年下少女漫画家とドキドキ!? 共同生活! 作:チャンドラ=グプタ
「お兄ちゃーん、瞳さん。料理できました!」
早速、奈緒は夕食を作り、テーブルに料理を運んでくれた。俺たちは料理を食べることにした。
「わー、すっごく美味しそうだね奈緒ちゃん。料理上手なんだね!」
「そんなことありませんよ」
奈緒は照れた様子を見せた。この家に来てからまだ一日も経っていないというのに、随分と馴染んだものである。
俺たちは食卓を囲む。奈緒の料理を食べるのはかなり久々だ。奈緒はオムライスを作った。俺が瞳の家でアシスタントを始めた日にオムライスを作ったことがあるが、オムライスの作り方を奈緒へ教えたことがある。
「うん! 奈緒ちゃん。卵がトロトロとしててすっごく美味しい!」
「喜んでもらえて良かったです! お兄ちゃん、どう?」
「ああ、美味しいよ」
瞳の言う通り、卵が半熟状態でトロトロとしており、かなり美味である。チキンライスも俺が作るものよりもしっかりと味付けされている。
料理の腕はもう完全に奈緒に追い越されてしまったな。もはや漫画を描くスキル以外、俺は奈緒より何もかも劣っていると言ってもいいだろう。
「父さんと母さん、どうしてる?」
「えっと、うん。普通に元気にしてるよ」
「そっか」
実家にいた時のことを思い出した。俺は親とあまり仲が良くなかった。
漫画家という不安定な職業を目指したし、高校も中退してしまった俺に原因があるのだが。
「お兄ちゃん、たまには帰ってきたら? 父さんと母さん、すっごく心配してるよ」
「まぁ、そのうちな」
「もう、そうやって先延ばしにするー! ダメだよ、そんなんじゃ!」
奈緒は仏頂面をし、意を唱え始めた。
「そうは言ってもな……合わせる顔が無いんだよ。打ち切りになっちゃたし……連載になったら顔出すよ」
「帰ってあげなよ。健二くん」
話を聞いていた瞳が口を挟み、俺は少し驚いて瞳の方を見た。
「え?」
「私、もう両親いないけどさ……親孝行したいと思っても会えなくなるかもしれないんだよ? そんなの……絶対嫌じゃん」
「そ、そうだな……」
瞳にそのように言われては何も言えなくなる。確かに一度、両親と向き合うべきなのだろう。いつまでも逃げてばかりじゃいられない。
「よし! それじゃ、お兄ちゃん。いつ帰ってくる?」
いつ帰るか……思い立ったら吉日である。
「瞳、明日休み貰ってもいいか?」
「うん、いいよ」
「えぇ明日!?」
奈緒は驚きの声を上げる。明日、奈緒とともに実家へと戻るということだ。
「そうだ」
「無理だよお兄ちゃん! 明日、学校あるしさ。実家に戻るなら一人で行ってよ!」
「一日くらい休んでも大丈夫だろ?」
さすがに一人で実家の敷居を跨ぐのはちょっと気が引けた。
「大丈夫じゃ無いし! 結構、欠席とか厳しい学校なんだからね!」
「そ、そうか……自称進学校みたいだな」
自称進学校とは校則が異常に厳しい、宿題が多い、休暇に授業がある、無断欠席厳禁と言った特徴を持つ学校である。
偏差値は五十五から六十五までという実に中途半端なところが多く、俺が通っていた高校がこれに当たる。
ちなみに奈緒の通っている高校は偏差値七十以上のれっきとした進学校である。
「うん、だから学校休むのは無理!」
「それじゃ、放課後一緒に実家に帰ろうか。すまん瞳。明日、途中まで仕事して、明日の午後から出勤しようと思うんだがいいか?」
「うん、全然いいよ!」
「ちょっと! 勝手に話を進めないでよ! 私、家に帰りたくないんだってば!」
断固として家に帰ることを拒もうとする奈緒であった。さっきとは立場が逆になった。
「ダメだ。明日帰るぞ奈緒」
「いーやーだー!」
「奈緒ちゃん。もし健二くんに会いに来たくなったらいつでも会いに来ていいから。だから、明日帰ろう?」
瞳は諭すような口調で帰るよう提案する。しかし、いくら瞳の説得でも奈緒が素直に言うことを聞くとは……
「ほ、本当にいつ来てもいいんですか?」
「うん! 勿論だよ」
「分かりました。それじゃ、明日お兄ちゃんと一緒に帰ります!」
さっきまであれほど帰りたがらなかったのに、瞳が説得したらあっさりと明日帰ることを承諾しやがった。
その日の夜、奈緒は瞳の部屋で寝ることになった。
俺は自分の部屋に篭り、ほぼ徹夜で連載ネームの構想を練っていたのだがあまり作業を進めることができなかった。
次の日、奈緒は制服に着替え、リビングにやってきた。朝食にトーストとサラダ、ベーコンエッグを作り終え、配膳を行なっていたところである。
「おはよう、お兄ちゃん」
「おはよう。よく眠れたか?」
「うん、瞳さんとたくさんおしゃべり出来て楽しかった」
「そっか。瞳はまだ寝てるのか?」
「うん、熟睡してるよ。起こした方がいい?」
「いや、別にいい。いつも、九時くらいには起きてくるからな」
「そっか、分かった」
俺と瞳は椅子に座り、朝食を食べることにした。瞳の分の朝食は皿にラップを掛けておくことにした。
「美味しい……」
ポツリと奈緒が呟いた。上手く作れたか不安であったが、口に合うようで少し安心した。
「そうか、良かった」
「ねぇ、お兄ちゃん」
「なんだ?」
「漫画描くの……楽しい?」
「ああ、楽しいよ」
特に最近は。瞳と出会ってからこれまでのスランプが嘘のように話が思い浮かんでくる。
「そっかぁ。お兄ちゃんはやりたいこと仕事に出来ててすごいな」
「いや、出来てないだろ。今、連載してないしさ」
今は何とかアシスタントだけで生活できているが、アシスタントする前は他のバイトと掛け持ちしなきゃ生活することもままならなかった。
「そうかもしれないけどさ、夢に向かって真っ直ぐに進むなんて本当にすごいと思うよ。私はあれこれと考えて立ち止まっちゃうって言うかさ……」
「それが普通だ。どんな人間も一度は諦めようか考えるもんだ。俺も考えたことあるしな」
打ち切りにあった時、俺は漫画家を辞めようと思ったことがある。
しかし、打ち切り直後に担当が変わり、千尋さんにであった。
千尋さんは俺を見捨てなかった。俺を人気作家にすると、熱心に説得してくれた。
自信があった連載会議で落ちて、本当に落ち込み諦めそうになったが明梨さんの励ましと瞳との出会いがあって、今も連載を目指して漫画を描いている。
「でも、諦めなかったんだね」
「ああ。やっぱり俺は漫画が好きだからな」
結局はこれに尽きる。いくら漫画を描くのを止めようとしても結局辞めることができなかった。ある意味、一種の呪いとも言える『漫画を描く』という行為。
辞めようとして気づいたのである。俺から漫画を取ったら何も残らないと。
「そっか……やっぱりお兄ちゃんはすごいや」