年下少女漫画家とドキドキ!? 共同生活! 作:チャンドラ=グプタ
奈緒は朝食を食べた後、学校へと向かった。俺は奈緒を見送りした後、母親に奈緒が家出して俺のところに泊まったことをLINEで連絡した。
俺が瞳と暮らしていることは勿論伏せておく。加えて、今日奈緒と共に戻ることも伝えた。
午後三時までアシスタントの仕事をし、奈緒が持ってきていた家出様のスーツケースを手に持ち、家に向かった。
瞳の家から実家までは駅七つ程離れている。まずは電車を乗り継ぎ、実家の最寄駅まで向かう。そこで奈緒と待ち合わせをしている。
出発してから三十分して実家の最寄駅に着いた。駅の待合室でスマホを弄っている奈緒の姿を見つけた。
「お待たせ」
「うん。それじゃ行こうか」
奈緒と共に歩き、実家に向かう。流石にここまで来るとかなり緊張してきた。
「お兄ちゃん。もしかして緊張してる?」
「い、いや? 全然……」
「そ、そっか……」
余程、俺が緊張していたためか、奈緒は苦笑いを見せる。
別にやましいことなど何もしていないが、久々に実家に戻るため何とも言えない緊張感がある。
やがて、住宅街に入り実家が見えてきた。白を基調としたコンクリート建の一軒家。ここが俺が生まれ育った実家である。
懐かしいと思う反面、もう俺の居場所ではないと感じる様な謎の拒絶感に苛まれた。
庭の手前で俺は立ち止まる。奈緒はそんな俺に対して不思議そうに首を傾げた。
「どうしたの? お兄ちゃん」
「奈緒。俺、やっぱり帰ろうと思う。父さんと母さんによろしくな」
くるりと翻し、先ほど来た道を戻ろうとした。しかし、奈緒ががっしりと俺の手首を掴む。
「ちょっと……ここまで来て何言ってるのさ!」
「だって、やっぱり戻るのは抵抗があるっていうか……」
両親から一体、何を言われるか分かったもんじゃない。
もしかしたら、「いつまでも夢見てないで普通に就職しなさい!」なんて言われるかもしれない。もう少しで連載を取れそうなのにそんなことになったら最悪である。
「いいから行くよ!」
結局、奈緒によって半ば強引に実家に向かうことになった。奈緒はインターホンのボタンを押し、「ただいまー」と至って普通に玄関を潜った。
「お前……そんなあっさりと」
「お帰りなさい。二人とも」
エプロンを着用した母さんが出迎えてくれた。奈緒がそのまま大人になった様な容姿の母親は久々に会ったが全く変わってない様に見えた。
「ただいまー」
「ほら、健二も早く上がりなさい」
「あ、あぁ……」
久々の我が家に足を踏み入れる。俺は自分の部屋に移動した。
「久々だな……」
勉強机の隣にある大きめの本棚。本棚の中には漫画ばかり入っている。小さい頃、よく勉強の合間に漫画を読んでは両親に怒られたものだ。
俺は本棚から一冊の漫画を取り出した。その漫画は『遊んで遊んで遊びまくれ!』である。ページを捲ると流麗なイラストが目に飛び込んでくる。
「やっぱり綺麗な絵だな」
よくこの漫画に出てくるキャラクターの模写を俺は何度も繰り返したものである。それが今の画力の礎となったと言っても過言ではない。
『遊んで遊んで遊びまくれ!』を読み終わった後、他の漫画も読むことにした。『あいつの空』や『黒いバスケ』を読んだ。競技経験こそないものの、スポーツ漫画のなかで、バスケ漫画が一番好きである。
時間を忘れて漫画を読んでいると扉の方からノック音が聞こえてきた。扉を開けると、何と父親が立っていた。
「久しぶりだな。健二」
「え、あ……あぁ」
俺と奈緒の父親である白河雄吾(しらかわゆうご)――今年で四十八歳を迎え、鋭い三百眼をしており、その突き刺す様な視線で俺を見据えていた。
父は警察官として働いており、職業柄かとても生真面目な性格をしていて、少し……いや、かなりの苦手意識があった。
「奈緒がお前のところに泊まったみたいだな。あいつ、何かやらかさなかったか?」
「いや、特には」
「そうか。とりあえずご飯出来たからリビングに来てくれ」
「分かった」
俺は父親と共にリビングに向かった。テーブルには母親が作った料理が並べられている。
さらにビール瓶も置かれている。勿論、親父が飲むためのものだ。
「いただきます」
早速、俺は母親が作ってくれた肉じゃがを食べることにした。じゃがいもはホクホクとしていてとても美味しかった。
「美味しい……」
「そう。良かったわ」
味の感想を述べると、母は嬉しそうにした。
「それで奈緒よ。何か言うことがあるんじゃないか?」
父が厳しい口調で瞳に訊いた。先ほどまで穏やかであった夕食に緊張が走る。
「えっと、その……家出なんかしてごめんなさい」
父はコップに入ったビールをぐいっと一気に喉に流し込んだ。
「違う。確かに家出も大概だが、健二のところで世話になったんだろ。ちゃんとお礼は言ったのか?」
「い、いや。まだだけど……」
瞳がたじろいでいる。確かに突然訪問してきたのは驚いたが、特段気にしてはいないのだが。
「なら、ちゃんと健二にお礼を言いなさい」
「うん。お兄ちゃん。昨日は泊めてくれてありがとう」
「あ、あぁ……」
泊めたのは俺ではなく瞳であるが。
「父さん。奈緒が家出した理由は訊いたよ」
「そうか。断固として、俺は認めることができん。小説家などという不安定な職業はな」
すると奈緒は明らかに不機嫌そうに眉をひそめる。
「なら、俺のことも認めてないのか?」
「そんなことはない。確かに最初はお前が普通の会社に勤めて欲しいと思っていたが、今はちゃんと認めている」
「この人ったら、毎週欠かさずジョークを購入してるのよ。最近は『健二の読み切りが連載されたぞ!』って大騒ぎしてたのよ」
母が茶化す様に父の行動を説明した。行動を暴露された父はかなり動揺したのか、むせ始めた。
「や、やめろ……俺がお前を認めたのはちゃんと賞を取り、漫画に向き合ってると思ったからだ」
「父さん……」
知らなかった。俺は両親からちゃんと応援されていたのか。これまで二人は俺が漫画家になることを快く思われていないのではないかと感じていた。
「なら、私の夢も応援してくれても……」
「悪いが『まだ』それはできんな。まずは賞でも取れ。そうすれば話は聞いてやる」
まだということはちゃんと結果や行動が伴えば応援してくれるということか。
「奈緒。良かったじゃないか。全く反対しているわけじゃないみたいだよ」
「う、うん……お兄ちゃん。私、絶対に小説家になるよ!」
「ふん……俺としては、奈緒は普通に働いた方が幸せな人生を送れるんじゃないかとは思っているがな」
「悪いけど、父さんの望む通りにはならないよ。絶対に日本を代表する小説家になってやるんだから!」
奈緒は勢いよく啖呵を切った。こうして、冷静に奈緒を見るとやはり俺たちは兄妹なんだなと実感する。
俺もかつてこうして両親に「日本一の漫画家になる」と宣言したものだ。しかし、日本一の漫画家になるなどそうそう容易いことではない。
だが、まずは自分がなれると信じないことには始まらない。
「それより、健二。お前、少しくらい連絡するべきじゃないか? 家を出たきり音沙汰が無くて心配したぞ」
「い、いやぁ……」
「そうだよお兄ちゃん! 私からの連絡も無視するし!」
「健二ったら本当薄情よねー」
身内三人から責められた。帰りづらかったとは言え、正論すぎて何も言い返すことができない。
「い、いやー帰り辛かったというか、アシスタントの仕事が忙しかったというか……」
「まぁ、何だ。たまには顔を出すくらいはしなさい」
「ああ、そうするよ」
久々に実家に戻った俺は家族とたわいもない会話をしながら時間を過ごした。ご飯を食べ終わった後、風呂に入り、自分の部屋に戻り、漫画を読んだ。
連載用ネームも進めなければならないのだが、こうして他の先生の漫画を読むことで展開が思いつくことがある――というのは建前で単なる現実逃避だったりする。
「さてと……少しは進めないとな」
漫画を本棚に戻し、連載用ネームの一話目に取り掛かろうとした。机の上に置いていたスマホが振動した。千尋さんから電話がきた。
「もしもし? 健二くん。ネーム進んでるかしら?」
「まぁ……ボチボチですね」
あまり進んでいないが正直には答えないでおく。しばらく千尋さんが沈黙すると再び口を開いた。
「そう。次の打ち合わせなんだけど、来週の水曜日にいつものファミレスでお願いしてもいい?」
「分かりました」
「後、次の打ち合わせまでに一話目のネームの叩き台を作っておいてね」
「は、はい……」
やべぇなこりゃ。少し急がねば。電話を切ると、『エレメントドラゴン』の一話目のネームを練り始める。
読み切りでは、ページの関係で主人公の過去を簡単に書き、主人公との因縁が深いドラゴンを一体倒して終わりであるが、連載では主人公の過去を読み切りの時よりも深く描く。
さらに、ドラゴンと遭遇するまで、中ボス敵なキャラクターに遭遇させる。
中ボスの強さを強調することで、ドラゴンがどれほどの脅威かということを強調させることにした。
読者の予想を超える強さを登場させることはバトル漫画の鉄則と言ってもいいだろう。
瞳のところでアシスタントをしていたおかげで大分作り方のコツも大分分かってきた。
「さてと、そろそろ寝るかな」
作業に没頭していると、すでに深夜になっていた。明日からまたアシスタントの仕事があるのだ。今日はここで切り上げ、ゆっくりと休むことにした。