ)。それはお前を正当化する理由にはならん。そして──そいつらも罪がある限り俺が殺す」

 

まずはお前だ、と八幡を指差すゴーストライダーは一歩を踏み出す。その言葉に籠められた怒りとゴーストライダーの迫力にヘラヘラと言葉を弄した八幡の表情も硬くなる。

 

「チッ、分かったよ……まずは──卍解」

 

「……やはり、使えるか」

 

真面目な表情になった八幡は正面に右手をかざすと足元に波紋が広がり、その周囲に千本桜景義が展開されるが、ゴーストライダーはそれを意に介さずに歩みを止めない。

 

「千本桜景義──って、少しは驚けよ……まぁ、いいや、吭景・千本桜景義!そして、投影(トレース)開始(オン)!」

 

「ぬ……!?」

 

大量の桜吹雪によって歩みを止めざるを得ないゴーストライダーだったが、その合間に行われた二つ目の特典の行使には流石に反応したことで干将・莫邪を手に持った八幡は得意気な表情になる。

 

「お、流石にこれは驚くか──んじゃ、これで終わりだ、懺景(せんけい)・千本桜景義」

 

桜吹雪が一度離れると、動きの止まっていたゴーストライダーと八幡の周囲を全ての花びらが刀の形となって二人を囲い込んだ。

 

「奥義・一咬千刃花(いっこうせんじんか)、そして──I am the bone of my sword.」

 

そのまま全ての剣をゴーストライダーに殺到させた八幡は油断すること無く二丁拳銃をゴーストライダーの方に向けて構えると魔力を集中させて詠唱を始める。

 

「──So as I pray,『Unlimited lost works』.」

 

放たれた魔弾は意識的に空けた桜吹雪の隙間からゴーストライダーの体に命中し、そこからゴーストライダーの内部を突き破って固有結界を発動させてズタズタにする──まさしく、八幡の持ちうる必殺のコンビネーションだった。

 

「ふぅ……ま、とりあえず、これで様子を──」

 

「随分と悠長なことだな」

 

「──なっ!?」

 

八幡が驚くのも無理はない。なぜなら、本来なら防ぎようのない内部から相手を破壊するはずの攻撃を受けているはずのゴーストライダーが千本桜景義を爆砕して無傷のままその姿を現したからであった。

 

「ウソだろ!?あの攻撃、よっぽどの宝具でもないと防げないはずだ!──まさか、神性?いや、何かの加護か!?」

 

「やはり、分体が愚かなら本体も同様、か」

 

「あぁ!?何だと!?」

 

呆れた様子を見せるゴーストライダーに対して怒りを露わにする八幡だが、その姿にゴーストライダーはため息を吐く。

 

「出力不足だ、間抜け。お前の刻印は八分の一欠片でしかない、その程度の力で俺を倒せると思ったのか?」

 

「俺の力が、弱い?……いや、これだけの特典を使えるならその程度は──」

 

驚愕する八幡だったが、分割した刻印から引き出せる力は本来より少なく、再現される力も弱いことは自明の理である。そして、悠然と歩きつつゴーストライダーの指摘はまだ続く。

 

「そして、お前は分割した特典を一つの魂にまとめた──つまり、お前の特典は何処まで行っても八分の一で賄うしかない。その時点でお前は最弱の転生者だ」

 

「そんな、馬鹿な……」

 

もう一つの原因、それは低下した出力を複数の特典に割り振って一人の中で再分割した事による更なる出力の低下。それを自覚せずに自分の力を過信した八幡が勝てないことはもはや明白であり、八幡が呆然自失となることも仕方のないことであった。

 

「理解したか?では、俺の番だ」

 

「ッ!?デュア──あがっ!」

 

いつの間にか目の前に立つゴーストライダーに気づいた八幡は咄嗟にセブンスーツを装着するが、そのままゴーストライダーの右ストレートを受けて吹き飛ばされる。転がった八幡はスペシウムソードを手放してしまっており、セブンスーツのメット部分が砕けて半分ほど露出していた顔は怯えた表情をしていた。

 

「ッ──ハァ、ハァ……」

 

「ふむ、反応は悪くない。だが、お前に勝ち目はない、諦めろ」

 

「クソッ!どうして俺が、俺だけがこんな目に合わなきゃならない!」

 

パニックに陥ったのか泣きそうな顔で叫び出す八幡だが、その姿を眺めるゴーストライダーの目には哀れみは感じられなかった。

 

「どうして、だと?他人を犠牲にその姿と存在を奪っておいて何を都合のいいことを言う」

 

「何だと!?アンタだってその力は誰かの偽物だろう!」

 

「お前と一緒にするな。この姿こそが俺たちだ……偽物ですらないお前にはわからんだろうがな」

 

「はぁ?何、言ってんだよ……それじゃ、アンタの言う本物って何なんだよ……?!」

 

「本物とは命だ」

 

「は……?」

 

「命とはそれだけで本物足り得る。そして、本物とはそう成るのではなく、そう在るもの、なのだ」

 

「……何だよ、それ……」

 

本物、と言う言葉に反応して困惑を深める八幡だったが、その問いに対して返された言葉に呆気に取られる八幡の姿を意に介さずにゴーストライダーは答えを続ける。

 

「そして、偽物とは本物になろうとする在り方、それだけだ。それは主観でしかなく、(しん)に偽物でしかないものなど無いのだ」

 

「それじゃ、俺は、一体……?」

 

「偽物になろうとしたお前は比企谷八幡でも元のお前でもない。そして、何者でも無くなったお前の全てを俺たちは許すつもりはない──その嘆きすらな」

 

冷たく言い放つゴーストライダーに八幡は絶句する。ただでさえ恐怖を感じさせるその異形が怒りを滲ませている姿は折れかけた八幡の心をへし折るには十分すぎるぐらいであった。

 

「そんな……俺の選択は、俺の本物は……」

 

「お前は致命的な部分で憧れを履き違えた、それだけだ。さぁ、裁きの時間だ」

 

諦めたように脱力する何者でも無い男を引き上げたゴーストライダーは贖罪の眼(ペナンスステア)を覗き込ませた。そして、男は自らの奪った力の持ち主の持っていた苦しみと世界を歪めた罪を受けると、その魂と体を焼き尽くされて分割された刻印の最後の欠片が元の世界へと戻っていくのだった。

 

「……これであの顔も見納めだな」

 

「(……だと良いのだがな)」

 

(滅多な事を言うな……それより、次の世界だ)

 

「(然り、次こそ奴を狩る)」

 

戦いを終えた一騎たちは改めて件の猟犬を倒す決意を固めると、休む間もなく次なる戦いへ向かうために猟犬の反応を追ってゲートをくぐるのだった。

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