年下少女漫画家とドキドキ!? 共同生活!   作:チャンドラ=グプタ

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トリックアート

 館内を一通り見終えた俺たちは水族館から出た。滞在時間は二時間ほど。

 時刻は午後三時を回っていた。

 

「水族館も見終えたし、どこか別の場所に行く?」

「そうだな。なぁ、ちょっと遠いけどお台場の方に行ってもいいか? 東京トリックアート迷宮館に行ってみたいんだが……」

「うん、私も行ってみたい!」

 

 池袋から電車に乗り継いで新馬駅に行き、さらに新橋駅からゆりかもめ線でお台場に向かう。

 東京トリックアート迷宮館にはたくさんのトリックアートが展示されている。

 トリックアートとは、人間の錯覚を利用することで立体的に見えたり、見る角度によって異なった印象を与えるといった不思議な感覚を味わえるアートである。

 チケットを購入した俺たちは早速、迷宮館の中へと足を踏み入れた。

 入館して最初にあったのは江戸エリアである。通路の右側にピンクの着物の女性が描かれている。最初は普通のサイズに見えたが、少し歩くと、

 

「うわ! すごい!」

 

 真横から見るとビヨーンと伸びて描かれているのが分かった。さすがトリックアート。よく出来ているな。

 少し歩くと写真を撮れるコーナーがあった。茶屋に座っているようになっていて、立体的に見える赤い椅子、背を向けて座っている人、立って接客している女性と全て壁に絵として描かれている。

 

「せっかくだし、写真撮ろうよ! 健二くん」

「そ、そうだな」

 俺は壁にもたれかかり空気椅子をし、絵の壁に写っているように演じた。瞳が欠かさずパシャっと写真を撮る。

「健二くん、私も撮ってくれない?」

「ああ、いいぞ」

 俺は瞳を撮影した。撮影を終えた俺たちはその後も様々なトリックアートを堪能した。

「す、すごい! 見る位置を変えると景色が動くよ!」

 

 壁に描かれいてる建物の絵。同じ絵なのにも関わらず見る位置を変えることで景色が揺れ動くようであった。

 

「確かにすごいな」

 絵に近づくと仕組みが分かった。平面じゃなくギザギザの壁に絵が描かれているのである。

「なんか、こういうギミックってワクワクするね! これも漫画で使えないかな」

「トリックアートを駆使して戦う敵とかか?」

「うん、いいと思う! なんかドンドンアイディアが溢れてくるよ!」

 漫画のことを考えている瞳は本当に輝いている。さらに俺達は忍者屋敷のコーナーへと進んでいく。

「うわ! びっくりした……」

 瞳は壁に描かれている絵を見ると驚きの声を出した。壁には床下から忍者が現れる絵が描かれている。

「これも写真撮影用だな」

 瞳は床に寝転びだした。「撮って」と言わんばかりに見つめられ、俺は反射的にスマホを取り出した。

「それじゃ、撮るぞ」

 

 スマホを横にして撮影する。撮った写真を確認すると、瞳が忍者にびっくりして驚いているように見える。実際のところは寝転んでいるのだが。

 江戸エリアを見て回った後、『怖くないお化け屋敷』エリアへと進んだ。外に出たがらない様子の『からかさ小僧』、口から炎を出しながら襲いかかる『片輪車』、幽霊に肩を持たれているように撮影できるスペースなどがあった。

 

「いやー、いろんな妖怪がいて面白いね」

「確かに、これも漫画の参考になりそうだな」

 漫画やラノベで妖怪が出てくる作品は星の数ほどある。逆に言えばそれだけ題材にされているため、題材にするのが難しいとも言えるのだが。

「うん! 次回作に妖怪出して見ようかなー」

「妖怪ってことはやっぱり次回作もバトル漫画にするのか?」

 以前、瞳は次回作について、バトル漫画以外に挑戦すると言っていた。妖怪と言えば俺の中でバトル漫画のイメージが強い。

「いやぁ、別に妖怪=バトル漫画ってわけでもないでしょ?」

「俺の中では妖怪=バトル漫画なんだよな」

「あ、そうなんだ。例えばさ、『悠々白書』……」

 瞳が上げた漫画のタイトル、ガッツリバトル漫画だと思うのだが。

「最初の方の幽霊探偵編、私すっごい好きだったんだよね。ああいうの描けたらいいな」

 

 確かに悠々白書も最初の方はバトル漫画というよりは主人公が異能を使って問題を解決していくという話であった。

 しかし、週刊少年ジョークの宿命か段々とバトル漫画へとシフトしていったが。

 

「幽霊探偵編面白いよな。俺も好きだった」

「でしょー!」

 

 怖くないお化け屋敷エリアが終わると、『名作エリア』に入る。ここでも面白いトリックアートが続々と出てきた。

 飛び出しシロクマ、飛び出すゴリラ、飛び出すペンギンといったトリックアートが展示されている。

「うわぁ、ペンギンだ!」

 飛び出すペンギンのトリックアートを見て、瞳のテンションが上がるのが分かった。本当ペンギン好きだな。

 しかし、先ほど上げたトリックアートよりもさらに興味を唆られるものがあった。

「す、すごいなこれ……」

 そのトリックアートを見て唖然とした。それは壁に大きなサメが描かれたトリックアート。とても迫力がある絵である。

「瞳、ちょっと写真撮ってくれ」

「了解」

 俺は地面に寝そべり、サメの口元に手を伸ばした。

「はい、チーズ」

 

 瞳が写真を撮った。写真を確認すると今まさに俺がサメに喰われようとしていた。

 名作エリアの最後に描かれていたのはドラキュラがワイングラスを手に持っているトリックアート。

 瞳はワイングラスの部分にしゃがみ込み、ワイングラスの中に閉じ込められているような演技をした。

 

「さぁ、健二くん。写真撮って!」

「ああ」

 ドラキュラによって、ワイングラスに閉じ込められてしまった瞳を撮影する。

「健二くんも撮って上げるよ」

「ああ、頼む」

 俺も写真を撮ってもらった。館内をすっかりと堪能した俺たちは満足感に浸りながら迷宮館を後にした。

「いやぁ、すっごい楽しかったね」

「そうだな」

 

 迷宮館をじっくりと時間を掛けて堪能したため、すっかりと日が暮れていた。外を歩いていると自由の女神像がライトアップされているのが見えた。

 俺たちは女神像に近づき、青・白・赤と次々に色を変えながらライトアップされる女神像を鑑賞する。

 

「女神像、綺麗だね」

「そうだな。けど……」

 なんというか神々しい。見ていると心が浄化されていくようである。

「ん?」

 ふと周りを見ると、カップルだらけである。なんだか場違い感を感じた。

「い、いやなんでもない。なぁ、瞳。ここでご飯を食べていかないか?」

「そうだね。そうしよう」

 俺たちはアクアシティにあるレストランの中へと入った。案内されたのは窓側の席で、窓からレインボーブリッジと東京の夜景を眺望することができた。

 ウェイターから渡されたメニュー表を開き、しばらくの間何を注文するか考えた。

「健二くん、料理決まった?」

「ああ、瞳も決まったか?」

「うん」

 

 ウェイターを呼び、料理を注文する。俺は野菜のピクルスときのこのガーリックライスを注文し、瞳はガーリックポテトサラダとチキンローストを注文した。

 

「健二くん、お酒は頼まないの?」

「頼まないのって……俺、まだ二十歳になってないし」

「ああ、そういえばそうだったね。私も早くお酒飲めるようになりたいなー」

 瞳がお酒か。顔がやや童顔のため、確実に年齢確認を求められるような気がする。

「いやー、しかし夜景綺麗だね」

「そうだな。久々に仕事のリフレッシュできた感じだ」

 

 まるで宝石のように都会の喧騒混じって輝く光の数々は見ていると日々のストレスや疲れが消えていきそうだ。

 裏を返せば夜景の数だけたくさんの人が仕事をしているということでもあるのだがそんなことは気にしない。

 やがて、料理が運ばれてきた。まず、前菜である野菜のピクルスとガーリックポテトサラダがテーブルの上に置かれる。

 野菜のピクルスを食べてみたが、酸味が効いており歯ごたえが良くてとても美味しかった。

 

「それ、美味しい?」

「うん、そうだな」

「ちょっと貰ってもいいかな?」

「ああ」

 俺が承諾すると、瞳は野菜のピクルスを箸で一口摘み、咀嚼した。

「うん、美味しいね。私のも良かったらもらう?」

「ああ。それじゃ、ありがたく」

 俺はガーリックポテトサラダを一口食べた。

「おお、美味しいな……」

 ポテトがホクホクと柔らかく、味加減が絶妙である。自分で作るポテトサラダよりも遥かに美味しい。

「だよね!」

「ああ、俺が作るポテトサラダより上手い……って、プロの料理と比べるなんておこがましいか」

「そんなことないよ」

 

 凛と透き通るような瞳の声が鼓膜を通り抜ける。少しびっくりした。

 

「え?」

「確かにね、この料理もすごく美味しいけど、健二くんが作ってくれた料理が私は一番好きだよ」

 聞いてて恥ずかしくなるようなことをサラリと瞳に言われ、なんだかむず痒い気持ちになる。

「そ、そうか。ありがとう」

「できるなら……私は健二くんの料理をこれからもずっと食べてたいな」

「お、おい……なんだそのプロポーズみたいな言葉は」

「なーんてね! ちょっとさ、ラブコメ漫画描く用のセリフを考えてみたんだ。どう? ちょっとはキュンってきた?」

「こ、こねーよ!」

 

 いたずらっぽく微笑む瞳。だが、そんな瞳の笑顔を見て俺は安心する。

 パーティ会場で郡山先生と会った時は辛そうな表情をしていたが今は大分楽しそうだ。

 すると、瞳は俺の手の上に自分の手を重ねてきた。

 

「ねぇ、健二くん」

「ど、どうした?」

 瞳の肌の感触を感じて、胸がなんだか締め付けられるようであった。

「一志くんとの勝負、絶対に勝ってね」

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